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  経済危機対策その1 04.19.2009
   
   低炭素革命の実像
     



 4月10日、「経済危機対策」が内閣府から発表になった。
http://www5.cao.go.jp/keizai1/2009/0410honbun.pdf

 いつのまにか、日本版グリーン・ニューディールという言葉が使われなくなった。その理由はいくつかあるようだが、米国の政策の後追いをする状況では無いので、使わないという方針が正しいように思われる。

 この文書の中に、1月頃まで日本版グリーン・ニューディールと呼ばれていた政策の中身と思われる環境エネルギー対策が「低炭素革命」という名前で盛り込まれている。

 この中身を検討してみたいのだが、今回はやや特殊なやり方になっている。



C先生:環境大臣がまとめることになっていた日本版グリーン・ニューディールであるが、日本版という言葉はやはり余り良くないためだろう、使われなくなった。

A君:まあ、その通りでしょうね。オバマがグリーン・ニューディールだと言い出して、様々な政策を実施しようとしている。そのまねをして、日本でも、というのは余りにも自主性が無さ過ぎる。

B君:景気対策なのだから、やはり経済政策が中心になる。しかも、補正予算だということなのだから、補正予算らしく短期的に効果がでることが求められる。

C先生:ということで、今回話題にする低炭素革命は、この報告書の中で具体的な施策の一番目に出てくる。まずは、成長戦略が語られ、そのトップということだ。

U.成長戦略−未来への投資
1.低炭素革命
2.健康長寿・子育て
3.底力発揮・21 世紀型インフラ整備

A君:健康長寿・子育てということが成長戦略なのかは別として、少子化対策ということで、未来への投資であることに間違いはない。

B君:次に、やはり環境関連の事項をも含む、「安心と活力」の項目もある。

V.「安心と活力」の実現−政策総動員
1.地域活性化等
2.安全・安心確保等
3.地方公共団体への配慮

A君:安全・安心の確保は、毎回議論しているように、本当は安全と安心は全く別のことなのだが、一緒になっていますね。

B君:それは仕方ないとも言える。

C先生:ところで、今回のHPは、いささか変わった記述の方法を取りたい。それは、順を追ったかなり正統的な記述をしたものが、日経エコロミーに掲載される予定だからだ。多分、4月22日のことになるだろうが。

A君:となると、そこで語りきれなかったものをこちらで先に語る。4月19日に掲載されるこの記事では、各論的な問題として取り上げる。そして、日経エコロミーに繋がって、全体的な記述を読んでもらい、そして、4月26日に掲載される予定(週末、青森にいるのでちょっと不安)のHP記事では、さて、どうなるのでしょうか。

B君:日経エコロミーでは書ききれなかった、より本音に近い議論をすることになるのでは。

C先生:そんな感じだろう。「最近の日本では、なぜ、進むべきことが進まないのか」、というのが最近の共通の問題意識なのだから。

A君:まあ、いずれにしても「低炭素革命」の実像を議論することになるのですが、今回は、いくつかの要素別記述をやることになるのでしょうね。

B君:要素別記述とすると、まずは、今回の経済危機対策での主役は、太陽電池。

C先生:「低炭素革命」での太陽電池の位置付けということを議論しよう。

A君:太陽電池ですが、現状の主力であるシリコン系の太陽電池を製造すること技術自体は、それほど高度なものではないですよね。以前は、半導体用に作ったシリコンインゴットの切り屑から太陽電池用のシリコンを作っていた。

B君:同じシリコンから作られる半導体などとは全く違う種類の技術だ。そのため、日本がどれほどこの分野で存在を示す必要があるのか、それ自身は疑問であるのだが、次世代太陽電池に向かうためにも、現状の太陽電池産業を育成しておく必要があるという理解なのかもしれない。

C先生:次世代の太陽電池、特に、量子ドット型といった方式は、半導体製造技術を活用するようなことになるかもしれない。

A君:まあ、現在競争しているシリコン系の実用型太陽電池だと、効率は、三洋のHITが世界トップかもしれない。しかし、効率競争は、余り意味が無い。

B君:だから技術の競争という要素はそれほど大きくはない。

C先生:今回の目玉は何か、と言われれば、やはり、FIT。日本にもとうとうフィードインタリフが導入されることになるか。

A君:固定価格制度ですね。家庭に設置された太陽電池からの余剰電力は、50円弱/kWhの固定価格で10年間程度の買い入れが行われることが組み込まれている。

B君:これがどのような効果を生み出すのか、ここに注目をしたいと思うが、実は、この固定価格制度は、法律的な整備を必要とするので、補正予算が国会を通過したからといって、すぐに実現するというものではないようだ。しかも、政党によっては、法律整備に反対であるとのことである。

