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   環境省と経産省の長期ビジョン比較
     
パリ協定対応の姿勢の違い 05.06.2017
               



  パリ協定は「三段跳び」を要求している。一歩目の踏切は2020年である。ご存じの通り、2020年から2030年における排出量削減であるが、2023年からグローバルストックテイクという枠組みが始まるので、2050年まで継続して5年ごとの削減目標を作ることが含まれていると理解すべきだろう。いずれにしても、2020年が、かなり長い三段跳びの第一歩目(ホップ)の踏切板だということになる。

 そして、第二歩目(ステップ)の踏切位置が2030年にあり、以前からIPCCが提示している2050年での削減量であるが、グローバルには40〜70%の削減が必要であり、望ましくは、60%の削減が必要で、となると、G7の先進各国は、ほぼどの国でも80%の成立を目指していて、多くの国では、国内での削減量が80%となることを目指しているものと思われる。

 最後の第三歩目(ジャンプ)の踏切位置が2050年で、着地点は、パリ協定では今世紀の後半のどこかで、ということになっている。それがNet Zero Emissionである。すなわち、大気中のCO量を増やさないということである。

 当然のことながら、第1歩目は、もう飛ぶことが決まっている。今後も大きな問題になりうるものの、すでに、既定路線で行くしかない。しかし、第2歩目の踏切が、2030年であることは合意されているが、そこで、本気で踏み切るのか、そうではなくて、「ふわーーー」と踏み切るか、それは今後の議論次第である。勿論、パリ協定は、本気での踏切を要求しているのだろうが、米国のトランプ政権のようなこともあるので、「なんともわからん!」のである。そして、ステップの着地点は、2050年であるが、今のところ、どのような形で着地するのかについて、合意は全くない。まして、ジャンプの形は、具体的には何も分からない。

 我が国では、やっとこのことで、環境省の長期ビジョンと経済産業省の長期プラットフォームがまとまったが、2030年のステップの踏切の姿勢に相当な違いが見えるのが面白いところである。

環境省バージョン
http://www.env.go.jp/press/103822/105478.pdf
平成29年3月

経済産業省バージョン
http://www.meti.go.jp/press/2017/04/20170414006/20170414006-1.pdf
平成29年4月7日

 ということで、今回の記事では、この両ビジョンを対比的に検討したい。

 視点1:両長期ビジョンとも、2050年までを見通したものになっているはずであるが、実際にそうなっているのだろうか。

 視線2:2030年の二歩目の踏切の姿勢がどうなっているか。具体的には、一致点、不一致点、記述不足などがどのようになっているかを検討することである。

 そして、得ようとしている結論としては、(1)踏切の姿勢と踏み切るときに、どこに視点を合わせているか、これに加えて、(2)想定される助走スピードに大きな違いがあるか。

 簡単に結論らしきものを述べれば、次のようになるだろうか。まず、どこに視点を合わせているかであるが、「経済」という一般的な言葉で表現されていること、より具体的には、「既得権益と将来の炭素税を含む社会システム」をどのように見ているか、と言い換えることができるだろうが、これは極端に違っているようだ。二番目のどのぐらいの助走スピードで踏切をする気なのかだが、ここにも決定的な違いがあるように思える。


C先生:今回の記事を書くその趣旨はよく分かったが、そもそも、その中身はどう検討するのだ。何を解析の対象にして、どのように取り組む気だ。

A君:まずは、どのような項目が取り上げられているか、そのリストを作ります。そして、次に、その内容について、対照表を作る、といった方法を考えています。

B君:まあ、最初の取り組みとしては、それ以外に方法論は無いようだから、そうなるのでは。

A君:ということで、早速取り掛かります。分類としては、主観的になりますが、大項目、中項目、小項目と分けます。分け方については、途中で修正しながら行う予定です。
 先に公表された環境省バージョン「長期ビジョン」からです。

