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  レスターブラウン氏との対談 06.08.2008
     



 先週に引き続いて対談特集。6月7日土曜日、金沢でイベントがあった。そこで、昨年もやったのだが、レスターブラウン氏と聴衆の前で2名のみで英語で対談をするというチャンスがあった。
 昨年は、両名が自分の講演を行ってから、対談に入ったのだが、今年は、飛行機の都合で、ブラウン氏の講演に続いて、この対談を行ったので、自分の発表を聞いてもらえなかったのは残念だった。


C先生:まずは、第一印象。レスターブラウン氏の考え方がかなり急速に変わったようだ。これまで、毎年同じようなことを言うなあ、と実は思っていたのだが、今年は、危機感が100倍ぐらいに膨れ上がっていることを感じた。

A君:昨年の記録を探してみると、ほぼこの時期、5月24日に行われていて場所は経団連ビルだった。まだ、日本の安倍首相によるCool Earth50はまだ発表されていないし(5月27日発表)、当然のことながら、米国の温暖化対策への具体的な動きが見えなかった。

B君:現在、世界は温暖化対策に向かって動き始めているとも言える。しかし、それなのに、レスター・ブラウン氏が危機感を強めているのはなぜか。これが謎その1だろう。

A君:それは、対策はやるという国が増えた一方で、経済最優先主義の制御ができないことが明らかになりつつあるからではないか。

B君:交渉では上手くいかないのが見え見えだからだ。

C先生:そんなところだ。彼は、最近PlanB 3.0を出した。その日本語版も出た。その中で、かなり強烈なパンチを仕込んでいる。それが、世界環境税。$20/ton−CO2からはじめて、毎年、$20/ton−CO2増額。最終的には、$240/ton−CO2になる。

A君:確かに、強烈な主張だ。

B君:ポスト京都の枠組みなどでは、こんな強烈な主張は実現不可能。

A君:要するに、ポスト京都のようなネゴシエーションベースの国際交渉では、できることは限られている。国と国がお互いのエゴをぶつけ合うだけ。ネゴではなくて、エゴシエーションにしかならない。

C先生:まあ、その通りだな。そのネタ、今度講演で使おう。個人的にも、毎回主張しているように、世界環境税が最善の対応であることに間違いは無い。しかし、その実現が難しいし、どうやって合意を取るか、大体、そんなことを実現するための組織すら想像できない。そのために、現実的ではないと思っている。

A君:まあ、個人ならば主張をするのは勝手だから。

B君:ただ、強烈だとは言うが、大したことない税額でもある。$240になったところで、ガソリンにすると、75円/Lアップぐらいではないか。

A君:となると、現状ですぐに$240になったとすると、ガソリンは250円/L。これは大したことは無いとも言える。現在の欧州のレベルと変わらないから。

C先生:逆に言えば、この程度の課税で、世界のメンタリティーが本当に変わるのだろうか。逆に心配になるぐらいだ。

A君:ガソリンには、いくら高くても売れる量がある。本来、車そのものが必需品ではなくて、輸送が必需品。すなわち、公共交通が提供されれば、そちらに行く。もしもガソリンが高くなりすぎれば、自転車に変える。しかし、どうしても車に乗りたい人は、いくらガソリン高くても乗りたい。車は、自己主張であり趣味である部分が大きい。

B君:工業用のエネルギーの需要などについては、価格が大きく影響するだろう。

C先生:その通りで、ブラウン氏は、どうやら、石炭火力発電所を潰して、他の発電方式に切り替える。望むらくは、自然エネルギーに切り替えることが解決法だと思っているようだった。どのインセンティブが湧くだけの環境税を掛ける必要があるというのが、どうやら本音であるように見受けられた。

A君:ざっと計算してみますかね。現在、日本の効率だと、1kWhの電力を石炭発電で作ると、常識的には、0.55kgぐらいのCO2がでますね。発電コストは、まあ、現時点だと8円ぐらいなのでは。1トンのCO2に対して240ドル、2万5千円を課税するとなると、1kgで、25円。0.55kgなら、14円ぐらい。これは効くかもしれない。

