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   中止になった講演会へのご質問の最終回  03.29.2020
       武田邦彦・モレノ氏など温暖化懐疑論

               



 いただいた質問で、まだ全く答えを出していないものがありまして、それを今回取り扱って、一応終了としたいと思います。
 その内容は極めて重要です。「温暖化懐疑論は本当に間違っているのか」。その答えは「明らかに間違っています」なのです。しかし、それを証明するのは、結構厄介なのです。温暖化メカニズムをきちんと理解することが要求されるからです。
 温室効果ガスなるものが、大気中に増えると、なぜ、地球は温暖化するのか。その説明には、地上の温度はどうやって決まっているのか、という極めて根本的な話からはじめなければならないからです。
 当然のことながら、地球の熱源は太陽です。地下のマグマは大した熱量ではありません。太陽光で地球は温められ、熱は温度の高いところから低いところにに移動しますが、その移動メカニズムの基礎を分かってもらうには、多分、学校で習うように、伝導、対流、放射という三つのメカニズムの復習をやることから始めることになるからです。そして、地球に入ってくる熱に比べて、地球から出ていく熱が少なくなれば、地球の温度は高くなる、という結論を導くことになります。


C先生:ということだが、今回は、コロナ騒ぎのお蔭で、小池都知事の外出自粛要請を忠実に守って外出を回避することにしたので、2日間という十分な時間があるね。どんなアプローチでやろうか。

A君:まずは、「温暖化懐疑論」の本を本棚から探してみました。まだまだあるのですが、次の3冊を代表として選択しました。
◆その1「環境問題のウソ」 池田清彦
  ちくまプリマー新書 029  2005年12月
◆その2「科学者の9割は『地球温暖化』CO2犯人説はウソだと知っている」 丸山茂徳 
  宝島社新書 2008年8月
◆その3「地球はもう温暖化していない」〜科学と政治の大転換へ 深井 有
  平凡社新書 2015年9月

B君:温暖化懐疑論の元祖は、やはり武田邦彦だと言えるのではないか。武田邦彦の著書は、代表作は、これだと思う。
 「偽善エコロジー」  〜環境生活が地球を破壊する  幻冬舎新書 2008年5月

A君:この本は、今回取り上げません。なぜなら、以下のような記述があって、武田氏については、その主張のいい加減さが明確に分かるから。
 話題は軽水炉についてですが、2008年段階で、以下のような意見を表明しています。そして、2011年に福島第一の大事故。
 武田「原子炉は、まったく安全であり、その安全性の程度は、石油や石炭を焚く普通の火力発電所より高いことは確実です」。

B君:軽水炉は、安全性に十二分に配慮して建設し、改良し、運転し、万一の事態を十分に想定して、給水車・電源車などを準備すれば、安全性は確保できる。しかし、福島第一の例のように、安全の条件を満たすことができるかどうか、それは人間(=経営者)が決める。さらに、その経営・管理状況をしっかり把握するということができる国のまともな責任者達が、確実に存在しているか、が最大の要因。少なくとも、福島第一に関しては、過去には完全にNoだったし、最近の関西電力の森山事件を見ると、電力業界の常識は一般社会の常識とはかなり違うようにも思える

A君:しかも、安全性のレベルについては、十二分以上であることを過剰に配慮すると、コスト的に見合わないという設備になってしまい、結果的に消滅するのが、エネルギー業界というものの厳しい現実ですね。

C先生:話を元に戻すが、武田邦彦は、もはや「良識」の発信者からは無限に遠い。「明らかに、社会を攪乱することで、自己利益を得る人物」になってしまった。もはや検討対象にする価値はなく、単に「排除の対象」で良いと思う。ということで、その1〜3までの3冊を対象としよう。

A君:この3冊だと、記述のどこが間違っているか、ということの指摘をすることになりますが、実は、それより先にやるべきことが、『科学的に正しい温暖化のメカニズム』はこれであるという説明をやるべきなのでは。

B君:その通りだ。手持ちの本の中では、次の書籍をお奨めしたい。非常に良心的に分かりやすい記述をしている。

「気候変動を理学する」
古気候学が変える地球環境観
 多田隆治著 2013年3月28日発行

 1954年生まれ、東京大学理学系研究科教授を2018年に退官。

A君:Amazonを見ると、新装版というものが出ています。手元の本が2400円なのに、なんと3740円になっています。ちょっと高くなりすぎて、お奨めする価格レベルを超したかな。

B君:新装版ということは、書き直して内容が変わっているということではない、のが普通。

A君:評価が9件あるのですが、Amazonのグラフでは、☆5が34%、☆4が65%ということになっているのだけれど、個別の評価を読みに行くと、☆5が5件、☆4が2件と、まあ最高点に近い。Amazonでの評価は、どうやっているのか。どうも機械学習がやっているらしいのだけれど、この評価を見ると、Amazonのシステムがおかしいのでは。