環境省バージョン「長期ビジョン」で取り上げられている項目リスト

大項目:気候変動問題の科学的知見    p8
中項目:我が国への気候変動の影響   p11
中項目:2℃目標              p11
中項目:Net Zero Emission        p11
中項目:450ppmシナリオ       p11
中項目:ティッピングポイント      p11
中項目:気候感度            p11
中項目:カーボンバジェット 1兆トン p12
中項目:INDCでは削減が不足    p13
中項目:パリ協定の意義         p14
中項目:我が国の排出量と今後    p16
中項目:G7、G8での日本の提案   p18
中項目:2050年目標80%削減   p19
中項目:再生可能エネルギー価格    p20
中項目:世界各国の動向         p21
中項目:自治体の動向          p21
中項目:民間企業の動向        p22
中項目:金融の動向            p23
中項目:市民・科学者の動向      p24
大項目:我が国の課題           p24
中項目:我が国の経済・社会的諸課題  p28
大項目:長期大幅削減の基本的考え方  p31
中項目:気候変動対策による経済成長  p32
中項目:炭素生産性の向上       p34
中項目:地方創生・国土強靭化     p37
小項目:地域エネルギー        p37
小項目:気候安全保障         p39
小項目:エネルギー安全保障      p39
小項目:排出削減による国際貢献    p39
中項目:イノベーションの実現      p42
大項目:2050年80%削減       p45
中項目:2050年地方像、経済像など p45
中項目:建物・暮らし・移動・産業など p45
小項目:低炭素電源が9割以上    p54
大項目:政策の方向性         p56
中項目:イノベーションと大幅削減   p57
中項目:温暖化政策とエネルギー政策  p61
大項目:カーボンプライシング     p62
中項目:主要な施策群         p70

B君:40項目ちょっとぐらいということか。まあ、かなりすっ飛ばしているようだから、なんとも言えないが。

A君:主観的だとかなり批判されそうですが、これでも、いかにも環境省的な細かい項目は取り上げていないのです。

B君:比較が目的なので、比較の対象にならないような項目が出て来ても、余り意味はない。

A君:まあ、そんなことで、次に行きます。経済産業省の文書である、「長期地球温暖化対策プラットフォーム報告書−我が国の地球温暖化対策の進むべき方向−」という文書の解析に行きます。こちらの委員会は、産構審の元での正式な審議会ではなくて、産業技術環境局長の個人的な勉強会というスタンスだったようです。
 分量的には、経産省の方が長いのですが、最後に補論という部分があって、そこで、命題の検証をするのですが、「我が国排出削減に向けた取り組みは遅れているか」、といったことが検証対象になっています。しかし、この部分を除くと、まあまあ同じような長さになります。

B君:この報告書には概要というのがp5にあって、こんな風に書かれている。

 我が国の長期的な低排出型の発展に向けての戦略は、国内、業種内、既存技術内に閉じた発想にとらわれず、「国際貢献」、「産業・企業のグローバル・バリューチェーン」及び「イノベーション」にまで視野を広げる「3本の矢」により、国、産業・企業といったすべての主体が自らの排出を上回る削減(カーボンニュートラル)を目指して行動を起こし、これを競うゲームチェンジを仕掛けることで、パリ協定の排出・吸収バランスに向けた本質的な貢献をしていくものとすべきである。

A君:という訳で、カバーする範囲が広いということが特徴なので、以下の項目リストも、当然、視野の広さの違いによる差異は当然あります。ただ、環境省バージョンでも、「国内だけでもかなり大幅な削減をすべき」、と主張していますが、それ以外に、国際的な視点やイノベーションの重要性も述べています。しかし、経産省の意図とスタンスの違いは、この表現で、ほぼ尽きているとも言えます。

 それはそれとして、項目リストを検討します。

 経産省バージョンで取り上げられている項目リスト

大項目:大目的としての「持続可能な発展」  p9
大項目:根源的な課題=方策未確立+不確実性+フリーライダー p9
中項目:鉄鋼、農業による不可避な排出    p9
中項目:痛みを伴うエネルギー構造の大転換  p9
中項目:産業構造の転換 製造からサービス  p9
中項目:気候感度の不確実性        p12
中項目:将来の産業・技術・社会の不確実性 p14
中項目:国際情勢の不確実性        p15
小項目:囚人のジレンマの解決       p16
中項目:不確実性と共存する戦略      p16
小項目:リフレーム              p16
小項目:あらゆる施策の総動員       p18
中項目:国際貢献でのカーボンニュートラル p20
小項目:国内削減優先はナンセンス     p24
小項目:JCM                 p26
中項目:CCSと産油国との二国間協力   p26
小項目:途上国のNDC達成支援      p26
中項目:グローバル・バリューチェーン活用 p28
大項目:イノベーションによる削減     p32
中項目:エネルギー環境イノベーション   p32
大項目:カーボンプライシング       p39
中項目:既存のカーボンプライシング    p44
中項目:カーボンプライシングと経済成長  p51
小項目:産業別のエネルギー消費       p56
小項目:インターナル・カーボンプライシングp61
小項目:既存のエネルギー諸税       p62
中項目:金融、CDP、PRI         p63
小項目:座礁資産             p65

