-------


  2020年GHG削減目標の議論のために
   05.19.2013
    




 5月17日に、改正地球温暖化対策推進法が参議院本会議で可決成立した。

 今年の11月にワルシャワで開催されるCOP19(正式名称:第19回国連気候変動枠組み条約締約国会議)までに新しい温室効果ガス排出量削減の目標を設定する必要がある。

 そのための議論がすでに始まっている。どのような議論をやるにせよ、『現状認識』を共有しなければ、目標の決め方を議論することは不可能だと考えられる。

 『現状認識』にしても、人によって様々だ、という意見もあるだろうが、「人によって見方が異なるものは『現状認識』とは言えない」と定義として、『現状認識』つながる「現状の分析」を始めてみたい。

 久々に、対話形式を復活させました。



C先生:本日の課題は『現状認識』。さて、何を分析すれば、「これが『現状認識』だ」と言えるのか。

A君:二酸化炭素排出量の増減を見るのですから、化石燃料の使用量の増加減少に関わることをすべてカバーする必要がある。

B君:それはあたり前。それ以前に、このところの動向、すなわち、リーマン・ショック以降の産業界の動向、さらには、東日本大震災以来の省エネ指向の高まり、原子力発電量が低下したことによる化石燃料への転換、再生可能エネルギー導入戦略の成果、このところのアベノミクスによる産業活動の増大、などなどの項目についてざっと目を通して、そもそも一次エネルギー供給量の増減がどうなるかを見なければならない。

A君:それはその通りですが、2008年のリーマン・ショック、その後の世界経済の減速、さらには、2011年の東日本大震災と福島原発、と連発して異常事態が起きていて、このところ数年のデータを見ても、一体、どんなトレンドなのか、非常に分かりにくい。

B君:それが人によって『現状認識』が異なる原因だというのだろうが、実際、様々なゆらぎの要因を無視して、まず、事実だけを見るべきだということになる。

A君:確かにその通りですが、現実には、ゆらぎの一つとして見るべきものと、確実なトレンドとして見るべきものがあって、確実なトレンドだけを見出せば、実はそれほど理解しにくいというものでもないのかもしれない。

C先生:まあ、作業を進めながら考えるという現実主義で行くしか無い。

A君:了解。様々なデータを探し出しましょう。まずは、これから。今朝の日経新聞に出ていたグラフです。



図1 日経新聞5月18日版より

B君:この図の中身は、電源別の発電電力量(電気事業連合会まとめ)。日本の電力は大体年間1兆キロワット時(kWh)と言われてきたのだが、実はこのところ、低下気味。一つはリーマン・ショックによる産業活力の低下、そして、2011年の東日本大震災・福島原発事故による節電。

A君:このグラフを見てわかることは、原子力の寄与が極めて少なくなって、増えたのが、LNG火力と石油火力。石油火力はもともとコストが高いことで知られているので、発電コストが高くなるのは当然。LNG火力も非常事態が発生して、なんとか売ってもらうための契約を急いだので、カタールなどには足元を見られていて、世界でもっとも高いLNGを買っている。

B君:地熱や新エネルギーという分類になっているところがわずかに増えているけれど、地熱が増加しているわけではないので、FIT制度によって買取価格が高い太陽光発電への大規模投資が増えたことが、多少利いているのだろう。

A君:太陽光発電の導入実績については、次のようなデータがありますね。



図 2012年12月までの太陽光発電の導入実績

B君:まだ、目に見える増加ではない。これが今後どうなるのだろう。これまでのトレンドを将来に外挿するのは、まだ難しい。

A君:もちろん分からないですね。FIT制度による自然エネルギーの買取価格の設定次第。このところ太陽光の一人勝ち。FITの買取価格が高すぎたのでしょう。昨年度までの10kW以下の42円/kWhが、今年度から38円/kWhになりましたが、
http://www.enecho.meti.go.jp/saiene/kaitori/kakaku.html
まだ高いと言われていますね。

B君:風力・地熱なども小型機の場合にはFIT価格は高いのだけれど、導入が遅れている。場所の選定だけでなく、風力だと騒音対策などの問題が、地熱だと温泉業者との合意形成などもあるので、時間がかかるからとも言えるが。

A君:エネルギー資源は輸入ですから、為替レートが円安に動いたので、価格はますます高くなる。となると、国内産エネルギーは重要なのですけどね。

B君:ところで、そろそろ、具体的に考えよう。
 エネルギー環境会議の2050年のシナリオでは、自然エネルギーの導入ポテンシャルとして、実に莫大な量が想定されていた。

