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経済危機対策 その2 04.26.2009 |
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前回の続きである。今回、何が落ちているか、を検討することにした。 先に結論を述べると、俯瞰的にこの文書を見ると、まず問題にすべきことが、今後の成長戦略を考える上でのエネルギー安全保障という概念が欠落していることではないだろうかと考えざるを得ない。 C先生:日経エコロミー(4月22日公開)に掲載した内容をより本音を含めて、再度検討することが今回の目的だ。 A君:多少復習しますか。「低炭素革命」の具体的な手法として記述されている項目としては、非常に多岐に渡るのですが、以下のようにまとめられています。 (1)太陽光発電 (2)低燃費車・省エネ製品等 (3)交通機関・インフラ革新 (4)資源大国実現 前回、(1)については様々な議論をして、そこで述べられている これらのうち、 ○太陽光発電を、2020年頃に現在の20倍程度の導入を図ることになっている。 ○家庭等で発電した太陽光電力の電力会社による新たな買取制度導入〔既存施策とも併せた技術革新・需要拡大により、3〜5年間で半額程度の価格に低減〕 ○電気の安定供給を実現する世界最先端の系統制御システム等開発支援 について、議論をした。 B君:議論が残っているところは、 ○小水力の普及促進 等 C先生:「小水力の普及促進」だが、キーワードとして小水力が挙げられたことは大いに評価したい。これこそ、様々な規制緩和によって実現が可能になりそうな自然エネルギーだからである。 A君:この小水力がどのぐらいの出力を意識しているのか不明ですが、傾斜地の農業用水などの有効活用として、マイクロ水力は結構有効。さらに、電力網に接続しない超マイクロ水力も面白そう。 B君:ただし、日本製の機器に余り良いのがないのでは。 A君:ベトナム製などの超安価なものがあるようですね。 B君:この小水力は、かなり小さなものであっても、大きなダム並みの環境アセスが必要だという話があったが。 A君:修善寺落合楼の小水力発電所は見学の対象にもなっているようですね。 http://eco.nikkeibp.co.jp/style/eco/interview/070706_matsumoto01/index.html B君:なるほど。問題はあるが、再生したケースは比較的楽なのだろうか。 C先生:なかなか手続きなどが大変のようで、この面でも改善が進むことを期待したい。 A君:低炭素革命に区分される太陽光発電以外の項目は、以下の3項目でありますが、 (2)低燃費車・省エネ製品等 (3)交通機関・インフラ革新 (4)資源大国実現 これは、前回、多少のコメントを入れました。 B君:太陽光発電の格段の普及の話は、先週もやったけど。 A君:自然エネルギーに対する固定価格買取制度(Feed−in Tariff)と呼ばれる制度がドイツ、スペインなどで導入された結果、太陽光エネルギーの設備導入が加速された。その結果として、世界の太陽電池生産量を誇っていた日本の地位が急速に低下し、ドイツのQ−cellsにトップを奪われただけでなく、中国のサンテックの急追を受けているのが現状ですね。 B君:環境派のNPOなどによって、ドイツなどに導入されたこの制度は高く評価されている。ドイツでは、太陽光発電によって発電された電力全部を電力価格の3倍といった価格で、20年間に渡って購入するという思い切った政策が取られた。そのため牧畜業よりも、牧場に太陽電池を大量に設置した方が経済的な効果が大きいという状況になって、大々的な投資が行われた。 A君:それに比べれば、日本における固定価格買取制は、もしも法律ができたとしても、その家庭などで使わなかった電力のみを買い取ることになる。したがって、この制度の恩恵に浴するためには、相当広い面積の屋根が無い限り難しい。 B君:そのためもあるのだろうか、金持ち優遇だという指摘がなされている。