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     1.5℃をどうやって実現するか  
       BECCSが唯一の手段なのか  03.10.2019

               




 昨年の10月に発表された、IPCCによる特別レポートの紹介記事は、2018年10月28日、11月3日、11月11日の3回に渡って、ご報告しました。
 しかし、この特別レポートのタイトルでもある「気温上昇を1.5℃に抑える」ことが、多少の努力によって実現可能だと考えている方々が余りにも多いので、今回は、その実態を語ってみたいと思います。途上国の経済的な活力増強を進めようとすれば、多少の化石燃料の使用は許容せざるをえないため、排出されたCOによる大気中濃度を低下させるために、BECCS(BIOENERGY CARBON CAPTURE AND SEQUESTRATION)という技術を使わざるを得ない(?)ということでもあると考えています。しかし、BECCSは荒業です。ということは、副作用があるということなのです。
 と言った発想に持ったのも、Nature Geoscienceに関連する論文が発表されているのを発見したからです。それが掲載されたのは、昨年の8月なのですが、現時点では、それが自由に読める記事になっていることが判明しました。
https://www.nature.com/articles/s41467-018-05340-z
 これまで、Nature関係の雑誌の内容を引用したくても、かなりのお金を支払う必要があって、やや躊躇したのですが、重要な論文だからという判断によるものかもしれませんが、このような論文が無料公開になったことは、大変に良いことだと思います。
 ということで、今回は、その論文の内容のご紹介です。まず、パワポを作って、それを利用した形で、この原稿を書いています。


C先生:IPCCは、「各国のCO排出量が大幅に低下されない限り、気温上昇を2℃以下にするとしたら、BECCSのような技術を使うことが不可欠になるだろう」、という主張をAR5のときからしている。第5次報告書AR5は、日本語のサイトとしては、余り良いのが無いので、無難なところだと、これか。
http://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/index.html
 この環境省による政策決定者向け要約・技術要約なのだけれど、なんといっても、非常に大部な報告書なので、余程ヒマな時間がないと読めないだろう。

A君:その文書でBECCSという単語は、合計7回出てきます最初、2番目、3番目の記述が、こんな感じです。

最初の記述:450ppmCO2 換算に達するシナリオはまた、世界レベルで、エネルギー効率をより急速に改善し、再生可能エネルギー、原子力エネルギー及び二酸化炭素回収・貯留(CCS)付き化石エネルギー、あるいは CCS 付きバイオエネルギー(BECCS)からのゼロ炭素及び低炭素エネルギー供給の割合を、2050 年までに 2010 年の 3 倍から 4 倍近くにしているという特徴がある。

2番目の記述:2100 年に大気中の GHG 濃度が約 450ppmCO2 換算に達するシナリオの典型は、2100 年に 500ppm から550ppmCO2換算に達する多くのシナリオと同様に、一時的に「オーバーシュート」する。「オーバーシュート」の程度にもよるが、「オーバーシュート」シナリオの典型は今世紀後半における BECCS 及び植林の利用と広範な普及に依拠している。これら及び他の二酸化炭素除去(CDR)技術・手法の利用可能性や規模は不確実で、多かれ少なかれ、課題やリスクを抱えている(確信度:高い) (SPM4.2 参照)。CDR技術(Carbon Dioxide Removal=大気からCO2を回収する技術の総称) は、「オーバーシュート」がない場合も、緩和費用がより高い部門からの排出残分の補填のために、多くのシナリオでよく使われている。BECCS の大規模な普及、大規模植林、及びその他の CDR・手法の可能性に関しては不確実性がある。

