-------


 CO2排出抑制技術の将来像 
  01.18.2015
    エネルギー関連研究の成果の正しい読み方




 先日16日に、品川のコクヨホールで、第6回目になるCREST「二酸化炭素排出抑制に資する革新的技術の創出」研究領域の公開シンポジウムを開催しました。

 今年の3月で、5件の研究課題が無事「卒業」することになりますが、それらは次の5課題でした。
●小川健一(岡山県農業水産総合センター生物科学研究所)「CO2固定の新規促進機構を活用したバイオマテリアルの増産技術開発」
●近藤昭彦(神戸大学工学系研究科教授)「海洋性藻類からのバイオエタノール生産技術の開発」
●田中剛(東京農工大学工学研究院教授)「海洋微細藻類の高層化培養によるバイオディーゼル生産」
●橋詰保(北海道大学量子集積エレクトロニクス研究センター教授)異種接合GaN横型トランジスタのインバータ展開
●宮山勝(東京大学工学系研究科教授)「プロトン型大容量電気化学キャパシタの研究」


 この研究領域には、最終的には次のような定量性が求められています。「2020〜203年において、実用化された際、どの程度の排出抑制が期待できるか、何億トンの削減が可能といった定量的なシナリオが書けることを要件とする」

 といっても、この研究の大きな枠組みは明らかに『目的基礎研究』ですので、自らの興味をドライビングフォースとして、一つのことをとことん追い詰めて研究するのではなく、明確な目標をもって研究を進め、その中から、当初想定されたターゲットを拡大しつつ、創造的な科学的成果を挙げるということになります。これが目的基礎研究の定義だと思うからです。

 すなわち、実用化シナリオを描き、どのぐらいの応用が期待できるのかを常に意識しつつ、そのシナリオが進行すれば、このぐらいの活用がなされ、その分野での世界全体としての排出削減量を推測するといった基本的な考え方が重要だということになります。

 例えば、今回発表された小川健一氏の研究は、グルタチオンと呼ばれるトリペプチドを植物に与えることによって、光合成効率が増大するというご自身によって発見された現象を対象にして、その基礎科学を突き詰めることでした。これが現実のものになって、光合成効率が10%向上しただけでも、実は、相当なことになると思います。

 非常に荒い概算を行えば、地球に到達する太陽光エネルギーのうち、光合成に使われるエネルギーは、おおよそ0.04%で、この量は、全世界で消費される一次エネルギー量の3倍程度。その効率が10%向上することは、何億トンのCO削減に匹敵するのか。実際にはシナリオの書き方次第ではあるが、相当な効果であることに間違いはないでしょう。

 現時点ではその可能性を追求するという考え方をもって研究を行い、そして、将来、本当に実用になるかどうか、それは、そのときどきの社会の状況を含めて、別途厳密にチェックを行って検証を行うというスタンスが、『目的基礎研究』の本質だと思います。

 ところが、問題は、『目的基礎研究』で描かれた将来像が、実像だと勘違いする人が多いことです。これは、研究者側の責任だとも言えるし、ある目的をもった人々、例えば、メディアの責任だとも言える、と思います。

 研究者側に責任がある例として、STAP細胞事件があり、社会を騙したとしても、研究費と名誉を獲得したいという強い思いが、その本質であったと思うけれど、このような研究至上主義に陥ると、目的基礎研究の将来像と現実社会の実像との区別がつかなくなる研究者がいるということを曝露してしまったように思います。

 このようなシンポジウムが金曜日に品川コクヨホールであり、土曜日には、早稲田大学での集中講義の最終回(来年度は実施しないので本当の最終回)で院生諸君のプレゼンを聴きました。課題は、『最近のメディア報道から題材を1つ選択し、その背後にある情報を科学的に説明する』こと、でした。その後、酒井教授室でワインを空けてから帰宅しましたが、その勢いで、もう一つのウソを暴くことにしました。それは、『CO2排出抑制技術のウソ』のユーザには、反原発派というものが厳然として存在しているようだからです。

 さて、どうなるやら。



C先生:という訳で、本日は、長野県のKさん(「原発は地球破壊装置、則、息の根を止めましょう」)という人がファックスで情報を送ってくれたものを活用したい。このような超理論型の楽観論を本気で信じているのかどうか、それとも、ウソであることを100%知りながら、反原発を推進するという「個人的正義」のために主張しているのか、そのあたりは不明なんだけれど、このような荒唐無稽な主張をしていては、反原発そのものが非科学の典型ということになってしまうので、Kさん自身と彼の仲間達にとっても不利だと思うのだ。

