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 中東諸国へのメッセージ   11.01.2009
      



 11月3日に、国際交流基金主催による中東グループ研修プログラムで、「産業、環境、文明、未来」という題名で講義をすることになっている。

 本日は、その概要を自ら再検討するためにこの記事を書くことにする。

 ちなみに、参加者は、イエメン、イラク、イラン(2名)、エジプト(2名)、カタール、クウェート、サウジアラビア、シリア、トルコ、バーレーン、モロッコ、レバノンの各国から。平均年齢30歳半ば程度とかなり若手である。職種は、公務員系が多いが、大学院生やジャーナリストもいる。



C先生:こんなことになった。中東諸国に対して、日本という国がどのようなメッセージを出すべきなのか、その第一回目実験みたいなことになる。

A君:講演は英語ですよね。まず、産業、環境、文明、未来をそれぞれどう英訳したのですか。

C先生:いきなり厳しい質問だ。産業はまあIndustryだろうが、Industriesと複数にした。いくつかの個別の産業をどう組み合わせるのか、といった感触を加えたくて。
 環境は、誰が考えてもEnvironment。最後の未来も誰が考えてもFuture。3番目の文明が迷った。文明をCivilizationといきなり訳すと、どうも言いたいこととは違う。だから文化としてCultureと訳すのか。どうもピンと来ない。結局、Mind-setsと訳すことにした。要するに「考え方」なのだが、もっと感覚的に表現をすれば、「頭の中に染みついた意識と無意識」といった感じだ。



図 タイトル

B君:今回のために特に用意すべき話のタネはなんだろう。

A君:中東ですからね。やはり化石燃料の有限性。現時点で、化石燃料に依存している割合の多い国ですが、今後、石炭が無いとすると、今世紀中には、エネルギー供給問題が起きる。

B君:さらに重要なことが、中東だと水の供給だろうか。これは、最悪、海水の淡水化という技術で乗り切る。

A君:食糧を自給しようなどということを考えると、無限に水が必要になる。

B君:水の豊かな国との連携を強めて、食糧は輸入で頑張る。

A君:それには、なんらかの売り物を持たなければならない。石油の次の輸出品は何か。要するに、経済問題。

B君::もう一つは人口問題。これは、イスラム圏ではかなり深刻。

A君:人口が増えたことが、この20世紀の最大の特徴。

B君:イスラム圏が重要なのは、経済的な発展が相対的に遅れたこと。その遅れに対して、先進国への反感が強調されすぎている国が存在すること。

A君:アフリカのイスラム圏では、やはり人口増加が大問題。

B君:潜在的な原因として、イスラム圏での4名までの奥さんを持てることもある。

A君:この話は、宗教の話になっていささか危うい。

C先生:もちろん、その話に突っ込む積もりはない。

B君:無難。

C先生:今回の話のつかみは、地球の限界をまず認識すべきだということからはじめることにする。



図 地球の限界

C先生:その後、昨年のリーマン・ブラザーズの破綻が、実は、これまでの産業構造の最後に位置する金融の破綻を意味するとすれば、農業を最初とする産業の系列には未来はない。



図 産業系列

C先生:しかも、この産業系列は非可逆的で、後戻りはできない。その最大の理由は、人口とエネルギー使用量の増大という2種類の増大ゆえではないか。



図 産業系列は不可逆な理由は、まず人口

A君:農業は、約1万年前に発明されたと言われていますね。



図 ヤンガードイライアスという時代と、中世小氷期

B君:最終氷期が終わって、温度は急上昇。しかし、その後、ヤンガードライアスと呼ばれる温度のゆり戻しがあった。

A君:そのときには、採取狩猟が大変な困難に直面した。それは、海水面の変動が極めて大幅だったから。

C先生:寒いときに、何かが起きるということはある。産業革命が中世小氷期に起きている。産業革命を象徴するパラメータがエネルギーの使用量の増大だ。



図 エネルギー使用量の増大

C先生:そのエネルギー使用量の増大が、人口増大をもたらした。



図 人口増加とエネルギー使用増大

A君:エネルギーの大量使用をはじめた産業革命のお陰で、農機具なども機械化されて、大量の食糧の生産と供給が可能になり、各人が食糧を自給しなくても生活が可能になった。そのため、人口の大部分が都市居住をできるようになった。そのために土地が人口の最大値を決める過去のしばり、しばしばマルサスの罠と呼ばれる罠をやぶって、人口の増加もできるようになった。
 当然、農業も大量のエネルギーを使用して機械化を行い、少ない人数で大量の食糧を生産するようになった。大規模農業を行うことができる条件、農民人口がその国の就業人口のほぼ1%台になれば、農業は産業として成立するが、日本は、まだ4%ぐらいか。しかも、農地が大規模農業に適さない。

