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  三笠フーズ事故米事件  09.14.2008
     



 またまたとんでもない事件が起きたものである。もやは日本という国は、その程度の国になってしまったのだ。金儲けが最優先の国になってしまったのだ。

 しかし、それにはそれなりの理由があるという議論もありうる。そのため、ここでは、健康リスクの話に集中した議論を行う。

 ここであらかじめ確認しておきたいことがある。ここでは、事故米による健康リスクのみの議論をするが、そのような議論の進め方では、正しい結論はでない。

 本来、(1)事故米には健康リスクがあるのか、(2)事故米を転用した企業の責任、(3)その企業を監督すべき省庁の責任、(4)そもそもミニマムアクセス米と食糧自給率などの問題をどう考えるのか、(5)日本全体の政治的な動向との関係、といった順番ですべてを議論すべきであって、そうでなければ、正しい結論には到達できない。しかし、今回、(1)の健康リスクに関するメディアでの議論が余りにもお粗末というか、むしろ無視されているので、ここでは、その部分の補強を行うことを目的としている。

 この(1)健康リスクの議論によって、(2)以下の議論が、大きく変わることは余り無い。なぜならば、社会の公認ルールである法律に違反したこと、不適切な違反監視状況であったことは事実だからである。

 この健康リスクの議論は、将来、法律を改正するのか、もしするとしたら、どういう方向が良いか、という議論のために使っていただきたい。


C先生:このような事件が起きる国は、情けない。先日、化学工業関係の方々と話をする機会があったが、米国に化学工場を建設すると、普段操作してはいけないバルブなどには、全部鍵をかけるのだという。一方、日本では、「常時閉」といったラベルをつるして終わり。作業員を一切信用しないのが米国流。日本流は作業員は悪さをしないという信頼を基本とする。

A君:最近の世の中、「企業は悪さをする」、「役人は悪さをする」、「力士も悪さをする」、という前提でものごとを決めなければならなくなっている。

B君:これは非常に大きな問題。米国の例を考えても分かるように、日本流の「ラベルだけ」、と比較すれば、鍵を管理することには、大変な手間と投資と人件費が掛る。すなわち、お互いに信頼できるような社会であれば、管理費は少なくて済む。しかし、米国的ななんでも管理という社会を作ってしまうと、コスト高になる。しかし、逆にいえば、雇用を確保できることでもある。

A君:政府のサイズということで言えば、小泉政権以来、小さな政府が正しい、ことになってきたのですが、それは、企業などが正しく振舞ってくれることが前提で、企業がすべて信用できないとなると、政府はどんどんと監視をする人間を配置する必要がでてきて大きくなる。しかも、政府が信用されないとなると、最悪の状態になる。

B君:政府の無駄なポジションにいる人間を回せばよいというのは、事実かもしれない。しかし、無駄なポジションにしかいられないような人材は、一般企業でも同じだが、それを新しい部署に回したからといって仕事が進むということではない。となると、新しい管理が必要になるということは、少なくとも、何名かの優秀な人材をその業務に回す必要がでてくることになる。そして、さすがに最近の状況だと、国にもそんな人材は不足している。

C先生:どの組織でも同じだ。本当に働く有用な人材は、それほど多くはない。働いた振りをして給料をもらうというスタイルを貫くことも人生の一つのやり方だからだ。

A君:過去の経験から言えば、新しい業務が来たとして、それにどう対応をすべきかを考え、適切な企画を作成し、施行し、修正し、進歩させて、確実にその新しい業務を遂行するというメンタリティーと才能を持っているのは、10人に1人いればよい。その他の人は、そのような人に積極的に協力することが重要。チームワークをかんがえても、全員が監督、キャプテンというのでは上手く回らない。船頭多くして、、、、となる。

B君:ここで問題にすべきは、いつでも補欠のような人かもしれないが。プロ野球のチームならクビになるような。しかし、企業や公務員だとクビにもできないことも多い。

C先生:全く話がずれているので、無視して、本論をやることにする。今回の話題は、日経エコロミーに同じようなことを書いているので、そちらもご参照くださいということだ。日経エコロミーは、他人のサイトなので、いつ消去されても文句は言えない。そのため、いつでも、こちらにもより本音を多く含んだ形の記事を書くことにしているのだ。

