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    テスラ・モデルSとトヨタ・ミライ 
   09.14.2014
         これらに弱点はないのか、また、この車のオーナーになる人は?




 米国テスラモーターのテスラモデルSが日本で発売になった。同社のCEOであるイーロン・マスク氏は、将来、米国の産業界を支える逸材だと言われていることもあって、話題性が高い。

 日本のメディアも、フル充電で502kmも走る、という点を強調しているだけでなく、賞賛しているように見えるが、果たして、この車に弱点は無いのか。どうも、買っても後悔が無い人の条件はかなり限られるように思えるのだが。

 トヨタのFCV車は、ミライMiraiと命名されたようだ。今年度中に発売されると言われるこの車のオーナーになる人は誰か。



C先生:本日の話題は4つに分かれるだろう。

1.テスラのモデルSは、最近、米国を中心にかなり売れている。しかしといって、日本で確実に売れるとは言えない。さて、どうなるか。買って後悔しない人の条件は?
2.今年度のどこかで、トヨタは水素燃料電池車の販売を始める。価格は700万円台で、補助金がかなりあるようなので、現実的な価格になるかもしれない。年産700台のこの車は果たして売れるのだろうか。誰が買うだろうか。
3.電気自動車と水素燃料電池車の環境負荷はゼロと主張されるが、本当のところは?
4.最後に、東京オリンピック2020で使われる自動車は何か。

 ただし、3.の話題は、まとめて語るのではなくて、様々に散りばめられて語られている。

1.テスラモータースのモデルSは日本で売れるのか

A君:まずは、テスラのモデルSの仕様から。日経新聞の9月9日号の12面からの引用。
★税込み価格:823〜1081万円
★フル充電時の航続距離:390kmタイプと502kmタイプがある
★充電時間:200Vのコンセントでは、1時間で85km走行分を充電
★充電方式:家庭用電源プラグでも可能。チャデモ方式も可能。
★電池容量:60kWh あるいは 85kWh
★サイズ:497×218×143cm
▲重量:この肝心のデータがないので、テスラモータズのカタログを見ると、2108kg(電池の少ないモデルだろう)

B君:さて、燃費ではなく電費はどのぐらいなのだろう。60kwhの電池で390kmだから6.5km/kWh。電池の多い方は85kWhの電池で502km/だから、5.9km/kWh。やはり、電池を多くすると重くなって、その分、電費が下がるようだ。

A君:C先生のプリウスPHVは、車重が、1410kg。これで、実用的な電費は約6km/kWh。車重と電費はほぼ比例するだろうから、まあ、実用燃費は4km/kWhぐらいでしょう。60kWh分をチャージできると仮定しても、まあ240km走れば良い方ではないですか。85kWhチャージできれば、340kmぐらいでしょう。

B君:日経新聞が掲載している上記のスペックだけれど、記述の1箇所が確実に誤解を与えている。それは、充電時間:200Vのコンセントでは、1時間で85km走行分を充電というところ。これは日本向けの情報としては、虚偽記載と言っても良い。85km走行分というと、電費を4km/kWhとして21kWh。これだけの電力を200V単相のコンセント経由で1時間で供給するということなので、100A以上の電流を供給することになってしまう。日本での家庭用のコンセントであれば、200V単相なら、普通、15Aが上限。ということは最大3kW。となると、200V単相で1時間で供給できる電力で走行可能な距離は、たった12kmぐらいということになる。


PHEV用に設置した充電器。立派に見えるけど、容量は実は3kWでしかない。ケーブルの太さから見れば当然だけれど。


C先生:日本の200Vのコンセントだとそんなものだ。モデルSの説明に使われている200Vのコンセントは米国版か??
 実際、プリウスPHVは、ハイブリッドモードで走っている状態から上の写真の充電器でフル充電をすると、3.5kWhぐらいの電力量が入る。所要時間だけれど、3kWhぐらいまではほぼ理論値で速いのだけれど、満充電に近くなると、かなり慎重に充電をするので、1時間45分といったところだ。これで、季節にもよるが、平均的に21kmちょっと走ることができる。

A君:それにしても、7倍の違いは誤差とは呼べないですね。20kWなどという電力を供給できるコンセントがあるとは思えないのだけれど。
 ということでTeslaのWebサイトを調べました。米国のコンセントの規格が多数あって、こんなことになっていました。



図1 米国のコンセントの規格

B君:なるほど。NEMA14−50というコンセントは、キャンピングカーなどに使われるもので、240V−40Aで10kWも取れるのだ。待てよ、それでも20kWは取れないが。