B君:エネルギーを大量に使える産業が進化するということは、1人あたりの所得が大きくなることとほぼ同義だった。あまり生産性の高くない産業は、機械化を進める以外に方法論はない。繊維産業関係も途上国だと安い人件費を使えている間は、手工業的にやっても経済的に成立するが、経済成長をして1人あたりの所得が増えると、成立しなくなる。

A君:1人あたりの所得が増えるに従って、より利益の高い産業に移行しなければならない。

C先生:そうなんだ。これが、二番目の図で示した、産業系列ということが起きてしまう理由だ。

B君:日本の場合だと、繊維産業、船舶などの重工業、鉄鋼、重化学工業、などから、半導体や精密素材などの高付加価値産業に移行。しかし、半導体は、完全に儲からない産業になった。そして、自動車。ソフトウェア産業は、日本の場合だとゲーム機ぐらい。米国は、そこも終わって、飛行機、OS、情報、金融がになった。日本の自動車もいつ終わってもおかしくはない。

A君:われわれが言う「亡国の電気自動車」が日本の自動車産業を押しつぶして、もしうまく行ったとしても、電池・モータ・大電力用半導体などの部品産業に成り下がる。

B君:日本の自動車産業を守ろうと思ったら、プラグイン−ハイブリッドが究極の自動車だという報道を一斉に行うべきだ。実際、プラグイン−ハイブリッドが、米国でも当分は主流なのだから。

A君:いずれにしても、産業というものは進化して、そして、少なくともその国では滅びていく。

C先生:持続可能性という言葉があるが、それの意味は、本来、有限の寿命をもったヒトも生物も入れ替わり、次世代に受け継がれている。



図 持続可能と個の寿命の有限性

B君:当然、産業も入れ替わり、そして、「何か」が未来に伝わっていって、結果的に、地球上での人類社会が長期間持続する、という意味。

C先生:その「何か」が何か、ということが大変に重要なのだ。少なくとも、この「何か」は物質的なものではない。

A君:環境問題の究極は何か、と問われれば、この「何か」の解をすべての人々と共有すること。

C先生:「何か」は、大脳の中にしかない。これがわれわれの解釈なのだが、それが果たして受けいられるか。

A君:そして、持続可能性とは、その個別の生命を繋ぐ包絡線で表現できる。

B君:それでは、余りにも哲学的に過ぎて、なかなか共有できるようなものでもない。そこで、物理的・物質的な側面をまず取り扱うことにして、持続可能性とは、実は、リスクを削減することだ、という定義を行って、そのリスクの実態を解析することをやってきた。

C先生:グローバルリスクとローカルリスクの違いについて、まず説明し、その後、いくつかのリスクについて、各論的にいくつかの話をしたい。

A君:発表用資料によれば、
1.気候変動
2.食糧と水
3.化石燃料
4.自然エネルギー
5.マインドセット/省エネ  新コタツ文明など
6.総論としての環境問題の遷移

C先生:これ以下の話は、これまでも様々なところで話をしてきたものだ。
 気候変動の話は、これまでの日本の歴史を述べて、そして、今後の解決に向けた必要条件を話す予定。これまでと似ている。
A君:しかし、資料を見ると、安倍首相、福田首相、麻生首相と3代の首相の時代が少し記述されて、鳩山首相の話になっていますね。

B君:こんな短期間に首相が変わる国も珍しい。

C先生:食糧と水の話は、これもいつもの話。中東には水が無いのだから、食糧を自給しようとするのはバカバカしい。

A君:バーチャルウォータの話ですか。

B君:水が無い国は、食糧を輸入するのがベストの戦略。

C先生:次は、化石燃料と自然エネルギー。まあ、エネルギーは、中東向けの話題としては、必然とも言える。

A君:オイルピークは、すでに起きているのでしょう。2005年ぐらいが生産量が最高。その後は、生産調整に入って、生産量が増えることはない。

B君:ということは、石油からしばらく遅れて天然ガスの生産量は落ちる。産油国としては、石油を長期間に渡って引きずりたい。

B君:今世紀後半、かなり多くの国々は、石炭と原子力に依存している可能性が高い。自然エネルギーはあくまでも補助的なものだから。

A君:石炭が枯渇する23世紀までには、バイオマスとか海洋エネルギー依存にせざるをえない。あるいは、原子力をとことん進化させて、高速増力炉、トリウム転換炉といった技術によって安全にエネルギーが供給できる形にする。

