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    中止になった講演@名古屋に対する質問2   
       先週の記事の続き 02.17.2019

               



 前回は、質問に対してお答えするというスタンスよりも、日本政府のスタンスや日本国民のマインドが世界とどのように違うのか、を説明することに重点があったように思います。

 今週は、やっと、ここのご質問に答えることができる段階になったように思います。質問は、次に示すもので、これは前回と同じですが、前回は個別の質問にはほぼお答えしていません。

質問における疑問点の分類
1.CO2ゼロは可能なのか?
2.技術の対応、CO2対策とそれによるCO2発生
3.原子力に関連する疑問+再エネの導入
4.気候正義と個人・企業の責任
5.経済重視か気候変動重視か 炭素税や石炭税
6.日本政府、その他の政府の態度
7.日本の対策、世界の対策−−今後の動向
8.武田邦彦・モレノ氏の温暖化懐疑論 
9.メディアの問題、市民の理解
10.FITの枠組みの次は何?


C先生:順次これらを取り上げていくのが、今週の対応。回答がどのぐらいの長さになるか、推定ができないので、どこまでカバーできるか、それは、やってみないと分からない。それでは順次いこう。

A君:まずは、『1.COゼロは可能なのか?』です。COゼロということは、この答には、二種類の対応があります。まず、『そのTとして、化石燃料を燃やさない』ということとほぼ同じだと考えること。『そのUとして、COを排出してしまうのだけれど、なんらかの別の方法によって、それをキャンセルするようなことができる』ということ。

B君:それでは、最初の疑問。『Q1として、化石燃料を燃やさない』ことは可能か。答:『可能です』。しかし、かなり不便ではある。まず、なんらかのエネルギー源がないと、人間の生活が成り立たない。人類が誕生して以来、エネルギーを全く使わなかった時代というのは、極めて限られていて、洞窟の中に居住しながら、『焚火』を常時燃やすことで、暖房を取りつつ、オオカミなどの猛獣が洞窟に入り込むことを防止していた。

A君:焚火は、バイオエネルギーです。樹木は、大気からCOを吸収して、それを炭素源にして、成長します。ですから、木材を燃やしても、「吸収したCO2を大気に戻すだけ」と考えることが普通です。これを『バイオマス利用はCO2ゼロ』と表現します。ただし、現実には、なかなか完全なゼロを達成することは難しいです。なぜなら、木材を伐採するにしてもエネルギーを使うのが普通です。いわゆる「チェンソー」を使います。動力は、モーター+電池のもの、ガソリンエンジンのものなどがありますが、いずれにしても、COの排出を伴うので。

B君:だから、現時点でも、手作業で伐採し、人力で運搬した森林資源・植物資源だけをエネルギー源にして、人類が「人力のみ」の生活をすれば、『1.CO2ゼロは可能』ということになる。しかし、現実には、不可能だろう。すべてのエネルギーをバイオマスだけで賄うのも大変だし、やはりなんらかの動力があった方が作業も楽だろうし。

A君:一方、工業製品を作ることを考えると、どうしても、人力のみでは不可能。自動車を材料から人力だけで作るとはとても考えられないですよね。最難関が部品、人力だけで自動車用薄板が作れるとは思えない

B君:工業製品を作るには、なんらかの素材が必要。もっとも一般的な素材は鉄だろうけれど、それ以外にもセメント、ガラス、などなどが不可欠。これらを製造するには、どうしても高温が必要で、COを出すことになる。プラスチックの製造は高温というほどの高温ではないけれど、そもそもその原料が石油だから、最終的には、廃棄物としてのプラスチックを処理することまで考えると、どうしてもCOゼロは困難。

A君:各種材料は、現在の技術の根幹をなしているので、まあ、無理の代表例。なんでも木材で済ますという訳には、全くいかないでしょう。

B君:そもそも、人類が生存するには、食物を食べなければならない。料理には、一般に熱を使う。それには、殺菌するためとか、生より消化を良くするなど、色々な意味があるけど。熱を作るには、COを出すプロセスがもっとも簡単。摩擦熱などという方法もない訳ではないけれど、人力による摩擦熱だけでお湯を沸かせと言われたら、誰もやりたくはない。

