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シリーズ「持続可能な循環型社会」
  レアアース:日本国内でリサイクル? 
  
  実例で検討するリサイクル その3  07.05.2015 




 本日の記事のきっかけとなった話題は、「モリコープが破綻」です。

 どうも、レアアースという元素に対する理解も、かなり偏っているようです。そもそも、レアメタルとレアアースの違いが分かっていない人も多いように思えます。本記事を読まれて、レアアースについて、もっと知りたいと思われた方々には、次のサイトを推薦します。

 レアアースの通説と正と誤 by JOGMEC
http://www.jogmec.go.jp/library/metal_003.html

 本題に戻ります。モリコープは米国のレアアースとレアメタルの生産会社ですが、6月25日に、破産法の申請を行ったことが報道されました。「事業を迅速に再建するため」とのこと。本年末までに再生期間を終了する目論見のようです。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM25H7Z_V20C15A6FF2000/

 モリコープの破綻の原因は、中国にあります。しかも、これが初めてではありません。しかし、中国だけが悪い訳でもなくて、日本もきっかけを作った当事者だったりします。
http://toyokeizai.net/articles/-/46267
http://topics.smt.docomo.ne.jp/article/toyokeizai/business/toyokeizai-72868

 2011年ごろには、レアアースの価格高騰が起きたときへの対応のために、日本国内でレアアースのリサイクルの検討をを行うべきではないか、と考えました。

 現時点でのモリコープの破綻を教訓にすると、その結論はどうなるのでしょうか。



C先生:レアアースという言葉を正確に知っている日本人は、何%いると思う。個人的見解としては、余り多くはないと思うのだけど。それ以上問題なのは、最近、関心がとみに薄れているような気がすること。環境への関心が東日本大震災以後薄れたのとほぼ同じ傾向ではないか、と思うこともある。人間活動が引き起こすリスクという考え方を失った日本人。大規模な天災に敵わないのは事実だけれど、諦めが先行し、何をやっても同じだよ、という考え方になれば、地球環境が危うくなっていることが認識できなくなる。そして、自分自身を苦しめるだけならまだ許せるが、現実は、将来世代が苦しむことになる。

A君:資源供給の持続可能性も、地球環境の一つですね。さて、レアアースとは17種の元素を表現する集合名詞。英語で書くとRare Earthで、より正確にはRare Earth Elements。Rareは「希な」、Earthは、普通には「地球」という意味ですが、それ以外にも、土とか土壌という意味もあります。見た目が土のような鉱石から得られる希な元素というような意味ではないですか。実際には、それほど「希」ではないのが真実の姿ですが。

B君:レアアースの発見史を見れば分かるけれど、イットリウム(Y)という元素が1794年に発見された。次がセリウム(Ce)で1806年。そして、最後に発見されたのが、ルテチウム(Lu)で1907年。

A君:元素の発見に大きく貢献した業績は、メンデレーエフの周期律表ですよね。元素が表になっていて、まだ、発見されていない元素は空欄になっていた。周期律表ができたのは1869年の学会発表だとされていますが、そこで、アルミニウムに似た元素と、ケイ素に似た元素が見つかるだろうと予言しました。1875年にアルミニウムに似たガリウムが、1886年にケイ素に似たゲルマニウムが発見されました。

B君:メンデレーエフの最初の英語版の周期表というものがあって、1891年のロシア語版を英訳したもののようだけれど、レアアースの一つ(?)として、Didymiumという元素が載っている。これは元素ではなかった。どうやら、プラセオジムとネオジムとの混合物だったらしい。要するに、これから何が分かるのか、と言えば、レアアースというものは、他の元素と分離するのも難しければ、レアアース同士を分離するのも難しい。それは、化学的な性質が似ているからだった、ということだ。

A君:という訳で、なかなか単独の元素として分離されなかったものだから、地球上に余り存在していない、と誤解され、その意味で、レアアースという呼び名になった。日本語では、希土類と言います。しかし、それほど「希」ではなくて、むしろ、分離が難しかったために、見つからなかったという解釈の方が正しいです。

