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  ロンボルグ本の概要1  07.06.2003



 これまで間接的にしか情報を得ていなかった本だが,
http://www.ne.jp/asahi/ecodb/yasui/Week020501.htm#label05291
http://www.ne.jp/asahi/ecodb/yasui/Week020501.htm#label05221
「今月の環境」でご紹介したように、日本語訳版が出た。
http://www.ne.jp/asahi/ecodb/yasui/Week0307.htm#label07011

 「懐疑的環境主義者」。日本名、「環境危機をあおってはいけない」。ビョルン・ロンボルグ著、山形浩生訳、4500円。文藝春秋刊。ISBN4-16-365-80-6

 いささか高価だが、環境問題を論じる前には、一読すべき本の一つであることは確実。反対するにしても、賛成するにしても、ある種の基準点を作ったような本である。

 日本にもこのような本が必要だと思う。本HPでも主張しているように、過去・現在・未来を見通した環境問題の議論が必要なのであるが、残念ながら、そのような広い視野で”研究”を遂行するのは不可能に近い。そのため、研究費が必要な大学人などは、狭い範囲の「環境問題」に閉じこもり、自らの分野の重要性を主張するために、環境ホルモン研究の場合のように、ことさら恐怖感を誇張をしてみせることがある。


C先生:ロンボルグの「懐疑的環境主義者」の概要を紹介してみたい。

A君:非常に厚い本でして、あとがきなどを含めて585ページ。活字も小さいです。さらに驚異的なのが、引用文献の数。なんと2930もある。この本の価値は、この引用文献のリストだとも言えそうです。

B君:日本だとオリジナルデータ至上主義という考え方があって、総説を書くのはサイエンスではないと言われることもある。しかし、環境研究の一部に、この本のような総合的なトレンドを描くという研究があってもしかるべきで、それが総合環境学と呼べるものなのではないか、と思う。

C先生:環境学とは何か EnvSciDefinition.htm のところで述べたように、環境学といっても様々。冠をかぶせないと何をやるべきかはっきりしない。このロンボルグのやっている作業に環境学という名称をつけるとしたら、「トレンド分析による総合環境学」とでも言うべきだろう。

A君:われわれが主張しているのは、持続可能性環境学。省略して持続環境学。過去・現在・未来をつないで、最終的な持続可能性に対する解答を探ること。

B君:要するに、ロンボルグのスタンスと非常に良く似ているのだが、過去のトレンドの解析には余り重点を置かないところが多少違うところだろうか。

C先生:そんな本だが、構成の解説を。

A君:大きくは第6部まであって、合計25章からなるというのが構成です。第1部はまあイントロで、「環境が怖い」話を様々にやっつける。第2部からは、各論ですので、章の題名の方が重要。それをリストアップしますと、

(1)人口過剰
(2)期待寿命と健康
(3)食糧と飢え
(4)かってない繁栄
(5)食べ物は足りるか
(6)森林はなくなりかけているか
(7)エネルギーは枯渇するか
(8)エネルギー以外の資源
(9)水は十分にある
(10)大気汚染
(11)酸性雨
(12)室内空気の方が深刻
(13)アレルギーとぜんそく
(14)水質汚染
(15)廃棄物の捨て場
(16)化学物質が怖い
(17)生物多様性
(18)地球温暖化

B君:そして、最後の第6部として世界の本当の状態として、まとめに入るということ。

C先生:A君が挙げた18項目について、ロンボルグの結論を一言でまとめて、それに対して我々の感触との比較でも議論するか。

A君:それでは、(1)人口過剰から。
 人口構成が死亡率と出生率で決まるのは当然なのですが、その差である増加率は、今後どんどんと低下して、現在の約2%程度から2050年では0.46%に下がる。国連の人口推計はどんどんと低い数字になっているが、2025年には、80億人、2050年には93億人、2200年には110億人で安定するとしている、ということが主張です。

B君:結論的には、余りはっきりしないのだが、人口過剰とは言えない、というトーンではある。都市に人口が集中しているのは、ポール・エーリックによる持続可能かどうかという判断によれば、NOだが、それはおかしいと主張。