A君:そろそろ、結論を出して良いのでは。人類が大量のCOを出すようになったのは、産業革命以後の話。産業革命の本質は、熱機関というものを発明したこと。最初の熱機関は蒸気機関だけれど、鉱山に湧き出る水を外部に排出するために必要だった。ほぼどんな鉱山でも、水が湧き出るものだから。

B君:例外は、岩塩鉱山ぐらいなものですかね。

C先生:ポーランドのヴィエリチカ岩塩坑に行ったことがあるが、坑内の礼拝堂などは、実に見事なものだった。1978年に最初に指定されたユネスコ世界遺産の自然遺産4件、文化遺産8件、合計12件のうちの文化遺産に含まれている。それはそれとして、本題に戻るが、記憶が定かではないのだけれど、最深部には、池というか水溜まりがあったかもしれない。

A君:チェックしました。ヴィエリチカ岩塩坑の最深部には、確かに、池があります。次のサイトでは、地底湖と書かれていますが。
https://www.fujingaho.jp/travel/plan/a103162/poland-chopin4-20191119/

B君:結論として、岩塩坑を含む、ほぼどのような鉱山でも、水は出る。その排水のために、発明された熱機関が使われた。そして、大量のCOを放出することになった。文明の進化と共に、余りにも大量のCOが発生するようになって、対策が難しくなった。

A君:次の疑問点。
『2.技術の対応、CO対策とそれによるCO発生』。この質問の最大の本質はどこだと考えるべきなのでしょう。

B君:CO発生を減らそうとして、なんらかの対策を取ろうとすると、そこでまたCOが発生する。CO2を出すガソリンの代わりに電気で自動車を走らせようとすると、そのためには、バッテリーが必須。自動車用だと、リチウム電池が使われていると思えば良い。かなりの重量の電池になる。COも、ざっくり言えば、重いモノを作るときには発生量が多くなる。それに、リチウムは、現状だとボリビアなどにまたがるアルディプラノ・プーナなる高原の塩湖の埋蔵量が最大。

A君:リチウムの他に、例えば、希少元素の一つであるコバルトなどが使われる。もっとも、コバルトは代替物質が無い訳ではないが、電気自動車のように、航続距離を競うといったことになると、コバルトの優位性は否定しにくいですね。

B君:そうね。コバルトの代わりに、様々な元素で代替することが検討中。もっとも資源的に余裕があるのが、鉄とリンとのミックスでやると言うもの。しかし、電池サイズが大きくなる可能性が大。

A君:Webサイトを検索すると、IBMがメルセデス、セントラル硝子、イタリアの電池メーカーなどと共同でコバルトゼロの新型電池を、「海水から抽出した原料を利用して開発した」と発表したとのこと。

B君:今のところ、元素として何を使ったかは未発表。

A君:コバルトは、資源的に問題あるだけではなくて、その産地であるコンゴ民主共和国での採掘に問題があるということ。この国は、しばらく前には、「紛争メタル」の産地でも有名だった。今回のコバルトは、どうも若年労働が問題の中心のようだけれど。

B君:このIBMのような研究は、かなり前から真剣に取り組まれている。電池を作るには、1価の元素が不可欠。周期律表のHの下にある、Li、Na、K、Rb,Csが1価になるけれど、これらの元素が電池の中を動き回るので、サイズが大きいと、狭いパイプの中を大きな球体を通すようなことになって、損失が増えてしまう。そのため、もっとも小さなLiがベストではある。

A君:Naは、元素量としては、地球上にはいくらでもあるのだけれど、電池用としては、どうも適していない。ナトリウム・イオウ電池というものは、風力発電のような揺らぎを含む大電力貯蔵用として日本ガイシによって作られているが、自動車用には利用が難しいと思われる。

B君:という訳で、電池となると、リチウムを使うのが常識。IBMの報告でも、リチウムであるとは書かれていないが、リチウムではないとも書かれていないので、多分、リチウム。そして、コバルトやニッケルを使わないということで、正極材料としては、一般的なLiCoO2やLiNiO2は使われていない。使用している元素は、海水から抽出するということ。しかし、海水には、ほぼすべての元素が含まれるので、特定は難しい。

C先生:そのうち、情報公開がされることだろうから、それまで、謎としておこう。いずれにしても、CO2ゼロを目指す社会においては、電池は非常に重要な商品になる。大型であることと、高価であることが最大の問題と言えるだろう。

