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生命体の不確実性 その1
03.03.2013
生命体と細胞=全体とパーツの関係
不確実性シリーズの生命体編。新年の自己至上主義から始まったシリーズですが、ベイズ統計などを記述し、最後の最後には、低線量被曝のリスクの理解に行きたいと思っているのですが、まだまだその道は遠そうです。
今回は、低線量被曝などのリスクを受ける側である「生命体」の不確実性について述べたいと思います。もう一つ、続PM2.5なる記事を書いたもので、やや短めになっています。
そもそも生命体とは何か、という問いに答えられなければ、生命体の持つ不確実性について議論ができるはずもないのだが、ここでは、生命体とは、再生しつつかなり長期間に渡って、生命現象を維持するものと定義する。これは再帰的定義なので、当然厳密には定義になっていないが、こんなものだと考える。
要するに、再生しつつ、というところに、重点をおいているとお考えいただきたい。
生命体は、恐らくそのすべてが、細胞からできていると言えるだろう。細胞には寿命があって、ヒトの場合であれば、もっとも寿命が短いものが、消化器の上皮細胞で、大体1日。もっとも長いものが、心筋と神経細胞で、ヒトの寿命と同じ。
がんという病気を考えると、心臓がんという病気は希である。それは、心筋を構成している細胞の寿命と関係しているからである。
このように考えると、生命現象の鍵、特に、発がんなどの鍵は、どうやら細胞にあると考えるのが良さそうである。
1.生命体、細胞、神経系
この世界で、もっとも不確実性の高い存在は、やはり生命体である。ヒトという生命体も、数10兆個の細胞からなる構造物であるが、これほど多くの細胞が、司令塔からの統一された命令で仕事をこなしているという訳ではない。どうやら、各部署で自律的に制御されているようである。
心臓の停止はヒトの死を意味するが、心拍は、心臓にある洞房結節と呼ばれる部分が統括している。ここは、心筋を収縮させる電気信号を出しているところである。
その洞房結節を制御しているのが自律神経。文字通り、自律して動作している。自律神経は、交感神経と副交感神経からなっていて、心臓も、この二種類の神経によって制御されている。
交感神経の末端から、ノルアドレナリンと呼ばれる物質、しばしば神経伝達物質と呼ばれるもの一種、が放出されると、洞房結節は、このノルアドレナリンを受け取って、心拍数を高めるように、電気パルスの頻度を高める。
一方、副交感神経がアセチルコリンという物質を出すと、洞房結節はこの物質を受け取って、心拍数を減らす。このように、洞房結節が行なっていることは、基本的に「化学反応+物理現象」である。それなら、確定論的か、というと、そうは言えない。
例えば、死というものを考える。ヒトの死とは、心拍の停止なので、洞房結節が電気信号を出すか出さないかで決まる。ここまでは良いが、さて、そうなると洞房結節はどうなったら電気信号を出さなくなるのか、が問題になるからである。
恐らく、洞房結節に本来供給されているはずのエネルギー、あるいは、制御信号(神経伝達物質)がなくなると、動作しなくなると考えるのが非常にマクロにみたときの解釈である。
洞房結節は、自律的に動いているとはいっても、周辺からエネルギーあるいは制御信号が供給されないと、動かなくなるので、完全に自律的な組織ではなく、ヒトの体全体によって支配されているとも言える。すなわち、考えるべき範囲が変わってしまうし、どの範囲まで考えなければならないか分からなくなり、こうなると、不確実性が高まる。
恐らく洞房結節への支配は、中枢神経系を経由してなされている。中枢神経とは何なのか。かつては、感覚器からの情報を処理し、情報を他の機関に伝達するコンピュータシステムのようなものだと考えられていた。
しかし、最近では、中枢神経系も自律システムではないか、と考えられているようだ。
となると、ヒトの死とは一体なんなのか。現象論としては、心拍が止まることなのだが、植物状態とは中枢神経系の一部は機能していて、心拍は確保されている状態なので、死ではないのだが、この状態では、感覚器は明示的には動作していない。
要するに、植物状態では、ヒト全体としては機能していない。しかし、何をどうすれば植物状態を脱することができるのだろうか。よくわからない。
話を戻して、交感神経は、精神的な状況によって影響を受ける。精神的に緊張状態であれば、ノルアドレナリンが大量に分布される。そのため、心拍数が上がり、この物質がでなくなると、心拍数が元に戻る。この物質が出すぎても困るし、出なさ過ぎても、また困る。
ということは、ヒトが病気になるか、あるいは、健康でいられるどうか、それには中枢神経の状況、言い換えれば、ある種の精神状態が非常に重要な要因だということになる。
