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   生命体の不確実性 その3
     03.16.2013
        発がんと不確実性




 14日から、ベトナム・ミヤンマーに出かけます。そのため、先付けの記事です。



6.がん発生の不確実性


 がんの発生は、一筋縄では説明できない。こんなWebサイトがありますのでどうぞ。
http://www015.upp.so-net.ne.jp/j-hata/byouri/hatugan.html

 このサイトは、本来小児がんについて説明をしているところであるが、発がんについて、小児がんと通常のがんで、それほど大差があるということではない。


6.1 細胞が分裂するときに異変が

 細胞は分裂する。発がんという観点で何か異変が起きるのは、このときである。とは言っても、この段階ではまだまだ「がん」ではなく、ちょっとした異変が起きるに過ぎない。

 これまで述べてきたように、細胞中のDNAは、発がん物質、放射線、ウイルスなどによって傷を受ける。単なる呼吸によって取り込まれる酸素が傷つける元凶である活性酸素の源なので、もしも呼吸をするのを止めることができれば、がんになる可能性はかなり減らすことができるが、それはできない。

 DNAが傷つけれられば、その細胞が作る蛋白質は、DNAに描かれている設計図も参照しながら作られるので、当然、妙なものができる。しかし、1万個に1個ぐらい妙な細胞が存在していたところで、まず問題にならない。そのぐらいの量の妙な物質ができたとしても、生理活性が強くて毒性が強いという物質ができることはほとんどあり得ないし、そもそも、生命体というものは、いい加減にできているので、大丈夫である。


6.2 増殖するかしないか

 しかし、1万個に1個の細胞ががん化すると、それは、問題になる可能性が出てくる。それは、異常なDNAをもった細胞が複製されたとき、なんらかの加減で、異常増殖を始める資質をもった細胞、これががんの元になるが、これができてしまう可能性があるからである。

 これまたすでに述べたように、細胞が分裂するとき、DNAはコピーされて複製される。この作業をやるコピー装置はそれほど正確ではなくて、10万塩基(文字)に1個ぐらいのコピーミスをする。30億文字ぐらいの情報をもっているDNAであれば、なんと、6万個の文字をコピーしそこなう。

 多くの場合、このコピーミスは、自動修正機能が働いて修復されるが、もともといい加減なのが生命体というものの特性なので、完璧に修復される訳はない。

 コピーした文字が意味不明であると、その細胞は自殺をする仕組みになっているので、多くの場合、問題にならない。

 細胞が自殺したところで、余り問題がないの理由の一つは、その細胞を作っていた原材料は、ちゃんと次の細胞を作るときに使われるからである。

 ところが、コピーミスがあって、元々の意味とは全く違う文字列ができて、これがある意味を持ってしまうと、場合によっては、妙なことになる。例えば、増殖を無限にせよといった命令をもった文字列ができてしまうと、大変なことになる。通常の細胞であれば、無限に増殖せよと自らのDNAが命令しても、DNAの別の部分には、それは間違いだから止めろという意味の情報を持っているので、無限に増殖することはない。ところが、その制止をするDNA、これはがん抑制遺伝子と呼ばれるが、これが別の文字列に書き換えられていると、制止が効かなくなって、無限増殖を始めることになる。

 こうなった段階でがん細胞ができたということになる。そして、増殖を始める。


6.3 まだまだ防衛線は残っている

 しかし、まだ防衛線が残っている。それは、通常の免疫システムである。

 通常、免疫システムには、二種類あるとされている。その一つは、外から侵入してくる細菌などの外敵と戦うもので、侵入者の特性に合わせて作られる、特殊部隊のようなもの。これを獲得免疫と呼ばれる。

 もう一つは、自己免疫と呼ばれるもので、こちらは、通常の警察のようなもの。世間に普通に存在している不法侵入者などを摘発する。

 がんは、もともと自らの細胞からできているので、外部からの侵入者としては認識されない。そのため、がんに戦いを挑むのは、自己免疫系である。

 通常白血球と呼ばれるものがその実体であるが、白血球には実は多くの種類がある。リンパ球(これにも種類があるが、ナチュラルキラー細胞などが戦う)、マクロファージなどなどが自己免疫システムに属する。