B君:いずれにしても、現在の周期律表で示せば、次図のようになる。


図1 周期律表上のレアアース17種を黄色で示す。

B君:これから先の記述では、元素記号も使いたい。そこで、日本語名との対照表を示しておくことにする。


表1 レアアース 17種の元素記号、名称など

A君:歴史的に見ると、精製された上で工業的に実用になっていたレアアースが、ガラスの研磨剤としてのセリウムCeで、その酸化物粉末が使われていました。それ以前にもオイルライターの発火石(フリント)などの実用例がありますが、精製ができなかったので、ミッシュメタルという混合物の状態で使われています。原理は、指で回転させるヤスリで微粉化したセリウムが空気中で酸化されるときに発火するというものでした。

B君:セリウムの鉱石として、モナザイトという鉱石が世界各地で採掘されていた。ところが、モザナイトは弱い放射性を示す。それは、トリウムThを含んでいることが多いからだ。

A君:本日の話題のモリコープという企業は、1951年に操業を開始していて、1954年には、モザナイトの生産量が世界で1万トンになったということです。多分、Zippoのライターの発火石には、当時のモリコープのミッシュメタルが使われていたのではないですか。
http://www.jsnm.or.jp/group/rea-earth.html

B君:セリウムの次の用途が、鉛ガラスに変わる高屈折率の光学ガラス用にランタンLaが使わていた。それから、イットリウムY、ユウロピウムEu、テルビウムTbなどブラウン管テレビ用や蛍光灯用の蛍光体だろうか。

A君:日立キドカラー(希土の意味)という商品があったことを覚えておられる人は、かなりの年齢層になってしまった。どうも1968年に売りだされたものなのだから。

B君:人間で1968年生まれと言えば、もうすぐ50歳。キドカラーは、1980年台までは使われていた言葉らしいが。

C先生:懐かしい話になっているが、その頃には、まだレアアースという日本語は一般化していなかった気がする。希土類という名称だったと思う。まず、用途が余りなかったとも言える。希土類を使った製品がメジャーになったのは、磁石分野が1990年台。レーザー用の母材や発光中心用の元素として使われてはいるが、それほど大量に必要になるというものではなかった。今や希土類を使うことが当たり前になった材料が、永久磁石だ。

A君:縦軸が出荷額なので、よく分からない点はありますが、磁石の種類が変わっていることが良く分かる図があります。


図2 磁石別の国内生産金額

B君:鉄とマンガン、亜鉛などを使ったフェライト磁石が、鉄とネオジムとホウ素、あるいは、サマリウムとコバルトを使った希土類磁石(今となっては、レアアース磁石と呼ぶべきか)に出荷金額では圧倒されているということがよく分かる。

C先生:これまでの検討で分かることは、希土類の用途に関して、色々なイノベーションが行われているということだ。しかし、イノベーションがある故に、商品には常に寿命がある。発火石は、禁煙が進んだので、すでに趣味の領域か。ブラウン管用の蛍光体に使われていたレアアースが、テレビが液晶になったお陰で、使われなくなった。実は、蛍光灯にも同じ蛍光体が使われていたが、今後、照明がLED化していくので、蛍光体のビジネスは大幅に減るだろう。果たして、同じことが磁石にも起きて、将来、希土類以外の磁石が主流になるということが起きるのか。

A君:個人的には、ネオジムを使った磁石を超える性能を持たすのは難しいような気がしますね。磁石というものが、ブラウン管が消えたように、なんらかの技術革新によって、全く不要になるということも考えにくいような気がします。ということは、ネオジムは、将来と磁石用に使われるということなのではないですか。

B君:なんとも言えない部分はあるけれど、ブラウン管と蛍光灯が消えて、蛍光体がなくなると同じことが、磁石という機能に起きるかどうか。確かに無さそうな気がする。現時点で磁石は、主としてモーターに使われるのだけれど、昔のような電磁石を使ったモーターでは性能がでないし、消費電力も、また、サイズもかなわない。