A君:その通りですね。テスラがオプションで提供しているデュアル・チャージャーというものを付けケーブルを2本つなげば、合計20kWということのようです。

B君:これが日経の「充電時間:200Vのコンセントでは、1時間で85km走行分を充電」の実態

A君:どう考えても、日経のこの記者は自分自身で何も調べていない。いや、取材した内容に疑問も持てないのかもしれない。あるいは、聞いたことを正確に伝達しているから、「記事としては正確だ」と主張する典型的文系の記者か。そろそろ、読者に誤解を与えないような情報伝達のみを正確な記事と定義しなおす時代になったと思います。それでやっと、偽情報が溢れるインターネットと新聞との差別化が可能になって、新聞というメディアの生存のための必須条件だと思いますね。

C先生:電気自動車が売れるかどうか。それは、いつも議論しているように、その車で、年に1回の家族揃っての遠出、特に、暮れの渋滞の中で里帰りをする気になるかどうか。その根拠は、普段1人で乗っているのに、ワンボックスを買う家庭が多いこと。モデルSは、5人乗りではあるけれど、オプションで5+2にすることが可能らしい。2はトランクの場所に後ろ向きのチャイルド用シートが付けられるとのことなので、乗車定員的には条件を満たすけど。

A君:車の値段からみれば、ユーザの層は全く違いますね。まあ、それは、良いでしょう。

B君:高い方の85kWhモデルの実走行距離を320kmと推定した。

A君:冷房は比較的効率が高いので良いのですが、暖房を入れた瞬間に、日産リーフもかなり航続距離が減ると言われていますね。

B君:暖房はどうやるのだろうか。調べても分からない。厳冬下の暖房をヒートポンプでやるのは結構厳しい。まだ、電気ヒーターを使う方がまし。

A君:しかし、空気を電気ヒーターで暖めるというのは、簡単なのですが、相当な電力消費になってしまう。

B君:テスラ社のページを色々と調べてみた。そして、見つけた。
http://www.teslamotors.com/it_CH/forum/forums/climateheating-system-cold-weather 
これによれば、ヒートポンプ型のエアコン暖房らしい。しかも、シートヒーターも使えるようだ。

A君:寒くなれば、当然、バッテリーが弱ってきて、航続距離も下がりますね。

B君:モデルSのレビューの記事がある。
http://www.greencarreports.com/news/1077706_2012-tesla-model-s-will-winter-weather-ruin-its-range
 まず、この記者がもっている情報では、シボレー・ボルト、日産リーフは、冬になると40%ぐらい航続距離が下がる。
 もしも0℃付近以下になると、25%ぐらい航続距離が短くなるという推測が正しいという記事があった。
http://www.teslamotors.com/it_CH/forum/forums/model-s-performance-winter-canada

A君:大型で4km/kWh程度と電費があまり良くないモデルSですけど、冷蔵庫は大きくなるほど消費電力が下がるという特性があるので、車の暖房についても表面積と体積の関係は同様だろうから、暖房の影響は小型の車よりも少ないのかもしれない。

B君:それにしても25%減れば、240kmが最長の航続距離だということになる。急速充電はフル充電しないだろうから、この80%で192kmになる。山形までにやはり2回の充電が必要。

A君:いまさらですが、そう言えば、米国EPAは、車の燃費を発表していますよね。電気自動車についてもあるのでしょうか。調べてみましょう。ありました。これです。
http://www.fueleconomy.gov/feg/Find.do?action=sbs&id=32557
 数字は、89マイル/Geですね。Geというのは、電気ガロンで、33.7kWhのことのようです。4.23km/kWhとなって、我々の推論4km/kWhとそれほど変わらないですね。

B君:EPAが公表しているの車の燃費は、日本のJC08などと違って、その気になれば出すことができる実用燃費だ。いつだったかヒュンダイのソナタの燃費を過大に発表したのがバレタが、このEPAの燃費は、かなり正確な実用燃費だと言える。

A君:いつもの”仮想ケース”は、暮に東京から山形まで里帰りをする。大体400km。1回のフル充電で可能なら行けるかもしれないけれど、モデルSの場合には2回の充電。かなり微妙な性能で不安が大きい

B君:テスラは、スーパーチャージャーという充電設備を全米112箇所に作っている。しかも、モデルSがここを使う限り、充電の電気代はタダとのこと。しかもすごいのは、30分で170マイル=270km走るだけの充電ができるということ。なぜなら、この充電設備の出力は120kWもあるから。200Vのキャンプカー用のNEMA14−50を使った設備のなんと12倍の出力。もっとも、EPAの電費を使えば、30分の充電で、航続距離190kmということになってしまうけど。