B君:今回の話題に直接関係するのは、第1回(市民講座が元となっている)の1ページから18ページまで。これほど、温暖化のメカニズムを丁寧に説明している本は、他に見たことがない。

A君:結論が先になるけれど、この本の丁寧かつ正確な説明に比べると、温暖化懐疑論の本の説明は、とてもひどいレベル。

B君:それも当然なのだ。「正しい説明をすると、懐疑論は当然消滅してしまう」。だから、意図的な「誤魔化し」によって成立するものが懐疑論だからだ。

A君:それは、日本だけでなく、米国などの書籍でも同じ。このところの話題の本は、今回は、その意図的な誤魔化しが明確に見破れることが理想ということですね。

C先生:そろそろ、本題に入ろう。手順だけれど、まず、多田隆治著「気候変動を理学する」の1〜18ページを説明してみよう。

A君:了解。1ページは章の題名のみ。2ページが、「地表温度はどのようにして決まるのか」。『数式も出てくるけれど、中学レベルの数学で理解できるので心配しないでください』とある。

B君:まず最初の第一式が、これだ。
 地球が太陽から受けるエネルギーの流量=S(1−A)π

A君:最初のSですが、これが太陽の光が地球の距離まで進んできたとき、地球上で単位面積が受け取る熱量。いわゆる太陽定数。

B君:は1mあたり1370Wという値。この値はかなりすごい。

A君:Wという単位は、時間当たりどのぐらいの熱量が動くかを示していて、我が家の電気湯沸し器はT-Falで、これが1450W。1x1mの太陽熱温水器を理論効率で作れるようになれば、T-Falとほぼ同じ速さでお湯が沸く。勿論、太陽がカンカン照りでなければダメし、理論効率を実現することもあり得ないけど。

B君:次の(1−A)だけれど、Aは受け取る部分の反射率で、ピカピカの鏡だと、(1−A)=0となってほとんどのエネルギーがまた太陽方向に戻ってしまうけれど、無反射の塗装(=真っ黒)ができれば、太陽のすべてのエネルギーを吸収できる。

A君:そして、最後の項は、eは地球の半径なので、地球の断面積を示しています。

B君:第二式に行く。これが地球が放射するエネルギーに関する式で、
 放射エネルギー=4πeσTe

A君:Teは地球の表面の状態を考えた平均的温度。この式では、σが難しいですね。これをシュテファン・ボルツマン定数と呼びますが、その物質に固有の定数で、高温になったときには、温度の4乗に比例して熱を出すのですが、当然ながら、その表面の特性によって、どのぐらいの熱を放射するかが違います。地球のように、表面が氷、水、土、砂、樹木、植物など、様々な形態の物で覆われている場合には、計算して出した平均値が正しいとして、使うことになります。

B君:地球が受け取るエネルギーは、すべて放出しないと、地球の温度はどんどんと高くなってしまうので、第一式=第二式

(1−A)π=4πeσTe

A君:ここで疑問が湧きますね。地球を掘っていくと、そこには、ドロドロに溶けたマグマがある。だから地球からの放熱を考えるときには、マグマの熱も考えなければならないのでは、というもの。

B君:1000〜1200℃もあるから当然とも思えるけれど、実は、地球の土壌や岩石は断熱性能が良い。そうでなければ、海が沸騰しているはず。したがって、地球の地下の温度は無視できる。

A君:そこで、この2種類の式をイコールで結んだ式から、地球の温度Teが計算できる。計算値は−18℃となって、氷の世界だという結果になります。

B君:さて、何が間違っているのか。その答えは、外に向かって放出された熱、実際には赤外線だけれど、その一部が、上空の大気に吸収されて、その大気は吸収した熱を必ず再放出するから、そのとき地球外の宇宙の方向へと地球方向へと均等に放出されるので、半分程度が地球に戻ってくる

A君:半分程度というのもいい加減なので、もっときっちりと計算すると、α=0.61なので、(1−α)=0.39、すなわち、39%の熱は地球に戻ってくる

B君:まとめれば、太陽光の波長は太陽表面の平均温度で決まる。表面温度を5780℃とすれば、人間が感じることができる可視領域が大部分で、その波長の両側にある赤外線と紫外線もやって来ている。

A君:地球の大気は、これらの周波数の光に対しては透明なので、雲などの細かい水滴で散乱されないかぎり、地球に届く。

B君:しかし、地球から外に向かって放出されている赤外線に対しては、大気は透明ではないので吸収する。吸収した赤外線は、再放出されて、半分程度は地球に戻ってくる。赤外線は熱線なので、地表を温めることになる。