A君:まあ、常温超電導体の開発に期待するのでしょうか。もしもそんな線材ができれば、モーターも全く変わったものになるかもしれない。

B君:当分無理だろうと思うけど。

C先生:となると、ネオジムぐらいは、将来の供給不安に備えて、リサイクルをするという考え方はあり得るかもしれない。量的な検討をしてみてくれ。

A君:ネオジム焼結磁石の世界年間生産量ですが、世界合計で、8万トンぐらいのようですね。この磁石の主な組成は、Nd:Fe:B=2:14:1。原子量がNd=144、Fe=56、B=11で計算すれば、Ndの量は、全体の30〜40%ぐらい。約3万トンぐらいということになりますね。

B君:年間3万トンぐらいか。量的にはちょっと中途半端かな。値段次第なのだけれど。銅は、きちんとリサイクルされている元素なのだ。世界全体の生産量がざっと年間2000万トン。日本だけでも、年間輸入量が140万トンぐらい。だから商売になっている。また、リサイクルしやすいという特性もプラス。さらに言えば、日本には、銅精錬業が存在していることだ。

A君:銅の国際的な価格が6ドル/kgぐらい。ネオジムの価格が100ドル/kgぐらいだったとしても、マーケットのサイズは、相当に小さい。50倍近く違う。

B君:リサイクルが成立するほどの市場ではないのかもしれない。

A君:となると、ネオジム磁石をある一定量以上含む使用済み製品は、値段が高くなったときのために、どこかに保存しておくという方法を採用しない限り、リサイクルはできないのかもしれない。リサイクルの工場を国内に作るかどうか、それはまた別の検討が必要。

B君:次の図にNdの2011年からの価格の推移を示すけれど、最高価格は500ドル/kgぐらいだったのだ。そうなると、マーケットサイズも10倍程度の違いになって、何かやれば成立するというレベルなのかもしれない。


図3 ネオジムNdの価格推移 軽希土類のすべてのデータ
http://www.neomag.jp/mag_navi/statistics/rare_earth_newprice2.php

C先生:その時期は、中国が輸出を制限したために、ほぼすべてのレアアースの価格が上昇したときだ。そのとき、ネオジムより問題になったのが、ジスプロシウムでこれは、ネオジム磁石の耐熱性を高めるために、必須とされたレアアースの一つだ。

A君:そうでした。次の図が、ジスプロシウムの価格推移です。


図4 ジスプロシウムDyの価格推移 テルビウムも含む
http://www.neomag.jp/mag_navi/statistics/rare_earth_newprice2.php

A君:永久磁石にはある温度を超すと磁力を失ってしまうという限界があるのですが、ネオジム磁石の場合には、ジスプロシウムを1%添加すると耐熱性が15℃ぐらい上昇するという話でした。

B君:プリウスのモーター用に使うジスプロシウムが入手できなくなると、これは大変だ、ということで、大きな話題になった。

A君:中国が輸出制限をしたということで、WTOに提訴して、結局、中国もWTOには勝てなかった。それは、中国も製品輸出で生きているような国だから、製品を輸入している欧米に輸入禁止の口実を与えるようなものだったので。

C先生:いよいよ本題であるモリコープの破綻の話に近づいて来た。2011年に余りにもレアアースの価格が上昇したもので、それまで生産を控えていたモリコープが設備投資を増やして生産力を増強したのだ。そうしたら、価格が急降下した。ネオジムはすぐさま下がったが、ジスプロシウムはしばらく高止まりしたものの、やはりその後急激に価格が下がった。そして、モリコープは利益を出せなくなった。

A君:中国に翻弄されてしまう企業、それがモリコープという話ですね。

B君:なぜ、中国に翻弄されてしまうのか、それが最後に解明すべきことになる。

A君:それは簡単でして、世界に多数あるレアアースの鉱脈の中で、中国のイオン吸着鉱と呼ばれる鉱脈だけが、生産コストが安いのです。

B君:そもそもジスプロシウムのようなレアアースは、もともと地殻のどこに存在しているのか。

A君:そもそも、レアアースの起源ですが、それは、「マグマ由来」。しかも、数億年をかけて地表に移動した火成岩にレアアースは含まれています。ところが、大きな問題があります。マグマには、トリウムとかラジウムとかいった放射性元素が多いのです。代表的な火成岩である花崗岩は、日本だと国会議事堂の材料ですが、パリのほとんどのビルの素材でもあって、そのためパリの自然放射線の被曝量は、東京と比べると、年間1mSvぐらい多いのです。