A君:日本には、残念ながらまだ2箇所しかなくて、両方とも東京。今後、どこに作るのかも明らかでない。

B君:スーパーチャージャーも、NEMA14−50という規格のコンセントもない状態だと、車庫に設置できるチャージャーは、200V15Aの3kW。これでモデルSを充電すると、85kWh版のモデルを少々電気を残した状態で帰宅したとして、25時間ぐらい掛かることになる。ということは、モデルSを買ったとして、フルに走れば、翌日は丸一昼夜、充電日になる。これだと、日本でも、やはり2台目以降の車だということになる。

A君:日本で家庭に400Vを導入するにはいくら出費がかかるのやら。そもそも、コンセントの規格がどうなっているのですかね。
 そして、本日の3番目の課題が、環境負荷は本当に低いのか、ですが、これはなかなか難しい問題。米国の電気代は安いことは安いし、原発もまだ生きているのですが、やはり化石燃料が主体の電力ですね。

B君:米国の電力からの二酸化炭素排出源単位は、2005年頃で大体のところ570g−CO2/kWhぐらいだった。しかし、石炭の変わりに天然ガスを使う発電が増えてきて、2012年には、15%ぐらい減少して、485gCO2/kWhになっている。

A君:この数値は、2012年の日本の電力会社の中でもっとも低い値である中部電力の512gCO2/kWhよりも低く、ほぼ平均値である代替値は550gCO2/kWhですから、これよりかなり低いのです。これがシェール革命の効果を示しています。だから、米国は温室効果ガス削減にかなり積極的な姿勢を見せることができるようになった。

B君:ということは、85kWhで、約41kgのCO2を排出することになる。日本の2015年版排出規制値が139gCO2/km

A君:モデルSが41kgのCO2を320kmの走行(米国内)で出したとすると、128gCO2/kmとなって、まずまずなのですよ。ちょっと意外。

B君:ということは、モデルSの環境負荷は、米国の場合だと、同クラスのガソリン車よりはかなり低いということになる。例えば、キャデラックCTSの6.2LモデルEPA燃費が21MPGは、260gCO2/kmぐらいですから、まあ、半分と言える。

A君:話変わって、今回、まだ議論していないのですが、電気自動車のバッテリーの寿命は、大体5年ぐらい。というよりも充電回数で決まるといった方が良いかもしれません。大体500回ぐらい、多くても1000回と言うべきでしょうか。

B君:バッテリーの保証がどうなっているのか。Webサイトによれば、8年間、走行距離は無制限、となっている。リチウムバッテリーは徐々に容量を失うので、実際、何%になれば無償交換が行われるのか、良く分からない。

A君:これもちょっと探してみました。
http://www.teslamotors.com/fr_FR/forum/forums/battery-warranty-model-s
 ここに回答があって、容量が70%以下になったときには、交換するということのようです。

B君:それにしても、8年経過して、バッテリーを交換したらいくらになるのだろう。

A君:それも答えがあります。
http://www.teslamotors.com/it_CH/forum/forums/battery-replacement-cost
あらかじめ払っておけば、85kWhモデルの場合、$12000ドルで交換してもらえる。120万円以上を最初から払うかは大問題。

B君:この問題は、なかなか微妙だな。8年を経過したモデルSの中古車価格はいったいいくらになるのだろう。電気自動車のモーターは、8年経過しても劣化はしていないから、十分に走るだろう。しかし、電池が弱り始めた車をいくらで買うか。

A君:確かに。しかも、バッテリーの価格は、8年後に相当下がっているはず。そのとき、あらかじめ$12000を払うかが大問題。

B君:いずれにしても、決断を迫られる。しかし、かなり不確実性が高いなあ。なぜなら、電池自体の価格は確かに多少下がるかもしれないが、テスラの電池は実は、パナソニックの18650という大きめの単3電池のような円筒形の電池を大量に使ったもので、かなり大変な仕組みなのだ。1本で3.7 volts 2600mAh。すなわち、9.6Wh。85kWhのモデルだと、9000本ぐらいの搭載が必要。この方式だと、電池の単価はすでにかなり下がっているし、その逆に生産性が上がらないので、余りコストが下がらないと推測できるのだ。