A君:このところ、所得格差が大きな問題だから、まあそのような議論になり勝ちであることは仕方ない。

B君:だからといって、自然エネルギー導入に反対すると、気候変動に対して、消極的だというレッテルを貼られることになるから、それも政治的リスク。

A君:反対するにしても、なかなか難しいでしょうね。

C先生:それはそれとして、今回の経済危機対策として太陽電池の導入を拡大することの意味はどこにあるのか。現状と多少の将来ビジョンを検討してみたい。

A君:一つは、現時点の法律的な仕組みである「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」、通称RPS法(Renewables Portfolio Standard)という法律がどうなるか、ではないでしょうか。

B君:この法律に、再生可能エネルギーをどのぐらい導入しなければならないか、が記述されている。しかし、これまでは、その目標値が極めて低レベルであることが問題であるとNPOなどによって指摘されてきた。その目標値については、
http://www.fepc.or.jp/future/new_energy/rps/index.html
を参照していただきたいが、その目標値の推移は、次図のようになっている。




図1 RPS法による導入義務量

A君:その図を見ると、現時点では2014年までの目標値が設定されているに過ぎない。具体的には、2014年に160億kWhという導入量が目標値になっているようですね。

B君:日本の電力総需要量は大体1兆kWh。自家発電自家消費分がこの中に含まれているが、2014年における目標値は概算で1.6%程度ということになる。

A君:RPS法に定められている新エネルギーとは、風力、太陽光、地熱、水力(水路式の1000kW以下の水力発電を指す)、バイオマス(動植物に由来する有機物であってエネルギー源として利用することができるもの)ですね。

B君:2020年には20倍の導入量を目指すという言葉が経済危機対策には見られるが、太陽電池中心でそれをやろうというのだろうか。

A君:なんとも言いがたいですよね。これらの新エネルギーを、自然の揺らぎによる揺らぎをどのぐらい受けるか、という観点から分類すれば、日本の気象状況を考慮すると、
1).風力がもっとも揺らぎが大きい
2).太陽光が2位
3).リストには無いが海洋エネルギーのうち、波力とか潮流発電は揺らぎが大きい。
4).水力は、かなり安定ではあるが、渇水期には発電できない
5).地熱、バイオマスは、安定エネルギー源である。

といったランキングになるのでは。

B君:太陽光と風力は、したがって、日本のような気象状況の国での大量導入には適していないと言える。最大でも、10%程度までではないだろうか。

A君:多分そんなところでしょう。もしも、20%といった太陽光発電を導入しようとしたら、それこそ、革新的な電力系統システムが必要不可欠になるのではないでしょうか。
C先生:そこで、「電気の安定供給を実現する世界最先端の系統制御システム等開発支援」という言葉が経済危機対策には入っている。

A君:電力系統制御の話ですが、日本は、世界でもっとも停電の少ない国で、また、周波数の安定性も恐らく世界一。それを実現する日本式とでも言えるものがすでに確立しています。しかし、その目的は、今回の経済危機対策にも書かれているように、あくまでも電力安定供給ですが。

B君:それは法律的にやらざるを得ない状況になっているのだ。
 電気事業法という法律があって、その第二十六条に、次のような記述がある。

第二十六条  電気事業者(卸電気事業者及び特定規模電気事業者を除く。以下この条において同じ。)は、その供給する電気の電圧及び周波数の値を経済産業省令で定める値に維持するように努めなければならない。

 もしもこの条項に違反するようだと、罰金を科せられる。すなわち、安定供給が義務化されている。

C先生:しかし、時代は変わったとも言えるようだ。今回の経済危機対策をそのまま読み取れば、太陽光発電を大量に導入することを前提として、安定供給を目指すという方向に電気事業法に関する省令も変わっていくのではないか、と推測されるのだ。

A君:米国版グリーン・ニューディールでも、電力系統システムを取り扱うことになっていますね。それは、しばしばスマートグリッドという言葉が使われています。スマートグリッドというものが何を意味するか、となると、それは定義によるので、なかなか難しいのですが。

B君:それは、目的によるからだ。安定供給を目的とするとなると、電池などの電力貯蔵デバイスを大量に入れたものが主流だろう。

C先生:揺らぐエネルギーに対処する考え方には何種類もある。
 一つは、なんらかのエネルギー貯蔵技術と組み合わせることである。そして、供給側を固めて、揺らぎを止めようということだ。もっとも簡単には電池だろうが、電気自動車が大量に導入され、次に述べる電力系統システムがそれに対応することによって、改善の可能性が出てくる。
 別の方法は、揺らぎを打ち消すような発電設備との組み合わせることである。石炭発電や原子力発電のように、いつでも同じ量の電気を発電するのに適した設備では駄目で、小回りが利く発電設備でなければ対応不可能である。現時点だと、石油炊きの発電機がその役割を果たしているようだ。

