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  液晶テレビの進歩の方向 07.06.2008
     



 先週の日経エコロミーに、シャープが6月29日朝日新聞に掲載した広告、「新しいアクオスの消費電力量は4年前の2分の1になりました」を批判する記事を書いた。
http://eco.nikkei.co.jp/column/ecowatching/article.aspx?id=MMECcd000030062008

「年間消費電力量を計算する式の欠点を悪用した計算結果である」、が趣旨だったのだが、法律の不備を突くのは、正当な競争の範囲内であるという考え方の人もいる。

 しかし、商品の環境広告は、完全な性善説で行うべきである。デジカメのスペック(仕様)競争などとはいささか違うと思う。

 それにしても、日本人の商品選択の基準は妙である。今後の科学技術のかなりの部分が省資源・省エネルギー・低炭素化に向かうと考えられるが、それには、商品のスペックというもののマジックに騙されないだけの知力を付けた消費者が大多数になることが必要不可欠である。



C先生:日経エコロミーの記事は、多分、将来とも消えることは無いとは思うのだ。しかし、ひょっとするとということもあるので、その要点だけはこちらのHP側にも掲載しておくことにする。

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■液晶テレビの消費電力低下はどこまで本当か

 メーカーも省エネ性能をコマーシャルに活用するようになった。そのような動きは、テレビに関しては、シャープが最右翼かもしれない。吉永小百合さんを登用した、「テレビの性能は環境です」、によってシャープのテレビは環境性能がいかに優れているかといったイメージを植え付けることに成功したように思える。

 6月29日の朝日新聞にも全面広告がでていて、「新しいアクオスの消費電力は4年前の2分の1になりました」「52V型でも、4年前の32V型と比べて、画面サイズは2.7倍になっても、消費電力はほとんど変わらなくなりました」と広告している。

 これが本当ならば、ご同慶の至りである。その根拠を少々厳密にチェックしてみよう。
 まず、シャープが消費電力量としているのは、「テレビジョン受信機の性能の向上に関する製造事業者等の判断の基準等」(平成11年3月31日通商産業省告示第192号、最終(全部)改正、平成18年3月29日経済産業省告示第48号)によって定められている年間消費電力であって、次の式によって定められている。

E={(P0-PA/4)×1642.5+PS×7117.5}/1000

この式において、E、P0、PS及びPAは、それぞれ次の数値を表すものとする。

E :年間消費電力量(単位 キロワット時毎年)

P0:動作時消費電力(単位 ワット)

PS:待機時消費電力(単位 ワット)

PA:節電機能による低減消費電力(単位 ワット)

(1) P0:動作時消費電力(単位 ワット)
 記述省略

(2) PS:待機時消費電力(単位 ワット)
 記述省略

(3) PA:節電機能による低減消費電力(単位 ワット)
 節電機能による低減消費電力は、PA1、PA2の値のうち大きい数値とする。

1) PA1:周辺照度に応じて映像を自動的に制御する機能(以下「自動輝度調整機能」という)による低減消費電力(単位ワット)

 自動輝度調整機能による低減消費電力は、周辺照度300ルクス以上の状態において測定した消費電力又は節電機能スイッチを切った状態の消費電力のいずれか小さい方から周辺照度0ルクスの状態において測定した消費電力を差し引いた数値とする。

2)PA2:節電スイッチによる低減消費電力(単位 ワット)

 節電機能スイッチによる低減消費電力は、節電機能スイッチを切った状態の消費電力から節電機能スイッチを入れた状態の消費電力を差し引いた数値とする。

 まず、この式の意味であるが、動作時消費電力が1642.5倍されていることから、テレビというものは、年間1642.5時間使用され、残りの時間である7117.5時間は、待機状態にあると仮定されていることが分かる。

 問題は、PAという節電機能による低減消費電力である。これがなかなか難しい。まず、基礎知識として必要なのは、液晶テレビの消費電力は、バックライトが大部分を占めるということである。そのため、自動輝度調整機能というものがあって、部屋が置かれている場所の明るさによって、バックライトの輝度が適切な明るさに調整されるようになっている。そのため、省エネ効果をPA1という項目で評価しようとしている。低減消費電力というものは、概ね(明るい場所での消費電力−真っ暗な場所での消費電力)と定義しているようで、その4分の1を動作時消費電力から差し引くことで、年間消費電力量の評価がなされていることが分かる。

