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   藻類バイオの活用の条件
       07.07.2013
        




 7月5日の夕刻から、函館で松永是先生(東京農工大学長)が研究総括を努められる”藻類バイオエネルギー”のCREST+さきがけの合同班会議で、「気候変動とバイオ起源のエネルギー −藻類バイオエネルギーが使われる条件を探る」と題する40分ほどの講演を行った。

 松永先生のグループのターゲットは、藻類バイオの生物学的な限界を決めている様々な遺伝子レベルや代謝メカニズムなどでの機構を明らかにして、その極限を探るといったことを目的としている、と理解している。

 一方、地球レベルや社会的な要請は日々変化しているので、ある環境対応技術が完成したとしても、使われるとは限らない。

 今回、藻類バイオエネルギーが使われる条件としてどのようなものがあるのかを説明してみることが講演の目的であって、その目標年次は2050年とした。

 なお、使用したPPTファイルの抜粋は、このアドレスからダウンロードすることが可能である。
http://lebenbaum.art.coocan.jp/PPT/index.html



C先生:函館に始めて行った。行ったことのない観光地として有名な大都市として、ほぼ唯一残っていたところなので、喜んで出かけた。函館山の夜景、五稜郭、摩周丸しか見ていないが、後ほど、写真でも少々ご披露したい。

A君:本題ですが、藻類バイオエネルギーが使われる条件として、いくつ提示したのですか。

B君:PPTファイルを見ながら、代弁しよう。条件は、次の6つ。

条件:地球温暖化防止の重要性が社会全体で理解される
条件
:今世紀の人類の行動が、温暖化の未来を決めると社会が認識していること。将来対策を取れば良いという訳ではない。
条件
:社会が化石燃料について正しく知っている。
条件
:社会が自然エネルギーを良く理解している。
条件
:自動車用などのエネルギーの未来像を理解している。
条件
:栽培面積、必要エネルギー、栄養分などが現実的であること。

A君:条件1は良いとしますか。これまでも述べていることですから。繰り返しになりますが、地球温暖化は防止の対象であって、温暖化そのものが被害の実態ではない。被害は、中緯度であれば、偏西風が蛇行しやすくなるなどの影響、乾燥地帯が北上するなどの影響があって、要するに、(1)気候が荒くなる、(2)植生が変わってしまう、という2種類の影響がある。農業の適地が変わるので、現時点での有名産地、例えば、長野はりんごが、いつのまにか長野はももになる。これが被害として認識できるかどうか、という問題。

B君:一つだけ藻類バイオエネルギーとの関係が深そうなのは、淡水の供給が不足しそうだということ。ヨーロッパ、特に、地中海の周辺地域、トルコ、ギリシャ、スペイン、ポルトガル、フランスの一部などの話。それに北米中部の穀倉地帯から太平洋岸。これらの地域では、淡水を使った藻類バイオエネルギーは、恐らく不可能と思われる。海水を使う藻類バイオを目指す以外に無さそう。

A君:条件2ですが、地球温暖化がある程度のレベルを超すと、後戻りの効かない現象が将来起きてしまう。その最たるものが、グリーンランドの陸氷の溶解。これで、5mほども海面が上昇すれば、少なくともゼロメートル地帯は大被害だし、バングラデシュなどの低地の耕地は失われる。こんな認識を持てるかどうか。

B君:もっとも重要なポイントなのだけれど、現在、二酸化炭素を中心とする温室効果ガスを出しているが、どうしてもダメなら、後から二酸化炭素を吸収する技術ぐらいできるだろう、と考えている人もいるのではないか。

A君:例えば、ネガティブエミッションの話ですか。次の図は、≒2℃上昇シナリオ、≒3℃上昇シナリオを実現しようとすれば、このグラフに近い排出量の削減を行う必要があるという図です。


図 ネガティブエミッションの説明図

B君:≒2℃はもはや実現不可能で、それは、2070年以降、排出量を負にしなければならないから。

A君:もっとも実現の可能性が高いと言われている対策技術がバイオマスCCS。森林を伐採し、バイオマスで発電。排気ガス中のCO2を分離し、海底の泥の中に隔離するという方法。

B君:どのぐらいの量が処理できるのだろうか。

A君:現時点で放出されているCO2の半分以上が大気中に残存し、半分より少ない量は地球が吸収していますが、吸収源は海と森林が大部分。海が2/3、森林(土壌)が1/3と考えれば良いのでは。

B君:年間80億炭素トン程度のCO2が排出されているとすれば、40%が吸収されているとすれば、32億炭素トン。その1/3とすれば、約10億炭素トン。

A君:しばらく前のデータでは、年間72億炭素トンの排出時に、森林の吸収量は9億炭素トン程度と見積もられていたようです。

B君:日本が排出した二酸化炭素のうち、日本の森林が吸収したと考えられる量は?