A君:まず、この項目の解析をちょっとだけやってみました。両方で取り上げられている項目を線で結んで、双方の記述がかなり違っているかどうかをチェックし、違っていると判断された場合には、×を書いてみました。こんな図になりました。



図1 経産省版と環境省版の対応図 ×が対立している項目を示す

B君:これは項目にしただけで分かってしまうのだけど、解析をするまでもなく、経産省の項目名に「不確実性」という言葉が5回も使われていることが、まず、最大の特徴。この「不確実性」のなかでも、もっとも議論になり得るのが、「気候感度」で、報告書には、以下のように解説されている。

 「温室効果ガスの濃度が2倍になったときの気温の変化(気候感度)については、気候変動に対する温室効果ガスの影響を認める科学者の間でも1.5℃から4.5℃程度と見解が分かれている。
 2014年に出されたIPCCの第5次報告書の作成においても、気候感度の最良推計値については、合意が得られなかった。そのため、同報告書の削減シナリオでは、便宜的に気候感度をIPCC第4次報告書と同水準に置き(区間推計値2.0〜4.5℃、最良推計値3.0℃)、削減シナリオを評価することとされた。
 このような気候科学の不確実性のため、パリ協定で合意された2℃目標のための温室効果ガス排出経路は、気候感度やリスクに対する考え方によって複数考えられる【図1−2】。
 科学的知見の限界に留意しつつリスク管理を的確に進めるため、削減目標は幅をもって解釈すべきである」。


 そして、図1−2はこのような図。RITEのDNE21で解析したとあるが、これは経済モデルであって、気候モデルではない。気温推計モデルとしては、IPCCのWG3のMAGICCを使ったとあるが、これが現在の水準からみてどのようなレベルにあるか不明である。なんといっても、WG3は、気候モデルを専門にしているワーキングではないから。


図2 経産省版の図1−2

A君:このような記述を読むと、すでに、「気候感度」という言葉そのものがもはや古くなって、すでに「無用の長物」になったということが、この勉強会の中では、まだ認識されていなかったのでは。気候シミュレーションも、初期にはその精度も悪く、頼りになる計算例も少なかったので、気候感度というものを用いて議論をすることが便宜上ですが有効だった。しかし、次の図3に示すIPCCの第5次報告書のグラフが出されて、気温の上昇(このグラフだとAnomalyという表現)と累積排出量が良い相関があることが明らかになったため、議論にあたって、気候感度を使う必然性がほとんどないことが明確に示されてしまった。いまさら、「気候感度、気候感度」と言うと、気候科学の素人であることを自分で暴露してしまうことになります。



図3 IPCCの第五次報告書の中で、もっとも重要なグラフ。気温上昇(Anomaly)と累積排出量の相関が議論できることを示した。勿論、不確実性はあって、それは、このグラフでは灰色と茶色の帯で表現されている。±1℃ぐらいの不確実性はあって、その最良推計値は、茶色の線(すべての温室効果ガス)灰色の線(CO2だけ)で示されている。

B君:要するに、気候感度などを使わないでも、累積排出量で、気温の変化が説明できてしまうということが明らかになってしまったのだ。これは新発見だったし大発見だった。メタンや一酸化二窒素のように、大気中の寿命が短い温室効果ガスがあるにはあるけれど、もっとも大量に排出されている温室効果ガスはCOであり、かつ、もっとも影響が大きいことは明らか。そして、COの大気中の寿命は、未だに良く分からない部分はあるけれど、どうやら、数1000年と考えなければならないようだ。ということは、今世紀末までの排出削減を考えるときには、現時点で排出しているすべてのCOが大気中に残るという仮定、すなわち、累積排出量だけの議論で十分だということになる。これから導かれるものが、カーボンバジェット。要するに、2℃目標を達成するのには、排出許容量約1兆トンという議論が成立してしまうという結論になった。

A君:ただ、カーボンバジェットということについては、国際的な合意があるところまで行っていないですね。

B君:1兆トン出すと、そろそろ限界だということまでは合意されていると思うのだけれど、それをバジェット(予算)のように、各国に分配することについては、国際的な合意形成は行われていないということだ。

A君:前にちょっと戻りますが、気候感度に文句を付けているのは、いささかピント外れ・時代遅れの記述だということになるのですが。ということは、経産省のプラットフォーム委員会には、気候変動の科学の専門家がいなかったということになりますが、再度チェックしましょう。
 RITEの秋元さんは専門家だと思いますが、委員の主流派は、経団連、商工会議所、日本総研、証券会社×2、で、大学教授は4名(地球環境、材料、政治、経済)いますが、地球環境の専門といっても、温暖化科学は専門外でしょう。