B君:風力は画期的に加速されるだろう。太陽光発電が大量に導入されるには、まだまだ不足といった課税額ではある。$240でも安いのかもしれない。

C先生:ブラウン氏は、日本にはもっと地熱発電のポテンシャルがあるはずだ。もっともっと地熱を開発せよ、ということお薦めだった。

A君:地熱発電ですね。一度整理してみますか。

地熱発電の整理
http://www.mottainaisociety.org/column/pdf/column1.pdf
1.日本の地熱発電の総容量はおよそ535MW(54万キロワット)
2.これは世界で6位
3.日本の総発電容量の0.2%に相当(日本の総需要の最大値が2001年度7月の182百万kWだった。大型原発200基と覚えよう)
4.資源量は、浅部地熱系で2,054万キロワット、30年間もつ


B君:さて、現実的な限界はどこなのだろうか。

A君:もしも資源量全部を開発できれば、100万kW級の原発20基分。これはでかい。

B君:電力の10%ぐらいは、地熱で行けるということか。思ったよりも少ないな。

A君:その上で引用した文書は、産業総合研究所の大久保さんという人の文書だが、皆さんの意見を聞きたいというもの。そのポイントは何か、というと、日本の場合、地熱が得られる場所は、多くの場合、国立公園の中であって、国立公園の中では、地熱の開発はやらない。それは、観光の支障になるから。さらに、現在湧いている温泉の近くも使えない。下手をすると、温泉がでなくなるから。

B君:温泉の付加価値の方が、電力による付加価値よりも高いということだ。確かにそうだろう。1泊2万円取れれば。

C先生:しかし、そろそろ本気でものを考える必要はある。上のデータは、浅いところの地熱だけの話。もっと深部にはもっと資源がある。

A君:高温岩体発電というやつですか。
見つけました。
http://www.jca.apc.org/~altmedka/ron-43-hot-10.html
 資源量ですが、とんでもない数値が書いてありますね。
「電中研が全国地質調査結果などを参考に試算したところによると、全国で7000万キロワットの発電が可能」
 日本の原発が54基で、4800万kW、石炭火力発電所が3300万kWだとすると、原発や石炭火力の代わりにこれを作るのも有りか。
http://www.jsce.or.jp/committee/enedobo/supplement%5Csupplement_1.pdf

B君:コストが高い。1kWh20〜30円が目標らしい。

C先生:ブラウン氏の言う環境税が実現できれば、高温岩体発電で、石炭発電の代替は可能性が出てくる。

A君:しかし、それにしても、やはり自然エネルギーは資源量が不足するようですね。

B君:日本の場合、どんな計算をしても、自然エネルギーの量は十分ではない。

C先生:洋上風力のポテンシャルなら、日本も相当なものだが、それは、また別の機会に。
 ブラウン氏が今回、かなり危機感を強めているのは、どうやらグリーンランドの氷床の溶解速度が思ったよりも速いということのようだ。

A君:アル・ゴア氏の例の「不都合な真実」にも、海面上昇が6m以上にもなって、多くの都市が水没する、という話があって、そんなことは起きないという批判が多かった。

B君:ブラウン氏も、以前はそう思っていたが、「どうも、このところの溶け方が尋常ではない。氷床の海に向けた動きが加速している。今世紀中にとんでもないことが起きる可能性がある」、という意見に変わったようだ。

C先生:この話、実際のところ、なかなか予測が難しい。なんといっても、氷が解ける話は、温度が0℃以下なのか、0℃以上なのかで全く違う。1℃違ったら、現象が全く変わってしまう。これは、気象モデルにとっても極めて厳しい。

A君:しかし、怖いことは怖い話で、南極のラーセンBの棚氷が壊れたときには、多くの学者も驚いた。

B君:ただ、地球の温度は、毎度このHPでも言っているように、1800年ぐらいから上がりっぱなしだ。人間活動で起きている温度上昇は1950年以降で、今後、この傾向がどうなるのか、それが問題。すなわち、1950年以降、実は、地球が寒冷期に向かっているのに、人為的原因によって温暖化が進んでいるとすると、またちょっと地球が気分を変えて、自然の揺らぎでの温度上昇を始めたら、飛んでもない事態になりかねない。