A君:そのあたりの状況は、全く分かりませんが、一次エネルギーが3種類しかないことを真剣に考え、これから新規技術をどのように社会実装するかを考察すると、化石燃料は、今世紀中には、依存度をほぼゼロにしないと、異常気象を抑えることが難しい。原発はアフリカを始めとする発展途上国のエネルギー源になることは考えにくい上に、核兵器との関係を考えても、現状の原発がある種のリスクを背負っていて、永久に使うというものでもない。となると、化石燃料、核分裂以外のエネルギー源にしたい。そうなると、核融合は不確実性が高いので、2100年には、ほぼ再生可能エネルギーだけ(=先進国では90%程度)の社会を目指すのが正しいように思える、ということがこのWebサイトでの基本的な未来スコープになっています。

B君:Kさんの主張は、かなりバラバラなので、当方で整理した。概ね2種類に分かれている。
 すなわち、
(1)原発ゼロでも、十分に電気は足ります。
 ★1:節電:企業・官公庁と一般家庭が電球からLEDに交換することで、1/10に節電
 ★2:クリーン・ディーゼルカーで電車を代替

(2)6ゼロ発電を国策に。

 ◆1:藻類からの石油
 ◆2:海水魚を真水で養殖して食糧難解消
 ◆3:音力・振動力発電
 ◆4:海洋温度差発電
 ◆5:潮力・海流発電
 ◆6:揚水発電と太陽光のハイブリッド


A君:エネルギーに関して、普通に知識のある人にとっては、余りにも問題外の提案なので、ここで無視するのが普通。ところが、ここで、御用学者という便利な分類が出てきます。先週の記事の表現を再掲すると、こんな風でした。

「御用学者」というものを「金で買われた学者だから、原発という利権防衛のための発言しかしない。要するに、言うことはすべて嘘なのだ」という定義を作り上げることに成功した一群のキャンペーンがあった訳だけど、この本にも書かれているように、極めて組織的に動いた反原発派は、結果として大成功を収めた。

 すなわち、このような提案がいかに現実離れしているかを説明しても、「その説明は御用学者によるものだ、だから信じるな」という伏線が張られている。

B君:まあね。「原発ゼロでも十分に電気は足ります」、というのは、結果的には正しかった。ただ、夏の電力需要期に、古い火力発電がフル活用されたから足りたので、もしも、大故障が起きれば、危ない状況ではあった。しかし、副作用はあった。それは、原油価格が高かったので、年間3兆円以上の国富が化石燃料を買い込むために流出していたこと。

A君:もっとも現時点は、原油価格が急激に大幅に下がったお陰で、日本は再び貿易黒字国家になってしまいましたが。

B君:★1:節電:企業・官公庁と一般家庭が電球からLEDに交換することで、1/10に節電と、LEDが出てくるが、省エネ・節電で乗りきれるという理解も、いい加減になんとかして欲しいところだ。現時点での省エネの可能性が高いのは、産業界の熱需要をいかに効率的に行うか、という点にほぼ尽きる。高温型のヒートポンプを活用したり、比較的低い温度の排熱から、バイナリー発電などを活用して、エネルギー回収を行うことが方法論になるのだけれど、基本的にエネルギー価格というものが安すぎるために、投資効果が出ないので実現しない

A君:白熱電球をLEDで置き換えるといっても、もう済んでいますよね。官公庁や業務関係の省エネはかなり大幅に進んでしまった。業務用の蛍光灯は、いわゆるHf型と呼ばれるものなので、その効率はもともとかなり高いので、LEDにしたところで、省エネにならない。むしろ、家庭が問題。これは、Kさんを始めとして積極的に進めてほしいところです。

B君:★2:クリーン・ディーゼルカーで電車を代替だが、クリーンディーゼルというけれど、何がクリーンなのか。ドイツ車の宣伝に惑わされてはだめ。排気はかなりクリーンになったけれど、CO排出量は通常のガソリン車よりも10%程度良いだけ。ハイブリッド車には全くかなわない。現在、売れている理由は、やはり軽油の価格がもともと商用車を前提に設定されているために安いこと。これは、制度が悪いというか不公平。3ナンバー5ナンバーのディーゼル車への軽油は、税金を通常のガソリン税なみにすべき。まあ、低速トルクが大きいので、運転感覚が新しいからという理由で買う人もいるようだけれど、それは趣味の問題なので許す。

