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  ロンボルグ本 大気汚染など  09.20.2003



 

これまで3回、ロンボルグ本について、解説と批判をしてきた。本日は、4回目で大気汚染などを取り扱う。

簡略化した目次
(1)人口過剰
(2)期待寿命と健康
(3)食糧と飢え
(4)かってない繁栄
(5)食べ物は足りるか
(6)森林はなくなりかけているか
(7)エネルギーは枯渇するか
(8)エネルギー以外の資源
(9)水は十分にある
(10)大気汚染
(11)酸性雨
(12)室内空気の方が深刻
(13)アレルギーとぜんそく

(14)水質汚染
(15)廃棄物の捨て場
(16)化学物質が怖い
(17)生物多様性
(18)地球温暖化

なる目次で言えば、今回は、(10)から(13)までである。


C先生:ロンボルグの記述は、正しい部分も多いが、境界条件をときと場合によって変えるという手法を使っていて、いささか欺瞞的な部分との共存状態であるというのがこれまでの評価。

A君:それで、本日は大気汚染を中心に話をしていくということになります。

B君:大気汚染、すなわち、どのような空気を吸っているかということは、人体影響にとって非常に重大。まあ、タバコの存在を許してしまったら、問題外だという部分があるが。

A君:まず、EPAの大気汚染に対する評価がでてきます。それによれば、EPA自身がもたらしている社会的利益の86〜96%が大気汚染の規制から来ていると自己認識しているとのこと。

B君:まあ、それはそうだろう。環境問題の大部分は、実は煙との闘いだったのだから。

C先生:日本のように、産業公害との闘いが主たるものであった、という国は、実はむしろ希なケースだと言えるだろう。

A君:まず、大気汚染がどんどんと悪くなっていると思っていたらそれは間違いだ、と述べています。

B君:西側世界の空気がきれいなのは、数世紀ぶりのことだ、と述べている。発展途上国の空気だって、そのうちに改善されるものだとしている。

A君:歴史を振り返ると、大気汚染の記録は、6000年前に遡り、ギリシャ・ローマ時代が最初の頂点だった。どうやら、鉛による汚染らしい。金属精錬が原因。

B君:となると、日本の1970年代のような産業公害だ。

A君:13世紀は石炭公害。そこで、エドワード一世は、石炭を燃やすのを禁止した。

B君:テームズ川は、排泄物・食肉の廃棄物・死体などの汚物で汚染されていて、18世紀までの都市は、筆舌に尽くしがたいほど汚かった。汚物と大気汚染の両面で、ひどい状態だった。

A君:日本の江戸時代は、そんなにもひどい状態ではなかったとされているのですが、それは、農業を行なうために、排泄物なども資源だと考えられ、収集されていたからでしょうか。さらに、石炭を燃やすということが少なかったからでしょうか。

B君:分からないが、恐らく、寒冷地のロンドンと温帯の江戸という違いが大きいのではないか。さらに言えば、肉食と米食の違いか。

A君:当然ながらこのような極端な汚染は人命損失をもたらした。気管支炎などによる死者がでた。最後のひどいロンドンの霧は1952年12月のもので、たった7日間で4000人が死んだという。

B君:イギリスの環境科学者、ピーター・ブリンブルコームは、ロンドンにおける過去の二酸化硫黄の濃度を推定した。ピークは、1850年ごろで、900μg/立米。

C先生:国際的な比較をやったときのデータを示そうか。各国の首都における二酸化硫黄の濃度だ。もっとも高いイランの場合でも、200μg/立米。ロンドンの最悪状態の2割程度の濃度だ。

図1:これは、AB&Cがさるデータから作成した環境クズネッツ曲線の例。対象は、SOx。

A君:こんな歴史的な理解を提供した後で、何が危ないのかを示しています。
(1)粒子状物質
(2)二酸化硫黄
(3)オゾン
(4)鉛(有鉛ガソリンが起源)
(5)窒素酸化物
(6)一酸化炭素
 そして、EPAの汚染のもたらす損害のコストデータによれば、1977年が3500ドルだったものが、1999年には1300ドルぐらいになっている。鉛は実に97%減、二酸化硫黄は60%減。それに対して、オゾンは27%減、粒子状物質は40%減と余り減っていない。

B君:ダイオキシン、重金属などの影響は危険度が少ないとしている。

A君:EPAが調査した、ベンゼン、ホルムアルデヒド、スチレン、などの物質だが、これらについても、状況は改善されている。

B君:そして、最近は粒子状物質が注目されていることを指摘している。

A君:実際そうなのだけど、他の二酸化硫黄などの影響が少なくなったから、やっと粒子状物質の害が分かったという面もある。

B君:そして鉛の説明に移行。血中の鉛濃度の高い子供は、低い子供に比べて、明らかに知能が低く、また、集中力がなくて落ち着かない。大人の場合でも、高血圧を起こす。

A君:ここで気をつけなければならないことは、この鉛が粉塵としての鉛であること。固体の鉛ではないのだ。粉塵はどこから来るのか、と言えば、有鉛ガソリンが無くなった今、それは古い家の塗料。白色の塗料には、伝統的に鉛白なる顔料が使われてきた。