誰がそんな主張をしているのか、それは疑問でもあるのだが。しかし、現実には、本当の金持ちは、こんなことに投資はしないのではないだろうか。それは儲からないからだ。 A君:これまでの制度だと、設置した太陽電池が無故障で15年ほどもったとしても、まず、利益を生む可能性は無かったという状況であった。20年無故障ならちょっと儲かったかもしれない。 B君:それが、今回のFIT制度ができれば、旨く動けば15年でちょっとプラスになるか、という程度になったという変化でしかない。 A君:故障するリスクや、南側の隣家が突然3階建てになって、日陰になり圧倒的に発電量が減るといったリスクは、決してゼロではない。しかも、ドイツは20年間の買取を保障したが、日本流だと10年という時限になる可能性が高い。 B君:日本の利率はほぼゼロだとは言っても、海外まで目を広げれば、まだ可能性が無い訳ではないので、太陽電池は、投資対象としては依然として、ほとんど問題にならない。 C先生:まあそうだろう。日本流の固定価格買取制度とは、やはり、地球環境問題にかなり関心があって、これまでの制度では、余りにも経済的なデメリットが大きかったために踏み切れなかった一部の層に、「まあ、損得ゼロでやれるかもしれません」、と誘い水を差し出すぐらいの効果しかないのではないだろうか。 A君:太陽電池を設置しない家庭の負担が増えると言われているが、以前に環境省が算定したのが、平均的な家庭で月260円だった。実際には、恐らくそれよりも低く、月100円台で収まるのではないでしょうか。勿論、すべての家庭に均一に100円台ということではなく、電力料金に比例したものになるのですが。 B君:このような制度が普及することの意味だが、単に、CO2発生量が抑制され、気候変動に対して効果があるという単純なものではない。日本のエネルギー安全保障、すなわち、エネルギー自給率の向上という観点も、考慮しなければならない。 C先生:少し話しが大きくなってきた。このところ、エネルギー自給率は惨めなものだ。エネルギー安全保障をまともに考える条件する満たしていない。 A君:エネルギー白書2008によれば、1960年の日本のエネルギー自給率は57%でした。まずまず高かったんですねえ。 B君:その理由は、水力発電と石炭火力。まだ炭鉱が動いていたのだ。 A君:ところが、1980年には6%に落ち、2000年以降は4%しかない。 B君:その4%の内訳だが、その33%が水力、18%が地熱・太陽光、31%が廃棄物など、14%が天然ガス、といった割合だ。 C先生:実は、水力発電の能力である発電容量は、この2倍程度はあるのだが、水力発電には水利権が必要であり、実際の発電量で比較すると、この程度の寄与率しかない。 A君:このところ、エネルギーの使用形態はどんどんと電気になっていますよね。全エネルギー消費量に占める電力消費量の割合は、電力化率と呼ばれ、2006年で22.1%になっている。 B君:特に、家庭では電化率が48%で、さらに急速に増加中である。それも、オール電化などが貢献しているからだ。 A君:そこで、という訳でもないのですが、原子力発電による電力は、ウランの備蓄が容易であることなどの理由によって、準国産エネルギーと見なすことがしばしばあって、その場合、自給率は2005年で18%となっています。 C先生:いずれにしても、ほとんどのエネルギーは輸入品であることに変わりはない。その輸入に要する金額は、2004年ぐらいから始まったエネルギー価格高騰の影響を受けて、わずか4年間で倍増している。 A君:その通りなんです。2004年度には、11.2兆円が鉱物性燃料すなわち、原油、天然ガス、石油製品、石炭のために費やされたが、2007年度にはなんと22.2兆円になっている。2008年度は、9月までの原油高、それ以後急落という状況なので、いくらになるか想像が難しいが、恐らく、2007年度よりも多いのではないだろうか。 B君:2008年度の原油の平均価格は、恐らく100ドル/バレルぐらいだった。 A君:この輸入を支えているのが、当然のことながら、輸出ですね。輸送用機器が21.4兆円で、電気機器が16.7兆円である。