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  誤解を増長させる丸山式論理 08.24.2008
     新しい反温暖化本の紹介



 現在の日本で、もっとも過激な反IPCC論者は誰か、と言われれば、それは、東京工業大学の丸山茂徳教授なのではないか。

 たまたま本屋に行ったら、「科学者の9割は地球温暖化CO2犯人説はウソだと知っている」という超刺激的な題名の本を発見。宝島社新書だからそんなものだが、題名で売ろうという魂胆丸見えの情けない本であった。

 その論理の正当性・不当性を解析してみたい。
 ISBN978-4-7966-6291-8、648円+税、2008年8月23日第1刷



C先生:これまで、丸山氏の論理を解析したことは無かったので、良い機会だ。

A君:「まえがき」がこんな刺激的な記述で始まります。

 「2008年5月25日〜28日、地球惑星科学連合会(地球に関する科学者共同体47学会が共催する国内最大の学会)で「地球温暖化の真相」と題するシンポジウムが開催された。その時に、過去50年の地球の温暖化が人為起源なのか、自然起源なのか、さらに21世紀はIPCCが主張する一方的温暖化なのか、あるいは、私(丸山)が主張する寒冷化なのか、そのアンケートを取ろうとした、ところがその時次のような発言が飛び出した。『このアンケートを公表したりして、何かを企む人が出るのではないか』。
 これには驚くだけでなく、今日の温暖化狂騒曲を作りだした問題の本質があるという実感を得た」。

 (一行省略)
 「学会の数は、今日世界全体で約2000に達している。これらの科学者共同体は、趣味の会ではなく、巨額の国民の税金の上に成り立った公的役割を担い、研究の最前線を社会に伝える責任を負っている。その責任を多くの科学者が忘れているのである。
 彼らは科学者を「社会で選ばれた知的遊民」であると考え、「社会が科学者に無償の奉仕をするのは当然」であり、「それに応える社会的責任などはない」と思っている」。

 「シンポジウムで行われたアンケートによれば、「21世紀が一方的温暖化である」と主張する科学者は10人に1人しかいないのである。一般的にはたった1割の科学者が主張することを政治家のような科学の素人が信用するのは異常である。科学の世界に閉じた論争では、少数派の説ではあっても、ガレリオが唱えた地動説の例のように、後に真偽が逆転することもある。しかし、科学の世界だけでなく、社会まで巻き込み、毎年数兆円に上る巨額の国民の税金を投資する場合は違うであろう。たった1割に過ぎない科学者の暴走を許してしまった科学者共同体の社会的責任は大きい。
 またそのアンケートで10人のうち2人は「21世紀は寒冷化の時代である」と予測する。予防原則に従って、地球温暖化対策を正しいと正当化する科学史家が少なからず存在する。これは間違いである。もし予防原則に従うならば、寒冷化対策の方がはるかに深刻で重要であろう」。

 「そして、21世紀の気候予測について、残りの7人は「わからない」と答えている」。



A君:突っ込みどころ多々ですが。

B君:まず、アンケートの本文が出ていないのが問題。実際、アンケートの結果を参照するときには、その正確な表現を示した上で議論すべきだ。

A君:アンケートに答えるときには、本当に、気を使いますからね。この本の記述から推測すれば、多分、こんな風だった。

(1)「21世紀が一方的温暖化である」
     10人中1人
(2)「21世紀は寒冷化の時代である」
     10人中2人
(3)「わからない」
     10人中7人


B君:この結果から、「科学者の9割は「地球温暖化」CO2犯人説はウソだとしっている」というこの本の題名につながるのが不思議だ

C先生:ここで論理のすり替えが見事に行われている。それが商業主義的な理由によるものであって、それこそ「丸山氏は商業主義に加担し、科学者としての責任を果たしていない張本人である」という責めを背負うべきことだ。

A君:このデータに基づいて、こんな刺激的な題名の本を書いて、そして、その本の中で自分の仮説を社会に信用して貰おうなどと言うこと自体が無理。

B君:やはり科学者特有の勘違いをしているとしか言いようがない。

C先生:そういう批判をすると、反論が来る。「国際社会、日本政治、メディア、そのすべてが間違った方向に向かっているのだから、刺激的な本を書くことだって正当化される」

A君:しかし、それは出版社などのメディアを太らせることになるだけで、科学者としては、科学というものの全体の信用を失うことに寄与しているだけ。

B君:宝島社という本屋のスタンスは、もともとそんなもの。丸山氏はそれも知らないで書いたのだろうか。

C先生:社会の流れに棹をさすような主張だと、最初は、マイナーな本屋しか出版をしてくれない。そのうち、本流になればメジャーな本屋からも声が掛かるだろう、と思っているのだろう。