精神状態とは何なのか。これがまたまたよく分からない。しかし、ストレスという言葉で、ヒトの健康状態に与える精神状況の悪い状況を表現すれば、ストレスというものが、健康状態に極めて重大な影響を与える可能性が強いものだ、ということが理解できるのではないだろうか。
ストレスがどのぐらい怖いか、というと、それを実感できるのが、円形脱毛症ではないか。一晩で、すべての髪が抜けてしまうことすらある。
天然の毒物や細菌であれば、一晩で髪全部を抜くほどの威力はない(抗がん剤は人工物だが、そのような威力があるようだ)。
原因は、自身の免疫システムにある。体の防御機能である陽性Tリンパ球が、毛根の一部を攻撃してしまうという自己免疫反応によって引き起こされる。
確証があったのかどうかは知らないが、古くは精神的ストレスによって発症すると言われていた。現在では、ストレスは、一つの誘因として理解されているようだ。
結論的に、ヒトの体は、部分的な自律システムがあるので、”部分だけなら活きている状態”を作ることができる。人工心肺を付け、血液にエネルギー源である栄養素を供給しつづけるなどによって、ヒトの植物状態を長時間にわたって継続することができる。
しかし、これでは本当の意味で生存しているとは言えない。やはりある部分だけが自律的に活動しているのは、ヒトの本来の生存とは違う。ある主要部分が活動を停止してしまえば、それは生存ではないのだろうが、だからといって、どの部分が活動を停止したら死だというのか。この疑問には答えられない。
要するに、生命体、生命現象は、現時点では、色々な意味で、余りにも不確実性の高い対象物である。
2.細胞の健康とヒトの健康
しかし、ヒトを構成する個々の細胞が健康であれば、ヒトは健康なのではないか、と考えられる。したがって、健康な細胞とはなにか、を考えることは最低限重要なのではないか。
最近、”ウイルスをやっつけるペンダント”のような商品が売られている。これは結構危ない。中でも次亜塩素酸を含む商品は、かなりの火傷事故を起こしたようである。
もう一つの種類である
二酸化塩素を含む商品
がどのぐらいの事故を起こしているか分からないが、そもそも、ウイルスや雑菌を殺すようなペンダントは、自分の細胞も殺しかねない、と考えるべきである。
細胞にはもともと寿命があって、自分の細胞一つでも死んでしまったら、それは大変だというものでもないが、少なくとも、ウイルスや雑菌を殺す物質を吸入などすれば、雑菌は少なくとも細胞なので、自分の細胞も大量に死なないとも限らない。
すでに述べた心拍に関しては、洞房結節と神経系、加えて心筋が関与している。これらの細胞は、特殊なものである。細胞の寿命は短いものだと1日だが、これらの細胞の寿命は一生である。ずーっと使い続けることになる。
これらの一生使う細胞が損傷を受けるのは、血流が不十分でエネルギー源が供給されないとき、あるいは、機械的・熱的なダメージを受けるとき、などである。あたり前のことであるが、特に、血流が不十分であると、ダメージを受ける。その一つが現象が心筋梗塞である。
脳に血流が行かずエネルギー源が供給されないときには、脳梗塞になる。神経系の細胞は再生されないのが普通なので、障害が残ることになる。
しかし、普通の細胞は、有限の寿命がある。有限の寿命とはどのぐらいなのか。ネットから拾い集めた数値なので怪しいが、一応、次に示す。
消化器上皮細胞 1日
白血球(色々) 2〜200日
皮膚細胞 20〜30日
肝臓細胞 20日
赤血球 3〜4ヶ月
筋肉細胞 6〜12ヶ月
頭髪 4〜6年
骨細胞 10年
寿命の短い細胞が背負っている役割は、なかなか大変きびしい作業である。
消化器上皮細胞は、我々が焼肉屋でホルモン(胃・腸など)を食べたとき、なぜ、食料としてのホルモンだけが消化され、同じ成分である自分自身の胃・腸などが消化されないのか、と考えれば、やっている仕事の厳しさが分かるだろう。
消化器上皮細胞は、消化液などによってダメージを受けて次々と死ぬものの、どんどんと新しい細胞が再生するためになんとか機能を保つことができている。まるで戦国時代の足軽兵のような戦法、すなわち、前の足軽がやられれば、すぐ後ろから補給するという戦法で、なんとか対処しているのが実態である。
皮膚細胞も同様である。太陽からの紫外線によって皮膚細胞のDNAに傷を受ける。そのため、どんどんと死ぬものの、新しい細胞を作ることによって、機能を維持している。
肝臓細胞は、体内の毒物を処理するために、危険な作業をしているので、やはりどんどんと死ぬ。しかし、新しい細胞を作ることによって機能を維持している。
このような新しい細胞を作るとき、何が一番危険なのか。それは、もしも同じ機能の細胞が再生できなければ、困ってしまう、ということである。
同じ細胞を作るためには、情報が重要である。その情報を担うものがDNAである。
以下、次回に続く。