B君:3番目の記述を紹介すれば、こんな記述であって、2100年に450ppmというシナリオを実現するには、BECCSを含む技術が必須という主張だ。
3番めの記述:(2100年に450ppmという大気中の濃度を実現しようとする場合では、ベースラインにおける年率 1.6%〜3%の消費の拡大と比べて、今世紀中に年率で 0.04〜0.14(中央値:0.06)%ポイント消費が減少することに相当する。これらの費用幅の上限の推定値は、目標に合わせるために長期に亘って必要な大きな排出削減を達成するため、比較的、柔軟性に乏しい、かつ/又は、費用上昇を引き起こす市場の不完全性についての仮定を含むモデルを使用していることから生じている。技術が利用不可能であったり、利用に制限があったりすると、想定する技術次第では緩和費用が大幅に増加し得る(表 SPM.2 灰色部分)。追加的な緩和の遅れは、中長期的な緩和費用をさらに増大させる(表 SPM.2 オレンジ色部分)。多くのモデルでは、追加的な排出削減がかなり遅延したり、又は、バイオエネルギー、CCS、及びその組み合わせ(BECCS)などの鍵となる技術の使用が制限されたりすると、2100 年までに約 450ppmCO2 換算という大気濃度水準を達成できなかった。

A君:いずれも訳が悪いのか、余りわかりやすい記述ではないですね。

B君:ということで、AR5における記述を読めば、大幅なCO削減を実現しようとすれば、どうしても、一時的に大気中のCO濃度が上昇するので、大気中からCOを吸収するような技術、いわゆるCDR技術を使わなければならない。これが結論。

A君:そして、その一つの方法がBECCS。植物が大気中からCOを吸収することを利用して、大気中のCO濃度を下げる方法。具体的には、植物にCOを吸わせ、その植物を燃やしてエネルギー源にして、燃焼に際して出るCOはアミン系溶液などに吸収して集め、油田のような地形のところの地下に隔離貯留する。

B君:経済的な減速を当然のこととした上で、COを減らすことができない限り、450ppmシナリオ、あるいは、RCP2.6(Representative Carbon Profile 2.6)のように、気温上昇を2℃未満に抑えることができない。

C先生:準備はこのぐらいにして、今回、さるところで使用したパワポの改良版が11枚あるので、それに従って使って説明をするか。

A君:これがパワポスライドのリストですね。本当に重要なのは、5〜11ですかね。しかし、図で示すのは、7と8だけでよいと思いますね。

1.タイトル
2.1.5℃の特別レポート
3.IPCCレポートの必然性
4.実現方法は限られる
5.検討した文献の紹介
6.そもそもBECCSの実施方法とは?
7.Miscanthusはススキの類
8.BECCS実施の影響:樹木・低木の増減
9.DAC(直接CO2吸収)の可能性
10.個人的な結論 1.7〜1.8℃目標
11.個人的な結論 その2


B君:とは言え、ちょっとチェックしよう。順次行けば、1.はタイトル。特に示すことでもない。

A君:2.「1.5℃の特別レポート」です。昨年の10月8日に発表されたこの特別レポートは、なかなかのインパクトでした。勿論、パリ協定でも、2.0℃が絶対的な目標ではなくて、本当の目標は、「Well below 2 degree C」なのですが、そのように理解している人は少ないかもしれませんね。

B君:3.「IPCCレポートの必然性」に行く。IPCCの1.5℃がどうして提案されたか、という話。ちょっと言葉で説明しよう。
 やはり、もともと2℃だけが目標ではないということが共通的な理解になっている。当然のことだけれど、各国で起きている激しい気象災害が大きな影響を与えていること。さらに、こちらはまだ共有されているとは思わないけれど、大気中のCOの寿命が非常に長くて、1万年ぐらいを覚悟しなければならないかもしれない。となると、COのために温度が上昇すれば、その状態が1万年続くということを意味してしまう。どうしても、その状態を改善したいと思うのならば、まさに、大気中からCOを人為的に回収するという荒業を使わなければならない。勿論、理論的には可能であり、通常のCCSと類似した技術で、COを分離回収するのだ。例えば、アミン系の溶液に石炭発電のボイラーからの排気や、COを含む空気を通して、CO分を吸収させ、次にアミン系液体からCOを気体として分離するといった方法だ。これには、当然のことながら、エネルギーが必要不可欠。