A君:結論から先に議論していますが、

(1)「21世紀が一方的温暖化である」
(2)「21世紀は寒冷化の時代である」
(3)「わからない」

というアンケートそのものがおかしい。極めて非科学的で、どう回答したらよいか分からない

B君:「一方的」という限定が付いていれば、それは、「地球の揺らぎは大きいから、一時期は寒冷化するだろう」、という常識的な反応をして、(1)にイエスとは言えないのがあたり前

A君:どれを選ぶと言われれば、当然(3)。より正確に表現せよ、と言われれば、「確定的なことは言えないが、もしも、温室効果ガスを出し続ければ、当然、温暖化傾向は増大するだろう。しかし、本当に温暖化するかどうか、それは地球と太陽に聞いてみないとなんとも言えない」。

B君:それにしては、(2)が2人もいるのはどういうことだろう。

A君:IPCCの第四次報告書の図にあるように、1950年ぐらいから、地球の揺らぎは、寒冷化傾向にあるようにも見える。しかも、1800年ぐらいから、地球の揺らぎは一貫して温暖化傾向だった。その傾向も終わってもおかしくない。そこで、このアンケートが、「地球揺らぎは21世紀中は寒冷化傾向になる可能性が高い」、ということを聞かれているのではないか、意図的な解釈をすれば、(2)という回答もあり得る。

C先生:アンケートの設問の設定が全くおかしいのは事実。これは、統計で嘘をつく方法などとして知られていることだ。意図的にある結論を導こうという意図があったことが、「一方的」という言葉の中に見える

A君:もしも正しく科学者の意図を聞こうとすれば、

二酸化炭素などの温室効果ガスを排出すると
(1)地球は温暖化する傾向を強める
(2)地球は寒冷化する傾向を強める
(3)分からない


(1)、(2)、(3)からどれかを選択せよ、と聞かなければならない。

B君:この問いに対して、丸山氏はどの選択をするか、というと、それは(1)以外にあり得ないのだ。なぜならば、この本の帯にもあるように、「いま日本国内でCO2の排出量をゼロにしても、気温はたったの0.00004℃しか下がらない!?」などという記述で、CO2で、温暖化が起きていることは認めている。

A君:その説明をもうやってしまいますか。この本では、p38の「IPCCの地球温暖化予測を信じるな」という節で、そんな議論をしています。何を議論しているか、といえば、それは、「二酸化炭素の温室効果については、水蒸気に比べてわずかしかない」という主張です。
 参照しているのが、東工大の生駒大洋助教の理論計算というもので、いわゆる「気候感度」すなわち、濃度が2倍になったときに、温度がどのように上昇するかについての結果です。
 簡単に言えば、

*二酸化炭素の「気候感度」は、1.5℃
*水蒸気の「気候感度」は、8℃

と結論しています。すなわち、丸山氏も「二酸化炭素を排出すれば、温度は上がる」と主張しているのです。

B君:続けて、コンピュータシミュレーションの説明もあって、そこも正しい記述がなされている。

「少量の二酸化炭素の増加によってわずかでも温度が上がると、その結果、水蒸気量がぐっと増加して、その温室効果で温度がさらに上昇する。するとさらに二酸化炭素が増加して−−−となり、暴走的に温度が上がっていく」。

A君:これをフィードバック効果と言いますが、温室効果ガスの排出が温度を上げることと、さらに、その影響がさらに拡大、場合によっては、縮小される可能性があることを説明しています。しかし、反対方向に振れる訳ではない。

すなわち、二酸化炭素などの温室効果ガスを排出すると
(1)地球は温暖化する傾向を強める
(2)地球は寒冷化する傾向を強める
(3)分からない
という質問に対しては、(1)とこの本には書いてあるのです。これは、本の題名だけを見て買った人に対しては、かなりの裏切り行為ですよね。

B君:丸山氏の主張の中身は、したがって、実のところIPCCのものとそれほど違わない。気候感度は、IPCCは3℃を中心値として、2〜4.5℃と発表し、丸山氏は、フィードバック効果が無ければ、1.5℃だという。このあたりは、同じことを言っている。IPCCは、フィードバック効果が温暖化を加速するという主張をしている。

A君:丸山氏は、
「これ(フィードバック効果)をどの時点で停止させるかがポイントとなるが、それを理論的に決めることはできない。過去の気候を参考に経験的に決めるしかない」

と述べています。

C先生:一見正しいのだが、ひとつのポイントを見逃している。現在継続している人工的な温室効果ガスの排出だが、速度的にみて、地球がかつて経験したことのないような特異現象であることだ。だから、経験的に決めることは不可能。予測的に決める以外にはない。