A君:それでは、次へ。『3.原子力に関連する疑問+再エネの導入』。これも、質問として何を知りたいのか。原子力は、ほぼ、ゼロCO電源だと考えられているので、パリ協定のような枠組みの基では、優先的なエネルギー源だと考える方向性がもっと強くても良い。しかし、現状の日本における状況だと、広島高裁の判決のように、原発の強制的停止という事態が起きる。この裁判長の最後の判決だったようで、何か、個人的な動機があったのではないか。

B君:という意味では、このような質問に対して、個人的には、このように答えている。「日本の原子力は穢れてしまった。そのため、日本国民には、もはや受け入れられていない」。しかも、「政治家には、原子力に反対しないと当選できないという思いを持っている人が増えている。日本の将来を考えるという政治家は本当に少数になった。そのため、大部分の政治家は原子力に反対する立場を取る」。しかし、これで良いのか。

A君:これもすでに説明しているけれど、ベンチャービジネスなどにチャレンジして失敗した人は、穢れがついたと判断されて、日本社会からは受け入れられなくなる。すなわち、日本においては、「七転び八起き」は夢の世界にしかない

B君:福島事故に対する東電の責任は、「七転び八起き」社会ではなくて「一転びアウト」社会である日本においては、非常に大きい。原発の今の状況は、正しく「一転びアウト」。実際、本日放送されたNHKの特集を見ても、つくづくそう思う。

A君:しかも、日本人には、リスクという考え方ができない割合が非常に高い。それは、統計とか確率とかいった数学をきちんと学習している人が少ないからだろうか。リスクは正に、確率と統計の世界なので。

B君:福島第一での廃炉現場で大量にでてくる排水を貯めているタンクも、もはや限界に近い基数になってしまった。あの水に残っている放射性物質はトリチウムだけ。トリチウムの実態は三重水素(質量数が3なので、3倍重い水素)でベータ線という放射線を出す。ベータ線の実態は、電子の流れなので、透過力は極めて弱く、紙1枚の厚さでストップされるぐらい。しかも、トリチウムは、大気上層では太陽光によって、自然に、しかも、大量に作られている。それが雨になって地上に降り注ぐ。もともと、人体への影響は極めて限定的。だから、福島第一で大量に出ている排水は、海に放出することが最良だけれど、そこで問題になるのが、平均的日本人の放射線に対する恐怖心とそれによる風評被害。風評被害を防ぐにはどうしたら良いか。

A君:世の中には、バナナ等価線量という考え方があって、バナナに含まれているカリウム40という放射性物質の量を基準とする。バナナ1本を食べると、およそ、0.1マイクロシーベルト(0.1μSv=0.1x10−6Sv=1x10−3mSv)という量の放射線で体内被曝が起きることになる。

B君:魚を食べるとどのぐらいの影響があるか、という計算例を以下に示す。トリチウムを含む有機物(排出速度が遅い)の形で、0.15Bq/kgが含まれる魚を1年間に60kg食べるとする。計算される年間の被ばく量は、約2×10−7mSv程度となる。

A君:すなわち、バナナ1本を食べたときの、1万分の1ぐらいの放射線を浴びることになる。このバナナ等価線量なら、なんとなく直感も効くのでは。

B君:あらゆる食物には、天然の放射線が多少とも含まれていると理解することが、まず、第一の条件なのだけれど、それは難しいことなのだろうか。

A君:そもそも、食物というものが100%安全であるということなどは無いという理解が、それより前段階にあるべきなんですけど。

B君:それはその通り。我々人類が食べているものは、すべて、他の生命なのだから、その他の生命が、人類のためを思って、無害になってくれる、などということはあり得ない。

A君:他の生命は、他の生命なりの都合を最大限優先して生きているのだから当然ですね。人類もやはり生命体の一種。しかし、人類は、他の生命に比べると、相当に長寿だ。それだけ、様々なリスクに配慮していることも原因の一つだろう。

B君:ICPRと呼ばれる国際機関が、放射線を取り扱うことを職業としている人のために定めた線量限界は、以下のようなことを想定して決められた。『仮に18歳から65歳まで毎年限度ギリギリの被ばくをしたとして、放射線が原因となるがんになって死亡する確率が、自然の死亡より千人あたり一人だけ増える線量』。そして、『一般人の場合には、その10分の1のリスクを背負う線量』とされた。