C先生:ブラウン氏が言うには、ラーセンBは知れている。一方、グリーンランドの氷床が5×5km、厚さ1.6kmといったスケールで海にすべり落ちたら、海水への影響は、地震による津波の比ではないとのこと。

A君:ちなみに、ラーセンBの厚さは220mぐらいだったらしい。50km3という氷が海に落ちるとどうなるか。

B君:全海洋面積は362033000Km2。海面上昇は0.13cmとなる。
 実際に、グリーンランドから融け出している氷の総量は、現時点でこの数倍か。なぜならば、毎年、3mm程度海面は上昇しているが、そのうち、0.5mmはグリーンランドの氷が融けなければためだと言われているから。

C先生:洞爺湖のG8サミットで、どのぐらいグリーンランドの氷を考慮することになるか。

A君:200年間融けなければ、それからは、寒冷化するだろうから、まあ安全。となると、本当にクリティカルな判断が迫られることになる。これまで、1000年程度は大丈夫だというのが合意だったと思うけど。

B君:まだ、国際社会は反応をしないのではないだろうか。

C先生:もう一つ、ブラウン氏が考え方を変えたのではないか、と思われるものがあった。それが、「ピークオイルはよく言われているが、ピークウォーターの方がさらに現実性が高い」ということだ。

A君:これは自然現象なので、なかなか難しい。しかし、オーストラリアの干ばつが止まらないとしたら、すでにピークウォーターは始まっているのではないだろうか。

B君:ピークウォーターが本当に問題なのは、食糧生産限界とほぼ同義だからだ。

C先生:ブラウン氏は、ヒマラヤなどの山岳氷河が融けると、水供給が危なくなると言っていたが、国連大学の同僚と昨年訪問した中国奥地のチベット族の村では、これまで冬に雪が降っていたので、4月5月の乾季の農業用水は、その雪解け水でまかなった。ところがこのところ、冬にも雨が降り、山間部での降雪量が不十分になった。そのため、5月には農業用水に困るようになった。

A君:すでに温暖化で困っている地域は、やはり構造的は弱者。

C先生:さて、そろそろまとめよう。その前に、ひとつ質問をした。単にCO2を削減すればよいのであれば、CCSの可能性は高い。あるいは、原子力も可能性がある。これらをどう思うか。
 答えは、「米国では、もはや石炭発電所の新設には、銀行などが融資をしないことになった。そのためもあって、既存の石炭発電所にCCSを設置しようという動きも止まっている」。
 
A君:CCSは、先進国からのCDMで中国ということだろうか。

C先生:原発については、再処理を考えると、コスト的にどうか、という返事だったので、世界中の電力を原子力でまかなうには、1万基必要になって、それは非現実的だという話をしたら同意しているようだった。

A君:原発は、先進国が適当台数を使うことで限界なのでは。

B君:インドは原発にすごく熱心なのだ。インド・中国を含めて、先進国ということならそうかもしれない。

A君:ブラウン氏がパキスタンは危機的だ、と述べていたが、パキスタンは原爆を持っている。政情不安定な国に原子力は危険だ。

C先生:最後にこれこそブラウン氏の得意分野。バイオエタノールと食糧の関係。これは極めてクリアーな説明だった。これまでお互いに無関係な市場であったエネルギー市場と穀物市場がバイオエタノールで連結ができてしまった。そのため、安価だった穀物市場が、高価なエネルギー市場に引きずられた形で穀物が高騰した。これは連結を切る以外に方法はない。それには、米国はバイオエタノール生産をすぐに止めるべきだ、ということだった。同じバイオエタノールでも、ブラジルのサトウキビからのエタノールとは違うのだ。

A君:なるほど。やはり見る目が鋭い。

B君:解析力がやはりすごい。バックにすぐれた研究者が多いのだろう。

C先生:最後に、オバマとマケインの環境政策だが、マケインは、このところ共和党の保守層対策で発言が若干後退気味とのこと。世界の環境問題のためには、オバマ氏が大統領になる方が良いかもしれない。正式に候補になったら、米国としてのプランを作ると言っているそうだ。
 ということで、オール英語なので大変なのだが、今年も、レスター・ブラウン氏との対談は、なかなか楽しめた。