A君:エーリックはある地域で支えるだけの人口が持続型と考える。いわば自律型社会というか農業中心的な発想だと思うが、ロンボルグは都市に集中して住むのがなぜ悪いという主張。

B君:都市は、エネルギー供給と食糧供給を持続的に行なうことができれば、効率的には最良であることは間違いないというのが我々の考え方。だから、この人口問題は、エネルギー供給・食糧供給問題に解があるかどうかに依存する。

A君:突然ですが、人口問題は重要だという例の一つです。2100年の日本の人口は、5000万人台。そして、1000年後の日本の人口は、なんと100人台とか。

C先生:そんなところか。要するに、都市をどう見るかが鍵の一つ。鍵リストというものを作って、まだ十分に議論されていない事柄のリストとする。

鍵リスト
(@)都市をどう見るか。それにはエネルギーと食糧供給だ。

A君:(2)期待寿命と健康。
 これが全世界的に伸びているのは事実。しかし、地域によって差がある。サブサハラは最悪で、いまだに寿命が30歳代の国がある。

B君:そのサブサハラでも、乳児死亡率は確実に低下している。

A君:病気はHIVのような新興のものもあるが、それ以外は確実に死亡率が下がっている。

B君:ロンボルグがこの本を書いたときには、SARSはまだ存在しないが。

A君:そして結論は、どんどんと改善は進んでいるがまだ十分ではない。

C先生:我々も、全く同じ結論で良いのではないか。しかし、SARSのような伝染病は今後ともいくらでも起きる。ただし、SARSも世界人口という大きな量から見れば大した問題ではなかった。死亡者はたったの800名なのだから。過去のインフルエンザの比ではない。スペイン風邪は、4000万人を殺したと言われているし、平成11年のインフルエンザは、日本だけで1400人が死んでいる。SARSは、むしろ、「コロナウイルスなる普通の風邪の原因と似たウイルスによるものだったのに、医者が職場放棄をするぐらい非常に恐れた病気」ということが特徴的なことだった。

A君:(3)食糧と飢え。
 食糧の価格はかつてないほどに下がっていて、地球上の状況は良くなっている。

B君:ただ、かなり集約的農業を行なっていることは事実ではある。しかし、これが唯一の選択肢でもある。

A君:一部に有機農法などによる農作物を売るために、農薬・化学肥料を大量に使用する集約的農業を批判する人が居ますがね。我々の見解は、先進国内の贅沢の一つとして有機農法も有り得るが、世界全体がそうなったら、生産の低さから人類は破滅するだけ。

B君:世界的にみて、またまたサブサハラ地域の状況は良くない。

A君:この地域が駄目な本当の理由は、地域の条件ではなくて、人的な問題。例えば、政治的な問題が農業発展の足かせになっている。

C先生:これも、ほぼ同意できる。ただし、これは現状であって、未来がどうなるかについては、レスター・ブラウンのような超悲観主義者が居るので、これも鍵に入れておくか。ロンボルグも後の方でまた議論するとしているので。

鍵リスト
(A)食糧供給の未来予測はどうなる。

A君:(4)かつてない繁栄。
 ここでは、過去数100年で、なぜ豊かになったのか。といった記述があります。

B君:貧富の差が拡大しているか、といった議論が中心になっている。1950年をピークに、貧富の差は縮まっているとの結論。

A君:ユニセフなどの考え方は違うということも紹介されていますね。主として、ドルを中心に見る見方と、購買力を指標にして見る見方の差だとしていますが。

B君:たしかにサブサハラの国にとって、1ドルで何が買えるかなどは、関係ない。やはり、自己通貨で何をどのぐらい買えるかだろう。

C先生:サブサハラ以外でも、戦争という行為を行なったところは、どうやら悲惨な状況になっているのは事実。

A君:問題の地域として、UNDPが指摘しているのが、ロシア、南米・中米、石油産出国、そしてサブサハラ。

B君:しかし、ロンボルグの主張でもっとも同意できるのが、非識字率の改善だ。やはり教育を受けられることは、繁栄への最低条件だから。

C先生:事故などのリスクも減っている。これも、まあ、ほぼ同意ということで行くか。

A君:ここから、第3部に入ります。未来を食いつぶしているか。これは重要な課題です。繁栄の基礎は、人的資源だけでは駄目で、どうしても天然資源・鉱物資源が必要だからです。そして、まず、(5)食糧は足りているか。