 そして、この戦いにがん細胞が勝てば、いよいよがんが発病したことになる。

 がんは死因にはなっているが、それではなぜがんで死ぬのか、といわれると、それは難しい。がん細胞は、別段なんらかの毒物を出すという訳ではないからである。

 がん細胞は、本来の細胞機能をもっている訳ではないので、例えば、肺がんであれば、肺の部分にできて、機能をもったもともとの肺の細胞が正常に働くのを妨げることがある。例えば、空気の通り道や毛細血管中の血流の妨害をすることがある。

 このように本来存在していないところによそ者として存在し、正常な細胞が働くのを妨害することで、最終的には患者を死に至らせる。

6.4 多段階の防衛ラインすり抜ける確率

 以上述べてきたように、ある細胞のDNAになんらかの原因で傷がついたとしたとき、その細胞がその傷が原因でがんになる確率は相当に低い。

 1)DNAの傷ができる。

 2)傷の修復に失敗した細胞が残る。

 3)それが分裂をする。

 4)DNAに傷がある細胞が複製されてできる。

 5)その細胞が自殺しない。

 6)DNAの情報が増殖することを命ずる。

 7)増殖は誤りだと止める命令がでない。

 8)増殖がはじまる。

 9)ナチュラルキラー細胞などとの戦い開始。

 10)最終防衛線が突破されて、発がん!。



 以上要するに、DNAに傷がついてから、発がん状態になるには、10個程度の関門をすべてすり抜けるという現象が起きることが必要である。

 その確率は、と言われても本当のところは分からないので、ここでは、対策を取ることが可能かどうか、を含めて若干記述してみたい。

1)DNAの傷ができる。
 DNAに傷ができることは、日常茶飯事に起きている。それは、酸素を呼吸しているために、どうしても活性酸素というものとお付き合いをしなければならない生命体にとって、運命的なものである。

 食料に含まれる発がん物質も、ゼロにすることは不可能である。いくら食品添加物を避けても、もともと安全なものしか使われていないので、まず、効果は薄い。

 食料に関しては、むしろ、多種多様なものを食べることによるがん抑制効果を狙うことが最良のように思える。すなわち、野菜・果物を十分食べるということである。

 放射線への被曝を避けることも、勿論DNAに傷が付く数を減らすことには効果的である。しかし、年間10mSvとか20mSvの線量を被曝しているなら効果はあると思うものの、年間1〜5mSv程度の過剰な被曝だと、もともと放射線被曝量にはカリウム40、宇宙線、大地からの放射線などのバックグラウンドがあるし、医療用放射線もときには浴びざるを得ないので、意図的に避けることの効果は、ほとんど見えないだろう。

 放射線によるDNAの傷は補修できないとか主張されることもあるが、確実にそう言えるかどうか、疑問である。DNAの二重鎖構造で、鎖が二本とも破壊されると補修しにくいことは事実だろう。しかし、やはり生命体のもつ不確実性による補修のミスによる傷の方が数的には圧倒的に多い。

2)傷の修復に失敗した細胞が残る。
 この段階で、意図的にできることはほとんどない。
 ただし、生命体である以上、健康バランスが様々な機能を正常に保つために重要であるので、不規則な生活をしないこと、さらに、軽微な放射線の被曝を避けることを目的に、ストレスが多い別居生活などをしないこと重要である。