C先生:このあたりがモデルSの真実。まず、この車は、米国では3台目の車。いつも通勤に使う車、奥さんが買い物に行く車。そして、3台目がときどき楽しむためのモデルS、ということになる。
 モデルSは、今年の4〜6月の米国での販売台数が7579台売れた。かなり売れていると言える。これは、もともと3台目の車として買う人が多いこと、さらに、スーパーチャージャーなどの充電設備があること。家庭にも、NEMA14−50の10kWのコンセントが設置できることなど、日本といささか違う条件があるからだと考えれば良いのではないだろうか。
 加えて、日本で電気自動車を使うよりも、米国の方が電力の排出源単位が低い分、環境負荷が低い。しかも、電力はタダみたいなものという考え方が米国人にはあるし、実際、スーパーチャージャーを使えば、モデルSの走行費用はゼロ。
 ということで、売れている車が、環境の全く違う日本でどこまで売れるか、それは、かなり疑問ということになる。日本でも、2台目の車として買える人だけが関心を持ちそうに思う。


2.今年発売の水素燃料電池車(FCV)、TOYOTA Miraiは、誰に売れるのか
 Mirai(ミライ、未来)は、年間700台製造され、700万円台で販売される予定。販売開始は、今年度末までのどこか

C先生:さて、水素だが、その本質などについては、今回の話題ではない。次回にでもまとめてみたいと考えている。

A君:なぜ水素燃料電池車が未来的か、ということを多くの人に聞いてみると、排気ガスが水だけ、という答えが多いですね。しかし、だから環境負荷が低いと考える人はまあ素人です。

B君:なぜトヨタがこの車を作ることになったのか、いくつか可能性はあるけれども、一つは、すでにハイブリッド(HV)車が余りにも一般的になってしまって、トヨタとしても、新しい未来的イメージが欲しい、ということだったのではないか。

C先生:イメージの点は、後ほどの議論にしよう。まずは、EVに対して、FCVがどのような利点があるかあたりから。

A君:ミライは、700気圧に圧縮した水素を燃料に使います。カタログ上ではありますが、航続距離は700kmと言われています。

B君:この航続距離ならば、1000km走ることも比較的簡単なHV、1100km走れるPHEVともまあまあ勝負になる。

A君:しかし、問題は水素ステーションの整備がどこまで進むか。やはり自分の家から10km以内に水素ステーションが欲しいですね。

B君:しかし、それが都会では結構難しい。なぜならば、やはり水素は危ないと思われているから。特に、700気圧以上に圧縮されている水素なので、余計にそう思える。だから、水素供給ステーションは、かなり広い面積を求められる。それに、水素を700気圧に圧縮して貯めなければならないので、そのための圧縮機の電力供給も相当の大規模にならざるを得ない。満タンにして700km走ることができるミライだけれど、そのための水素を単に圧縮するだけの電力を使ってこの車を走らせれば、150km走ると言われている。

A君:ということは、電力の排出原単位が大きい国になってしまった日本では、水素は決して環境負荷は低くないということになってしまう。

B君:まあそういうこと。

A君:これは3.の話題なのですが、排出する二酸化炭素は、水素をどうやって作るかに依存するのですが、普通に天然ガスあたりから作ると、二酸化炭素排出量は、FCVの方がPHVよりも多くなってしまうのです。

B君:こんな状況で、どのぐらい売れるのか。それは、かなり長期的な視点でものを考えないと。
 毎回言っていることなのだけれど、まずは、IEAの2050年予測が大体正しいのではないか、と思うのだ。すなわち、FCVが18%、電気自動車が20%、PHVが35%、HVが15%、その他が通常のガソリン車を含めて12%ぐらいといった分布になるのでは。

A君:ここで問題は、PHVというものの多様性で、電気自動車に充電専用の内燃機関を積んだレンジエクステンダーを含むかどうか。まあ、含むという解釈になるのでしょうか。

B君:そう思う。PHVというものの定義が、モーターと内燃機関の両方を搭載した車で外部電源からの充電が可能なもの、ということになっているだろうから。

A君:水素の作り方を変えない限り、FCVの環境負荷は低くならないのだけれど、2030年を過ぎると、自然エネルギーから水素を作ることが主力になって、この水素はLCA的に二酸化炭素の排出量がゼロなので、環境負荷が格段に低いものと言えるようになる。

B君:その時代をイメージすれば、現時点でも、明らかに化石燃料を燃やす装置を持っているPHVよりも先進的に見える。

A君:純粋のEVも、全く同じで、電気がどうやって作られるかに依存することになりますね。自然エネルギーだけ、あるいは、原子力もまあまあですが、これら一次エネルギーを使った発電による電力ならば、環境負荷は格段に低いことになる。