A君:2050年の導入ポテンシャルと現時点の導入量をグラフ化してみますか。まずは、2010年と2050年の2点だけのプロットを。このシナリオだと2050年には自然エネルギーの導入量が、一次エネルギー供給量の50%になっている。




図 2010年、2050年の再生可能エネルギー導入ポテンシャル 出展:エネルギー環境会議

B君:このデータと整合性をとった一次エネルギー供給量のグラフがどこかにあった。

A君:これですか。全エネルギー供給量の20%が太陽光になっている。これだと、電力網に相当量の新しい工夫が入っていることが必要ですね。いわゆるスマートグリッドとか、あるいは、電気自動車充電専用の不安定電力網とか。

B君:省エネの進展はどうなっているだっけ。

A君:2050年までには、40%の省エネが実施されていることになっています。省エネを毎年同じ量だけやるのか、それとも、将来は省エネの可能性が更に上るのか。これは難しい問題です。実は、現時点でも企業が5〜10年間で利益がでることを考えれくれれば、投資のペイバックが可能な省エネ技術はかなりあるので、それぞれの企業が自らの将来の可能性をどのように見ているか次第でしょうか。

B君:それは分からないな。となると、近似としては直線で引くことになる。2050年で40%の一次エネルギー供給量が削減されているとすると、2020年には、2050年の1/4 の省エネが導入されていることにする。ということは、10%の省エネか。後ほど、もう少々議論しよう。

A君:かなり難しいけれど、まあ、そんなところでしょうと思いますけど。

B君:次は再生可能エネルギー導入量だが、どうも太陽光だけが先行している感触だ。

A君:太陽光は、余りリードタイムが必要ではないからですね。個人や企業が所有する土地や屋根に載せれば良いから、すぐできる。それに対して地熱などになると、調査をして可能性の高い場所を探る、その地点への電力線をどのように引くかといった総合的な判断が必要といったことで、最初の10年間は滑走路から離れられない。

B君:分かった。それが『現状認識』ということだ。それなら、太陽光は直線的に伸びることも可能だが、他の再生可能エネルギーは、残念ながら、徐々に立ち上がると考える。

A君:そうでしょう。これだけの風力を導入するとなると、おそらく浮体型の風力をも導入することになる。それには時間が掛かるでしょう。

B君:それで良いだろう。となるとどうなる。

A君:細かい未来は分からないということで、太陽光は直線、その他はわずかの増加、という線を引いて見ると、こんな風になります。



図 太陽光は、現状の20倍量。そして、太陽光以外の導入量はかなり少ないと判断した場合の再生可能導入量。これはほぼ最大値を意味することになる。2020年における再生可能エネルギーの導入量は2010年比の1.9倍ぐらい。現状を10%とすれば、大体20%の導入を意味する。


B君:それでは、次に、原子力発電の『現状認識』に行こう。

A君:現時点で、2020年に発電がとにかく可能とおもわれる原子力発電の基数は、福島第一の4基の廃炉が決まっていて、残りは50基なのですが、古く小型の機種も残っているので、最大でも45基程度まで可能とするのが共通の『現状認識』と言えるのではないでしょうか。細かい話をするつもりはないですが。

B君:様々な要因によって除外されるものが出るというところが現状認識。

A君:それで、実際に何基稼働されるか、これは、規制委員会のスタンスと、それに対応するために必要なコストなどから、決まるのではないか、ということですが、このような詳しい話になると、合意できるような状況にない、というのが『現状認識』。

B君:要するに、政治的なファクターだということ。

A君:ちなみに、50基の総発電容量は4400万kW、平均出力は、88万kWです。

B君:原発をゼロとしたときの、排出源単位はいくらぐらい。

A君:それよりも、原発が動くとしたら、火力を代替できると考えるべきなのでは。しかし、その値はまだ発表されていない。そこで、それこそエイヤと0.6kg−CO2/kWhとする以外にない。これが『現状認識』。

B君:となると、原発1基、平均出力88万kWが設備稼働率70%で動いたとすれば?

