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  石油、最後の1バレル 02.18.2007
     



  ガソリンの価格が下がってしまったので、危機感もどこかへ吹き飛んでしまった
 石油供給危機の話は、様々な情報が錯綜していて、何を信じたら良いのか、皆目分からない人が多いような感触である。
 経済界は、「需要があれば代替燃料などいくらでもあるのだから、エネルギー危機などは存在しない」、という古い理論で防衛をしている。
 一方、自然科学系の人間にとっては、「地球に限界があることなど、あたり前」。早晩、経済原則がなんだろうが、「すべての枯渇性資源は枯渇する」。そのため、「どのぐらい準備ができているか、これが勝負を分ける」、と考えている。
 この本の著者は、もと石油業界に籍を置いた人間で、その経験と膨大なデータを基に、もう少々詳細にものごとを考えているようだ。やはり持っている情報が違うという要素が大きいのかもしれない。
 ただし、相当に分厚い本なだけに、直接的には余り関係しない歴史的な考察も多い。逆にそこが面白いところでもある。特に、鯨油のローソクの話など興味深いものが多い。


C先生:「石油 最後の一バレル」、ピーター・ターツァキアン著、東方雅美、渡部典子訳、英治出版、¥1900、ISBN4-901234-96-X。原題は、"A Thousand Barrels a Second"、というもので、この地球上では、1秒間に1000バレルもの石油が消費されているというもの。日本語のタイトルは、感心しない。本書の論旨と合わない。

A君:この1秒で1000バレル、という量ですが、余り実感できないほどの大量ですね。オリンピック用のプールを15秒間で空にし、1日だと、5500個ものプールを空にする。

B君:それはそうだが、そんな単純な表現をいくら示しても、「もっと石油はある。さらに石油は見つかる。代替燃料もまだまだある」、という主張にインパクトを与えることにならない。「石油など、オリンピックプールで測ればそんなものだが、地球の体積と比較すれば、どうということは無い。地球のどっかには、もっとある」、といった主張を打ち破るのは難しい。

C先生:まさしくその通りで、現状は、「分かっている人は分かっているが、分からない人はいつまでたっても分からない」。この本は、分からない人にも分かる情報を出そうということを目的として書かれたもののようだ。

A君:ただ、この本が米国で出版されたのが、2005年の秋頃。しかし、米国人の中で、物事を分かった人が増えたという話は聞いたことがない。

B君:やはり、もともと分かっている人しか読まないのだろう。分からない人は、情報を入れること自体を拒否するから。

A君:5〜6Lの12気筒車に乗っている人は、罪悪感が増えるだけのこんな本などは読まない。

B君:石油業界だって、多分、読みたくは無い。

C先生:まあ、ざっと読んだ感じだと、少なくともニュートラルな態度の人に対しては、かなり説得力はあるようだ。元、地球物理を専門にし、石油探索現場の経験者が、経済学、ファイナンスを学んで書いた本というだけのことはあるようだ。

A君:同じような人ということだと、日本だと石井吉徳先生。やはり、石油業界を出発点として、その後、東京大学へ。そして、国立環境研の所長。同じような見解。

B君:本書の結論を先に述べてしまえば、
(1)石油といっても、「軽質スイート原油」(流動性が高く硫黄を含まない)と、「重質原油」(流動性が低く、ガソリンにするにはコストがかかる)とでは状況は違う。
(2)「軽質スイート原油」は、供給が細っている。新たに見つかる大規模油田もない。
(3)「超重質原油」は、存在するものの、やっと少々実用になりはじめた程度。
(4)1秒間に1000バレル(1バレル=159L)もの需要を満たすには、そのためのサプライチェーン全体の転換が必要。
(5)供給側のさらなる問題は、原油は、今や国家支配の状況にあること。
(6)需要側の問題は、技術での解決には、コストが掛かるため、国家が社会的な枠組みを作る必要があること。すなわち、「技術+社会の複合システム」が必要。
(7)すなわち、供給側も需要側もエネルギー転換には時間がかかる。今から準備しようとしても、個々の企業だけが取り組むには難しい状況。
(8)だから、10年以内にブレークポイントは必ずやって来る。