A君:しばらく前だったら、エネルギー源が化石燃料だったもので、「エネルギーが必要=COを排出する」だったのだけれど、砂漠のような土地価格がゼロの場所に太陽電池を設置すれば、1kWあたり2円といった単価でCOゼロで発電ができるようになった。さらに価格低下もあるかもしれない。こうなると、これまでの常識的な電気の価格では経済的に実現不可能だったものが、可能と言えるようになるかもしれないのです。

B君:しかし、それは最終手段であって、まずは、経済成長のための化石燃料の使用量を減らして、1.5℃+αを目指す。これがパリ協定の本当の狙い

A君:4番目のスライドは、「実現方法は限られる」。電力価格が非常に安い場所であれば、それを活用して、いくつかの方法論が不可能ではないのです。その最大の候補が、DAC=Direct Air Capture。これを行うことの可能性がゼロではないところが砂漠。大気中のCOをいきなり捕まえる。これも、方法論としては、COを吸収する液体を活用することになります。空気を吸い込んで、それをそのような液体に吹込む。そして、液体からCOを取り出す。こんな設備です。

B君:現時点で、すでにDACを試みている国がいくつかある。その条件は、繰り返しになるけれど、安価な電力があること。

A君:英語でよければ、このような無料で読める論文があります。一例ですが、ウェブを探して見て下さい。
Direct Capture of CO2 from Ambient Air
Chem. Rev., 2016, 116 (19), pp 11840-11876


B君:2016年のものだから、最新という訳ではない。最近、いくつかの国で実証実験的なことをやろうとしている。パリ協定が前提となって、このような技術も将来商業的に使われるという判断をしている国だということだ。

A君:一つの例がアイスランド。この国でエネルギーというと、地熱という答えが帰ってくるのだけれど、やはり、発電となると、地熱はなかなか実用にならない。アイスランドでも、今でも、地熱発電所は5箇所しかないのではないか。と思われるのです。

B君:ただし、暖房・給湯には地熱が使われているので、エネルギー消費全体に対する地熱の貢献量はかなり高い。しかし、今後、電力源を開発するとなったら、アイスランドのエネルギーの最大の可能性は、実は、水力発電にあると思う。なんといっても、北海道と四国をあわせた面積でありながら、人口は30万人ぐらいしかない。北海道が530万人、四国が400万人だからね。

A君:最近経済力が向上した最大の理由が、水力発電によるアルミの精錬事業が貢献したことだと言われています。

B君:このようなアイルランドが、DACも将来の経済の源になるという判断をしているのだと思う。

A君:DACの実用化を狙っている国は多いのではと思います。最近のニュースでは、カナダ企業が、これまで高価だと言われてきたDAC技術を改良して、とうとう、一つの限界価格だと考えられてきた$100/tonを切ったいうことのようです。
https://techable.jp/archives/78339
 この企業は、空気から取り出したCOを水素と反応させて、液体燃料を作ることにも挑戦しているとのこと。

B君:別に液体燃料でなくても、メタンを作れば、COゼロの都市ガスを製造することができるので、非常に大きいのだ。いわゆるメタネーション。

C先生:そろそろ今回の本命の論文の紹介にいこう。5番目のスライドは、「検討した文献の紹介」だけど、実は、タイトルと著者などの紹介だけ。

Land-use emissions play a critical role in Land-based mitigation for Paris climate targets
Anna B. Harper, University of Exeter, UK
Tom Powell, University of Exeter, UK
Joanna House, University of Bristol, UK

その他、オランダ、ドイツ、フランス、アメリカ 計 29名
Nature Communications, 07 August 2018
公開論文なので、Webで閲覧可能

A君:この論文ですが、著者が29名もいますね。BECCSは複合的な技術ですから、やはり多数の専門家の参画が不可欠です。しかも、地域によって環境影響は相当に変わりますので、世界中のデータを出そうとすれば、それぞれの地域に対する専門知識を持つ研究者が不可欠だということなるのでしょう。