A君:鉄道用のディーゼル車よりは、エネルギーコスト面でも環境面でも通常の電車の方がかなり優れていると思う。電車の場合には、回生エネルギーという手法が比較的容易に使えるから。ただし、ローカル線の場合、回生エネルギーは、駅にバッテリーを備えてそこに貯めるというような対応にしたい。なぜなら、回生したエネルギーを使ってくれる電車が近くにいないのがローカル線の悲しいところなので。

B君:結論として、Kさんの★1★2提案は、無意味。

A君:それでは、次の「6ゼロ発電」へ。まずは、◆1の藻類からの石油

B君:金曜日のCRESTの発表会でも、2つの藻類研究プロジェクトからの報告があった。結論として、過大な期待は無理かもしれない。現時点での期待は、ジェット航空燃料用としてのバイオエネルギーは、酸素を含まない炭化水素系の灯油のような燃料を合成すること。田中先生の発表では、現状の技術だと1リットル500円ぐらいのコストになるとのこと。そのコストの大部分が、水槽の建設に掛かるコスト。これは、◆2とも関係するが。

A君:今後、航空機燃料の使用量は増加の一途だろうと予測されているので、その低排出量化は大変な課題。しかし、なんらかのバイオ燃料にするよりは、他の分野での排出量削減を大幅に進めて、今世紀にほぼ再生可能エネルギーだけを実現し、「ほぼ」の例外として、航空機燃料を考えるのが良いのではないでしょうか。

B君:航空機燃料は、エネルギー密度(重量・体積)が重要なので、とても水素では飛べない。化石燃料からの排出量を10%許容して残し、その一つの用途がこれになるのでは。

A君:もう一つ難しいのが大型トラックをどのエネルギーで駆動するかなのですが、これは、場合によっては、FCVにするという方法論があるかもしれない。電車の貨物幹線を新たに作るということは、あり得ないかもしれないので。

B君:田中先生の研究成果によれば、藻類を水槽で培養するとき、その撹拌のために必要なエネルギーを培養した藻類から得たエネルギーで補給することも難しい、ということなので、他の再生可能エネルギーを藻類を用いて、変換するということをどう考えるか、という結論になる。

A君:◆2は海水魚を真水で養殖すること。これは、不可能ではないことはすでに分かっていますが、最大の問題点は、世界的に、真水というものが足らないという事実。日本に住んでいると、真水が足らないという感覚が無いのかもしれません。それ以外にも、日本のような平地が少ない国土だと、結構大変なことになる。さらに餌を何にするのか。カタクチイワシのような海水魚で、余り食用になっていない魚を餌にするのですが、それなら、海水面で養殖をやることの方がずっと合理的。陸上に水槽を作るということが、コスト的に大部分を占めるということも分かっていないのでしょう。

B君:次が◆3で、音力・振動力発電。これは、テレビでかなり報道されたこともあるので、誤解が蔓延っているのだろう。そもそも、音力でテレビを動かそうとしたら、どうなるのだろう。

A君:「テレビから出る音で発電をすれば、その電力で、テレビが動く」という発明をすれば、それは永久機関なので、特許としても認められない。特許というものは、真実でなくても、特許としてなら認められるのだけれど、永久機関だけは例外。

B君:振動力発電も、人力が使われるのであれば、ダイエットぐらいには効くかもしれない。しかし、人の消費しているエネルギーは大体100Wぐらい。しかし、その大部分は、体温を維持するために使われていて、運動に使われるエネルギーは、筋肉分なのでざっと20%とすれば、20W。筋肉が発生するエネルギーの何%が電力になるのか、を考えると、良くても10%。ヒトは、2Wぐらいの発電機にはなるかもしれない。

A君:◆4の海洋温度差発電。これは、日本だと佐賀大学が有名で、中でも学長まで務めた上原春男教授が有名。ウエハラサイクルの発明者です。佐賀大学に大型の研究施設を作りましたが、この施設は、発電の実証を目的とするものではなくて、単なる原理的な検証を行う実験施設でした。

B君:そもそも、熱力学の基本をちょっとでも分かっていると、このシステムを動かすのがどのぐらい難しいか、ということが分かる。海洋温度差発電は、海面温度が高い熱帯でも、深海の海水温度は7℃ぐらいだという温度差を活用する熱機関で、例えば、蒸発温度が23.9℃、凝縮温度が14.1℃という温度差を使っている。