C先生:石井吉徳先生の見解は、このような項目に加えて、
(a)エネルギーを得るには、エネルギーが必要。投入エネルギーと獲得エネルギーの比(EPR=Energy Profit Ratio)という概念が重要。

A君:このEPRが重要だということは、我々の最大の視点でもある訳です。どんな資源でも、その資源を獲得するには、エネルギーが必要。資源の質が下がってくると、より大量のエネルギーが必要になる。

B君:リサイクルがその典型で、ゴミの質がすべて。ペットボトルのように、キレイなゴミを集めてリサイクルするだけならば、なんとかなるが、食品残渣などがべたべたと残っている軟質のプラスチック容器などをリサイクルしようとすると、トータルにはエネルギーだけでなく、全資源的な観点からみても、損をするだけ。「分別しやすいゴミをしっかり分別して集める」、これがリサイクルの最大の視点だ。

C先生:さて、結論が先にでてしまったわけだが、それぞれについて、若干の説明を加えよう。

A君:まずは、
(1)石油といっても、「軽質スイート原油」(流動性が高く硫黄を含まない)と、「重質原油」(流動性が低く、ガソリンにするにはコストがかかる)とでは状況は違う。
(2)「軽質スイート原油」は、供給が細っている。新たに見つかる大規模油田もない。

この二項目。本の記述とは全く順番が違うので、場所を探すのが大変。

B君:その間に基礎知識。原油価格の指標となるようなWTI(West Texas Intermediate)といった油種は「軽質スイート原油」で、軽質とは、ガソリンのように蒸発しやすい成分が多いことで、スイートとは硫黄が少ないこと。すなわち、簡単にガソリンに転換できる。世界中のパイプラインや精製設備などのインフラは、このグレードの原油を念頭において整備されてきた。ところが、この使いやすい原油は、新たに油田がみつかることがあっても、小規模であったり、あるいは、地理的、政治的に快適な場所でないところに存在していたりする。

A君:なんといっても1秒間に1000バレルの消費量ですから、多少の油田が見つかっても、まともに汲み出したら、数日で空になってしまう。

B君:1秒あたり1000バレルというのは、1日で8600万バレル。1901年に発見されたテキサスのスピンドルトップ油田は、日量7万5000バレルの生産量を誇った巨大油田だった。この巨大油田が、1000本以上動いているのが現状。

A君:可採埋蔵量にして数10億バレルある油田を「巨象(エレファント)」と呼ぶが、すでに、「軽質スイート原油」を産出するこんな油田は、世界中の探索がすでに終わり、ほぼ見つけ出されてしまった。もう見つからない。

C先生:しかも、現時点の需要は余りにも大きい。たとえエレファントが見つかったとしても、世界全体では1日に1億バレルに近い消費量なもので、それに全部依存すれば、数10日で使い終わる。

A君:新しい油田が見つからないとすると、現在使っている油田の生産量の減退率が問題になる。世界全体の平均的な減退率は、今や、5〜8%になりつつある。

B君:だから、この減退率を補うために、重質油からガソリンを取り出したり、あるいは、発電には天然ガスや石炭を使って、石油は石油でなければ難しい用途に対応する、といったことになる。

C先生:OPEC諸国には、多少の余剰生産能力があることになっている。その他の国、ロシア、カナダ、ノルウェー、メキシコなどの生産は、ほぼ100%で動いていて、余剰生産能力は無い。2003年になって、OPECの余剰生産能力が日量350万バレルを下回り、これの状況に買い溜めが動き出して、投機筋も動いた。

B君:余剰生産能力が、5%以下になったので、投機筋も安心して投資ができる。これが現状。

A君:次に行きます。
(3)「超重質原油」は、存在するものの、やっと少々実用になりはじめた程度。
(4)1秒間に1000バレル(1バレル=159L)もの需要を満たすには、そのためのサプライチェーン全体の転換が必要。
(5)供給側の問題は、原油は、今や国家支配の状況にあること。

