________________


  国環研の温室効果ガス70%削減シナリオ 03.11.2007
     



 このところの温暖化三位一体説(田中宇氏による)に加えて、国立環境研究所の報告書、「2050日本低炭素社会シナリオ 温室効果ガス70%削減可能性検討」なるものが発表された。2月15日に正式に公表された。
 http://2050.nies.go.jp/20070215press/index.htm
 このURLから、報告書本体もダウンロードが可能である。これが加わって、果たして四位一体を形成するのか。


C先生:日本社会というものは、比較的よくできた社会ではあるのだが、欧米(含むEU)の政府ができもしないことを平然と発表することに比べると、日本の将来への方針は、どの組織についても、また、誰が作るにしても、次のような態度で作られることが多い。
(1)「石橋を叩いて渡らない」、
(2)「合意をとりつけているうちに未来が来てしまうことを狙う」、
(3)「関係者の利害のすべてを盛り込むために、できるだけ平板的でインパクトが無いものを作る」、
(4)「できるだけ多くのしがらみに、なるべく引っ掛かりつつ検討する」。

A君:要するに、「駄目」だということですね。

B君:今後、日本社会がEU社会に対抗することは、もはや数の論理(人口と経済力)の点で無理になった。過去を振り返れば、これまで対抗できなかった最大の理由は、EUが得意としている「哲学だけで社会を引っ張る態度」が取れなかったことだろう。

C先生:「哲学だけでは動かない」。これが「日本の哲学」だから仕方が無い部分はある。そこで、方法論そのものから考え直す必要があるとの認識が、一部識者間では、共通になりつつある。この報告書も、シナリオ作成プロセスで、バックキャスティングを使っている。ただし、これが本当のバックキャスティングなのか、と言われると、いささか難しい。「2050年という時点で、温室効果ガスを70%削減すること」を、その時点における家庭生活、都市・交通形態、産業構造、エネルギー供給、経済性、といった観点で検討したもので、ある意味で、「2050年という時点においてその状況が破滅的ではない」ということをスポット的に解析したものだと言える。方法論としては、一般均衡モデルを使っている。
 すなわち、2050年至るまでの途中過程は、シナリオA、Bというもので考察していることになっているが、実際には、途中過程の検討ではなく、2050年の2種類のスナップショットを書くために使ったと言える。

A君:バックキャスティングという方法論も、何がバックキャスティングか、という定義からして良く分からない部分がありますからね。

B君:極論だが、2050年までに温室効果ガスを250%増加させる、といったシナリオだと、途中で、温暖化が厳しくなるのは当然として、化石燃料が無くなるといった資源限界にぶち当たる可能性が高いし、場合によると、途上国の大気環境の状況が最悪になって、環境限界にもぶち当たる可能性がある。しかし、70%カットということになると、地球へのインパクトもよく押さえられているものと考えられる。限界としては、経済的な成長率があまりにも低すぎて、経済が破綻すること。雇用がなくなること。しかし、このシナリオA、Bでは、それぞれおGDPの成長率2%と1%とを見込んでいる。とは言っても、途中過程を検討した訳ではなくて、2050年までの平均的は成長率を見込んで、最終的なスナップショットを書いたということに違いは無い。

C先生:個人的には、50年間もの間、経済成長率が2%もあるのは、むしろ異常ではないか、と思う。1%台が妥当なところのように思える。それでも、50年間で経済規模は倍になってしまう。

A君:むしろ、経済成長を問題にするのは、もはや古いのかもしれない。

C先生:自分自身の講演などでは、そんなことを言っている。しかし、「どこまで分かって貰えるかという心配をしつつ」、であるのが実情で、ブータンのGNH=グロスナショナルハッピネス的な目標も、本当のところ、どこまで行けるのか、多少疑問ではある。
 しかし、「経済成長は、手段であって、目的ではない」、ということは、最低限、すべての人々によって確認されるべきことだ。

B君:ふと思ったが、このシナリオで、航空機をどのぐらい使うことになっているのだろうか。

C先生:個人的なLCAをやると、飛行機に乗るのが最悪であることが直ぐ分かる。自動車と一人当たりの燃費は余り変わらないのだが、飛行機はどうしても距離が長い分、駄目なのだ。

B君:航空機による燃料消費は、国際線は、JAL,ANAでも日本の排出にはならないし、国内線なら、日本全体ではどうせ少ないので、無視だろう。まあ、プロペラ機に戻すと、燃費がかなり良くなるという話ですが。

A君:ところで、こんな雑談をしていても仕方が無い。この報告書のどこをもっとも重要だとするのか。

B君:個人的な重点ポイントを語るか。

C先生:このHPを読まれる人たちは、恐らく、本物をダウンロードされるだろう。各人がもっとも印象深かったところを説明すれば良いのではないか。

A君:では私から。まずはシナリオですね。シナリオAは「ドラえもん型」シナリオBは「サツキとメイ型」と呼ばれている。「ドラエモン」は、ポケットの中に様々な先端技術を持っているから、ということだろう。「サツキとメイ」は、「となりのトトロ」がオリジナルだが、愛知万博で作られた家がそれを象徴していると言える。
http://www.pref.aichi.jp/koen/AI_CHIKYU/satuki_index.html
http://kino-ie.net/genba_071.html