B君:まあそんな人選をしたというところか。

A君:さて、そろそろ、次の話題に行きますが、「不確実性」を除けば、重要な相違点は、両者とも同じ言葉なので、×が付いていないのですが、カーボンプライシング。経産省の報告書では、カーボンプライシングの国際比較をp48〜49しています。いくつかのグラフがでてきて、非常に参考になるので、是非、ダウンロードしてみていただきたいのですが、もっとも日本の現状を象徴しているのが次の図4です。


図4 産業用電力のカーボンプライス 日本はエネルギー価格を反映して高く、韓国は政策的に安くしている

B君:要するに、日本の電力価格はそもそも税抜き価格が高いということか。

A君:そうです。実は、産業用の天然ガスの税抜き価格も、日本では、図5のように異様に高いのです。これは、契約時にエネルギー自給率が低いために足元を見られて、石油価格連動型になったりしているために天然ガスの買い入れ価格が高いのです。そのため、石炭の価格が相対的に安く、発電となれば、石炭をどうしても導入したくなるような仕組みになっている国が日本なのです。


図5 産業用天然ガスのカーボンプライス 天然ガスの価格が非常に高いために、ほぼ世界最高価格の日本。


図6 プレミアム無鉛ガソリンのカーボンプライス 日本のガソリン代は、欧州に比べれば安い。

B君:一方、プレミアム無鉛ガソリンの価格は、ヨーロッパの方が高い。税抜き価格は、韓国がなぜか高いが、他の国は、ほぼ同じ。価格の差は、ヨーロッパの高い税金のためだ。

A君:これらの図を見ると、日本のカーボンプライシングが、米国、カナダに比べると明らかに高く、しかし、欧州に比べると低いという傾向が明らか。

B君:経産省としては、日本は、様々な社会の仕組みが、米国・カナダ並の国なのだから、欧州と同じ対応をすることはない、という主張だと思えば、理解が容易だ。

A君:欧州などからは、昔からJUSCANZという言葉で呼ばれている国々。Japan、United States、Canada、Australia、New Zealandは、その政府が気候変動関連の地球環境問題については、それほど熱心ではないという定評があるので、経産省的には、そのグループの一員である、という意識なのでしょうね。

B君:しかし、米国でもトランプ大統領が温暖化関係の予算をかなり削るという方向だけれど、米国でもグローバル企業は、ビジネス上の問題があるので、どうやら、気候変動対策を推進しているという姿勢を示す必要があると思っているようなのだ。

A君:それは、米国でも、カルフォルニア州の州公務員のための年金機構などが、国連の責任投資原則(PRI)に沿った考え方をしていて、いわゆるESD投資を推進する方向になっている。経済界としては、投資の余裕のある年金基金の動向を無視できない。そのため、経済界の考え方は、米国でも欧州でも余り変わらなくなってきているということです。勿論、欧州の方が明らかに先を進んでいるのだけれど、政府レベルの話とはかなり違った傾向になりつつあるということです。

B君:日本でも、グローバル企業は、徐々に、グローバルスタンダードとは何かと考え始めていることは間違いのないことだ。

A君:まだまだ米国並にもなっていないのが日本のグローバル企業の現実だと思いますが、いくらなんでも、そろそろ変えなければならないと思い始めている企業が多いのが現実で、経産省がグローバル企業の味方であるのなら、そろそろ、考え方を変えなければならない時期になっているのでは。

C先生:客観的な情勢は、そんなところだ。日本企業の本音を聴いてみると、確かに、CO排出量が最大の問題である鉄鋼業は、まだ、2050年の80%削減などは非現実的だと思っているようだ。しかし、同じくCO排出量の削減が難しいセメント業界は、「炭素税の導入がむしろ必要だ」というメッセージを出すことになったようだ。それは、電力を使う産業であれば、電力のゼロ炭素化が進めば、特に、問題はないので、是非とも、化石燃料の直接燃焼に依存しない方向を目指して貰って、セメント業に、COの排出権を認めて欲しいという考え方のようだ。極めて合理的だと思う。

A君:鉄鋼業の場合には、ほぼ国産の商品と言えるセメント違って、国際的な競争、特に、中国との競争が激しいので、妙なカーボンプライシングが行われてしまうと、コスト競争に勝てない。そうなれば、むしろ炭素税を明確に掛けて、そのかわりに、国境調整の仕組みを導入することが、合理性が高いと思っているのではないでしょうか。