総額は85兆円です。 C先生:2007年度の平均原油価格は65ドル/バレルであったが、もしもこれが2倍の130ドル/バレルになり、他のエネルギー価格がこれに追従すれば、日本の貿易収支は赤字転落必須である。場合によると1.5倍の100ドル/バレルでも厳しいかもしれない。 A君:ところで、2008年の原油価格のピークは、7月11日の147ドル/バレルでした。今後の予測は極めて難しいのですが、早ければ4〜5年後に、またまたこのレベルにならないという保証はどこにもない。 B君:となると、やはり国産エネルギーを増強するということが、本当の意味での成長戦略になるのではないだろうか。 C先生:その通りなのだ。しかし、現時点で、食料自給率の低さを問題にする人々は増えた。とは言え、カロリーベースでの食料自給率はまだ40%近くはある。金額ベースの自給率は70%近い。しかも、食料の輸入額は6兆円程度であって、それほどの金額でもない。エネルギーの1/4程度しかないのだ。 B君:食料に比べれば、エネルギー自給率の低さとエネルギー価格高騰による経済への悪影響の大きさは比較にならないほど深刻だ。しかも、エネルギーが無ければ、農業すらできないのが現状。多少ではあっても、エネルギー自給率を増加させることは、日本に住む我々にとっては、必須のことにように思える。 A君:そうですよね。そのため、太陽電池の設置容量がわずかであっても増大することは、市民社会全体にとって、エネルギー安全保障という観点からは、メリットがあるはずです。 B君:このような全体的なメリットを積極的に評価する姿勢が、このところ市民社会から失われているように思えるが、それは何故なのだろうか。 A君:もしもエネルギー自給率を高めることを目的とするのなら、実は、太陽光発電に特化することは、余り賢い選択ではないという問題がありますね。要するに、もっと広い視点からの検討が不可欠でしょう。 C先生:細かい議論ができるほどのデータは見つからないのだが、どう考えても、地熱発電の大幅な拡充と、北海道における風力発電の増強は必須であるように思える。 A君:ところが不思議なことに、今回の「成長戦略−未来への投資」には、地熱も風力も全く姿を見せないのですよ。これはなぜなのでしょう。 C先生:地熱が取り上げられない理由をもっとも端的に表現すれば、まずは、補正予算には似つかわしくないからろう。これがもっとも大きな原因だろう。現状だと、地熱発電というと、計画から運転開始までに、最低でも7〜8年かかるのではないだろうか。3年程度以内に効果がでない事項は、補正予算では、まず取り上げにくいのだろう。 それ以外にも地熱発電には困難があるとされている。大別すると3つあって、 (1)温泉街からの強烈な反対。 (2)開発コストが高い。 (3)環境破壊との指摘。特に、国立公園内での設置は不可能。 A君:調べてみましたが、まず(1)ですが、日本には27,866個もの温泉泉源があるとのことです。 http://unit.aist.go.jp/georesenv/geotherm/QandAJ.html 多くの温泉は、もちろん井戸を掘って汲み出している。しかし、それほど深い井戸ではない。 B君:温泉は浅い。その通り。一方、地熱発電用の井戸が狙う貯留層は、かなり深いし、はるかに高温であって、温泉との共存に問題は無いとされている。しかし、実際に地熱発電を建設しようとすると、温泉街などに保証金を支払う必要になることがあって、コスト的に合わない状況になりがちである。 C先生:この問題は、もっと科学的な検討が必要なのではないだろうか。通常の温泉は、汲み上げた湯は、使用後、排水として川に流してしまう。地下に供給される水は、自然に地下にしみこむ水だけであり、枯渇の可能性が高い。 A君:もちろん、地熱発電の場合には、汲み上げた水は、再び地下に圧入されています。これを還流と呼ぶようです。そのため、継続的に資源として取り出すことができるのです。 B君:こう考えれば、温泉源よりも深いところに地熱発電用として還流が行われれば、場合によっては、その一部が浅いところに浸みだしてきて、温泉は却って増えることが考えられる。