A君:そして、数多あるフィードバック効果のうち、水蒸気の影響については、
「その(水蒸気)の濃度が増えれば、地球の気温を高めるように働く一方で、雲になれば、太陽光の反射率を高めて気温を下げるようにも機能する。そのため、水蒸気の影響を定量的に評価することは非常に難しく、雲の影響とともに、今後の地球温暖化を予測するためのシミュレーションのモデルには、納得できる形では組み込まれていないのだ。IPCCの第四次報告書でも雲の影響については、非常に大きな誤差があることを示している。要するに雲は分からないのである」。

B君:表現の強弱が違うし、「納得できる形」というところは違うが、まあ、大筋はIPCCの結論と同じだ。

A君:そして、ここで丸山氏の最大の、かつ個人的主張が出てくる。現段階では、丸山氏の言うように「最強の要素」かどうか、誰も分からないのですけど。

 「地球の気温を決める要素はたくさんあるが、その中で最強の要素たる宇宙線量と雲の関係が組み込まれていないシミュレーションに意味があるとは思えない」。

B君:その宇宙線量と雲との関係だが、スベンスマークが1998年に提唱したものだ。もともとIPCCとは、自らが研究を行う機関ではなくて、これまで世界の科学者によって行われた研究について、科学的な妥当性を検討して、それに基づいて結論を導く組織。そのため、第四次報告書に盛り込まれた温暖化研究の中には、このスベンスマークの結果をシミュレーションに組み込んだものがなかった

A君:丸山氏の記述によれば、
「2007年に発表された第四次報告書では、スベンスマークの仮説について紹介が若干はあるものの、科学的に十分に検証されたものではないとして、これからの温暖化を予測するためのコンピュータ・シミュレーション用のモデルに宇宙線の影響が組み込まれることはなかった」、
としています。

B君:丸山氏はIPCCとは研究機関だと思っているのではないか。

C先生:繰り返しになるが、雲の影響を適正に取り扱うことは、なかなか難しいようだ。丸山氏も言うように、スベンスマークの仮説は、まだ仮説なのだ。仮説の段階で、多くの研究者が取り上げてくれない、と丸山氏はスベンスマークの代弁をして嘆いているようなのだが、仮説である以上、そんな扱いを受けるのも当然で、仮説が理論になれば、誰も無視などはしない

A君:雲をどう取り扱うか。雲に似たものとして、エアロゾルをどのように取り扱うのか、多くの課題があるなかで、ひとつの仮説が多くの研究者によって理論だと認定されないと文句を言っても、あまり有効な反論にはなり得ない。

B君:しばらくすれば、恐らくスベンスマークの仮説を取り入れたシミュレーションが研究者達によっていくつか行われて、次の第五次報告書では、しっかりと検討の対象になって、そして、その仮説の正当性が議論されることになるだろう。

C先生:IPCCというものが、どんなものであるのか、丸山氏は、頭では分かっているのだろうが、気分的に認められないという感じが伝わってくる。スベンスマーク本人がそういうのならまだ分かるが、別に自分の業績でもないものをここまで主張するのか、ということを説明すべきではないか。

A君:p41ぐらいからになるのですが、どうやって大小関係を判断したのか理解不能なのですが、気候に影響をあたえる様々な要素を考えていて、個人的に決めた「影響の大きい順番に列挙」しています。

1.太陽の活動度
2.地球磁場
3.火山の噴火
4.ミランコビッチ・サイクル
5.温室効果ガス


ということになるのだそうでして、1〜4の記述がp72まで続きます。

B君:まあ、太陽の活動度の影響は大きいだろう。しかし、その論拠となっているp43の黒点の数を考慮したとしても、アラスカ大学の赤祖父教授が主張している、IPCCのシミュレーションの弱点である1940年から始まる寒冷化の傾向が説明できる訳でもなさそうだ。

C先生:どうみても、気候を決めているすべての要素を人類が知っているとはとても思えない。丸山氏が主張する宇宙線が最強の要素かどうかを含めて、まだまだ気象学は進化の過程にありそうだ。

A君:そして、p50からになりますが、丸山氏が主張したいということが記述されていて、

「悠久の地球の歴史を振り返ってみると、通常の氷河期とは異なり、赤道にまで氷床が広がっていた時代があったとの説が提唱されている。これは「スノーボール・アース仮説」と呼ばれる学説で、約23億年前と8〜6億年前には地球のすべてが氷に閉ざされていたという」。