3)それが分裂をする。
 これは意図的に制御することはできない。ほぼ確実に起きてしまう。

4)DNAに傷がある細胞が複製されてできる。
 これは意図的に制御することはできない。ほぼ確実に起きてしまう。

5)その細胞が自殺しない。
 DNAに傷がある細胞には、自殺が命じられる。しかし、かならず自殺するとは限らない。これも意図的に制御することは不可能である。

6)DNAの情報が増殖することを命ずる。
 これは意図的に制御することはできない。

7)増殖は誤りだと止める命令がでない。 
 これも意図的に制御することはできないが、がん抑制遺伝子については、家族などに共通であることが多く、いわゆる遺伝的影響がある。だからといって対策は不可能である。

8)増殖がはじまる。
 これも必然的に起きてしまう。

9)ナチュラルキラー細胞などとの戦い開始。
 最近、免疫療法というがん治療法が注目されているが、それは、このような自己免疫の戦力を結果的に高めるという治療法である。将来は、iPS技術によって、画期的な治療法に発展する可能性がある。

 この自己免疫機能を強化することは、やはり、生命体のバランスを良好に保つことによって実現できる。

 となると、できるだけ重大な心理的なストレスを回避することが正しい戦略になる。

 基本的にすべての細胞を十分に作るかであるため、偏食なども良くない。栄養素の偏りは、あらゆる細胞の活力を削ぐからである。日本食は良くて、肉食はダメといった本を信じる人もいるけれど、良質なタンパク質を摂取することは、細胞がタンパク質を主成分としていることから考えても、極めて重要なことである。

10)最終防衛線が突破される。
 もうこうなると、後は体力勝負。体力勝負と言いつつも、実は、精神力勝負のようなところもある。すなわち、心理的ストレスをどう克服するか、ということが重大な要素になる。


6.5 がんと生活のストレス

 大阪大学の医学生が書いた『やさしい「がん」の教科書』2002年、PHP研究所には、ストレス度点数表というものがある。そのベスト20をご紹介したい。

1.配偶者の死          83点
2.会社の倒産          74点
3.親族の死            73点
4.離婚               72点
5.夫婦の別居           67点
6.会社を変わる          64点
7.自分の病気や怪我       62点
8.多忙による心身の過労    62点
9.300万円以上の借金     62点
10.仕事上のミス          61点
11.転職               61点
12.単身赴任            60点
13.左遷               60点
14.家族の健康や行動の大変化 59点
15.会社の立て直し        59点
16.友人の死            59点
17.会社が吸収合併        59点
18.収入の減少          58点
19.人事異動            58点
20.労働条件の大きな変化   55点


 過去1年間に経験した生活上の出来事について、合計点が150点以下ならまずまず耐えられるストレスで、翌年に健康破綻が起きる危険性が30数%程度。150〜300点だと50数%。300点以上だと健康破綻の確率が80%になるとのこと。

 福島県からの避難するかどうか、にこの評価法を適用してみる。

 放射線を余りにも気にして、母親だけが子どもをつれて、どこかに避難するとどうなるのか。夫婦が別居で67点、単身赴任で60点、家族の大きな変化で59点、収入の実質上の減少が58点、

 家庭に関する21位以下65位までを列挙してみると以下のようなものがある。

27.息子や娘の家離れ        50点
30.夫婦げんか             48点
43.住環境の大きな変化       42点
45.社会活動の大きな変化      42点
47.団らんの家族メンバー変化    41点
48.子どもが新しい学校へ       41点
60.レクリエーションの減少       37点

 ここまでのすべての条件を満たしたとすると、合計545点になって、家族の誰かに健康破綻が起きるのが当然というほどのストレス量になる。

 少なくとも、がんとの戦いの最後防衛線である自己免疫の状況が最悪になることは間違いなさそうである。

 これまで、本Webサイトで何回も主張してきたように、放射線によるリスクだけを考えてそれを回避したところで、もし、ストレスが増大するような状況になるのであれば、放射線被曝の結末を発がんであると考えたとき、決して賢い選択だとは思えない。

 結論である。生命体というもののもつ不確実性を理解しないと、発がんのように複雑なプロセスをもつ現象への対処方法を、正しく判断することはできない。

 「放射線被曝 ⇒ 発がん」といった単純なものではないのである。