事実、地熱発電によって、温泉が枯渇したという例は無いらしい。 C先生:地熱発電の開発コストだが、様々な要素によって決まるが、日本の法制度がその一つの要素らしい。温泉法だけでなく、森林法、電気事業法、環境アセス法などの多くの法律の縛りを受けていて、開発計画ができてから、運転開始に至るまでの時間がもっとも長い国になっている。 A君:しかし、だからこそ、国からの支援策が有効だということも言えそうですよね。法律は変えれば良いのですから。 B君:それは難しい。利権が絡むので。 C先生:最後の(3)国立公園の件だが、日本の高温地熱資源の82%が大雪・十勝岳地域や知床半島など、国立公園の開発規制区域内に存在しているとのことだ。国立公園内での開発の規制はしばらくは継続するとしても、それ以外の18%の開発は進めることが必要のように思える。 A君:最近読んだ本なんですが、トーマス・フリードマンのグリーン革命は、クリーンな電気、エネルギー効率、自然保護の3点を同時に最適化するようなシステムが必要だと記述しています。エネルギーと自然保護が最大の環境問題です。その通りだと思います。 B君:となれば、日本における地熱発電のように、気候変動という自然保護に対しても重大な影響を与えかねない現象の抑制に有効な技術は、どこでバランスを取るべきかという議論を行うことが必要になる。 C先生::さらに、いつも言っているように、自然保護は、経済的な状態の関数だ。ブルネイというお金持ちの国では、森林は保護されるが、同じカリマンタン島でも、インドネシア領は自然破壊が進んでしまった。 A君:その通りですね。経済的な危機が起きれば、自然保護は行われず、燃料獲得のための森林破壊に繋がるという歴史的な事実もあります。日本では、まだまだそのような事態が発生する段階ではないのでしょうが、これも、どのレベルでバランスを取るべきかという問題の一つのようにも思えますね。 B君:もう一つの自然エネルギーである風力が今回の経済危機対策として取り上げられない。そこにも複数の理由があるように思える。 (1)景観の問題 (2)日本の風況は、多くの地で良くない (3)洋上風力は漁業権が問題 (4)北海道は電力需要が少なく風力の導入にはバランスが取れない A君:すでに、欧米ではかなり前から有ったのですが、日本でも風車が回っている景色は景観の悪化であるという主張がでているようです。 B君:日本の風況が良くないという問題は根本的な問題で、単に蓄電池を付加するようなことで解決できる問題ではない。北海道だけなんとかなるかも。 A君:北海道に風力を大量導入するのは、余程電力網を強化して、もっと本州まで送ることにでもしないと難しい。 B君:要するに、いずれもなかなか解決が難しい。 C先生:地熱発電に依存せよというのは、恐らく正解だ。電力は、今後自動車を動かすとなると、ますます必要になる。そのためには、揺らぎの大きな自然エネルギーで電気自動車用のバッテリーを充電する技術開発は是非とも必要。 A君:地熱発電は、自然保護との戦いですか。国立公園という名の。 B君:地球温暖化の防止を選択するか、国立公園の保護を選択するか。 C先生:これは、大きな問題だ。また、ローカルにも重要な問題なのではないかな。 A君:ローカルですか。 B君:なるほど。 C先生:ということで、そろそろ終わりにするが、経済危機対策ということで、非常に多くの具体的な課題がリストの形で現れてきた。しかし、逆に、そこに本来あるべき項目が出ていないということが重大な事態だと思う。そこを推理し、対策を練って、本来あるべき方向に向かわなければならない。それが、本来のニューディールなのだ。 日本版グリーン・ニューディールという言葉が使われなくなったその裏に、「本当にニューディールをやられてはたまらない」といういくつかの意図が隠れているのかもしれない。ニューディールとは、手持ちのカードを捨てて、カードを新たに配り直すという意味なのだから。 |
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