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  LCAの今後の方向性 02.21.2004



 2月17日に、産総研のLCAセンターが主催するLCAの将来に関するシンポジウムが行われた。本記事は、そのために考え方をまとめるために作成した。


C先生:LCAが何で、どのようなものか、それは、本日は説明しない。

A君:とは言っても、一言だけ。LCAとはライフサイクルアセスメントの略語であって、ある製品なりサービスを対象にして、生まれてから墓場までの全環境負荷を総合的に考える手法のこと。

B君:例えば、電気器具にしてみれば、地球からどのように資源を採取して生まれるか。作るときにどのぐらいのエネルギーを必要とするのか。さらに、使用段階ではどうなんだ。リサイクルあるいはリユースは行われるのかどうか。さらに、廃棄段階での環境負荷はどんな具合か。

C先生:それだけで次に行こう。これまでのLCAに関する日本の状況を概観すると、経済産業省主導で、各業界から基本的な材料などに関して、業界からのデータが採られ、それがデータベースの形で公表されることになった。

A君:しかし、無料ではなくて、有料だそうですね。産業環境管理協会が管理するようで。
http://www.jemai.or.jp/CACHE/index_details_detailobj457.cfm

B君:国費を使ってやったのだから、当然、無料にすべきだ。

A君:やはりそうは行かないのが国の施策というやつで、どこかデータベースを維持管理するには、ある種の民業が必要となって、それで、雇用なども確保できると考えるのでしょう。

B君:しかし、本当の話、データベースとは言っても、LCAデータなどのように、更新性が重要でないものに関しては、商売にはならないぜ。

A君:そのうち、商用データベースとしての限界にぶち当たるまで、分かっていても何も起きないのでは。

C先生:しかし、基本はやはりパブリックドメイン、すなわち、共有物と考えるべきだろう。最終的にはそうなると思うが。

A君:それで、日本は、LCA大国であったことは間違いが無いところなんでしょうね。

B君:2年に1回開催されているエコバランス国際会議なるものは、世界最大のLCA関係の国際会議で、本年第6回目が行われるが、毎回日本で行われている。

A君:しかも、話を聞くと、日本ほど製品に関するLCAデータが公開されている国は無いとのことですね。

C先生:そう言えるだろう。先ほどの産業環境管理協会のWebにエコリーフというページがあるが、そこには、各種メーカーの製品のLCAデータが出ている。参考にすると良い。http://www.jemai.or.jp/CACHE/ecoleaf_news.cfm

A君:それで、今後LCAは何をどこまでやることになるのでしょうか。

B君:色々な考え方はあるだろうが、やはり基本は、環境コミュニケーション用のツールとしてのLCAか。

C先生:世の中の人々は、直感的にこんなことが環境負荷が低いだろうと考え、そんな行動をする人が多くなってはいるが、その直感が正しいとは限らない。LCAというよりも、消費エネルギー比較のレベルの話だが。

A君:確かにね。商品情報としても、消費エネルギーがあまりにも無神経というか、目立たないように書かれているというか。

B君:プラズマテレビがエネルギー消費が多いということは、一部では問題視されている。

A君:しかし、大分改善されているのも事実で、日立のHPによれば、2000年製の42インチが425W、待機電力5Wだったものが、新しい5000型だと、同じ42インチで337W、待機電力1Wまで改善されています。

B君:パイオニアの42インチは、298Wまで行っている。

A君:日立ですが、37インチだと307Wまで低下。シャープの液晶AQUOSの37インチの消費電力が195W、待機電力0.74Wですから、まだちょっと。

B君:32インチだとブラウン管テレビも比較できる。日立のプラズマ32インチで、239W、待機1W。液晶32インチだと、152W、待機0.86W。ブラウン管だとソニーのハイビジョンタイプで、210W、待機0.2W。サンヨーは173W、待機不明。

C先生:消費電力の大きなブラウン管テレビは、プラズマと同じぐらいか。まあ、プラズマもがんばったと言えるだろう。本当の環境負荷は、消費電力だけで議論はできない。プラズマテレビの残る課題は、寿命か。ブラウン管テレビなら、ブラウン管交換という手もあり、液晶なら冷陰極管の交換で元に戻るが。

A君:現在のLCAでは、寿命のようなことがうまく表現できていませんね。特に、徐々に性能が低下するような場合の評価が。

B君:機能単位として、寿命を入れることに合意がない。これらが、一つの課題。

A君:今後の方向性としては、やはり資源生産性というか、資源利用効率の高い商品を選択したいということになるのでしょう。となると、同じ資源・エネルギーを用いたときに、どのような使い方がより効率的なのか、といった考え方がLCAに導入される必要があると思うのです。要するに、同じ商品が競争して細かい比較をするのではなくて、トータルに見たときの省資源・省エネルギー戦略を明らかにするような方向性ですが。

