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  ロンボルグ本の概要3  08.10.2003 訂正



 久々にロンボルグ本の続きである。

 「懐疑的環境主義者」。日本名、「環境危機をあおってはいけない」。ビョルン・ロンボルグ著、山形浩生訳、4500円。文藝春秋刊。ISBN4-16-365-80-6

 以下の目次のうち、これまで2回ほど取り上げているが、本日は、(9)。

(1)人口過剰
(2)期待寿命と健康
(3)食糧と飢え
(4)かってない繁栄
(5)食べ物は足りるか
(6)森林はなくなりかけているか
(7)エネルギーは枯渇するか
(8)エネルギー以外の資源
(9)水は十分にある
(10)大気汚染
(11)酸性雨
(12)室内空気の方が深刻
(13)アレルギーとぜんそく
(14)水質汚染
(15)廃棄物の捨て場
(16)化学物質が怖い
(17)生物多様性
(18)地球温暖化


元生産研のポスドクのY氏から、数値が違うとのご指摘。確かにその通りなので、訂正します。赤字が今回の訂正。ただし、まだまだ間違っている可能性ありです。


C先生:これまで、ロンボルグの議論が正しいと言えるかどうか、それには、いくつかの問題がどのように議論されるべきかといったポイントをまとめてきた。
鍵リスト(ロンボルグの推論が正しいと言えるかどうかに関する)
(@)都市をどう見るか。それにはエネルギーと食糧供給だ。
(A)食糧供給の未来予測は? 2200年での食糧供給が議論されていない。
(B)森林も2200年でどうなっているのか、それが分からない。
(C)エネルギー技術がいくら進んでも、地下資源は有った方が環境影響の少ない人間活動が可能である。
(D)エネルギー資源には満たすべき条件がある。

A君:一言で言えば、ロンボルグの議論で危ないところは、項目によって問題となる年代が動くこと。ある議論では、50年の話、そして、ある話では200年になる。もっと一定の未来予測を行なう必要があるでしょう。

B君:いささか、楽観的に過ぎる点が、やはりそこだ。時間軸を延ばしたり、縮めたりして議論をすることが問題点。

C先生:さて、それはそれとして、まず、(9)の水の話からやろう。21世紀の一つの大問題とされている水不足。水戦争まで心配されている。

A君:地球は水の星だと言われるのに水不足は起きるのです。

B君:2003年3月には、京都で世界水フォーラムが行なわれた。その声明文なるものがWeb上に紹介されている。
http://www.world.water-forum3.com/jp/statement.html
2003年3月16日から23日にかけて京都、滋賀、大阪で開催された第3回世界水フォーラムには、世界各国から24,000人以上が参加した。参加者は、世界規模の課題を解決し、ニューヨークでの国連ミレニアム・サミット(2000年)、ボンでの国際淡水会議(2001年)およびヨハネスブルグでの持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD)において定められた目標を達成するために必要となる行動について議論を行った」。

A君:基本的認識としては、「淡水は、持続可能な開発、経済成長、社会の安定および貧困緩和にとってきわめて重要な、限りある貴重な資源である」、ということ。

C先生:ロンボルグは、水は十分にあるとしているが、果たして本当だろうか。まず、我々の問題意識を記述し、それから、ロンボルグの記述を見てみようか。

A君:それでは水の現状分析から。
 まず、塩水が大量にあることは事実。地球上の水の総量は136(13〜14)億立方キロといわれている。立方キロなる単位がそもそもとんでもない量で、10億トン。東京の水がめの中ではもっとも大きな多摩川水系の小河内ダムが1億7000万トン、利根川水系の矢木沢ダムが1億1500万トン。全部合わせて5.5億トンぐらい。その250(25)億倍ぐらいが地球上の水の総量。(根拠は、地球の7割を海面とし、平均的な海の深さを3km弱とする)。

B君:ただし、大部分は海水。海水の食塩濃度は半端ではないので、飲料水には全く向かない。それが97.2%を占める。北極海の氷や南極の氷は、2.15%はあって、その気になれば飲めるが、取りに行くのは大変。残りが0.65%。しかも、0.62%は地下水。ここまでは、誰でも同じ認識。

A君:地下水は、もともとは地上に降る雨が元だから、地下に溜まるには相当な時間が掛かる。何千年という話もあるぐらい。

B君:ロンボルグはアメリカの話を紹介しているが、すべての地下水を使い尽くすと、復活させるのに150年かかるとしている。

A君:調査不良で確信は無いのですが、アメリカ中西部の水は、化石水といわれていて、もっと復元に時間が掛かるのでは。

B君:少々調べてみる必要がある。どうも化石水と呼ぶには、500年以上回復に時間がかかる水を言うようだ。

A君:ということは、ロンボルグの話は、復活に要する平均値でしょうか。ちょっと疑問。

B君:しかも、地下水を汲みすぎると、地盤沈下が起きる。ということは、もはや地下に水を貯めることができなくなる。地下水は再生可能ではないと考えるべきだと思われる。

A君:実際、地下水がどのぐらい使用されているか、というと、アメリカの灌漑水の43%は地下水だということで。
http://www.bio.mie-u.ac.jp/~nagaya/hayashi/2pdf.PDF
アメリカでは飲料水の51%も地下水が使用されている。