B君:有鉛ガソリンをやめたことのベネフィットも紹介されている。どうやら、米国の場合、損失余命で3ヶ月だと。これは非常に大きいな効果だ。

A君:一方、二酸化硫黄の削減効果は、酸性雨による森林の枯死を回避したことだと思うかもしれないが、実際には、粒子状物質が削減されたことだという。

B君:オゾンは、光化学スモッグの原因物質。しかし、オゾンそのものもが生命を脅かすような影響は無いだろうとしている。

C先生:オゾンが発生するような労働環境が無い訳ではない。そこでの労働環境は明らかにオゾン臭がするような状態。しかし、それでも人体への被害は余り大きくは無いとされている。昔は、オゾンは健康によいとされていたが、最近は、活性酸素だから、嫌われる。いずれにしても、有害物質ではある。

A君:NOxは、それだけだと人の命を奪うようなものではない。複合的に光化学スモッグなどの原因にはなる。

B君:一酸化炭素は車の排気ガスで自殺ができるから、確かに有害物。命にとっても危ない。しかし、濃度が低ければ致命的ではない。

A君:しかも、多くの人にとって、一酸化炭素の主要源はタバコである。喫煙者は、すざまじい一酸化炭素汚染にさらされている人よりもさらに50〜70%多い量を吸っている。

B君:しかも、オゾン、NOx、一酸化炭素の濃度は、いずれも大幅に改善されてきている。

A君:そして、最後の締めくくりが、環境クズネッツカーブ。所得が上がれば、環境汚染が下がるというもので、すでに先ほどの図1で示されているもの。

B君:しかし、ロンボルグの主張は、年代とともに、クズネッツカーブが、図2のように変化しているということだ。すなわち、技術の進歩によって、最悪の状況になるピーク値が下がる。それは、対応する技術のコストが下がるからだという。


図2 ロンボルグによる環境クズネッツ曲線の年代推移

A君:だから、途上国でも、今後大気汚染は改善される、と考えて良い。さらに経済を発展させるべきだ、という結論になる。ただし、図1のデータは、1999年ごろのものだが、このロンボルグのものとは一致していない。

B君:といったところで大体終わり。最後に、経済成長と環境とは対立していない、と結論している。

C先生:この主張が本当のところで何を意味しているか、それを議論すべきだろう。経済成長と環境保全は、毎度毎度言っているように、地球の資源が無限であれば、全く対立構造にはない。経済成長すれば、環境保全が可能になる。

A君:しかし、長期に渡って、経済成長を続けるには、やはり地球の資源・エネルギー限界が来る。

B君:ロンボルグの主張では、資源も枯渇しないし、エネルギーは十分にあるとしている。

A君:しかし、視野が比較的狭く、考えている年代も十分に長い訳ではない。

B君:いささか技術音痴で、将来の技術の可能性に夢を見すぎている。極めて技術楽観主義者のようでもある。

C先生:やはり、ここが決定的な見方の違いではないか。それ以外の、個別の汚染状況の改善などは、本HPでも過去に示してきたように、大体そんな状況だ。ロンボルグは、米国とイギリスのデータを使って説明しているが、日本の状況も似たようなものだ。

A君:大気汚染そのものは、粒子状物質が問題として残っているが、それ以外は、それほどの問題はない。

B君:ディーゼル微粒子が減ると、多分、次の粒子状物質が問題にされることだろう。

C先生:大気汚染について、再度結論を述べれば、地球が無限だという仮定があれば、ロンボルグの考え方、すなわち、経済発展が問題を解決するという考え方は正しい。しかし、地球は無限ではない。さてどうなるか。


A君:次に行きます。これも大気汚染ともいえるのですが、酸性雨の話です。目次で言えば、(11)。

B君:1980年代にヨーロッパを中心に語られた酸性雨は森林を殺すは本当か? これが検討課題。

A君:確かに、色々と言われた。ドイツの森の1/3は枯れ、スウェーデンでは、4000の湖が駄目になった。などなど。

B君:たしかに、ドイツのババリア地方では、最高40%の木が病んで枯れた。

A君:一方、アメリカ政府の公式酸性雨プログラム(NAPAP)の実験によれば、アメリカ東部の平均的酸性雨(pH4.2)の10倍の酸性雨(ということはpH3.2か? とすると、これはすごい酸性雨)でも、木は同じ速さで生長した。むしろ、酸性雨にさらされた木の方が成長速度が速かった。

