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    パリ協定・長期戦略策定懇談会  08.04.2018
       成長戦略として、何に取り組むか

               



 昨日、8月3日は、朝5時の起床。朝飯も食わずに、30分で支度して、一路、一人で車を運転し、清里から自宅に戻りました。通勤時間帯にぶつかる八王子インターからは、猛烈な渋滞で、中央高速全線が、完全に停止することはめったに無いけど、走っても10km/h程度の速度で、文字通りノロノロ運転でした。
 本来の計画でも、昼頃に東京に戻るはずだったのですが、なぜこのようなことになったのか、と言いますと、次のような懇談会が開催されることになり、急に、委員の一人に指名されたからでした。
 「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略策定に向けた懇談会(第1回)」。この懇談会は、総理の元に置かれるもので、今年度末までに、様々な議論を行って、パリ協定への対応を、ビジネスチャンスに転換することによって、温室効果ガスの排出量の削減のモティベーションを高めることが目的だと理解しています。
 時間が10:15〜10:55で、場所は官邸4階大会議室。政府からの出席者が、安倍内閣総理大臣を筆頭に、菅内閣官房長官、中川環境大臣、中根外務副大臣、大串経済産業大臣政務官、などなどの御歴々。
 委員側は、どうも正式に公表されているようには見えないのですが、8月1日の読売の朝刊に掲載されている(スクープか?)とのことですので、まあ、書いても良いのかな、と思います。学者系はまあ普通とも言えますが、それ以外のメンバーは、以下のような実に錚々たる方々です。
 内山田竹志    トヨタ自動車会長
 枝廣淳子     大学院大学至善館教授
 北岡伸一(座長) 国際協力機構・理事長
 進藤孝生     新日鉄住金社長
 隅 修三     東京海上ホールディングス会長
 高村ゆかり    名古屋大学教授
 中西宏明     経団連会長
 水野弘道     GPIF(年金機構)CIO
 森 雅志     富山市長
 安井 至     持続性推進機構理事長

 
という訳で、私個人は、座長を除く学者系3名の内の唯一の男性、かつ、座長を学者系としても唯一の理工系という、特異な(あるいはオンリーワン)ポジショニングです。

 各国政府は、2020年までに長期戦略を国連に提出する必要があるのですが、G7諸国の内では、日本とイタリアが未提出なだけなので、本懇談会の議論を基に、政府が長期戦略を決定するということでしょうから、非常に重要な役割の懇談会だと言えると思います。

 という訳で、今回の記事の内容ですが、最終的に結論がどうなるか、それは色々と議論してみないと分からないですが、個人的に考えている様々な問題点について、現時点でのいくつか雑感を記述してみたいと思います。




C先生:ということで、この9月以降は、相当に忙しくなりそうだ。この懇談会とは別に、環境省の環境研究・環境技術開発の推進戦略を新バージョンにしなければならない。むしろ、こちらが先行すべき話なのかもしれない。現行の推進戦略は、平成27年8月に作ったものなので、実は、まだ3年しか経過していない。しかし、たった3年間、と言っても、平成27年(2015年)の9月からすべての3大トレンドがスタートしたので、中間的に改定しない訳にはいかないのだ。

B君:やはり、イノベーション推進のための研究予算も増えるのかも。しかし、そこでは、これまでとは全く違う、見たことのない成果を出すということが求められるのだけれど、果たして、そのような枠組みになるのやら。

A君:イノベーション関係では、もっとも先鋭的なのが、経産省・NEDOの未踏チャレンジですかね。

C先生:まあ、そうかもしれない。この未踏チャレンジに応募してくるような若手研究者をもっと数を増やさなければならない。大学の若手の研究者が、2050年前ぐらいに実用化されるような技術のネタを作ることが重要で、実は、企業にとっては、いくら特許を取得しても、その頃には失効しているので、どうやってイノベーションの創出への投資を正当化するか、これはかなり難しいのだ。結果的に、無駄な投資だと判断されてしまう可能性が高いのだ。

A君:2050年に必要な技術を俯瞰的に検討して、ある課題については、なんらかの特別推進策を作ることが重要なのでは。

B君:担当をする可能性のある人の所属だと、大学、企業、国公立の研究所となると思うけれど、国公立の研究所であれば、かなり特別の対応が不可能とは言えないものの、果たして、そのようなマインドチェンジが可能か?

A君:確かに。最近の研究者は、大学人、国公立研究所所属に関わりなく、インパクター第一主義になっていると言えるのでしょうかね。

C先生:経産省とかNEDOのプロジェクト化をすることが、国立の、といっても経産省系の研究所の場合には、ターゲットになる可能性が高いので、必ずしもインパクトファクター主義者ばかりとは言えない。ただ、後で議論したいが、これまでとかなり違った発想に基づいて、研究の枠組みを組み立てる必要があると思う。

A君:そうですね。しかし、文科省系の研究所の研究員の指向がどうなるか、については分からない。まあ、予算の付け方次第でしょうか。

B君:環境省系の研究所というと、国立環境研しかないのだけれど、ここも、すでにかなり決まった枠組みで動いている。気候変動関連だと、気候変動適応策が法制化されたので、この面でのイノベーションにかなりの人的リソースが向けられるのではないか。実際のところ、これは、かなり重要なターゲットだと思う。

A君:気候変動というと、これまでだと、文科省系の海洋研究開発機構、国交省傘下になるけれど気象庁あたりのシミュレーションなども主戦場だったのですけれど、イノベーションの創出を目的とする研究開発が、行われるのは、かなり限定的でしょう。