 となると、問題はPA1としてどのぐらいの値が設定されているか、ということで、それによって年間消費電力は大きく影響されることになる。

 シャープの広告で引用されている機種は、4年前のものとして、32V型LC-32GD1、そして、現時点のものとして、32V型がLC-32D30、52V型がLC-52EX5である。

 これら3機種について、消費電力に関する数値を算出してみた。なお、4年前の製品のデータも、インターネットを探るときっちり分かる。良い時代になったものである。


表1: 年間消費電力量のカタログ値と本記事での予測値の比較

 表1がその結果である。低減消費電力PA1として採用されている値が4年前のモデルでは、動作時消費電力169Wに対して103Wであった。その解釈だが、通常状態であれば、169Wの消費電力であるが、暗い状態になると、103W分の消費電力が低減され66Wで動作すると読める。しかし、もしかすると、そう単純ではないのかもしれないが。

 なぜならば、2008年モデル32V型だと、動作時消費電力が144Wに対して、低減消費電力PA1が285Wだと算出されるからである。このテレビは、普通に動作しているときには、元々144W程度の電力を消費しているだけなのに、暗い状態にすると、285Wもの消費電力が低減され、消費電力は、マイナス140Wになるという勘定になるが、そんなことは起きるはずが無いからである。

 恐らく、こんな仕様になっているのだ。最近のテレビは、量販店で販売されることが多い。量販店の照明の明るさは半端ではない。極めて明るい。消費者をバカにした話でもあるのだが、そんな条件下で、ギラギラした画像で自己主張をしないと、液晶テレビは消費者に買って貰えないのだ。そのため店頭では、通常の動作時の消費電力の2倍に近い電力を使っている。そのためこのような機能のある機種については、節電装置で節約可能な電力を示すのがPA1の値なのだが、本来の意味を完全に失っている。

 要するに、シャープの広告における数値は、規格として定められた算出方法が元々説いた本来の意図から完全に外れてしまったことを利用した数字のマジックといえる。

 同じ表の下2行に、もしも動作時消費電力というものと待機消費電力だけを信用した場合の、年間消費電力の予測値を出してみた。その結果からみても、確かに32V型だと、15%ぐらいの省エネになっていることが分かる。メーカーも省エネの努力はしているのだ。しかし「半減」というのは数字のマジックだ。

 消費者という立場からの消費電力で言えば、52V型が4年前の32V型と同じ程度であるという記述は、まったく嘘だ。まあ2倍程度の電気代を支払うことにはなるだろう。しかも、最近の機種は、利便性を向上するためだろうか、クイックスタートと称してわざわざ待機電力を大きくしたモードが存在している。このモードを使った場合には、さらに高い電気代を払うことになる。消費者も賢くならないと、メーカーの広告に簡単に引きづられて高い電気代を払うだけでなく、結果的に、大量の温室効果ガスを排出してしまう羽目に陥るのだ。

 他メーカーの製品だと、ソニーのKDL-32JE1というモデルに注目したい。こちらはシャープのモデルと違って、本当に消費電力半減かもしれないのだ。

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C先生:以上が日経エコロミーの記事だ。

A君:ソニーを持ち上げたので、反論のある読者もいるでしょうね。

B君:アクオスファンというのも居るだろうが、比較的少ないのではないか。

A君:反ソニー派は居ますからね。

C先生:そのソニーの製品が残念ながら未発売なのだ。だから、現時点では、本当にこんな商品が発売されるかどうかも分からない。
 個人的には、ソニーファンではない。ソニー製品はめったに買わないということを申し上げておく。ソニー製で例外的に気に入っている商品がEBR−S8MSという電子辞書と、MDR−NC32NXというノイズキャンセル型のヘッドフォンなのだが、もやは売っていない。

A君:しかし、ウェブを見てみると、
http://www.ecat.sony.co.jp/bravia/products/index.cfm?PD=31644&KM=KDL-32JE1
結構真面目に省エネに取り組んでいるような感じですね。

B君:画面の分解能は、いわゆるWXGA(1366×768)で、いわゆるフルハイビジョン(1,920×1,080)ではない。32インチだと、WXGA仕様で十二分だと思われるのだが、シャープ製AQUOSには、フルハイビジョンの液晶パネルを用いたものもある。