A君:日本の森林が吸収しているとかんがえられる二酸化炭素は、8300万トン/年という考えられているようで、日本の排出量を13億トンとすれば、約6%。

B君:いずれにしても、森林の吸収量は比較的少ない。もしも、すべての森林を伐採して、そこにある炭素を海底の土壌中に隔離したら、何トン減らすことになるのだろう。

A君:世界森林資源評価という報告書があって、それによれば、炭素蓄積量は、2890億炭素トン。
 大気中の二酸化炭素量が現在8000億炭素トン(濃度400ppmとして)、産業革命以前の定常状態では5700億炭素トン。その増加量が2300億炭素トンなので、世界中の森林を一気に伐採して処理すれば、産業革命以降に増加した二酸化炭素量の処理はできることになりますね。

B君:だからといって、それをやれば、大気中の産業革命時点の二酸化炭素に戻るとは限らない。海洋中などに存在する二酸化炭素などの挙動をすべて考えないと。

A君:いずれにしても、バイオCCSで維持できる処理量は、1年間で森林が吸収した量までとするのが現実的で、約10億炭素トン。この数値が、このグラフに書き込まれた可能量です。

B君:しかし、それを上回る人為的な放出量があるとすれば、濃度が減ることはないので、大気中の濃度を減らそうとすれば、排出量を大幅に下げる必要がある。

A君:すなわち、後でなんらかの対策を取ろうとしても、それは不可能。不可能なことをやるとすると、それには莫大な費用がかかる。これが条件2。

B君:条件3:社会が化石燃料について正しく知っている。

A君:これは、最近のシェールガス、シェールオイルなどの開発。さらには、石油価格が高騰していることで、様々な石油などが開発されるようになった。石油が速く枯渇すれば、地球環境問題にとってはプラスだったものが、まだまだかなり石油が残っているということになると、問題は却って厄介。いかにして我慢をするかという、人類にとってもっとも難しい問題に取り組まなければならないから。

B君:これはそんなところでよいだろうか。
 それなら、次は、条件4:社会が自然エネルギーを良く理解している。

A君:自然エネルギーの大量導入を、本当に世界中でやるのでしょうか。自然エネルギーは高いですからね。化石燃料を適当に燃やすということで、なんとでもなると考えているビジネスマンが多いようですから。

B君:原発を日本国民が受け入れなければ、恐らく、自然エネルギーを導入する以外に方法はないので、その方向が指向され、価格の上昇に耐えられなくなるまで続くのでは。

A君:まあ、もしも大量の自然エネルギーが導入されたとすると、そのシナリオとしては、WWFによる世界100%自然エネルギーシナリオというものを検討すれば良いのでは。

B君:極めて非現実的だと思うけど、確かに、一つの極端な例だと言えるだろう。

A君:風力と太陽光を大量に導入すると、不安定な発電が多くなる。期待される発電量を1とすると、条件がやたらと良いときには、すなわち、晴れていて太陽光はフル運転、かつ、風が適当にあって風力もフル運転とすると、期待される発電量の4倍もの出力となる。もしも逆に、条件が悪いと、1/4倍程度に減少してしまう。となると、電気を電池に貯めるか、あるいは、水を電気分解して水素を貯めるといったことが行われる。

B君:藻類バイオエネルギーには、藻類に水素を出させて水素エネルギーに使おうという分野もあったはず。

A君:そのようです。しかし、水素は恐らくこのような余剰エネルギーで作られる。現時点でも、実は、水素はかなり大量に余っていて、それは、コークス炉からの副生水素。一酸化炭素が多いので、現状の燃料電池車用には使えない。燃やされて熱として使われているはず。

B君:水素の難点は、まずは水素の物質としての特性の悪さに起因することなので、水素エネルギーを目指す藻類バイオも、他の水素技術と同様、厳しいかもしれない。

A君:自動車に搭載するとして、700気圧に圧縮して体積を縮小する必要がありますが、そのために電気自動車なら150km走行できる電気を使用すると言われてもいます。

B君:条件5:自動車用などのエネルギーの未来像を理解している。これは、藻類バイオエネルギーの対象が自動車用だということを意味する訳ではない。

A君:2050年頃の自動車は、ほとんどモーター併用型になっています。燃費と二酸化炭素排出量を考えると、そうせざるを得ない。近距離の走行には、電気だけで動き、電気は自然エネルギーで作られる。

B君:さきほど、余りにも条件が良いと、風力・太陽光から大量の電気が発電されてしまって、電気が余るという話があった。そのときには、当然、電気自動車用の電力は、契約すればタダで供給されることになる。

A君:この自動車の電池に蓄えられた電力は、家庭の電力網の一部にもなる。いわゆるスマートグリッドを構成する。

B君:そもそも、その頃になると、家庭に供給されている電力はそれほど安定なものではなくて、自分で安定化設備を持っている。ガスの供給があるところだと、ガスの燃料電池。これが小出力でほぼ常時運転していて、電力だけでなく、温水を供給している。しかし、主たる役割は、電力供給の細かいゆらぎを抑える役割を果たしている。