C先生:要するに、われわれの心配は、アメリカ中西部における灌漑水として使われている地下水が枯渇すると、それによって、世界食糧危機が起きるということなのだ。地下水依存の人間活動は、地下金属資源・エネルギー資源と同様に、余り持続的とは言えない、ということなのだ。

A君:日本では最近、余り渇水が問題にならないのは、気象の状況が勿論主たる理由ではあるのですが、食糧自給率が低いことも有利に働いているのです。

B君:穀物1トンの輸入は、水700〜1000トンの輸入に匹敵すると言われているので(最近、沖大幹先生の推論では、この数倍の値とか)、日本は、海外から大量の水を輸入していることと同じ。

A君:だから、アメリカからの食糧輸入ができなくなると、日本国内の水を大量に使用する農業を復活させなければならないのだが、となると、日本のように降雨が多いところでも、水の状況は安心できないのではないか、ということ。

B君:ただ、日本の水事情も、本当のところはいかにマネージメントをするかが問題で、なんとかなるという気がするが。

C先生:それはそうだ。水は歴史的に利権の塊なので、これをなんとか解決すれば、なんとかなるのだろう。

A君:そうですね。降水量から蒸発量を引くとは、世界的には、年間平均値が300ミリ。日本は、降水量が1700ミリもありますから。

B君:ただ、日本は人口も多いので、一人あたりの降水量にしてみると、世界的にそれほど恵まれたという状況ではない。
 このあたりの状況は、国土交通省の「日本の水資源」を見ると全部出ているので、興味のある方はどうぞ。
http://www.mlit.go.jp/tochimizushigen/mizsei/hakusyo/index5.html

C先生:最近の話題は、日本の降水量は減りつつあるのではないか、という話。温暖化が起きると、地球全体として海からの蒸発量が増える分、降水量は増えなければならないのだが、日本の場合に、減っているのか、という話。

A君:どうもちょっと減っているようなのですが、実際には、多雨と少雨の年の差が大きくなることで、日本でも少雨の年の雨量は経る傾向にあるようです。

B君:温暖化によって、気候変動は大きくなるということは、どうやら事実だろう。原因は兎に角、気温が高くなっていることは事実。

C先生:そんなところで良いか。

A君:それでは、こんなところでロンボルグの主張を見直してみますか。
 まず、使用量の説明があって、水の割り当てと水の消費とは違うという話。すなわち、「水は使っても排水が出て再利用が可能だから、本当に使えなくなってしまう水を消費量とすると、それは、植物の蒸散作用で消費され、再利用できない形で失われた水の量だ。これをこれまでは過大に見積もる傾向があった」。

B君:ロンボルグはさらに、「アクセスできる水の量がどんどんと増えている」ことを示している。取水量の増大の図が出ているが、過去100年間で、一人あたりの取水量は2倍になっているとのこと。

A君:さらに、「農業用水は灌漑効率が良くなって、食糧増産が実現されたのに、一人あたり2000リットルというところで落ち着いている」と述べている。

C先生:この分析は確かにその通りだろう。ただ我々が心配しているアメリカ中西部などの化石水への過大なる依存は、このようなデータでは見えない。

A君:ロンボルグは、全体的にな状況は悪くないとしながら、次の3点が問題になるとしています。
(1)降水分布の話
(2)人口の増大
(3)河川や帯水層の共有による国際問題

B君:しばしば問題にされる水質汚濁、飲料水の汚染の問題は、性質が異なる問題だとして、別稿で議論するとのこと。

A君:降水分布の話と人口の話では、「人間に必要な水の量は1日にたった50〜100リットルで、クウェート以外ならどの国でもまかなうことが出来る」。

B君:クウェートでは、確かに1日1人30リットルしか無い。

A君:ここで水ストレス指標の説明。「人間は1日100リットルの水を使い、さらに、500〜2000リットルを農業、産業、エネルギー生産に使用。しかも、乾期にも水は必要なので、
一人あたりの量が
*4660リットル以下になるとストレス有り、
*2740リットル以下で慢性的不足、
*1370リットル以下だと完全な水不足
」、というものを紹介している。