A君:330万トン−CO2の排出量削減になる。

B君:なるほど。しかしこの考え方は、余り現実的ではないかもしれない。なぜならば、原発を動かすには規制委員会の指導にしたがって、新たに安全設備を作らなければならない。となると、規模の大きい、比較的新しい設備から改修を行うのが合理的。となるとよく分からないので、100万kWの原発1基が動いたら、どれだけか、という計算に変えよう。

A君:それだと368万トン−CO2が原発の発電容量100万kWあたりの削減量。現状認識としては、この数値の方が良いかもしれない。

B君:それでは最後の難問。2020年時点でどのぐらいの化石燃料が使われることになるのか。すなわち、二酸化炭素とその他の温室効果ガス排出量の推定に行こう。まず、その推定に有効な『現状認識』とは何か。

A君:化石燃料の価格。その大量輸入に伴うエネルギー価格、特に、電力価格、ガソリン価格の高騰。それには、為替レートも推定しないと。そして、省エネマインドがどこまで継続するか。

B君:エネルギーの輸入が増えたために、経常収支が赤字になるとか言っているが、実は、これも円安傾向に寄与している。エネルギー価格は高くなるので、円安傾向は全面的に良いとは言えないが、株価が回復したお陰で、生命保険会社や証券会社の経営が好転し、まさに「気」が回復した。
 そして、エネルギー価格はすでに上昇気味なので、省エネマインドは、しばらくは維持されるのではないだろうか。

A君:省エネマインド関係の図を示します。月別の電力消費量のグラフですが、明らかに2011年と12年では、2010年に比べて電力使用量が下がっています。



図 月別の電力使用量の動向

B君:まあ、省エネマインドは続く。しかし、これ以上節電をやるだろうか。省エネ技術への投資が増えるだろうか。ガソリン価格が150円代だと、さらにハイブリッド化が進行するだろうか。あるいは、超小型モビリティーが普及するだろうか。結局、よく分からない。

A君:それでは、2012年のエネルギー消費に伴う二酸化炭素の排出量の推定値を基本とするしか無いことになりますね。まだ、正式な値は出ていないのですが。

B君:そうしよう。『現状認識』といっても、揺れ動く。ということは、もっと利く変数があるので、それを検討すべきだということか。

A君:温室効果ガスの排出削減目標の設定に対して、もっとも大きく利く変数は原発の稼働基数だということに変わりはないので、原発以外に対する『現状認識』と過大な希望は大体こんなものになります。
1)省エネマインドは継続的、2020年までに10%の総エネルギー量が削減される
2)再生可能エネルギーの導入量は、現在のおおよそ10%が20%に増える
3)その基礎となる数値としては2012年のエネルギー消費からの排出量とする。
4)エネルギー起源以外のメタンなどの排出量は変わらない

B君:しばらく作業をしてみよう。

A君:かなり不確実性の高い数値ですが、以上のような仮定で導いた式が次のようになりました。途中のプロセスは省略。


式1:
温室効果ガスGHG排出量(百万t-CO2)
=1250−3.7×原発稼働基数(100万kW級)


式2:
削減率%
=10/12.6+3.7/12.6*原発稼働基数(ただし100万kW級)
≒0.8+0.3*原発稼働基数(ただし100万kW級)



図 式2の図示


C先生:省エネや再生可能エネルギーの導入を全力で頑張ると仮定しても、原発の稼働基数がゼロだと、基準年である1990年のGHG排出量をなんとか実現できるところまでしか行かない。
 すなわち、GHG排出量を若干なりとも削減しようとすれば、原発に依存する以外になくて、30基稼働すれば、9%の削減になるということを意味する。現時点では、2012年のデータや、当然のことながら、原発ゼロのときの2020年のGHGの排出量に色々と不確実性があるが、誰もが『現状認識』として受け取ることの数値表現と言えば、これになるのではないだろうか。
 さてこの図を基に、2020年時点での削減目標をいくらに設定するのか、それは個人の判断ということになる。

A君:ただし、この削減量には、第一約束期間である2008年から2012年には認められていた森林吸収が入っていません。この期間では3.8%が算入することができたので、悪くても3%ぐらいの値を使うことができれば、見かけ上の数値は3%ずつ良くなります。

B君:もう一つあった京都メカニズムの採用は、日本の場合には枠組みから離脱したので、使えない。

C先生:ただし、離脱したので若干自由度が増したとも言える。話題になっている技術供与などによる諸外国での排出量の削減、いわゆるバイラテラルの枠組みによる削減については、数値を入れることも可能かもしれない。しかし、どのぐらいの数値になるのか、全く分からないので、現状認識に入れることはしない方が良いだろう。