A君:日本人は、スペックで性能を判断してしまうという悪いクセがある。そんな消費者を作ったのも日本メーカー。

B君:当然のことながら、同じサイズで分解能をあげると、一つの液晶セルのサイズは小さくなる。TFTの電極などの配線の太さは、どうしても一定程度必要だから、開口部の面積は小さくなる。となれば、なんらかの工夫をして輝度を稼ぐ必要がでてくる。もっとも簡単には、バックライトの出力を上げること。

A君:液晶テレビ用の液晶パネルと、ノートパソコンに使用されている液晶パネルとを見比べてみるとすぐわかるのは、ノートパソコンの場合には、左右への視野角が狭い。むしろノートパソコンの場合には、狭い方が良い。どこかで作業をしていて、となりの人に覗かれるのも嫌だし。

B君:ケータイの場合も同様。視野角が狭い方が優れている。

A君:それだけでなくて、視野角を狭くすることによって、バックライトの明るさを下げることが可能になる。

B君:バッテリーで動く機器は、電池寿命が決定的な性能だから、機器の省エネが場合によると最大重要仕様項目だったりする。

A君:しかし、ACで動作する家庭用のテレビであれば、少なくともこれまでは、消費電力のことを余り重要視されてこなかった。電気代など安いものだったからだ。

B君:確かに32インチぐらいまでであれば、それほど大きな問題ではなかった。製品開発の重要項目に省エネを入れ始めたメーカー、まだ、省エネを軽く見ているメーカーという区分が現時点ではかなり明瞭に分かれている

C先生:となると、32インチの液晶テレビで、もっとも消費電力が低いメーカーはどこか、という比較が必要になる。

A君:結構面倒なんですよね。カタログの比較は。

B君:しかし、やるしかない。



表2: 32V型の液晶テレビの消費電力と節減電力の解析。 結論的には、消費電力で比較するのが妥当なのでは、と思われる。


A君:ということで、完成したのが表2で、現時点でカタログモデルになっている32V型の液晶テレビの消費電力比較表。

B君:計算して出してあるのが、
PA:節電機能による低減消費電力(単位 ワット)
というものが節減電力として、そして、節減電力を消費電力で割ったものが最下行に示されている。

C先生:なかなか面白い。この表の左の上にあるのが、シャープが初めて発売した32V型の液晶テレビで、これが2004年モデル。そのときには、節減電力というものは、消費電力よりも低かった。ところが、現時点では、消費電力の2倍を超す節減電力というものがあることになる。ということは、量販店の店頭でデモ中のように、輝度を最高にしていると、消費電力は、カタログ値の2倍以上になっているということを示すのだろう。

A君:やはり年間消費電力の計算値の規格が現状では、時代遅れになった。量販店などでの店頭販売では、消費電力メーターの設置を義務化すべきではないでしょうか。

B君:とはいえ、見やすい画面ということで標準値を決めてしまうと、個人差がでてしまう。何か工夫が必要なのは確か。

C先生:家庭内でも、直射日光が当たるような場所にしかテレビを置けない場合だってあるかもしれない。そうかと思えば、映画館のような条件でテレビを見ている家庭もあるかもしれない。標準というものは極めて難しい。

A君:いくつか傾向というものが見られますね。まず、発売年月日が新しいモデルほど、PAが大きめになっている。そして、いわゆるフルハイビジョンほど、消費電力が大きめになっている。

B君:その表で言うと、分解能が1080と書いてあるテレビのこと。これが縦方向の画素数。

A君:やはり、消費電力で比較をするのが適当で、現時点だと年間消費電力を信用するのは困難。

C先生:この表の中で、やはり、ソニーの32JE1というモデルが特異的に消費電力が低い。これがこのモデルに期待するという表現を日経エコロミーで行った理由だ。

A君:液晶の透過率を高めるような光学設計にしたような記述がありますね。

B君:ということは、シャープはソニーがこのようなテレビを7月に発売することを知って、あせって全面広告を出したとは考えられないだろうか。ソニーの32V型は、分解能が1080のいわゆるフルハイビジョンモデルが無い。だから、スペック最優先の日本人的発想に対しては、シャープが優位にあった。ところが、省エネという環境性能で優位に立つ戦略をソニーが取ることを予想していなかったのだが、このところの国内外の情勢からみて、省エネが予想以上に大きなインパクトを持ちかねないということに気付いた。