A君:大量の二次電池がある家は、この二次電池が同じ役割を果たす。こんな状態なので、藻類バイオで作られる液体燃料は、通常電池で走行している自動車が、長距離に出かけるときのみ使用される。ガソリンも売られているので、それでも良いのだけれど、この時代、炭素税が極めて高いので、それならばということでバイオ燃料が使われる。実態はエタノールかもしれないし、ブタノールかもしれない。あるいは、炭化水素やエステル類かもしれない。藻類バイオの出番が有りそう。
B君:要するに、炭素税の導入がなされていないと、藻類バイオの出番も無いということになるだろう。ガソリンの価格次第とも言えるが、まあ、今の2倍以内であれば、という条件付きで。

A君:電気自動車の欠点は、走行距離が短いとか、重いとかではなくて、充電時間であることは、本Webサイトでは何回も述べている。充電時間が5分を切ればまあ合格だけど、これは飛んでもない設備が必要で、できたとしても磁場などの環境問題が大きい。

B君:充電は、夜、ゆっくりやる。これが原則。そこで、自動車の電池単独で走行できる距離は、その人の使用状況によってオプションで決める。毎日50km通勤する人であれば、50km分の電力を供給できるだけの電池を積んでいる。どこか遠くに出かける場合には、液体燃料を使うのだ。

A君:自動車の状況は大体、そんなものだけれど、問題はジェット機。ジェット機は、電力では飛ばない。エタノールでも苦しい。ブタノールなら飛ぶかもしれなけど、やはり炭化水素(灯油に似たもの)が良い。それは、重さあたりの出力エネルギーの大きさが炭化水素が有利だから。

B君:このような燃料は、天然ガスから合成することは可能だけれど、ちょっと面倒。となると、

A君:もともと米国で藻類バイオエネルギーが試みられるようになったのも、軍用のジェット機を飛ばす燃料が、国産の石油だけでは不十分になるかもしれないという軍事上の動機もあった。しかし、最近では、シェールオイルが出ることが分かったので、藻類に対して冷たくなったのが現状。

B君:このような状況なので、ジェット燃料を目指す藻類バイオエネルギーというのがしばらくは主流になると言えるだろう。

A君:さて、最後です。

B君:条件6:栽培面積、必要エネルギー、必要な水、栄養分などが現実的であること。これは、重要だが、2050年頃になると、エネルギーの条件は自然エネルギーの導入で緩和されている可能性もある。

A君:栽培面積。これは極めて重要。136.9トン/haといったことが可能だという論文が初期にはあって、これだけを引用する研究者もいた。もう古い。現在では、パーム油の場合ぐらいは行けるかもしれないというところに落ち着いていますね。

B君:海水で栽培できることになれば、穀物を原料とするバイオマスは無くなる可能性もある。

A君:光合成をしない微細藻類、いわゆる従属栄養藻類の場合であれば、何を栄養源にするか、これが最大の問題。現時点で、良い原料はほとんど別の工業用用途に使われている。モラセスと呼ばれる廃糖蜜が良い原料なのだけれど、味の素の成分であるグルタミン酸ソーダなどの原料に使われている。エネルギーを作るよりも、遥かに高価な原料を使うことができるからなのです。なんといっても、エネルギーは安いのです。

C先生:大体、すべての条件をカバーしたようだ。それで、藻類バイオエネルギーは将来どうなるのだろうか。

A君:基礎科学としても面白いものが多いのではないですか。

B君:そもそも、石油だって、最近では藻類が原料だったのではないか、などという説もあるし、イギリスの南部海岸にある石灰岩の原料も藻類だったといったことも徐々に分かりつつあるので、非常に多様な藻類がいて、まだまだ見つかるかもしれない。

A君:最初に光合成を始めたのも藻類なので、何か偶然見つかるかもしれない。

C先生:現時点での科学的アプローチとしては、基礎科学的な知見を増やしつつ、藻類の能力を見極めるということで良いのではないか、という意見のようだ。このあたりのテーマなので、我々の二酸化炭素削減技術としての藻類となると、やはり、いきなり実用になるというよりも、基礎科学的知見の集積に加えて、遺伝子組換などによって、能力を高めるといったチャレンジが必要になるのかもしれない。
 藻類バイオエネルギーが日本を産油国にするとか、すぐにでも実用になるといったテレビ番組も、さすがに無くなった。最後に見たのは、2012年の正月だったような記憶がある。



付録:函館の写真数枚


函館山からの夜景。余りにも有名な場所。横に広がりすぎていて、写真にならない。


それならということで若干ズームアップ。となるとなんとなく物足りない。湾の右奥に、青函連絡船摩周丸が繋留されている。
 

五稜郭。隣のタワーからの写真。ガラス越しなので、解像力が悪い。


その摩周丸。かなりサビているが、それでも保守の状況は、青森港で見た八甲田丸(2009年)よりも良いようだ。http://lebenbaum.art.coocan.jp/Travel/AomoriSympo.htm