B君:しかし、この「昭和10〜30年のサツキとメイの家」と、「2050年のサツキとメイの家」は、全く似ても似つかないのではないものになるはず。一見、普通の家に見えるが、実は、超断熱構造パッシブソーラーハウスの設計が取り入れらていたりしそうだ。隙間風で寒いといったことは決してない。むしろ、快適な自然換気が取り入れられていることだろう。その意味では、かなり「ドラえもん」もどこかに隠れて活躍している「サツキとメイの家」だろう。

A君:その通りで、この「サツキとメイ」の名称が良いかどうか、それは多少疑問ですが、その名称を使った本意は、「地域重視」でしょう。技術がどうのこうのというよりは、大都市だけの国にならず、地方都市がむしろ重視され、人口も「ドラえもん」よりは減りが少なくて1億人。

B君:しかし、最大の違いは、エネルギー供給量としてバイオマスが多いことか。それに応じて、農林水産業の復権が謳われている。表2がその概要を示しているようだ。反対に、第二次産業はシェアを落とす。

図4。以下、図表の番号は、低炭素2050報告書のものをそのまま使用。



表2。それぞれの産業セクターの増減。

A君:そのために、というよりも、いずれにシナリオでも余り変わらないのですが、鉄鋼業とセメント産業のがかなり生産量が落ちることになっている。これもインパクトがある。



図2 粗鋼とセメント生産量

B君:こう言われると、鉄鋼業としては黙っていられない。世界的に鉄鋼の需要が下がるわけではないとすると、どこで鉄鋼を作ろうが、世界的な二酸化炭素排出量は余り変わらないことになる。そうなれば、むしろ、効率勝負と品質勝負の2種類の戦いで、自然に決まるのが妥当。日本という国境が意味するところは、地球環境問題において余り大きくは無い。

C先生:このあたりが温暖化対策の一つの問題点。本来地球全体を考えれば良いことなのだが、産業というものの国家戦略を考えると、そうも行かない。日本の鉄鋼業としては、世界最善の原単位の実現・維持と、高付加価値品への特化を続けなければならないといことだろう。

A君:次の図に、鉄鋼連盟が平成19年に発表している、二酸化炭素排出原単位の国際比較を示しますが、全体としてみれば、まだ、中国よりかなり排出原単位が少ない。これが2050年まで維持できるかどうか、それが問題でしょう。



付属図:鉄鋼連盟による二酸化炭素の排出原単位。http://www.jisf.or.jp/business/ondanka/sinchoku/docs/WG_070116.pdf

A君:この図ですが、経済産業省には、多少古いデータがあって、それによれば、中国の大規模が130、全国で150。それが急速に改善されているのか、それとも発表データだけが改善されているのか、それは不明。http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/g60208a0806j.pdf

B君:セメントも実は、鉄鋼と関連する。それは、高炉スラグはセメントの原料になるから。セメントの製造には、石灰石が使われる。CaCOである。石灰石が分解して、二酸化炭素を出すが、高炉スラグは分解してすでに二酸化炭素を放出している。そのため、高炉スラグを使うと、その分、二酸化炭素排出の低減には繋がる。

C先生:現時点だと、高炉スラグの一部は輸出されていたりする。中国のセメント製造における二酸化炭素原単位は非常に悪い。ローカルに小さな工場が乱立している状態だからだ。ただし、セメントは、鉄鋼に比べれも重さあたりのコストが低いために、輸出という訳にも行かない。日本国内のセメント需要は、今後、下がるしかないだろう。となると、日本のセメント業が生きる道は、日本のような先進的な廃棄物処理技術と連携したセメント製造システムを、海外移転していくことに尽きるかもしれない。

A君:ただし、このあたりの技術開発が自動的に行われるとも思えないところがありますね。となると、やはり環境税をうっすら課税して、必要な技術開発に投資するという方向、すなわち、環境立国を目指すというのが正しいようにも思えます。

C先生:安倍内閣の環境立国のシナリオが、今年の3月末までにまとまる。中央環境審議会に特別検討委員会が出来ている。環境立国のかなりの部分が科学技術・産業関連の話題のはずだが、この委員構成で議論を充分尽くすことが可能かどうか。大体人数が多すぎるのではないか、などの心配が多少あって、お手並み拝見。
http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=9199&hou_id=8065

B君:話を戻して、低炭素2050の中で注目に値するというところとしては、考慮している技術のリスクが面白い。表3がそれだ。



表3:

B君:この検討の最大の特徴とも言えるのが、運輸部門に対して、かなり厳しいメスを入れていること。そのため、運輸部門の利用技術リストが相当長くなっている。

A君:自動車だけで10項目もありますね。その二次エネルギー需要量の検討でも、いずれにシナリオの場合でも、運輸旅客というところが、大幅に削減されている。



図4が入る。運輸旅客に対して、極めて厳しい。


B君:しかし、この技術シナリオだけで充分なのか、それは問題。これに、新しい技術開発によって、どのような新規技術を加えることが可能か、それが大きな課題になる。

C先生:今回の報告書のトーンよりも本当はもっと行けそうなところが、実は、太陽・風力を初めとする再生可能エネルギーなのではないか、と思うのだ。現時点のシナリオだと、一次供給エネルギーの図4にすでに示したように、大体10%程度を再生可能エネルギー導入だとしている。毎度主張しているように、2300年を超すと、化石燃料はほとんどが枯渇して利用不可能になるから、それ以後残るのは、再生可能エネルギーしかない。

A君:リスト以外でしたら、日本の場合の海洋エネルギー、特に、海流発電などのポテンシャル。さらには、地熱の熱源としての活用、などが可能性が高いように思います。

B君:海流発電だとすると、津軽海峡(大間崎)など。http://www.daily-tohoku.co.jp/news/2006/10/25/new06102504.htm

C先生:他のニュースによれば、最大で43万kWの出力が予想値なので、原発1基の半分程度だから、それほど大規模ではないが、黒部第四の発電能力だって、33.5万kW。また、風力発電だって、いくつかの風車を並べる必要があるが、43万kWなら2MW程度の風車の220基分に相当するのだから、これは相当なもの。しかも、津軽海峡は海流による比較的安定した流れがあるらしい。風力よりも、確実性が高いだろう。

A君:安定した海流発電ならまだ良さそうですが、それでも、場合によっては、潮汐による流れであれば、方向が反転する。となると、一時期、発電が止まることになる。

B君:日本が再生可能エネルギーの導入に対して熱心でないのは、電力会社の反対が強いからだ。一つは、当然のことながらコストが高いこと。さらに、風任せ、お天気任せの再生可能エネルギーを大量に電力系統網に入れると、電圧や周波数の揺らぎが大きくなってしまう。その対策のために、別途、火力発電などを作ることになって、ますます電力のコストが高くなってしまう。

C先生:その通りなのだが、2050年ぐらいを考えているが低炭素社会2050。そのときまで、現在のような電力系統網の考え方でよいのか、それは大いに疑問ではある。現時点だと、周波数の揺らぎも少ない必要はあるのだろうが、まだ40年以上先の話だから、多少の揺らぎは構わないという考え方に変えることも可能。大体、同じ国なのに、50Hz、60Hzの両方が存在している、といった世界にも例の無い異常な状況で、今後とも未来永劫行こうというのだろうか。

A君:東か西か、一方の電力が不足気味になっても、現状だと、佐久間[電源開発(株)・静岡県]と新信濃[東京電力(株)・長野県]周波数変換所の2か所で東西の電気が行き来できるようになっていますが、それぞれの周波数変換設備では、30万kWと60万kWのやりとり(東西の行き来)しかできないそうです。

B君:原発1基分ぐらいか。まあ、結構大きいとも言えるし、小さいとも言える。

C先生:韓国の電力は、最初に訪韓したときには、ホテルの電圧が100Vだったと思うのだが、今は、200Vになっている。

A君:調べたら、韓国では、1972年から27年かけて国家プロジェクトとして100Vから220Vに変更したということのようです。

B君:220Vにすれば、配線での電力損失がかなり低下するという話だ。省エネ効果も、原発1基分という話もある。

C先生:2040年ぐらいを目標にして、220V、55Hz(別に50でも60Hzでも良いのだが、日本的妥協で55Hz)という家庭用の電源の変更を行う。同時に、日本全体の電力系統網の格段に強化して、再生可能エネルギーも大量に入れる、といったことを考えるべきなのだろう。

A君:大体こんなところでしょうか。

C先生:今回の報告書の中での自分の関心事を述べていない。それは、報告書の中の図7か。



図7 改善速度を倍にする必要あり。それで、やっとイギリス、フランス、ドイツ並みになる。

C先生:これは、改善速度に関わるものだ。第一次石油ショックの1973年以後、日本という国は、エネルギー効率の改善が世界でもっとも急速に進んできたと思われている。しかし、実際のところは、このところ、改善速度が大きく鈍っている。改善速度をこれまでの倍ぐらいにしないと間に合わないという話。

A君:日本という国がもっとも苦手にするのが、まずは哲学的な話であり、その次が改善速度でしょうね。

B君:「しがらみを一つ一つ拾って改善する」のだから速度は遅い。

C先生:そろそろ日本の環境行政にも、速度が必要になってきている。本当に改善速度が速かったのは、1970年代の公害からの離脱だった。それ以後、第一次石油ショック。ここまでは良かった。そして、それから遅い社会になってしまった。なんとかしないと。