A君:もともとロードレベリング(負荷平準化)という考え方、すなわち、ピーク負荷をどうやって抑えるか、という思想で様々な技術開発が行われました。余った電力を貯めて、必要になったときに発電に回すシステム開発です。その典型例として古くから揚水発電というものがあります。発電所の上と下に貯水池を設けて、電力が余ったら下の貯水池の水を上の貯水池に汲み上げるという方法で電力を水に変えて貯蔵している。

B君:しかし、最近、揚水発電は出番が極端に減っている。それは、過去、夏の甲子園の高校野球の決勝戦の放映を、エアコンで冷やした部屋で見るとき、と言われていた電力消費のピークが、余り問題にならなくなった。それは、最近では発電設備が充実したためだ。

A君:しかし、目的が揺らぎの防止ならば、揚水発電の発電機を、もっと小規模のものにすることによって、揺らぐ電力への対応に特化するという可能性はある。

B君:それが現実的な方法かもしれない。しかし、もっと長期的な戦略を考えるのであれば、もっと効果的なものは、中規模なものとしては、余った電気で水を電気分解して、発生した水素を水素ガスタービンや燃料電池で発電に使う方法がありそうだ。

A君:さらにマイクロな規模であれば、家庭でガスを燃料とした高温型の燃料電池を運転することで揺らぎ分を発電して平滑化し、安定した電力に変換してから、電力供給網へ流し込むことではないだろうか。

C先生:これも毎回言っていることだが、この最後の方法を実現するには、電力事業者とガス供給事業者の密接な連携が求められるのだが、現状では、ガスによるENE−FARMと呼ばれる高分子電解質型燃料電池を使ったコジェネ、すなわち、電気と熱の同時供給による電気を、電力網に戻すことは許されていない。

A君:ENE−FARMは、電気と給湯との両方ができるもので、最高エネルギー効率が80%にも迫ろうか、という機器ですね。

B君:電気とガスとの協調といったことになれば、それこそ画期的な進展になる。

C先生:しかし、心配もあるなあ。今回のフィードインタリフ制ができたとしても、余剰電力のみの買い取り。となると、ENE−FARMで昼間の電力を供給することが有効になる可能性がある。

A君:となると、いよいよENE−FARMで発電した電気を買い取ることは無い。

B君:そんな感じか。

C先生:いずれにしても、このような状況ではあるのだが、太陽電池によって発電された電力の固定価格買取制度が導入される可能性が高くなってきた。

A君:誰がこれを支持し、誰がこれに反対するか。

B君:この制度をどのぐらい支援するか。そこに、その人やある団体が「地球環境をどのぐらい重要視しているか」、という本音が如術に現れるので、大いに着目に値するな。

C先生:次の話題は、先ほど、日本版の安定供給を目的とした先進的電力網の話をしたが、米国のスマートグリッドはかなり違うという話をしよう。

A君:まあ、定義が違うとでも言うのでしょうか。

B君:米国流のスマートグリッドは、どうみても、電力網で商売しようというものではない。むしろ、インターネットと電力網を合体して、新しい情報産業として儲けようといった発想だ。

C先生:日本の場合もIT技術は重要ではあるのだが、消費サイドの機器まで制御しようという発想はまだ無い。

A君:以前、そんな冗談を言っていたことを思い出しますね。

B君:動作可能な最低電圧を設定して、機器の値段を変える、という話だったか。エアコンを例とすれば、電源電圧が110V以下だと動作しないもの、100V以下だと動作しないもの、90Vまで動作するもの、と例えばだが、3種類の機器を作る。

A君:価格は、当然のことながら、110V仕様の機器は安価である。90V仕様の機器は高価。

B君:電力供給網への自然エネルギーの流入量が低下して、電源電圧が下がったとすると、110V仕様の機器は動かなくなる。需要が減るから、電力網は安定する。さらに電圧が下がって100V以下になると、100V仕様の機器は停止する。

C先生:当然、その機器の値段の差の分は、電力会社に対して払うということになる。
サービスをいつでも受けたい場所、例えば、老人用の部屋には90V仕様のエアコンを設置する。

A君:110V仕様の機器を90V仕様に設定を変更することも可能で、その切り替えは、なんらかの双方情報伝達によって、申請する。

B君:これが我々の「冗談グリッド」だったのだが、米国のスマートグリッドは、この「冗談グリッド」をもっと高度にしたようなものだ。

C先生:米国版のスマートグリッドは、需要側の機器をすべてインターネットに接続して、外部から制御を可能にしたシステムを考えているように思える。

A君:それも当然で、現在、スマートグリッドを検討しつつある企業としてGoogleがあることからも分かるように、インターネットの活用技術の延長線上にスマートグリッドが存在しているのですから。