A君:がんの発生や遺伝的な影響のリスクは、放射線以外の要因と比べると、実は、かなり小さくなるように決められている。例えば、喫煙などがその例ではあるけれど。ただし、線量限界には、自然放射線による被ばくは含まれていない。自然放射線は人為的にコントロールできるものではないから。

B君:自然放射線が高い地域というものが世界的には、いくつかある。どれほど高いのか、というと、日本では平均的に0.3ミリシーベルト/年程度であるのに対して、インドのケララ州では、9.2ミリシーベル/年イランのラムサールでは、4.7ミリシーベル/年といった数値になっている。

C先生:いずれにしても、日本で起きるもっとも怖い反応は、風評被害なのだ。風評とは、現実ではないことが被害をもたらすと考えることなのだから、避けるのが当然。しかし、それを避けるためには、それ相当の勉強をしてもらうことだけが解決法で、そもそも、風評を聴いて、自分でも嫌だなと思うことを意図的に勉強しようという人は、日本人でなくても多いとは思えない。ただ、世界的にも風評被害が非常に多い国が日本であるということは、どうも事実のような気がする。これが、「一転びアウト」の国だと言われる現状にもなっていて、どうも寛容度が足らない世界のような気がする。バナナに普通に含まれている放射線なのだから、その程度の量であれば、許容しても、何の被害も出ないのだけれど。

A君:最後になってしまいましたが、実は、それぞれの番号には、数件の個別質問がありますので、それも簡単に回答したいと思います。

B君:了解。まずは、これ。
・質問:自然エネルギーはCO2を出さないかのような説明が多いが、設備製造と保守費で膨大なCOを出していると思う。その数値を知りたい
回答:これはLCAの常識ですが、設備製造や保守などの費用は莫大ですが、CO排出量となると、運転時にずっと継続的に発生するCOの方が、設備の寿命を考えて積算すると大きくなるのが、一般的です。したがって、自然エネルギーのように、運転時にCOがほぼゼロという特性の施設には確実にアドバンテージがあります。

A君:次です。
・質問:COを還元しCとOを回収する技術は進んでいますか。エネルギーの使用量を抑制し、安定維持の社会を目指す合意を世界的に得るべきではありませんか。
・回答:COをメタネーションという反応によって、メタンに戻すという技術は普通になっています。このメタンを燃料・原料として使用し、また、発生したCOを回収するという無限ループを行うことが可能であれば、1回のループで、等価的な発生量は半分、2回のループで、またその半分という計算も意味がないとは言えない訳です。

B君:さらに次。
・質問:将来、空気中のCOを固形化や再利用の技術が確立した場合、無制限にCOを排出できるようになるのか? また、固形化や再利用の技術研究で、どこが難しいのか? いつごろ実用化できそうなのか?
・回答:無制限となると、その方法の運用にかかる費用次第なのでは。何をやっても、無制限に近くなれば、コストは莫大になるので。実現可能かどうかという問題は、費用がどのぐらい低下できるか、ということが最大の課題となる場合だと考えています。
 個人的には、世界の元油田地帯の砂漠地帯でDAC(Direct Air Capture)を行い、COを地下に埋蔵することが、究極的な解決法だと思っています。そのようなところでの太陽光発電であれば、コストが2セント/kWhぐらいになるようなので。

A君:最後の質問です。
・質問:但し各国の発展は電力の増加が不可欠で、再生可能エネルギーでの代替えは、30年程度では無理と思う。技術の見通しは?
・回答:日本の状況は、世界的にも最も厳しいと思います。今後の再エネの主力は、明らかに風力なのですが、すでに、条件の良い秋田などの陸上にはスペースがないので、洋上以外に可能性がありません。しかも、現存する送電網が弱すぎます。50Hz・60Hzの問題もあります。途上国は、経済的な援助が必要であることは確実ですので、その援助を誰がやるかが最大の問題だと思われます。技術的には、再エネが格段に進化することは考えられないと思います。いつになっても、風力が主力で、補完的に太陽光。それに、蓄電池は必須という3者のコンビでやる以外に無さそうですから、「解はすでにある技術のコストに依存する」となりそうです。あらゆるコストをいかにさげるか、これが最大の問題なのでは。

C先生:ということで、一応、質問項目の1〜3は終わったことにしたい。2回目までやっても、全然終わらなかった。また続くことになるので悪しからず。