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   モントリオール議定書の改定
     
オゾン層保護から温暖化対策へ 12.18.2016
               



  今回の記事は、10月15日のことで、いささか古い話題です。このところ、パリ協定がらみで色々と考えて来ましたが、この話題を抜かすことはできませんので、2ヶ月遅れですが、記事にすることにしました。
 オゾン層破壊は、地球環境問題の中では、かなりしっかりした対応が取られた問題だったと言えるでしょう。それは、1987年に採択されたモントリオール議定書が、費用分担に至るまで、しっかりした枠組みを持っていたから、と言えるかもしれません。
 別の解釈もあり得ます。モントリオール議定書が規制の対象にしたのは、オゾン層破壊物質という塩素を含んだ冷媒であったから、と言えるのかもしれません。要するに、塩素を技術的に除くことが可能であり、それによる経済的損失も、かなり限定的であったということです。
 一方、気候変動枠組条約が難しいのは、二酸化炭素の排出量は、エネルギーの使用量と比例関係にあり、エネルギーの使用量は、その国の経済活力と正しく比例関係にあるという、まさに国の存立に関わる問題だから難しいのだ、とも言えます。
 さらに言えば、気候変動の被害を受ける国は、島嶼諸国あるいはバングラデシュのように低標高国、あるいは、将来強大になることがほぼ確実な台風、サイクロン、ハリケーンの被害を受ける国、降水量の減少の影響が大きい乾燥地帯の国などで、どちらかと言うと経済発展からやや取り残された国である、という要素も大きいのかもしれません。オゾン層破壊は、まさに大気の問題ですから、海面上昇の影響に比べれば、まだ均等に影響を受けることになりますし、しかも、それを受ける被害者になる人への影響と言えば、白人種で南極に居住地域が近い人々が、強力になる紫外線によって、皮膚がんになる確率が高まる、すなわち、先進国の国民であるといったことであることも影響していたとも言えます。
 さて、それで何が決まったのか。画期的なことが決まりました。2016年10月15日のことですが、温室効果ガスであるフロンの削減の枠組みが決まったのです。ルワンダのキガリ(気候ネットのHPには、ウガンダのキガリとありますが間違いです)で決まったので、「キガリ改正」と呼ばれています。

    
C先生:パリ協定で、今世紀末までに、CO排出量のゼロを目指すことが決まったが、温暖化ガスとは、COだけではない。「温暖化6ガス」とか「温室効果ガスは6種類」とか言われていて、
 1.二酸化炭素 CO
 2.メタン CH

 3.一酸化ニ窒素 N

 4.ハイドロフルオロカーボン類 HFCs
 5.パーフルオロカーボン類 PFCs
 6.六フッ化硫黄 SF

であったが、平成27年(2015年)に改正法が公布され、7番目の物質が温室効果ガスに分類された。それが、
 7.三フッ化窒素 NF

A君:同時に、COと比べて何倍の温室効果があるかの指標である「地球温暖化係数」も最新版になりました。
 次の表1がそれです。

 表1:温室効果ガスと地球温暖化係数の一覧表 

B君:温室効果ガスというものは、太陽エネルギーを貰っている地球は、赤外線を宇宙に放出して温度を一定に保っている訳だけれど、その赤外線を吸収しているガス。ガス類は分子の構造上、多少は赤外線を吸収していて、宇宙に向かって放出されるはずの赤外線の一部を、地球に向けて再放出してしまう。その効果が大きいものを温室効果ガスと呼ぶ。その効果によって、地球は太陽エネルギーの一部を溜め込むことになってしまう。そのエネルギーが大気に向かえば、気温の上昇が起き、海洋に向かえば海水温度の上昇になる。海洋の熱容量は、大気の1000倍ほどなので、温度上昇は見かけ上極めて少ないけど、溜まるエネルギーの量は大きい。
 実際のところ、水(水蒸気)が最大の赤外線吸収源。それなら、水がなぜ温室効果ガスと言わないのか、と言えば、それは、人為的に出しているものではないから。メタンや一酸化ニ窒素も温室効果ガスではあるけれど、人間活動、特に、農業・畜産業などからの排出が多いので、排出制限の対象にはなりにくい。

A君:それに比べれば、今回問題にする主として冷媒に使うガスの特徴は、炭素とフッ素が結合していること。排出量はかなり少ないのだけれど、何が問題かと言えば、大気中での寿命が非常に長いこと。大気中の分子の多くは、太陽の紫外線で分解をされるのだけれど、炭素とフッ素の結合は非常に強いものだから、そう簡単には切れることはない。ということは、量的には大したことはなくても、地球の気候に対する影響は大きいのです。