B君:湖沼についても調査をして、酸性に弱い地域の1%の湖では、実際に魚が失われたが、それ以外の湖では大丈夫だった。

A君:しかし、それではなぜ木が枯れたのか。ロンボルグの記述では、それは、その地域の公害、すなわち、汚染源から出る煙が木を枯らしたとしている。

B君:日本では、オゾンが木を枯らせたという説もあるが。

A君:それでも、ヨーロッパの一部で、葉を失った木が増えているのは事実のようで、それに対してはロンボルグは、ヨーロッパ環境局の言葉を引用し、「酸の降下と観察されている木の葉の減少との間には、単純な関係は見出すことができない」。もしかしたら、木立が高齢化してきているだけかもしれない、と述べている。

B君:さらに、実は、木の葉の損傷は、不特定多数のよくある病気の結果でしかなくて、それを心配するようになったのは、実際にそれを計測するようになったからにすぎない、と述べている。

C先生:二酸化硫黄を減少させたことは、良かったとしている。そして、思い込みは多くの場所で生きているとしている。生態系の変化の話が説明困難であることはしばしばある。複雑だからだ。酸性雨が土壌の組成を悪化させたという話もある。日本の場合、酸性雨はそれほどの被害を出したとは思えないが、まあ、足尾の銅山のような過去の例もあるから、二酸化硫黄の削減は進めるべきなのだろう。


A君:そして、次も空気の汚染なのですが、(12)室内空気

B君:まず、WHOの最近の推計を示し、屋内の空気汚染は、大気汚染よりも14倍もの死者を出している。発展途上国でも、先進国の都市部でも、屋内空気の汚染が原因の犠牲者の方が遥かに多い。総計で、屋内の空気汚染は毎年280万人もの人命を犠牲にしている、としている。

A君:その原因は、薪の煙で、やはり微粒子、一酸化炭素。

B君:メキシコの研究によれば、調理のために長年にわたり薪の煙を吸った女性たちは、75倍も慢性の肺炎に掛かりやすい。

A君:先進国の場合には、EPAの推定によれば、ラドン、タバコの煙、ホルムアルデヒド、石綿だという。

B君:日本は、ラドン濃度は低い国だが。

A君:ラドンの低レベルの放射線は、本当に健康に悪いかどうか、良く分からない、という人が多いのですが。

B君:ホルムアルデヒドは、もっぱら合板製品から出るとしている。ロンボルグは化学屋ではないから、ガスや灯油などの不完全燃焼によって、大量のホルムアルデヒドが出ることを指摘していない。

A君:石綿の話は、使用禁止になったものの、すでにあるものをそっとしておくべきかどうかははっきりしない、としている。

C先生:日本でも、一時期ほど、石綿を問題にしなくなったような気がする。ビルの解体など、本当に大丈夫なのか。


A君:そして、今回最後の話題がアレルギーと喘息です。

B君:この話、もともと良く分からない。アレルギー・喘息と大気汚染が重大な関係は無いということは明らかで、なぜならば、大気汚染は改善されてきていて、一方、アレルギーは増えているから。

A君:ところが、アレルギーが増えているというデータすら、どうも余りはっきりしないらしいです。

B君:ロンボルグも色々な言い回しを使っているな。いくつか表にしてまとめてみるか。

アレルギー・喘息
(1)成人の20%は食物アレルギーだと思っているが、実際に調べると、1.4%だけがアレルギー。:現代人の思い込み病?
(2)子供の方が喘息にはなりやすい。
(3)男の子の方が喘息になりやすい。
(4)喘息の原因は、室内空気。カビ胞子、ダニなど。
(5)「衛生仮説」。感染症・寄生虫の減少がアレルギーを増大。
(6)大家族の末っ子は、喘息になりにくい。多くの感染症を兄姉からうつされるから。
(7)二歳までに経口抗生物質を内服した子供は喘息に掛かりやすい。(8)ライフスタイルが決定的という説。特に、室内滞在時間。

C先生:最近の結論は、ライフスタイルが総合的に影響を与えているということようだ。戸外で活動をしている人が喘息・アレルギーに掛かりにくいのはどうやら事実。快適でふかふかな室内で過ごしていると喘息・アレルギーになりやすい。

A君:以上で本日の説明は大体終わりました。


B君:まあ、事実の指摘としては、それほど違和感はなかった。

A君:日本の状況も、欧米とは若干違いますが、それでも、最善の類であることは事実。

C先生:ロンボルグの記述の問題点は、やはり経済成長と環境保全の話になるな。やはり、地球資源が有限だったら、「経済成長をすれば、環境問題はすべて解決」というロンボルグ説は成立しないと思うが、その有限性への認識が甘いのがロンボルグの最大の問題のようだ。