 「なぜ、そのような異常な事件が起きたのか、その原因についてスベンスマークは2007年に大量の宇宙線の入射が原因であると提唱し、その原因は銀河の内部で、無数の恒星が誕生し、無数の恒星が死滅し、大量の宇宙線が地球を襲ったからだと説明した」。

 「著者は2005年に、地球磁場が現在の1/2に低下したことが原因で宇宙線入射量が急増し、雲が急増したことが原因だとする新説を提唱した」。

 途中省略。

 「雲量が1%変化すれば、気温は1℃変化することを考慮すれば、地磁気が極端に弱くなって宇宙線が増加して、雲量が大幅に増加すれば、全地球を氷で埋め尽くさせてしまうほど寒冷化しても不思議ではない」。

B君:要するに、宇宙線の量が地球の気候を決めるという自らの仮説を、今後、IPCCのような機関によって認めてほしい、という願いがあるが、今のIPCCでは認めてくれそうもない、という恐怖もあるのだ。

A君:2005年に発表した論文だから、IPCCが評価するとしても、第五次報告書で、ということになる。スベンスマークのものは、2007年だからこれも同様。

B君:繰り返すが、「IPCCに認められないと、本物だと思われないのではないか」、という強迫観念があるような感じか。

C先生:丸山氏は地質学者が本業で、気象学者だとは思えないのだが、いまや地質学者としても、IPCCの影響力が無視できないということか。

A君:そうだとすると、「ここまで商業主義に毒された最悪のタイトルをもった本」を書くことが、学者としての業績を他人に認めされることに効果的に作用するとでも思っているのでしょうか。

B君:逆効果だろうね。

C先生:それでは、2章以降のことをほんの少々触れて、終わりにしよう。

A君:2章は「2020年成長の限界と人類の危機」。その主な主張は、なんとなんと、

「世界統一国家」を作れ。

B君:3章は「人口減少時代の日本の政策」。その主な主張は、これもなんと、

「人口抑制策を打ち出せ」
「京都議定書から離脱せよ」
「低炭素社会に向けた都市・農村のグランドデザインを」


A君:その説明ですが、こう記述されています。p165です。

「もっと大胆に環境経済的な手法を取り入れ、都市のシステムそのものの改造を推し進める必要がある。そして、世界に先駆けて低炭素社会の都市システムを実現できれば、それを世界に輸出していけばいいのだ」。

C先生:1章の結論から、なんでこんな結論になるのか、なんとも批評もできない。

A君:そして終章ですが、「人類のバブルが崩壊する」

B君:1章の主張を考えると、相当に奇異な結論のように思える。

C先生:相当分裂気味の論理の進め方だ。

A君:もう一度整理すると、丸山氏は、二酸化炭素の気候感度は、1.5℃だと主張している。これは、IPCCのもの2℃〜4.5℃に比べると小さいが、フィードバック機構がどうやら雲の生成によるものだけだ、と他のものを無視してしまいたいようで、そしてもともと1.5℃の気候感度は、雲によってかなり小さくなると主張したいようです。具体的な数値は不明です。そして、

(1)丸山仮説「2035年までには、地球の揺らぎによって一方的な寒冷化」
(2)IPCCの予測「一方的気温の上昇」


の比較では、(1)が勝つ、と結論しているのですが、(2)IPCCは、人工的な温室効果ガスの排出によって温暖化傾向を強めるが、実際に温暖するかどうか、それは地球の揺らぎの大きさによる。過去の多くの揺らぎと同じであれば、人工的な温暖化を止めるほどにはならない可能性が高い。だから、二酸化炭素の排出削減が必要と言っているのであって、比較の対象としては不適当ですね。

B君:丸山仮説は、IPCCの地球の揺らぎの議論の中に雲という現象を通して含まれている。しかし、確かに、宇宙線や地磁気といった事象の雲の生成への影響は、気候モデルにまだ十分に考慮されているとは言えない。

C先生:この点を、次のIPCC第五次報告書がどう評価するか、楽しみだ。
 国際政治の決定というものは、その時点における最善の知識に基づいてなされるものなのだ。なぜならば、それ以外の方法が無いからだ。一方、科学的な知識に完全なものなどはないから、徐々に、場合によっては、振動状態を取りつつも、正しいものになっていく。今後、気候感度の研究が発展すれば、精度がどんどんと上がることになるだろう。そうなれば、国際政治の方針は、その時点で修正が行われる。
 現状を記述すれば、この程度だろう。本HPの最終的な結論は、こうなる。

 丸山氏が、自らの仮説の正当性をいくら主張しても、それが仮説の段階では、国際政治は動かない。
 だからと言って、このような商業主義に毒されたタイトルの本を書くことは科学者の行為として正当化されない。