B君:しかし、現時点での環境負荷は決して低いとは言えない。

C先生:結局、FCVは、誰にも向く実用車というよりも、すでに水素ステーションにアクセスができる人だけが買う。となると、最初は、霞が関には水素ステーションがあるから、やはり政府関係だろうか。東京には、あと数ヶ所しかない。成田空港にもあるけれど、政府関係はこのところ羽田空港だろう。実際、羽田にもある。

A君:他の地域で比較的密度が高いのが、福岡・北九州・鳥栖付近。

B君:大阪は関西空港、大阪市内と2ヶ所か。ちょっと無理か。

C先生:やはり普通の人が買うようになるのは、自宅から10km以内に水素ステーションがあること。さらに、少なくとも高速道路に100kmごとぐらいに水素ステーションが整備されてから、ということになるだろう。


4.東京オリンピックで使われる公用車は何かの予測

C先生:先日、東京オリンピックで使われる技術について、記事を書いたが、もう一つ考えなければならないことが、東京という地域のヒートアイランド現象をいかに緩和するか、ということ。なぜなら、真夏のマラソンコースの温度をできるだけ下げるために、様々な工夫が必要だからだ。

A君:水のミストを吹くとか、あるいは、地下にトレンチを掘って、多少とも冷風を吹き出すとか、様々な方法がありそうですが、使う自動車からの発熱量を抑えなければならないのは当然ですね。もっとも有利なものが、ほとんどすべての排出を発電所で行ってしまって、エネルギーのエッセンスとでも言えそうな電力だけを使うEVが排熱量が少ない

B君:FCVの場合だと、高分子型固体電解質を使った燃料電池の発電効率は35%ぐらいだと思われるので、電力への変換時に65%は熱になっているものと考えられる。

A君:FCVは水しか出さないと言うと実はウソで、かなりの熱を出しているのですね。ヒートアイランドを回避しなければならない東京オリンピックのマラソンの随伴車としては、EVの方が良いことになる。

B君:2020年には、EVは全く先進的な感じを失っているだろうから、当然のことながら、多少不利は分かっていても、使われる車はFCVになるだろう。要するに、一般人向けのイメージが重要だから。

A君:実体の方も対応する策が無いわけではなくて、走れば走るほど、二酸化炭素が減る水素というものを作って、それを使うことも不可能ではない。いわゆるネガティブエミッションを実現する水素ということになりますが。

B君:まあ、そこまでやるかだが。

A君:実は、燃料電池車は、上海の2010年万博ですでに使われているので、それだけでは新鮮味も限定的、だから、本当に環境負荷を下げるということが平行して行われないとダメなのでは。

B君:ではやることにしよう。具体的な方法が存在しない訳ではないのだから。

A君:ネガティブエミッション水素は、こうやって作ることができます。原料は、バイオマス。これを炭化します。そのときに温度にもよりますが、高温にすれば、水素が発生する可能性があります。その他のガスは、このプロセス内のエネルギー源として使用。そして、得られた炭素は、土壌改良材として使用し、水素は精製して燃料電池車用にする。これで、土壌改良材に使う炭素分がマイナス分になります。なぜならば、エネルギー源として使われる部分の燃焼によって排出される二酸化炭素の炭素分は、もともとバイオマス起源なので、いわゆるカーボンニュートラルの考え方で、ゼロだと見做すことができるからです。

B君:色々と調べてみても、ネガティブエミッションの水素を作ろう、すなわち、炭と水素が二つの目的物という研究は比較的少ないようだ。

A君:絶対にどこかでやられていますよ。もっと探せば。しかし、ネガティブエミッションを目標にするということだけなら、排気ガスをCCSで隔離するという方法論もありますね。

B君:その通りなのだけど、ちょっと力ずくの感じがある。炭ならば、どこかに埋めるということが可能だけれど、COをCCSでとなると、処理が大げさになってしまう。

A君:いずれにしても、東京オリンピックで使われるであろうFCV車の分だけでも、ネガティブエミッションの水素を作るという目標であれば、なんとか実現が可能なので、是非とも、史上初だということでやってみて欲しいですね。

C先生:考えてみれば、電力についても、CCS付きのバイオマス火力発電所を整備して、東京オリンピックの競技用に使われる電力だけは、ネガティブエミッションだったという実績を作るのも悪くはない。これならかなり未来を先取りすることになる。これが実現すれば、ゼロ・エミッション水素で走るFCVミライだけではなく、ゼロエミッション電力で走るEVも新鮮味が出てくるので採用される可能性がある。