A君:さて、何を話すべきなのか。事故米のようなケースが起きたとき、どのような方法で議論をすべきか。

B君:普通に考えれば、(1)事故米には健康リスクがあるのか、(2)事故米を転用した企業の責任、(3)その企業を監督すべき省庁の責任、(4)そもそもミニマムアクセス米と食糧自給率などの問題をどう考えるのか、(5)日本全体の政治的な動向との関係、といった順番で議論をすべきことのように思える。

C先生:その通りの記述を日経エコロミーでもやっていて、そちらでは、(1)のみを取り出して、そこだけで議論をしている。

A君:ただし、(1)だけを議論することは、この問題全体に対して、決して正しい結論を導くことにはならない。(1)だけでなく(2)以下のすべてをきっちりと議論すべきである。このことは、まずもってしっかりと確認をしておきたい、とダメを押している。

C先生:(1)の話を日経エコロミーより簡単に終わらせよう。このHPの読者と、日経エコロミーの読者のレベルだと、こちらの読者の方が高いだろうから。

A君:了解。まず、汚染の実態ですが、農水省のHPにまとめられています。
 有害成分としては、
(1)残留農薬:メタミドホス、アセタミプリド
(2)アフラトキシン
(3)種類不明のカビ
 農水省から報告によれば、三笠フーズなどへの事故米の内訳は、
http://www.maff.go.jp/j/press/soushoku/syoryu/pdf/080905_2-01.pdf
で報告されているが、どうも、アセタミプリドの記述は見つからない。
 それは、9月10日に発表された
http://www.maff.go.jp/j/press/soushoku/syoryu/pdf/080910-02.pdf
に出ている。

B君:このうち、いくらなんでも(3)の種類不明のカビのリスクは不明なだけに対応不可能。特別のカビでない限り、それほどのリスクではないが。

A君:農薬系とアフラトキシンと分けて議論でしょうね。

B君:まずは、農薬系。ADIやARfDのデータから。

「メタミドホス」食品安全委員会の評価

ADI=0.0006mg/kg/day
ARfD=0.003mg/kg/day
http://www.fsc.go.jp/hyouka/hy/hy-tuuchi-methamidophos_k_200501.pdf


「アセタミプリド」食品安全委員会の評価

ADI= 0.071mg/kg/day
ARfD= 0.1 mg/kg/day
http://www.fsc.go.jp/iken-bosyu/pc2_nouyaku_acetamiprid_200619.pdf

 ADIとは、Acceptable Daily Intakeであって、日本語では、一日摂取許容量。その物質を「ヒトが一生涯にわたって毎日摂取し続けても、健康に影響をおよぼさないと判断される量 」である。

 ARfDとは、Accute Reference Doseのことで、日本語では急性参照用量。これは「24時間又はそれより短時間の経口摂取により、ヒトの健康に悪影響を示さないと推定される量」である。

A君:どうもアセタミプリドの毒性は比較的低いようですね。

B君:メタミドホスだけ考えれば良さそうだ。メタミドホスの残留濃度は、最大0.05ppmだったようなので、200gの米を食べたとすると、
 残留農薬の摂取量=200(g)×0.05(ppm)/50(kg)=0.2μg/kg=0.0002mg/kg

A君:50で割っているのは、50kgのヒトを仮定しての話。

B君:ADI、ARfDと比較すると、もっとも厳しいメタミドホスのADIの1/3ぐらいとなって、この濃度なら、一生食べ続けても大丈夫という結論になる。

C先生:農水省の見解は後ほど検討ということにして、この残留農薬の基準というものが、実は、健康リスクを考えて作られたものではなくて、全く別の観点から作られたものである説明が必要かもしれない。しかし、それも後でやろう。ということで、アフラトキシンに行く。

A君:アフラトキシンですが、20ppb(ベトナム産うるち米)、50ppb(中国産うるち米)があった。

B君:アフラトキシンは、肝臓がんを起こす最強の毒物と言われている。日本の輸入食品の規制は、本当は、「検出されないこと」、になっているのだけど、実際には、10ppb以上のものはダメという判断になっている。

C先生:アフラトキシンに対する基準は、国によってかなり考え方が違う。なぜならば、アフラトキシンを生成するカビが生息する地域と、生息しない地域では、リスクが違うからだ。日本は幸いにして、アフラトキシンが生息しないことになっている。そのため、アフラトキシンは輸入食品にしか含まれていないのだ。10ppbという日本の規制値は、どちらかというと緩いと言えるだろう。