B君:そこまで行けば、まあ、1000年間程度のエネルギー源にはなる。しかし、省エネを徹底的に進めること。さらに、自然エネルギー技術、といっても、その本体は、エネルギー貯蔵技術なのだが、これを徹底的に進める必要がある。

C先生:化石燃料を使い切ってしまうと、温暖化という現在もっとも重要な問題が根底から解決されたことになる。

A君:そうなると、地球寒冷化にどのように対応するかが議論されているかもしれないですね。

B君:考えられる方法論はN2O、メタンなどの天然温室効果ガスを増やすか。危険性を十分評価した上で、PFCなどのガスを使うか。

C先生:原子力、正確には核分裂時代が終わって、1000年以内に核融合ができているかどうか。これは全く分からないが、核融合は相当に難しい技術だろうと思われる。したがって、1000年後以降にも確実なのは、自然エネルギーになる。

A君:自然エネルギーといっても、現在噂されている宇宙発電のような形態になるのか、それとも、海洋微細藻類のような方向を追求するのか。

B君:この話になると、実のところ誰も分からない。ただ、自然エネルギーを大量に利用するというマインドと、これまでの化石燃料や原子力のような安定したエネルギー源がベストといった発想は古くなっているのではないだろうか。

A君:ということは、宇宙発電のような発想ではなくて、細かいローカルエネルギーを繋いで何とかする。

B君:超伝導で世界を結ぶといった方向も、どうも現時点での安定なエネルギーを獲得したいといった発想法のような気がする。

C先生:このあたりの話は、なかなか難しい。なぜならば、まだまだ先が長い。最短でも300年後を考えればよい話。そのころ、どのぐらいの人口になっているのか。意外なことに、世界人口が減りすぎて困っているというようなことになってはいないだろうか。

A君:日本が少子高齢化で苦しんでいるということは、そのころになると、地球全体でも少子高齢化で苦しんでいる可能性は全く無いとは言えない。

B君:何か、すごく柔軟な対応ができるようなシステムが出来上がっているような気がする。

C先生:マインドセットも相当変わっていることだろう。そもそも何のために働くのか。次の世代に「何か」を伝達することがすべてのヒトに課題だとすれば、それを実現するためには、何をすれば良いのかを考える。

A君:ノルウェーは、現在、産油国になっています。そのため、国家としての収入はあります。しかし、他の国と違って、この地下資源は、未来世代からの借り物だと考えているので、将来世代のために、基金を積んでいます。

B君:このような考え方が、中東諸国に芽生えることはあるのだろうか。

C先生:そのあたり、コーランの教えがどうなっているのか、聞いてみたいところだ。

A君:最後のまとめが環境問題の遷移。

B君:最初は、森林の消滅という問題から始まって、その後、環境汚染もしくは公害。その後、廃棄物問題がでて、そして、温暖化問題。その先には、エネルギーや資源の枯渇問題があるという例の考え方。

C先生:これは歴史的必然のように思える。

A君:しかし、日本は公害問題を1970年頃から解決に向かって、温暖化問題は、1997年の京都議定書だ。だから、約30年かかって、そこまで進化した。

B君:中国は、公害問題をまだ抱えながら、そろそろ温暖化問題への対応を求められている。

C先生:どんどんと時間が短縮されるというのも、科学技術の進歩の宿命なのだ。それは、最初にやる人はよく分からないが、二番目以降には、先輩が居るからだ。

A君:今後、日本のような悪い体験をした部分をスキップして、新しい段階に早く到着して貰いたい。

B君:ところが、人口増加のようなところになるとマインドセットが変わるのが難しい。

C先生:韓国で3年前ほどに講義をしたとき、人口の多さは、国力だから、と大学生に言われて、日本とは違う国だと感じた。この点も、中東の国がどのように考えているか、それを知りたいところだ。