B君:「軽質スイート」がなくなっても、石油全体がなくなるのとはいささか違う。例えば、カナダの「超重質油」オイルサンドは、今や、サウジアラビアに次いで、世界第二の可採埋蔵量(2000億バレル)を持つ油田だと認識されるようになってきた。

C先生:フォート・マクマレーという地名が世界的な舞台に立ったのが、2004年のこと。原油価格の高騰によって、今後10年間で700億ドルという集中的な投資により、この地域からの石油の産出量は3倍になり、2015年までに日量300万バレルになると期待されている。

A君:世界全体で8600万バレルの消費量。その3%強しかないのです。もしも、油田からの生産の減退率が楽観的な値である5%だったとしても、現在の油田の劣化を補うことのできる量ではない。

B君:要するに、消費が余りにも多いために、世界のどこか一箇所で何かをやっても、解決にはならない。すなわち、エネルギー問題には、環境問題と同様、単一解は無い。

C先生:鍵は、投資に値するかフォート・マクマレーでは、軽質スイートがバレル35ドル以上であれば、投資に見合うとの勘定らしい。

A君:オイルサンドであれば、オリノコ河の河口近くにもある。ただし、この地域は、政情不安などの要素があって、投資をするには、高額なプレミアム、すなわち、100ドルの投資に対して20ドルの利益が要求される。となると、もう少々軽質スイートの価格レベルが高くならないと駄目だということか。

B君:単純計算だと、オリノコだとバレル45ドルになれば確実ということかな。この本にも記述が無いが。

C先生:以上がサプライチェーン最上流の非在来型と呼ばれる原油の話。当然、他のエネルギー源、再生可能エネルギーや原子力などへの転換も考えられる。

A君:原子力は、やはり合意形成が鍵。再生可能エネルギーは、風力にしても、太陽光にしても、不安定であり、コストも掛かる。バイオマスは、これまでこのHPでも述べてきたように、食糧との競合をしている限り限界があり、さらに、農産廃棄物や木材を使い始めても、最後の最後には、土地の奪い合いになる。

B君:あらゆる可能性を、いかに個々の可能性が小さいと言っても、追求する必要がある。「単一解は無い」。これが未来に関わる問題すべてに言える。

C先生:供給側は、最近になって、国家企業が支配的。これが状況をますます難しくしている。日本に関係することで言えば、サハリン2に関するロシアとの関係や、アザデガン油田の権益を巡ってイランとの関係、など、最近でも様々なことが起きている。

A君:やはり、米国はカナダという供給源をもっていることが大きい。

B君:日本は、どうしても、需要側で対応をする以外に方法がない。

C先生:ということになれば、次に行くか。
(6)需要側の問題は、技術での解決。しかし、コストが掛かるため、国家が社会的な枠組みを作る必要があること。すなわち、「技術+社会の複合システム」が必要。

C先生:この複合システムの形成には時間がかかる

A君:これは、この本でも取り上げられていることですが、米国だと自動車の問題が大きい。

B君:フォードのF150、F250などのトラックに代表される超悪燃費の車。いかにこのような車のニューモデルが低燃費になったとしても、買い換えようというインセンティブにはならない。米国の現状でも、ガソリン価格が安すぎる。

A君:今の倍、1ガロン4ドルになっても、結局、燃料代は余り響かない。

C先生:日本で消費税が上げられないように、米国では、日本なみのガソリン税を作ることができない。中国も同様で、ガソリンは、逆に国家が補助をしている状態。そんな状況では、ハイブリッド車を買おうというのは、社会的責任などを言うインテリだけ。

B君:そこで、米国では、ハイブリッド車を買うと、3400ドルの税金の優遇を行う、といった方針が発表されている。ブッシュですら分かっている。

C先生:しかし、フォードのF250などの超悪燃費車へは、かなり不思議な米政府の対応になっている。この本に記述がある訳ではないが、米国にはCAFE(Corporate Average Fuel Economy)という仕組みがあって、自動車会社はそれぞれ生産する車の燃費の改善に努めなければならない目標がある。ところが、この枠組みに入れなくて良い車がある。それがClass 2Bと呼ばれるフォードのF250などに代表される一群のトラックなど。日本でもときどき見かけるGMのハマーH2は、この類