A君:今回、それを2倍、5倍と超えた訳だ。

B君:メタミドホスも5倍。アフラトキシンも5倍。

A君:発がん物質なので、ADIとかは設定されていない。

B君:日本人の平均的な摂取量は推定値で、もっとも毒性の強いアフラトキシンB1について0.04ng/kg/day(7〜14 才)=0.00004μg/kg/day ということらしい。
http://www.maff.go.jp/syohi_anzen/profiles/aflatoxin.pdf

A君:もしも20ppbのベトナム産うるち米を100g食べてしまうと、体重1kgあたり、0.04μg/kg/day程度となって、平均的な摂取量の1000倍にもなってしまう。とにかく、できるだけ摂取しない方が良いのだが。

B君:今回のアフラトキシンを含んだ米は、やはり健康リスクがないとは言えない。

A君: アフラトキシンは、肝臓がんを引き起こすが、今回の事故米に由来するアフラトキシンのリスクを計算した例が、ブログとしてすでに存在していることを発見。
http://b.hatena.ne.jp/entry/http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20080910%23p1

B君:筆者は内科医のようだな。この内科医は、2chで流されたデマを潰したかったようだ。

そのデマの内容は、

26 :名無しさん@九周年:2008/09/09(火) 08:03:40 ID:D6YpWmJZ0

肝臓がん患者は事故米が流通し始めた10年前から西日本を中心に爆発的に増加中です。
肝臓がん患者の推移の資料図
http://ganjoho.ncc.go.jp/resources/graph_database/images/OSV1015_08_1958-2005.jpg
http://ganjoho.ncc.go.jp/resources/graph_database/images/OSV1016_08_1958-2005.jpg
http://ganjoho.ncc.go.jp/resources/graph_database/images/OSV1098_08_2005.jpg
http://ganjoho.ncc.go.jp/resources/graph_database/images/OSV1099_08_2005.jpg


要するに、西日本に肝臓がんが多いという理由を、三笠フーズが大阪に存在することと関連付けて、述べたもの。本当の理由は、B型、C型肝炎が肝臓がんの原因であることと、その患者が関西に多いこと。

A君:その筆者であるNATROM氏のブログは、なかなか読む価値があるものだ。特に、わけも分からず反論を書いてくる読者に丁寧に説明をしているのがエライ。

B君:有害物質のリスクというと、全く分からない人々が多いものだから、それをうまく操ってこの世の中に不安を作る出そうという試みをどうやら潰したようだ。

A君:NATROM氏の結論は、10万人について0.0018人/年がこのアフラトキシンのために肝臓がんになる。

B君:一般に、水道水の基準とか、ミネラルウォータの基準とか言ったものは、10万人に毎年1人が死亡するというリスク、すなわち、10**−5以下に規制をすることを目標にしているから、この値は、少ないと言えば少ない。しかし、それも当然で、アフラトキシンの総量が少ないからだ。

A君:10万人が均等に食べようが、そのうちの10人が食べようが、統計的なリスクは変わらないのですが、有害物質の量が少ない場合には、そのリスクを10万人で平均的に負担するか、それとも10人で負担するか、ということになるので、もしも10人で負担すれば、1万倍高いリスクを個人的に背負うことになる。まあ、10トンもの米だから、10人で平らげることは不可能で、1人10kgも食べることもないと仮定するのが妥当。となると、リスクを目一杯大目に見積もって1000人が平均的にリスクを背負ったとすると、その1000人については死亡リスクが、10万人について0.18人/年程度となる。このリスクは、ミネラルウォータ中のヒ素のリスクとほぼ同程度水道水のリスクよりはちょっと高いぐらい。そして、航空機に乗るリスクの10倍ぐらい。あまり高いとは言えないが、無視もできない。1万人で今回の汚染米を平らげたとしたら、ちょうど飛行機に乗るリスクぐらい。

C先生:まあ、いずれにしても、今回の事故米では、メタミドホスによるリスクは無視できるが、アフラトキシンによるリスクは大きくはないが無視できない程度。違反の程度は、いずれも2倍から5倍未満程度。この差はどこから来るかを知ってもらいたい。

A君:それに対して、農水省はこんな見解。
 農水省は、アフラトキシンについて「三笠フーズがカビの塊を取り除き、米粒を洗浄するなどして出荷しており、健康被害の心配はない」、メタミドホスについても「検出されたのは残留基準(0.01ppm)の5倍の量で、この程度なら体重50キロの大人が1日600グラム食べ続けても国際基準の許容摂取量を超えることはない」としている。