B君:日本版の「冗談グリッド」は、顧客側が機器を選択することができるのですが、どうも米国版スマートグリッドは、電力事業者側が、その制御を勝手にやることが前提のように思える。

A君:この機器はちょっと止めさせて、といった感じでインターネット経由で制御することも可能にする。

B君:安定供給を前提にしていれば、顧客側の要望を聞くことも可能なのだが、米国版のスマートグリッドは、不安定供給を前提にしているので、顧客側の要望を受け入れていたら成立しない。

C先生:しかし、米国人がそんなシステムを受け入れるのだろうか。例えば、この部屋は、重症の病人が居るからエアコンはしっかりと利かせておきたい。という主張は必ずあるはず。

A君:米国人は、これまで好きなだけ電気とガソリンは使うのだ、という思想で来たから、いくらスマートグリッドだといっても、それを受け入れるとは思えないですね。

B君:むしろ、昔の日本人なら受け入れるような気がする。

C先生:まだまだ先のことなので、しばらくは様子を見ることだろう。いずれにしても、日本版のスマートグリッドは、安定供給が基調になることは確実だ。

A君:太陽電池だけではなくて、低炭素革命として、以下のような項目のリストがあるのですね。

B君:まあ付録だな。

C先生:付録だけでは面白くないので、赤字でコメントを書き込んで終わりにしよう。


付録 低炭素革命 その他の項目

(2)低燃費車・省エネ製品等
低炭素及び我が国自動車産業の競争力強化のため、我が国の優れた技術力・環境力を活かしつつ、次世代自動車をはじめとする環境対応車の開発・普及を推進する〔2020 年に新車販売の5 割がエコカー〕。また、省エネ機器の普及促進等を実施する。
<具体的施策>
○環境対応車への買換えなど普及促進
 コメント:燃費をちょっと改善した普通車まで買換え普及促進の対象にしているのは、納得しがたい。
○公用車の環境対応車への買換え促進
 コメント:当然のこと。しかし、レクサスのハイブリッドを買うのか?
○グリーン家電(テレビ・エアコン・冷蔵庫)の普及加速(「エコポイント」の活用等)
 コメント:このアナウンスのせいで、買い控えが起きているらしい。早く実現しないと。
○建築物のゼロエミッション化加速(2030 年までに新築公共建築物での実現を目指した開発等)
 コメント:ハウジングメーカーはすでに実現しているのだから、当然とも言えるが、屋根の面積が少ないので、大変かもしれない。
○住宅等の省エネ化(エコハウス化)加速〔当面3 年間で300 万戸〕、長寿命化等の促進
 コメント:福田首相の200年住宅という目標の方がクリアーだ。
○燃料電池、ヒートポンプの普及促進、CNGスタンドの整備促進
 コメント:是非、燃料電池を電力系統への接続をすべき。
○「地域版グリーンニューディール基金」の創設 等

(3)交通機関・インフラ革新
運輸部門を中心とした交通・都市・地域の更なる低炭素化を進めるため、低炭素交通機関の世界最速開発・最速普及や低炭素交通・物流インフラの整備等を推進する。
<具体的施策>
○低炭素交通・物流インフラの革新(超電導リニアの実用化技術確立〔2016年度まで〕、実験線延伸の工事促進[2013 年度中早期]等、中央新幹線の調査促進、フリーゲージトレインの実用化評価実施〔2010 年夏を目途〕、電池式省エネ路面電車の実用化技術確立〔2012 年度を目途〕、船舶版アイドリングストップ)
 コメント:高速道路の真ん中に鉄道を設置することはいかが?
○高効率船舶技術開発〔2012年までにCO2 を30%削減〕、非接触給電(IPT)ハイブリッドバスの実用化技術確立 等
 コメント:バスはハイブリッドにしないで、電気バスで行けるのではないだろうか。

(4)資源大国実現
都市鉱山開発、国際的な資源獲得戦略、水処理技術の国際展開の強化等により、「資源大国日本」を目指す。
<具体的施策>
○レアメタル等を含む製品のリサイクルシステム構築(「都市鉱山」活用)〔今後3年間で携帯電話1億台(約3.2トンの金)の回収を目指す〕
 コメント:金以外の資源も重要。ハイブリッド車のリサイクルの大方針を決めるべきだ。
○石油等の上流権益確保への支援強化、海洋資源開発
○世界の水市場参入〔3年以内に和製メジャー第一号の創設を目指す〕
 コメント:フランスに負けているので、なんとかしないと。ただ、日本国内は公共水道が良いと思う。
○原子力産業の基盤強化 等
 コメント:具体的に高速増殖炉と書くべきだ。さらには、ガラス固化体のプロセスの見直し、最終処分の情報をもっと公開することなども必要。