B君:表1でもっとも温暖化係数が大きいのが、大分類で言えば六フッ化硫黄で、分子構造はSF。大気中の寿命が3200年となっている。ところが、PFCは何種類もあるので、寿命は色々なのだけれど、実際に冷媒として使われていたHFC−23の寿命は、14800年とSFより遥かに長寿。しかも、SFの使用量は、1990年を1とすれば、現時点で0.2ぐらいまで下がっている。一方、HFC類は2倍以上の増加、NFは、絶対量は少ないが30倍近い増加になっている。SFは、電気絶縁性の気体なので、高圧電力のスイッチングなどで生ずるアーク放電を消すために使われていたけれど、最近では、別の技術に変わりつつあるようなのだ。交流であれば、電圧がゼロになる時間があるので、そのときに切断するとか。また、直流であれば、逆の電圧を一瞬掛けて切断するとか。

C先生:という訳で、エアコンや業務用の冷蔵庫などに使われるフッ化物類をどうやって減らすかという問題は、大気中の寿命が長いために、重要な問題であった訳だ。もともと冷媒類(フロン類)は、オゾン層を破壊することが問題で、モントリオール議定書が作られた。なぜオゾン層を破壊するのか、と言えば、分子中に塩素を含む物質が使われていて、成層圏まで到達したフロン中の塩素が化学的な反応に関与して、オゾンを分解するからだった。

A君:ということで、オゾン層破壊物質(ODS)の生産と消費を規制目的でモントリオール議定書が1987年に採択され、日本は1988年9月に締結、そして、1989年に発効、という歴史だったのです。

C先生:そろそろ、「キガリ改正」の話に行こう。

A君:対象が、先進国途上国の第一グループ途上国の第二グループと3つに分かれています。途上国は、第二グループが、インド・パキスタン・イラン・イラク・湾岸諸国で、第一グループが、中国・東南アジア・中南米・アフリカ諸国・島嶼国ということになっています。

B君:先進国に、ベラルーシ、ロシア、カザフスタン、タジキスタン、ウズベキスタンも分類されているのだけれど、これらの国はやや緩い特別扱い。

A君:そして、以下のようなことになりました。

先進国:2011〜2013年を基準年として、2019年から削減を開始し、2036年までに85%分を段階的に削減する。

途上国第一グループ:2020〜2022年を基準年として、2024年までに生産を凍結し、2045年までに80%分を段階的に削減する。

途上国第二グループ:2024−2026年を基準年として、2028年までに生産を凍結し、2047年までに85%分を段階的に削減する。


B君:オゾン層の復活は時間の問題になってきた現時点で、冷媒という人工物を今後どうするのか、その枠組が見えたということだろう。しかし、冷媒は、冷蔵庫やエアコンに使われるので、今後、どのような方向を目指すべきかという大きな問題は残っている。

A君:先進国だと2036年までに85%削減ということになるけれど、どういう原理原則で動くべきなのか、そこには、様々立場から、様々な主張が行われています。

B君:主張の基礎となっている立場が様々なので当然。もっとも極端な主張をしているのは、やはり、環境団体。環境団体は、基本的に化学物質は全部使用禁止的な主張なので、自然冷媒にすべきだ、と言うのだけれど。現在家庭用の冷蔵庫に使われている自然冷媒のイソブタンにしても、可燃性の気体なので、当初、ヨーロッパなどでは、火災事故が起きた。決して、ゼロリスクは達成できないので、実質的なゼロに近いリスクを目指す以外にない。アンモニアも人体に対しては有害性がある。
 二酸化炭素も冷媒になるのも事実で、エコキュートのような温度範囲の冷媒ならば、効率も悪くはない。しかし、冷媒はどんな冷凍機にも、あるいは、どんなヒートポンプにも使えるというものではない。もしも、不適切な冷媒を使えば、設備効率が低下してしまって、結果的にエネルギー使用量が増えるので、現状であれば、化石燃料からの温室効果ガスの発生や大気汚染が増えたりする。

A君:だから、いつも言うことですが、何ごとにもバランスが重要なのですが、バランスとは何かが分からないと、より単純な解として、全面自然冷媒みたいな主張になってしまうのです。

B君:冷蔵庫は、現在、イソブタンのような炭化水素が冷媒になってはいるけれど、その漏洩と発火の危険性を極限まで下げる設計ができるようになってから、製品化行われていて、その意味では、家が木造だとか、様々な状況まで加味された検討を含めて、日本の製品は極めて慎重に開発されているとも言える。

A君:もう一つの要素は、やはり欧州は先頭を走ることが使命、あるいは、非関税障壁による競争力の確保が重要だ、と思っている節がありますね。自動車用のエアコンの冷媒は、実質上、HFO-1234yfというGWP=4の冷媒以外は使えないような強力な規制を2011年から新型車に適用しました。継続生産されているモデルでも、2017年以降はすべての車が規制対象です。実際の数値は、温暖化ポテンシャル(GWP)>150という規制がその中身ですが、この範囲で、実用になりそうな物質は、HFO-1234yfしかないのです。