B君:それはそうだが、どうやってやるか、具体的なイメージが無いと。

A君:例えばですね。先週の例にも有ったのですが、ガソリンを1.2L使うのと、レジ袋200枚を使うのでは、どちらが多くの満足度を与えることができるか、といったような感じ。

B君:まあ、そんな問題があるのは事実だろう。例えば、洗濯機を選んだとして、消費電力を問題にして、省エネルギーで満足するのか、それとも、水の消費量を問題にして、節水で満足するのか、といったことも似ている。水と電気という異なったものの比較だ。

A君:水というものは、基本的に再生可能資源ですから、なかなか比較が困難ですよね。渇水でなければ、水を使うこと自体はそれほど問題にならない、とするのか? それとも渇水になることを考えて、節水に励むべきなのか。もし、水の使用が問題にならないとするのなら、上水を作るエネルギー、下水処理のエネルギーが問題で、それは実のところあまり大きくは無い。

B君:エネルギーに変換するより、二酸化炭素排出量に変換する方が、LCA的だと言えるのではないか。少し古いかもしれないが、環境省の環境家計簿では、こんなことになっている。
平成2年度の産業連関表のデータから産業連関分析により、上水と下水にわけて二酸化炭素排出量を求め原単位を計算。上水が0.051kgC/m3、下水が0.107kgC/m3、合計0.158kgC/m3。

A君:kgCですか。炭素の排出量を二酸化炭素の排出量に換算すると、上水が0.187kgCO2/立米、下水が0.392kgCO2/立米、合計0.579kgCO2/立米ということで。

B君:水を1L節約するということは、この1000分の1だから、上水+下水の合計でも、二酸化炭素排出量が0.58gとなる。これは、ガソリンで言えば、0.25ml相当にしかならない。走行距離に換算すれば、10km/Lの車だとすると、たったの2.5m走行分。車の全長の半分。

A君:こんなことを知っていると、水道使用量を節約しようという気にならないのでは。こんな情報は出さない方が良いのでしょうか。

B君:水道料金は、上下水道を合わせると、大体200円/立米。ガソリンは100円/L。大体、500倍違うから、常識的に考えればそんなにも驚かないのではないか。

A君:確かに。でも、水道代をケチる人が、1L100円のミネラルウォータを買ったら、これはやはり奇妙なことになりますね。安全性は水道と変わらない

B君:それに、水といいつつも、多くの家庭には給湯設備があるから、お湯になっている。水1Lを15度から40度に暖めるのに必要な熱量は、25kcal。これを1立米あたり11000kcalの都市ガスを使ったとすると、原単位は、2.15kgCO2/立米。効率80%とすると(ガス給湯器は、ガスコンロよりも効率は高い)、二酸化炭素排出量が6.1gになる。

A君:大体上水下水合計の10倍ですか。この「お湯にすると10倍」という数値は覚えておくと良いかもしれませんね。お湯の温度を下げることがいかに効率的かということになりますね。

B君:しかし、温水1L分でも、車は25mしか走らない。

A君:電力もやってみましょうか。例えば、消費電力100Wのテレビを10時間見る。丁度1kWhの電力を消費したことになります。

B君:電力の原単位は、0.36kgCO2/kWhだから、二酸化炭素360gの放出になる。ガソリンにすると、156mlになって1.5km車を走らせることが可能になる。

A君:水1Lの節約では、テレビ約1分間分の節約に相当し、車なら2.5m走行分

B君:だから、水を1L節約するということを重要視するのなら、バランス上、テレビは1分単位で節約し、車は、2.5m単位で走る距離を短くする必要がある。温水1Lなら、テレビ10分、車25m。テレビを標準にすれば、水は節約すべしという結論か。しかし、車を標準にしたら、水の節約はほとんど無意味。

C先生:これまでの話はそれなりに面白いし、また、一般市民に対して情報を伝達するとしたら、極めて重要なものではあるのだけれど、この程度のことをやっていては、LCAの研究にはならない。LCAの専門家の一部は、学問としてLCAをやっていて、LCAはもっと奥が深いのだといった主張をする必要がある。

A君:われわれは、LCAはコミュニケーションのツールだと考えていますから、こんなことが重要なんですがね。

B君:しかし、企業にとっては、「LCAは自らの製品の正当化のため」、すなわち、ビジネスリスクの削減の一環として使用されるわけで、そうなると、他社の同等の製品との比較にしか興味は行かないことになる。ここで議論してきたような人間活動全体を見た議論は、やりたくないのが当然だろう。