A君:日本で最近よく見かけるハマーのH3は、それよりも若干小さいので、Class 2Bではない。

B君:見分け方は簡単で、EPA(環境保護省)の燃費ページにデータがあるのは、Class 2Bではない。
http://www.epa.gov/fueleconomy/index.htm
Class 2Bに属する車の燃費は、いかにEPAでも公表できないのだ。

C先生:このHPに、各クラス別最悪燃費車というページがあるのだが、そこでも、Class 2Bの類は、除外なのだ。
http://www.epa.gov/fueleconomy/class-high.htm

A君:米国には、燃費で税金を決める、gas guzzler taxes というものもあるのですが、この枠組みでは、Class 2Bはどうなっているのでしょうね。ちょっと調べただけでは分からなかったもので。

B君:調査続行だな。

C先生:EPAのHPでは、自分自身が政府の一部なもので、余り文句も言わないのだが、American Council for an Energy-Efficient Economy という団体がやっているHP、
http://www.greenercars.com/indexplus.html
では、Class 2Bに対して相当文句を言っている。
http://www.greenercars.com/gctext.html#lighttrucks
 ここで個人として是非言いたいことがある。ハマーH2などという米国国内でも反社会的な車だとされているものを、日本国内で「有難がって買っている有名人」が居ること。さらに、それを持ち上げている人がいること。誰がハマーH2をもっているか、「ハマー 有名人」で検索してもらいたい。300Cも同様の思想の車だが。

A君:ということで、この本の結論は、
(7)供給側も需要側もエネルギー転換には時間がかかる。しかも、今から準備しようとしても、個々の企業が取り組むには難しい状況。
(8)だから、10年以内にブレークポイントは必ずやって来る。

B君:ブレークポイントというものがあるという。これは経済などが大ブレーキになる「可能性」を意味する。ブレークポイントに対して適切に「再調整」というものが行われないと、大混乱に至るという。「再調整」は、一般には、次のような段階を経るという。

再調整の段階
第一段階:不平を言いながら、お金を払う。
第二段階:節約し、効率化を図る。
第三段階:代替エネルギーを使い始める。
第四段階:社会やビジネス、ライフスタイルを変える。

 この第四段階に速く到達することが、混乱を減らす鍵だという。

C先生:日本の場合、産業界だけの話だが、米国よりもかなり速く第二段階には入った。そして、第三段階が、再生可能エネルギーということであれば、今、まだ模索中。他の化石燃料だということならば、すでに達成。第四段階が今後の課題。

A君:先日、企業の原油高騰対策の調査をやったときも、日本経済は、原油高騰が起きても悪影響を受けにくい、というところまで、構造変換が行われているという結論でした。
http://www.yasuienv.net/EnergyHikeStrategyNo1.htm

C先生:まだ、パート1を書いただけで、その続きが未完。今回の話ももう少々取り込んで、パート2をそのうち。

A君:結論ですが、いずれにしても、
(1)かなり時間がかかることだから、できるだけ早く取り組め。
(2)解決法は一つではない。だから、できるだけ多様に取り組め。

B君:特に、社会システムの変革や、社会の意識の変革が必要なことが多く、最終段階には、ライフスタイルを変えるのだから、どのぐらい時間が掛かるかよく考えよ。

C先生:そして、それには、
(3)国家という枠組みが重要。なぜなら、企業だけでリーダーシップを取ることができるという状況ではない。
政府が政治家が、何を考えるのか、それが重要だ。
 かなり時間がかかるということは、長期的な見通しが重要であることを意味する。
(4)長期ビジョンを作ること。これが政府の役割。
(5)長期ビジョンをもった政治家を選ぶこと、これが市民の役割だ。