B君:このHFO-1234yfは微燃性のガスでもあるので、安全かどうかが議論された。冷蔵庫の場合だと、冷媒の量は100gぐらいだから、余り大きな問題ならないのだけど、自動車のエアコンだと500gの冷媒が入っている。

A君:米国のエアコンメーカーは、HFO-1234yfを家庭用にも使う方針ですが、日本のメーカーは、R32と呼ばれるGWP=675の冷媒に傾いていますね。その理由は、機器の冷房効率のようです。アジアなどの冷房が中心の国では、R32を使った冷房専用のエアコンは、効率が良いようです。結果的に、CO削減になるという主張です。

B君:万能の冷媒というものは無い。80℃といった温水を作るヒートポンプには、COが良いし。ということは、気象条件によって、どの冷媒が最適なのか、という検証を行う必要があると思う。

A君:インドネシアなどのアジア圏の国では、夏の冷房温度の設定が19℃ぐらいですからね。日本のように28℃を推奨している国などは無いのです。28℃は、ヨーロッパ人にとってもとんでもなく暑い温度のようです。

B君:自動車だとやはり冷房だけがエアコンで、暖房はエンジンの排熱利用だからね。本当のことを言えば、R32にすればエネルギー効率は高まって、その分燃費は良くなるはず。ヨーロッパで自動車のエアコンにHFOが使われるようになったのは、やはり、環境重視の姿勢を示すためだったと言えそうですね。

A君:ということは、将来、EVが増えてくると、エンジンの冷却水がないので、暖房のためにもっとエネルギーが必要になる。もともと、エアコンの暖房は、外気温の低い環境では、効率が悪い。室内を22℃にするのをヒートポンプでやると、外気が零下だったら、かなり大量のエネルギーを食うし、そもそも余り温まらない。北海道をハイブリッドで走る場合には、恐らく、暖房のためだけにエンジンが掛かるという状況もあるのでは。EVの暖房をヒーターでやると、これまた電気の大食いなので、走行可能距離が激減することになる。

B君:ヨーロッパメーカーの多くは、電気自動車+エクステンダー(エンジンによる発電機)が将来の車の形だと考えているのだけれど、そのエクステンダーのためのエンジン搭載の本音が、実は、暖房のための熱源だったりするのだ。そもそもこのエンジンをガソリンで駆動することになると、COゼロにはならないので、欧州の本来の主張には合わないのだけれど。

C先生:ヨーロッパの話になっているが、アメリカはどう考えているのだろうか。

A君:米国には、大気浄化法の重要新規代替物質政策(SNAP=Significant New Alternatives Policy)によって、2020年(2012モデルイヤー)には、乗用車用エアコンのHFCが使用不可になるようです。そのため、自動車用としては、唯一の冷媒がHFO-1234yfになるでしょう。まあ、すでに欧州で行われていることですから、大きな問題ではないと思います。

B君:ただし、大型のバスなどのエアコン用冷媒には適用されない可能性があるのでは。現行冷媒は、そのうち、禁止されるだろうけれど。アメリカは、まあまあ現実的だから。

C先生:まあ、こんなところか。
 いずれにしても、これまで、モントリオール議定書というものと、気候変動は全く別のものだと思っていた。それはオゾン層破壊の防止が主務であり、地球温暖化の防止が主務ではないからであり、この枠を超えるのは難しいことか、と思っていたからだ。ところが、オゾン層破壊については、できることは大体やったという状態になったことから、冷媒も非常に強力な温室効果を持っていることは、昔から知られていることなので、その対策をやらなければならないものの、温暖化を取り扱うUNFCCCの枠組みでは、とてもとても冷媒系の物質まで、なかなか手が回らない状況なので、いよいよモントリオール議定書グループが動くことになったと言えるのだろう。
 国連大学の元同僚で、現時点では、国連機関であるUNIDOに所属している飯野氏に、キガリ改正が成立したとき、Facebookで質問した。「ある意味の競合関係にある組織と組織が、今回、どのようにデマケをしたのだろうか?」。飯野氏曰く、「外部の組織であるCCACがデマケをしたのだろう」とのことだった。CCACとは、次を参照。
http://www.ccacoalition.org/en/content/about-us
 この組織の事務局はUNEPにあるが、飯野氏の言葉を借りれば、国連組織を介さずに、多国間が直接運営・議論をしており、機動力がかなり高い組織だという印象とのこと。
 官僚主義というものが支配している世界であれば、このような問題は膠着状態が継続すると思っていて、そのような質問をしたのだが、CCACという組織は、どうも官僚主義者の集まりではないようだ。そのため、世界が大きな一歩を踏み出すことができたのだろう。