B君:それでは、早速、6枚目のスライド「そもそもBECCSの実施方法とは?」ですが、これも文字だけ。BECCSとは何をやることなのかから。まず、大気中のCOを取り込む植物が必要。樹木では、成長速度が遅い。すなわち、COを取り込む速度が不足している。そのため、特別な植物、いわゆるエネルギー作物を使うことになる。そのため、森林を開墾して、エネルギー作物用の特別な農地を作ることから始めることになる。そのために、森林は確実に減少するのだ。

A君:エネルギー作物とは具体的には、Miscanthusというものが使われることが多いようです。これは、日本語で言えば、ススキの類。日本名「ときわすすき」と呼ばれるススキと似た植物Giant Miscanthusが使われるのではないですかか。関東以西の暖地に主として生息し、冬も枯れない。WikipediaのURLを示します。英語版です。
https://en.wikipedia.org/wiki/Miscanthus_giganteus

B君:となると、森林や、低木、いわゆる、"shurub"は確実に減ることになる。それが、8枚目のスライド「BECCS実施の影響:樹木・低木の増減」で、この論文のFig.4に示されていること。この図は、1.5℃目標と2.0℃目標の違いを示している。



 図2 BECCSを実施する影響=樹林・低木の増減
  図a:1.5℃シナリオ、2060年まで
  図b:2.0℃シナリオ、2060年まで
  図c:1.5℃シナリオ 2060年以後2099年まで
  図d:2.0℃シナリオ、2060年以後2099年まで

A君:この図2の図aと図bを比べてみればすぐに分かることが、1.5℃目標だと、ロシアとかインドシナ半島、さらには、モンゴルの北部、さらに米国の東部あたりで、樹木が大幅に減ることが分かるのですが、2.0℃目標に沿ったBECCSですと、森林と低木の低下量はかなり少ない。
 下の2枚の図cと図dは、2099年の予想値から2060年の予想値を引いたもの。アフリカや南米ではさらに樹林が減少していることが分かるけれど、他の地域ではそれほど赤い部分が目だつ訳ではないですね。

C先生:そろそろ結論だな。1.5℃報告書が出たとき、それを読んでみて、「本気にでこれをやるのか」、と思った。それはやる気になれば不可能とは言えないが、各国の削減量が少ない状況で1.5℃を達成するとなれば、それは、BECCSとDACの出番。DACは色々と分からないことがまだまだ多いけれど、BECCSに関しては、もし、これを本気でやったら、地上から森林が消えてしまっても、まったく不思議ではないのだ。各国が経済的な懸念を乗り越えて、大幅なCO削減を行ったとしても、1.5℃を実現できるかどうかギリギリ、という状況なのだから、もし、各国が経済優先政策を取れば、COはほとんど減らないだろう。このような状況で1.5℃を目指すことになれば、森林が消えると思った方がよいということになる。
 今回ご紹介した論文は、そのような状況で無理やりBECCSで大気中のCOを減らすと、森林と低木が消える。特に、アフリカで悲惨なことが起きる。もし、これをやれば、今後、ますます増加すると言われているアフリカの人口を支える農地も健全なものになるかどうか、かなり危ない。
 という訳で、1.5℃は、まずは、経済成長よりもCO削減だという決断をすることができるかどうか、これがまず第一番。しかし、かなり難しい状況だろうと思う。それでも、なおかつ1.5℃を目指せば、アフリカは悲惨な状況になることが確実。それなら、2.0℃なのか、と言われる。確実に担保すべきは、当然、パリ協定が表明している、Well Below 2 Degree℃なのだ。絶対に1.5℃を目指すというよりも、まず、1.7〜1.8℃を達成するような体制を作って、その後、さらなる削減する方法として、BECCSなどを採用するか、あるいは、化石燃料をやはり排除するという考え方に変えて取り組むというプロセスになるのではなだろうか。