B君:材料系の研究が、実のところイノベーションの根底部分を形成しなければならないのだけれど、材料研究こそ、セレンディピティーの世界。材料設計などが可能だとは思いにくいのが未だに現状。

A君:一時期、C先生は材料設計にも取り組みをしていたような。

C先生:残念ながら、設計というコンセプトの前で止まっていた。より正確に言えば、構造−物性相関を明らかにするというところで止まった。要するに、未知の物性を持つ材料を作れと言われても、その物性を発揮する材料の原子・分子・微細構造がどうなるべきか、などという理屈は、未だに無い状況。様々な原子・分子・微細構造を仮定して、その物性を予測するという方向での解析になる。

A君:いくらAIが進化したとしても、AIというものは、過去の知見を大量に蓄積しているだけですから、知見の蓄積がゼロの分野では、AIは出来ない。

B君:もしも、将棋に棋譜というものが存在していなかったら、AIは学習する資料が無いのだから、強いAI将棋を作ることは不可能。

A君:超未来型のAIができたとして、「羽生さんに勝て」と命令しても、羽生さんの棋譜を含む大量の棋譜というデータが有って、初めて、勝てるようになる、ということですね。

B君:AIに直感は無い。直感があるのは本物の生物のみ。

C先生:今後、どのような議論が展開するのか、実は、全く分かっていないのだけれど、メンバーに巨大製造業の3社からトップが参加されている。トヨタの内山田氏、新日鉄の進藤氏、そして、経団連を代表してということではあるけれど、日立の中西氏。ということで、今回は、自動車について取り上げたい。というのも、実は、日経の8月4日の社説として、「車の電動化戦略で官は民の補完役に」という記事が掲載された。

A君:自動車は、未来像がどうなるか、非常に難しいですね。

B君:それは、それぞれの国が、その国に自動車産業にとって、プラスになるような政策を取るという可能性が非常に高いからだとも言える。

A君:将来を決めそうな検討すべき国は、ドイツ、フランス、アメリカ、そして、中国ぐらいですかね。勿論、日本。

B君:実は、日本がもっとも解析が難しい。なんといっても、日本は、世界の自動車市場の3割を占める国別トップの自動車生産国なので。世界中の動向を正確に読み取る能力が不可欠。

A君:各国が自国産業の利益のために、自動車に対する方針を決める。それがどうなるか、十二分に解析した上で、未来を読むことが必要。

B君:それは、C先生がしばしば言っている、CIAを日本に作る必要があるという話につながる。CIAと言っても、Climate Intelligence Agency。あるいは、CO2 Intelligence Agency

A君:例えば、電気系車両について、各国がどのような技術をもっていて、将来どのような方向性が選択されるのか。すなわち、何が、その国にとって重要な技術と言えるのか、などなどをあらゆる情報を収集し、分析・解析して、その国の本当の意図が何かを明らかにするという仕事をする組織がCIA for Automobile

B君:CIA for Steelmakingも必要。CIA for Atomic Energyも不可欠。プルトニウム専焼炉をC先生は作りたいみたい。

A君:勿論、CIA for Importing Energyなどという組織も必要。連携する検討組織として、CIA for Energy Self Suppyでどこまで自給率が可能な国なのか、などをしっかりと解析する必要がある。

B君:結果的にだけれど、日本ほど自動車戦略が難しい国はない。2050年後となると、インド市場がどのようなものなるのか。インドに次ぐ経済発展をするのはどの国なのか。その国はどのような市場になるのか。こんなことも考えなければならない。

A君:IEAのGlobal EV Outlook 2017によれば、こんなグラフがあって、2030年にパリ協定の目標である最終的に2℃上昇だと、ざっと1億台のEV。(小さいので、下記から現物を御覧ください。)

https://www.iea.org/publications/freepublications/publication/GlobalEVOutlook2017.pdf

C先生:今日は、そこまで入り込まない。こんなことを各メーカーがそれぞれやるのも重要だけれど、このIEAの予測がどのぐらい当たりそうか、といったことを十分に検討する組織が必要だと思う。

A君:日経の「官は民の補完役」という意味は、実は、これほど直接的ではないのです。どうやら、リチウムイオン電池はリサイクル技術や残存性能評価技術が未確立。これらの問題については、官がリードせよ、ということのようです。関連して、最近中国がコバルトの買い占めをやっているのですが、やはり、リチウム電池の正極材としては、コバルトを使うのがもっとも性能的に高いからなのですね。

B君:しかし、いずれコバルトは枯渇の危機が来ると思う。そうなったときに、もっとも資源的に豊富で枯渇の可能性が無いのは、鉄とリンを使うタイプだけれど、それでどこまで寿命と性能が出るのか、そんな検討は、やはり官のどこかがやるかもしれない。

C先生:ここまでだと普段よりは文字数が少ないが、まあ、今回はこのあたりにしておこう。なんといっても、正直なところ、この懇談会で何が議論されるのか、それは、全く分からないので。いずれにしても、今年度中で結論が出るのは、まさに、官民の分業をどのようにやるべきか、とか、何か協同利用施設を作るとか、あるいは、戦略的な研究課題をどこがどう選択して取り組むか、といった全体感を議論することになる可能性もあるようには思うけれど、実は、やはり、議論の本流はやはり金融・炭素価格の役割や制度といった議論になりそうな気がするのだ。