C先生:LCAをどのような立場で使うか、ということがやはり非常に重要で、先進国の持続可能性を高めるツールとして使うのであれば、人間活動を評価するツールとしてのLCAに意味があると言えるだろう。すなわち、消費者が、消費行動をするときには、購入する商品のLCAデータをしっかりと分析し、個人のエコプロファイル、すなわち、自分自身による環境負荷の大小を公表していくという方向か。

A君:ただ、なにがなんでも環境負荷をゼロにすれば良いというものでもないですから。そんなことをすると、やはり現状の経済は破綻します。これは不幸です。

B君:現在から未来への軟着陸を考慮した上で、なるべく資源利用効率を高めつつ、消費活動を行うことが重要だろう。

C先生:いずれにしても、先進国におけるLCAの用途だが、やはり、社会全体をある方向へ誘導するという強い意志が無い限り、用途は非常に限られるのではないだろうか。企業のビジネスリスク回避といっても、誰もLCAデータなどを見ないという状況だったら、もともとビジネスリスクなどは無い。

A君:やはり国や自治体がある方向性を指向し、個人の消費行動を変えるという強い意志をもったとき、初めてLCAの用途が決まるのではないでしょうか。

B君:日本ではまだまだか。強い意志が働くのは、どちらかというと、景気回復。

A君:それに、ディーゼル車の煤を入れたペットボトルによるパフォーマンス。

C先生:話を変えて、途上国でのLCAの用途はどうなる。

A君:もちろん、途上国でも、あるいは、途上国だからこそ、猛烈なるエネルギー消費によって良いサービスが行われていると誤解されている部分がありますから。例えば、ホテルの冷房とか。このような部分には、先進国と同じ用途があるのではないでしょうか。

B君:途上国の金持ちは、日本のような国の金持ちとはレベルが違うから、そんな金持ちのエコプロファイルを書くことは極めて重要だろう。

A君:しかし、全体としてみれば、やはりいかに最小のエネルギー消費・資源消費によって、経済発展を成し遂げるかといった観点の方が重要ですよね。

B君:となると、環境負荷の低い製品を作るということか? やや違うな。

A君:だから、分析の対象は製品ではなくて、社会全体になるのではないですか。

B君:そう。そういうこと。ただし、社会全体として分析を行う場合には、やることは大して変わらないのだけれど、LCAと呼ぶ作業をする場合と、LCAとは呼ばない場合がある。

A君:そうですかね。地域LCAといわゆるMFA、すなわち、Material Flow Analysisという方法論は、問題意識が多少違いますか。LCAだと、二酸化炭素などの環境負荷が主たる対象で、MFAだと物質・資源よりになる。

B君:MFAの意識としては、やはり経済活動の解析という感触になって、LCAのような環境負荷という考え方ではないようだ。ただ、MFA単独では、経済発展にまでつながる訳ではないと思う。経済発展のためには、社会インフラの整備などといったフローとは違うストックというべき物質の蓄積が必要だから。

A君:まあ物質の流れだけではなくて、富の蓄積が必要ですよね。

B君:国が富むためには、まず、いくつかの段階が必要だ。最終段階が、先進国と同様の利便性・快適性の実現。その前に、やはり命を失わない社会。すなわち、リスクの削減が重要。その前の大前提として、努力すれば報われるという基本的な条件整備というか政治状況の確立が必要。

A君:大前提を別にすれば、途上国の発展にとっては、環境面でのリスクの削減が重要だということになりますね。物質のフロー・ストックとリスクの削減がどのような関係にあるのか。むやみに、物質を流すとリスクが却って増えるというのが、これまでの経験則ですから、直接関係すると考えるのか、それとも、物質のフローが経済の規模を上げ、それが金銭のフローを生んで、リスク削減になる、といったシナリオの方が妥当でしょう。いずれにしても、物質フロー・ストックと経済発展がどのように関係しているか、といったことが記述できれば、それはそれなりの発展シナリオが書けることにはなりませんか。

B君:やってみる価値はあるかも。完全なる境界領域の話だ。工学系の連中にも、経済が専門の連中にも、単独でやりぬく力はなさそう。なぜならば、経済発展の初期段階では、やはり農業が重要。それから、工学的な段階になるが、そのあたりでの技術の発展や先進国からの技術移転が重要な要素になる。となると、ある学問分野の専門家だけでは無理なのではないか。最低でも、農業、工学、経済の専門家が必要だ。

A君:となると、やはり協調してやるのでしょうか。

C先生:まあ、一般的にはそうなんだが、これまでの経験では、やはり非常にモチベーションの強い個人が、色々な専門家を使うという形以外に、そんな挑戦的な問題に解は出ない。LCAの関係者が、新たな挑戦にどう取り組むべきか、ある種の見通しを持つべき段階になったのかもしれない。