C先生:これからの科学技術のかなりの部分が地球環境対応という名のもとに、省エネ・省資源・低炭素化の方向になる言っても過言ではないだろう。そして、それが産業競争力と同義になる可能性が高い。

A君:その流れが2007年にすでに世界では起き始めている。

B君:ソニーだけがそれを認識したということか。

C先生:ソニーの液晶パネルは、サムソンとの合弁会社が作っている。もっとも、最近では、ソニーとシャープも大型液晶パネルでは共闘を始めた。だから、ソニーだけが認識が違うということもあり得ないような気がするが。

A君:32V型のようなところでは、フルハイビジョンであることのメリットはほとんどない。しかし、スペックを追いかけるシャープと実質で行くソニー、という違いか。

B君:ソニーもどちらかというとスペック派だと思っていたが。

C先生:デジカメなどを見ていると、ソニーもスペック派のように思える。

A君:デジカメの場合、もっとも重要なスペックは、(1)レンズの明るさと質、(2)手ブレ防止、(3)電池の持ち、といったところで、画素数ではない。

B君:用途によっては、(4)ノイズの少なさだったりする。

C先生:先日のエアーズロックでの星の写真を撮るといった目的には、ノイズは最重要。それには、画素数が多いとかえってノイズが増える。コンパクトデジカメでISO1600とか3200といった感度設定ができるといった仕様のものもあるが、まったく実用にはならない

A君:そういえば、C先生のキャノンの中級機EOS40Dは、初心者向けのEOSKissX2よりも、画素数は少ない。40Dが1010万画素、KissX2は1220万画素。

B君:40Dを買うような人間は、どのスペックが重要であるかを分かっている

C先生:エアーズロックにもっていったもう一つのデジカメ、カシオのEX−S10は、やはり1010万画素なのだが、ISO1600が設定可能。しかし、実際には、全く画にはならない。このカメラもスペック優先。しかし、そんな条件でなくても、静止画を取ると、レンズが望遠系だし、光学的な手ブレ防止機能は無いし、失敗作が多くて、良いことは無い。しかし、なぜ持って行ったのか、と言えば、動画を取るとこれがキレイだから。動画用なら、レンズはやや望遠系が良いし、手ブレ防止もそれほど有効ではない

A君:話がずれていますが、液晶テレビの場合、もっとも無駄な仕様は何ですかね。

B君:前回の話では、「薄さ」。これは、壁かけにすれば、意味があるが、足が付いている状態だとほとんど意味がない。さらに、DVDレコーダなどの奥行が短くならないと、テレビだけ薄くなっても無意味。

C先生:それよりも、「液晶の視野角」だろう。176度といった仕様が普通だが、画面とほぼ平行の88度から見ても見えるということだ。そんな角度からテレビを見てどうするのだ。むしろ、視野角を適当なところまで小さくして、その範囲内にのみ光を送ることによって、消費電力は下げつつ輝度は稼げる。

A君:実用上140度もあれば良いのでは。

B君:140度というと、20度の角度から見ることになるが、ハイビジョンの16:9の横長画面が、5:9ぐらいと縦長に見える。本来横長の画面が真四角に見える角度ぐらいまでで良いのではないか。

A君:そうすると、計算上は34度ぐらいになって、視野角に直せば、112度で良いことになりますね。かなり楽になるのでは。

B君:すでに絶滅したリアプロですら、そのぐらいは可能だ。

C先生:2005年の4月20日付で、西村岳史氏とい評論家は、「スペックではわからない! 液晶の“真の実力”を店頭で見抜くワザ」と称して、パソコン用の液晶ディスプレイの視野角が重要だという記述をしている。
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/col/20050419/112025/
 これまでは、こういう通常の使用法とは無関係な過剰スペックを求めることが評論家の役割だった。しかし、それが2007年を境目にして、すでに、変わりつつあることを認識すべきだろう。本当に必要な品質をできるだけ省エネで実現することが、技術的により高度なのだ、という見方に変わったのだ。液晶テレビでは、それに最初に気がついたソニーは、シャープよりかなり偉い