B君:クウェートの水ストレスは、相当なもの。実際には、海水淡水化によって生活をしている。

A君:ロンボルグは、クウェートの事例から、
(1)お金さえあれば、水はなんとかなる。
(2)海水の淡水化のお陰で、水不足の深刻さには上限がある。

B君:ただし、海は必要だが。

A君:ロンボルグ:「サハラ砂漠の0.3%に太陽電池をならべて、脱塩工場を作れば世界中の水が供給できるという計算」。

B君:それはそうだ。しかし、できた水をどうやって世界に運ぶのか。それに、海水をサハラ砂漠に運んで、そこで、太陽熱脱塩をした方が良いとは思うが。いずれにしても、余り意味のある議論ではない。

A君:「使う側の工夫もかなり余地がある。イスラエルでは、細流灌漑を行なって砂漠の緑化をやっており、同時に家庭排水を灌漑用にリサイクルしている。そして、一人あたりの水の量は、969リットルで、完全に水不足レベルであるがいうことになるが、実際には何とかなっている」。

B君:2740リットルという基準が高すぎるという指摘か。

A君:「水不足の国は、穀物を輸入すれば良い。穀物1トンは水1000トンに相当するから、水を輸入する方法として効率が良い。イスラエルは87%、ヨルダンは91%を輸入している」。

B君:穀物が輸入できれば、それは良いのだが、我々の心配は、化石水の過剰使用が、近い将来の食糧生産に悪影響を与えるのではないか、ということなので、やや問題意識がずれている。

C先生:水が国際紛争の種になるという話はどうだ。

A君:そろそろその話です。「石油をめぐって戦争にはなっても、水を巡る緊張が戦争には繋がらない。なぜならば、水のために戦争をしても、戦略的にほとんど意味が無い。イスラエルのアナリスト曰く、戦争を1週間実施する費用で、海水淡水化工場が一つできる」。

B君:この話も、確かにそうなのだが、海水淡水化による淡水で農業をやると、残留した食塩で農地が非持続可能になりそうな気がする。とすれば、やはり食糧戦争としての水戦争が起きる可能性が無い訳ではない

C先生:水問題だけが単独で起きるのならば、確かに、ロンボルグの言うとおりかもしれないが、我々の心配は、繰り返しになるが、枯渇性の水資源である地下水の過剰使用によって食糧の生産が落ち込み、特に、アメリカ中西部の灌漑が不可能になると、食糧危機になる。これで、穀物を輸入することによる代替的水輸入が不可能になると、最後の最後には、水戦争が起きる可能性がある、ということだ。

A君:ロンボルグの一つの論理の進め方が、やや断片的であるということでしょうか。

B君:どうも楽観的に見せるために、わざと断片的な議論をしている可能性があるような。

C先生:今回のロンボルグの議論のなかでもう一つ不足しているのが、やはり穀物への需要が伸びるだろうということ。それは、いくつかの要素があるが、動物性たんぱく質をどのぐら食べるようになるか、という議論、さらに、今後石油が枯渇傾向になると、バイオプラスチックのように、穀物が工業原料にも使われるようになる可能性も無い訳ではない。

A君:牛肉は穀物の10人分とか良く言われますから。

B君:人間、贅沢になると、赤い肉が食べたくなるという。日本の状況を見ると、さらに進むと健康が気になって、魚などに回帰するようだが。

C先生:次の図は、川島博之先生によるGDPとタンパク質摂取量の関係。本来著作権上問題がある引用なのだが、もともと、自分で編集した本なのでご勘弁を。


引用: 川島博之「21世紀における世界の食料生産」、 21世紀の環境予測と対策 地球・人間・環境シリーズ、安井至編著、丸善(2000年)より。

A君:食の問題がやはり重要で、穀物がどうなるか、そして、水がどうなるか、といった全部の連関を解く必要があるということでしょう。

B君:ロンボルグ:「水は適切に管理されるべきだし、適正な価格付けや輸入代替も必要だ。そうすれば、食糧は増え、飢餓は減り、健康状態は向上し、環境は良くなって、もっと豊かになれるだろう」。このロンボルグの結論は多少甘いと言わなければならないだろう。

C先生:すでに食糧危機の記述は解説したが、やはり水はもっと食糧危機との関係で記述を行なうべきであろう。議論の範囲を動かすという論法に加えて、複数の事象が複雑に絡んでいることを無視する傾向にある。
 ということで、ロンボルグの議論の検証の鍵として、(E)を追加。
(@)都市をどう見るか。それにはエネルギーと食糧供給だ。
(A)食糧供給の未来予測は? より長期の2200年での食糧供給が議論されていない。
(B)森林も2200年でどうなっているのか、それが分からない。
(C)エネルギー技術がいくら進んでも、地下資源は有った方が環境影響の少ない人間活動が可能である。
(D)エネルギー資源には満たすべき条件がある。
(E)水問題は非再生可能な地下水が議論不足。食糧問題も考慮し総合的に議論すべきである。