B君:年間被曝量が1mSvぐらい増えるということは、東京からパリに赴任したら普通に起きてしまうこと。これを誰も怖がらない。ところが、放射線の被曝量が年間1mSv程度増えることは、大変な健康被害をもたらすと考えている日本人が多い

A君:火成岩から直接レアアース、特に、重希土類を採取しようとすると、含まれている、トリウムとかラジウムなどの放射性元素を処理しなければならないので、コストが高くなるのです。ところが、中国には、イオン吸着鉱と呼ばれる不思議な鉱脈があって、これには、トリウムとかラジウムがほとんど含まれていない希土類の鉱脈が存在するのです。

B君:イオン吸着鉱の成因を説明している良いページが見つかった。これを見て欲しい。
http://www.jogmec.go.jp/library/metal_005.html

A君:風化した粘土層に留まっているレアアース類は、肥料にも使われてきた硫酸アンモニウム(硫安)が解離剤に使えるので、簡単にレアアースを採取できるのです。このイオン吸着鉱のお陰で、中国は、レアアースを安価に産出できるのです。しかも、このイオン吸着鉱には、多くの重希土類が含まれているのです。

B君:という訳で、中国のレアアース生産が世界全体を支配してしまった。同じサイトにある次の図が、1990年から2009年までの生産国の推移を示している。


図5 1990年〜2009年までの生産国の推移
http://www.jogmec.go.jp/library/metal_005.html

B君:この図に、中国の安値攻勢という言葉がありますが、1996年から、米国はモリコープを含めて、苦境に陥ったのだ。そして、レアアースの生産は中国に独占された。

A君:この図の先のデータは、次の図になります。


図6 2004年〜2013年までの生産国の推移
http://mric.jogmec.go.jp/public/report/2015-03/06_201504_REs.pdf

C先生:この図で、今回のモリコープの破綻に関するすべての状況が分かる。2011年になって、中国の輸出制限によって価格が上昇すると同時に生産量も落ち、これが、米国のモリコープにチャンスを与えた。モリコープは、中国が輸出価格を高く維持するだろうと読んで、設備投資を行って、2013年には、市場の4%を獲得した。しかし、日本からのWTOへの提訴などもあって、最終的な価格は、前に戻ってしまった。すなわち、モリコープの予想が完全に外れた訳だ。
 この図からの教訓は次のようになるだろう。世界のなんらかの資源がある国によって独占されていることは、それ自体が大きなリスクだということだ。モリコープは、そのような判断ができなかったものと評価すべきだろう。
 さて、本題のリサイクルだが、レアアースのリサイクルは、現状であれば、市場のサイズが小さいこと、技術革新が行われることによって、市場サイズが大幅に変わる可能性があること、などなどの事情があるので、リスクの大きな商売なのだ。今後も、なかなか進まないだろう。しかも、中国が独占的に産出しているので、精製工場も中国に独占されることになる。精製工場がないところに、リサイクルだけの工場を設置することは、リスクがますます大きい。すなわち、日本国内にリサイクル工場を建設すること自体が、かなり難しいのだと理解すべきだろう。特に、日本国内の場合には、排水などの環境規制が厳しいことも、一つの制約になるだろう。
 むしろ、なんらかの製品レベルでのリユースを考えた方が良いのではないだろうか、とも思う。しかし、リユースというものは、規格などがしっかりしていること、商品寿命が長いことが大前提なので、現時点での経済活動では、否定されがちだ。どうやら、人類がもっと困らないと、レアアースのリサイクル、特に、日本国内でのリサイクルは実現が難しいのかもしれない。