A君:そこで、肝心の問題は、なぜ赤外線に対して大気は透明ではないのか?、ということ。

B君:それは、大気の透明度は大気の組成で決まる。二酸化炭素COは、かなり強力に赤外線を吸収する。ということは、大気は赤外線に対して不透明であることを意味する。COが赤外線を吸収すると、そのCOの温度は高くなる。となると分子は激しく振動して、その振動数に応じた赤外線を放出するようになる。

A君:それをもっとキチンと説明しようとすると、分子と光の関係を理解する必要がありますね。

B君:その通りだ。分子と光の吸収に関する良いビジュアルな教材は無いだろうか。

A君:YouTubeをちょっと検索してみたら、地球温暖化に関しては、武田邦彦の「地球温暖化はウソ」のアップが他を圧倒しています。

B君:スマホからしか情報を得ない若者が、YouTubeを見たら、地球温暖化は嘘だと信じる可能性がかなり高い。今回説明を試みたように、その原理を科学的に理解するには、それなりの知識と忍耐力が必要だから。

A君:YouTubeなどの大きな問題点は、その内容がウソであるかどうかという判定をYouTube自身が行わないこと。提供しているのは、現在はGoogle LLCのはずですから、Google Japanの責任を追及しなければならない。

B君:まあ、その通りだけれど、現時点で、地球温暖化を信じていない国民の割合については、米国では、一般人で50%程度。

C先生:ちょっと待った。YouTubeには、適切な教材が見つからないのは分かった。しかし、大脱線してるよ。

A君・B君:はい、そうでした。

B君:まともに探すと、エコライフガイドなるサイトで地球温暖化を説明している。
http://www.eic.or.jp/library/ecolife/knowledge/earth02a.html
 メカニズムとして、次のような図が掲載されているけれど、ちょっと字が小さい。若干拡大しよう。字がギザギザになってしまった。


A君:三枚の絵の左のものは、大気中に温室効果ガスが全くない場合の図で、これだと地球の表面温度はマイナス18℃と計算されて、あらゆる生命の生存が難しい温度。中央人為的な温暖化が始まる以前の状況。地表面から放出された赤外線の一部が地球に戻っているため、地球表面の温度は、11〜13℃ぐらい。この絵だと、2本の矢印が地球に向かって戻っている。

B君:温室効果ガスの濃度が上昇すると、大気で赤外線が吸収され、地球方向に戻る熱量が増える。それが三番目の絵が示している状況で、3本の矢印が地球に向かっている。そのため、地球温暖化が起きる。

A君:現時点では、大気中の温室効果ガスの濃度がどんどんと上昇している状況。

B君:このように、大気中のCO濃度が高まることによる温暖化の進行は、極めて簡単に説明できる。

A君:すなわち、日本だと武田邦彦、米国だとジャーナリストのマーク・モラノは、科学的にこんな簡単に説明できることを無視して、温暖化などは起きないと主張しているのです。

C先生:どうして温暖化懐疑論の本を出版することが流行したのか、と言えば、それは非常に簡単なのだ。温暖化懐疑論の本は良く売れたからだ。買ったのは、大企業の人々だったと思う。
 個人的な経験をお話しすれば、ある大企業のOB会があって、そこで、最近の温暖化の状況について講演をせよというので、かなり分かりやすく話をした。ところが、OB会に来る人達だけあって、自己主張の強い人が何人かいて、その主張は当然ながら、温暖化懐疑論者のものだった。そこで話をしたのが、TCFDの話。主要国の中央銀行と財務大臣が作った組織で、今後、金融機関からの投資が欲しいと思うのなら、気候変動が起きたときにも、自社のビジネスが支障なく継続できることを報告書の形で示さなければならなくなった。このTCFDの枠組みに参画した企業は、と言えば、経産省が動いたこともあって、日本のほぼすべての大企業。こんな話をしたら、うるさいほど温暖化懐疑論を支持していたOBもやっと黙った
 ということで、実は、日本国内で温暖化懐疑論を相変わらず主張している人は、もはや、世界的な合意形成メカニズムである国連などに対する反感のある人だけになったのではないか、と思っている。モラノ氏の本は、トランプ大統領を支持する米国民にはまだまだ売れることだろう。しかし、繰り返しになるが、日本でモラノ氏の本の記述を信じる人の数は、大幅に減った。名古屋で予定されていた講演会の参加予定者から質問があった理由だが、それは、この講演会が、エネルギー関係者が多いということだったからではないだろうか。やはり、石炭が未だに支持されているエネルギー関係者の中での温暖化懐疑論は、他の業種と比べても、より頑強のように思えるので。