C先生:先ほどの鍵リストの(A)関連だな。

B君:レスター・ブラウンとの直接対決。2000年に、世界全体の一人あたりの穀物生産が低下したが、これは、ロンボルグは、統計的な問題だと解釈していて、ブラウンは、1984年をピークに穀物生産は低下し続けていると主張している。

A君:ロンボルグの解釈は、世界の人口がいくら増えたからといって、穀物をそんなに食べられないから生産が減るのだ。特に、穀物価格が低下しすぎると生産は落ちる。それに対して価格の影響の少ない途上国の生産は増えている。

B君:穀物は飼料になって消費されるものが多いから、肉をどのぐらい食べるか、これが重要な要因であることは事実。

A君:ブラウンの予測とFAOや世界銀行の予測はかなり違っているというのは、昔から有名な話。FAOは、将来まで穀物生産量は増加すると主張している。
B君:根本的な違いは、ブラウンは、「穀物生産が生物学的かつ生理学的な限界」にもはやぶつかっているという解釈をしていること。要するに、人類がいくらもがいても抵抗のできない壁はあるのだ。その壁はもう身近に迫っている、という主張。

A君:その表現は、日本のような限界的な経済発展をしてくると、なんとなく分かるような感触をもっている人が多い。そのために、ブラウンの理論は無批判に受け入れられやすい。

B君:農地の劣化や土壌流出などといった限界があることが指摘され、また、後での議論になるが、水限界が存在するという説もある。

C先生:この問題は、持続可能性にとって核心的な問題なのだが、ロンボルグやFAOの予測などが、110億人の人口で安定するとされる2200年といった超長期を見通していないことも、これまた事実だ。これが最大の問題だろう。人口が110億で安定するのなら、その時点で持続的に食糧生産が可能であるということを証明する必要がある。そのときのエネルギー資源がどうなっているのか、鉱物資源がどうなっているのか、それが重要だ。

鍵リスト
(A)に次の言葉を追加。「2200年での食糧供給が議論されていない」。

A君:(6)森林はなくなりかけているか? ロンボグルは、森林面積は感心するほど安定していると述べています。

B君:世界的(ロシアを除く)にみると、1950年から1994年で、0.85%の増加だとしている。

A君:減少で悪名高きアマゾンの森林も、1978年には96%が残っていたが、1998年には、まだ87%が残っているとしている。

B君:結論として述べていることは、途上国では、森林の伐採が短期間にしかも不必要に無分別なやりかたで行なわれることがある。それでも、熱帯林の年間の減少量は、0.46%に過ぎない。

A君:解決策は、森林資源を持つ国々に、長い目でものを考えるだけのリソースを与えることだ。

C先生:最後の結論には同意するが、熱帯林が年間0.46%とは言え、減少していることは、やはり問題だと言えるかもしれない。むしろ米国のように、もと100%森林だったところで農業生産を止めて森林に戻す方が対策として良いのだろうが、そうなると穀物が不足するだろうね。

鍵リスト
(@)都市をどう見るか。それにはエネルギーと食糧供給だ。
(A)食糧供給の未来予測はどうなる。2200年での食糧供給が議論されていない。
(B)森林も2200年でどうなっているのか、それが分からない。

A君:ここまでの議論が200ページまでの議論。このスピードでやっていくと、まだ3倍の時間が掛かることになります。

C先生:それでは、止めよう。次回に送る。しかし、このロンボルグの本が悪影響を及ぼす可能性がある。それは、
(1)環境無視論者の声が大きくなること。
(2)知ったかぶりで、ロンボルグ風の議論をする人が増えること。

これは確実に起きるだろうと思われるので、注意を要する。