B君:アフラトキシンの解釈は甘い。メタミドホスはその通り。

A君:いよいよ本題ですね。アフラトキシンは、明らかに健康リスクが増大した。しかし、メタミドホスは、健康リスクが全く増加していない。しかし、規制はある。それは農薬には、平成18年5月から、「ポジティブリスト」という考え方が導入されたから。

B君:それは、従来、農薬にせよ、有害な化学物質にせよ、「使ってはいけない品目」のリストを作ることで規制をしてきたが、ポジティブリストとは、「使ってよい品目」のリストを作ることで規制を行う方法である。農薬であれば、ある農作物について、使ってもよい品目を定め、残留濃度についても、使ってもよい品目のみについてリスクを考慮して定めているのだが、使ってはいけない農薬についてはリスクを考慮せずに、一律に、極めて低い濃度を基準値と定めている。

A君: 農薬側からみれば、ある作物については、リスクを考えて許容される残留量の数値が決まっているのだが、それ以外の作物については、一律に許容される残留量になっている。その値が0.01ppmという値である。

 以下にメタミドホスについて、そのリストを掲載。
http://www.ffcr.or.jp/zaidan/psl.nsf/e5a12ed07e0016774925667c0017478b/6d2cdfeb593a3f86492566440027c3c1?OpenDocument

    単位はppm
大豆        0.05
ばれいしよ    0.25
てんさい     0.05
キャベツ     1.0
芽キャベツ    1.0
カリフラワー    1.0
ブロッコリー    1.0
レタスなど    1.0
トマト       2.0
ピーマン     2.0
なす        1.0
他のなす科野菜  2.0
きゆうり含む。)  1.0
メロン類果実  0.5
もも       1.0
その他の果実  0.1
綿実       0.1
なたね      0.1
ホップ      5.0

B君:この表にコメがない。ない場合には、一律に、0.01ppmという値が規制値になるのがルール。そして、今回、0.05ppmのメタミドホスが見つかったので、5倍の基準オーバーとなった。

A君:ピーマンとかトマトの基準は、コメの200倍である2.0ppmといった値である。コメはピーマンやトマトの200倍食べるからそうなっているのではない。もともと、想定外の農薬は0.01ppmを基準値とすると決めているので、そうなっている。

B君:これは、法律的な論理性を確保するという理由で行われていることであって、健康リスクを基準にした議論とは全く無関係。

A君:しかし、将来、食料供給に限界が見えてきたときには、別の考え方を導入することもあり得る。

B君:もしも焼酎の回収がアフラトキシンを意識してのことならば、当然。もしもメタミドホスへの暴露を警戒してのことならば、それを止めるということは十分にあり得るのだが、今それを止めることは、微妙な現状で大きな政治的な問題になりかねないので、できないのだろう。

C先生:こんなところが真相。福田内閣は、間もなく消えるようだが、その内部での農水省対消費者担当との争いとか、この事故米騒ぎが、どちらの党に有利だとか、そんな噂が耳に入ってくるのが実情。

A君:さて、どんなことが結論になるのでしょう。

B君:ひとつはアフラトキシン。このカビ毒は、食というものの安全にとって、非常に大きな示唆を与える。日本だと、輸入食品を摂取しなければ、問題はないのだが、もっと気温の高い国では、あるいは、トウモロコシなどに関しては、抑止が非常に難しい毒物だ。

A君:日本にいると、食には完全に安全なものがある、と誤解をしてしまいがち。しかし、アフラトキシンがそんなのは幻想であると厳しくメッセージを出してくる。いくら健康によいと言われているものでも、同じ食材を大量に食べるのは、リスク回避の観点からは奨められない。やはり多品種を選択するだけでなく、生産国や、メーカーまで満遍なく均等に選択するのが、リスク回避の最大のコツだということになる。

B君:健康食品は、特に、薬効性があるのだから、余計に危ない。食の最大のコツはこだわりを捨てることだ。なんでも食べるのが政界。

C先生:今回のメタミドホスは、犯罪行為であった毒入りギョーザの場合とは全く違って、こんな話なのだ。少なくともポジティブリストは、まだまだ始まったばかり。一般的な理解が不足している。しかも、これだけが原理原則という訳ではない。いくらでも改善の余地はあると思う。食材供給不安が高まったときには、別のルールを導入することになりそうに思う。