A君:熱力学の基本中の基本である温度差が10℃も取れないのが弱点。そのため、実施可能な地域は、熱帯に限られます。北回帰線までが条件がまあまあ良いところですので、北緯23.4度以南が目安。日本だと、小笠原が大体北緯24度、西表島も同じぐらいなので、適地はほとんどなし。現在、実証実験が行われている久米島は、北緯26.3度。もっとも、太平洋は北の方まで温度が高いのですが。

B君:他のサイクルの話はマニアックなジャンルになるので、熱力学の常識としては、カルノーサイクルの熱効率か。効率=(高温源温度−低温源温度)/高温源温度。海洋温度差発電の場合だと、温度差が10K。高温源温度が27℃+273℃=300Kなので、もともと効率は3%程度のもの。

A君:深海の海水を組み上げるには、それなりのポンプが必要なので、使う電力も多くて、実ゲインにならない。

B君:佐賀大学の実験施設では、地理的な条件に恵まれておらずそもそも温度差が取れないので、エネルギーゲインを得ることすら不可能な施設だった。

A君:しかし、それを指摘されると言を左右していたという感触がありますね。もともと、無理な立地だったということを隠していたのでしょうか。

B君:さらに悪いことには、海水に対して腐食性を持たない金属となると、チタンぐらいになって、これが非常に高価。このチタンを使った装置を作るために自らベンチャーを立ち上げて、そこで儲けたという話もある。

A君:久し振りに佐賀大学の海洋エネルギー研究センターのWebサイトをみたら、最新の情報がインド洋での1MWの実証実験の話が出ているのだけれど、これは2000年から本格的な実証試験に入る予定、と記述されていますから15年前の情報が最新。その後のフォローが無い。要するに、活動をすでに停止していると言わざるをえないですね。

B君:英語版のWikiによれば、こんな様子だったようだ。要するに、失敗した。
 In 2002, India tested a 1 MW floating OTEC pilot plant near Tamil Nadu. The plant was ultimately unsuccessful due to a failure of the deep sea cold water pipe.[1]

A君:失敗したなら、失敗したと佐賀大学のWebサイトにも記述すべきで、真実の伝達をとことん追求しないと、税金で行われた科学はまたまた国民からの信頼を失う。

B君:◆5は、潮力・海流発電、これは、その気になれば、ある程度の発電は可能なのだと思うけれど、やはり発電サイトと需要地が近いという条件を満たす必要がある。海洋温度差発電の最大の難点も、実はそれだったりするのだ。

A君:この適地については、世界的に潮位差5m以上が実用化の目安だと言われている。諸外国には、10m以上の潮位差が得られる地点が存在するものの、日本でのもっとも好条件の有明海でも最大潮位差が4.9mなので、ポテンシャルは小さいとされています。

B君:海流発電についても、現実的な導入量は、1.3GWぐらいまで。発電可能量は10TWh程度で、年間電力需要量の1%程度ではないか、とされている。

A君:それでは最後の◆6:揚水発電と太陽光のハイブリッド。揚水発電を行う目的は一体何なのか。それは、一般にピーク電力需要がある昼間の電力の供給を、需要の少ない夜間のベース電力を使ってエネルギー貯蔵をすることで計画的に行うため。気まぐれで計画不能な再生可能エネルギーの貯蔵用に揚水のような確実な方法を使うのは、現状ではもったいない。

B君:一方で、太陽光発電による発電量は、夏の昼間にあったピーク電力を夕方にシフトすることがそれなりに可能な量になりつつある。となると、現時点の問題点は、夕方のピーク需要をどうやって平均化するかということ。そのために、夜間に揚水をしておいて、夕方に使うという方法になりつつあるということ。夜間の発電で最適なのは、出力調整を行わないことが原則である原発と石炭発電ということになる。

C先生:これで大体すべての説明が終了したか。この程度の主張がウソだとバレないと思っているのか、それとも、本気で信じているのか分からないが、もう少々、科学技術を正しく主張しないと、いずれにしても、信頼性を失うばかりだろう。

A君:もともと、仲間内に流布することだけが目的だったこのような技術情報を、仲間の外に対しての主張に使うことがそもそもの間違いの始まり。しばらくは信じる人も出るけれど、そのうち、そのウソがバレてしまう。カリウム40が天然の放射線だから無害。セシウム134,137は人工の放射線なので有害、というウソも同様だった。

C先生:しかし、海洋温度差発電の有用性に対する佐賀大学の情報提供がひどいことが、今回の記事のお陰で再度確認できてしまった。これは、副産物だった。反原発派が自らが発信する情報を正しく修正する以前の問題として、税金による科学を遂行してきた佐賀大の関係者へは、修正する努力を要請したいところだ。