B君:排出量取引のような中途半端なカーボンプライシングではなくて、「国境調整付きの炭素税」を導入するという大変革の方が、鉄鋼業にとっては、プラスになることは事実だろう。

A君:ちなみに、国境調整とは、中国製の鉄鋼製品が輸入されるとき、中国での炭素税が低く、日本の炭素税が高い場合には、通関時にその差額を取るということ。別の考え方をすれば、日本から輸出される鉄鋼については、日本の炭素税を払い戻して実質炭素税をゼロにして、中国国境で通関をするときに、中国の炭素税を中国に払うという考え方。

B君:中途半端なカーボンプライシングだと、こんな調整は不可能。明確に炭素税という仕組みを導入しないと、こんな仕組みはできない。

C先生:環境省の長期ビジョンの最終回として、5月5日の日経の5面のオピニオン欄に登場しているスティグリッツ教授の話を聴いたとき、消費税とは、消費を抑制するために課する税金なので、日本のように消費が活発でない国では、間違った税金であり、炭素税がより優れている。炭素税であれば、ゼロ炭素を目指す技術の開発などが進むので、日本が得意とするイノベーションの推進にも有効と指摘された。

A君:そして、今回の議論の最後として、もう一つ大きな問題が、削減を国内だけで行うのか、それとも、JCMのような枠組みが国際的にも認められて、海外での削減に重点を置くのか、というものが必要です。

B君:JCM(Joint Crediting Mechanism)は、日本がモンゴル、バングラデシュ、エチオピア、ケニアなどで行っている国際貢献によって、削減されたと考えられるCOを自国の削減としてカウントするという方式。この方式の最大の問題は、JCMの枠組みによる国際的削減が、2050年時点でも有効と認められているとは言えないこと。

A君:すなわち、現時点では、「2050年に、それを頼りにする」というロジックは成立しないのですね。

B君:もう一つの、新ロジック、といっても、歴史的には、国際化学工業協会協議会(ICCA)が、2009年に主張した「化学工業は、世界の脱炭素に貢献している」、というロジックが、不明確ながら含まれているように思う。

A君:化学は、例えば、飛行機のボディーを炭素繊維強化の材料に変えることによって、燃費が向上するから、脱炭素に貢献できる、という話で、それは事実。

B君:当たり前で、テレビだって、プラスチックが無かったら、まず鉄でフレームを作ることになるかもしれない。そうなれば、より多くCO排出が必然。

A君:この主張が問題なのは、ベースラインがはっきりしないということです。正しくは「現状からの改善」なのですが、「現状」の定義が難しい。例えば、地球上の人口が今後増えたとき、当然、テレビの台数は増えるけれど、「現状」をどう補正するのか。ということで、2050年における地球全体での排出量を基準年から何%削減するという確定論的な議論との整合性が取れない

B君:このあたりの基礎的な議論をしっかりとやらないと、経産省、環境省の長期プラットフォーム、あるいは、長期ビジョンも、その実質が何なのか良く分からない。現状だと、両者が、単に、言いたいことを言っているという感じが強いのだけれど、それでは、実質的な議論になっていない、ということだ。ただ、炭素税のような税制のことになると、政治と財務省の出番だ、ということになるので、審議会といっても、経産省でも環境省でもなくて、財務省関係での議論になるような気がする。

A君:環境省の長期ビジョンは、その完了記念として招待したスティグリッツ教授に、炭素税をもっと真面目に考えろと言われたのだから、その方向性をもっと正面から取り組むべきなのだろうと思う。同時に、経産省がなぜもっと本格的に炭素税を言い出さないのか、炭素税がイノベーションを推進することは確かなのだから、その理由が良く分からない。現在の税制の方が、経産省に有利だと思っているのだろうか。

C先生:ということで、両者の現時点での立ち位置は、全く違っていると言える。というよりは、パリ協定後に両省が独自に作る最初の長期を語る文書だから、できるだけ対立的なものを出しておこうという両者の意図が反映されたものだと言えるだろう。今後、どのような議論をやるべきなのか、大変に難しいのだけれど、恐らく、炭素税のようなより大きな枠組みが必要な議論は、内閣府でも巻き込まないと難しいかもしれない。となると、日本という国における経済活動と消費活動のどの部分に対してどのような政策が必要なのか。といった細かい議論を積み上げることになるのではないだろうか。炭素税の議論をやりたいのが個人的な本音だが。