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 新成長戦略と日本の雇用      07.11.2010
     
 



 いよいよ参議院選挙である。この原稿を書いているのは、まだ7月10日であるので、結果は分からない。
ここに、その結果を載せるスペースを作って置くことにする。



参議院選挙の結果(7月12日朝記述)


民主党    44
国民新党   0
非改選を含む与党計    110


自民党    51
公明党    9
みんなの党  10
共産党    3
社民党    2
その他    2
非改選を含む野党計     132

次の参議院選挙まで、「何も決まらない」、を今回の選挙民は選択した。
ということは、政界再編か?????



 以下、再び7月10日に書いている。

 今回のHPの目的は、新成長戦略の検討である。今となってはいささか古い。3週間以上前の6月18日に閣議決定されている。「元気な日本」復活のシナリオ。これが副題である。

 日本という国が元気を失ったのは事実。それは誰のせいなのか。政治のせい、官僚のせい、制度のせい、大企業のせい、努力をしなくなった日本人のせい、草食系男子のせい、日本の既得権のせい、中国のせい、などなどの原因を挙げる多くの論説がある。

 しかし、本当の原因は何か。恐らく誰も分からない。いや、本当は、すべての人々が分かっている。その答えは、無意識のうちに、すべての日本人が、「そうなることを選択したからだ」。あるいは、選択せざるを得なかったのだ。これが個人的な仮説である。

 それなら、解決策はあるのか。一応、その提案もできれば、と思って書き始めることにする。



C先生:この新成長戦略は、民主党の主張を反映したものだ。目標は、「強い経済」、「強い財政」、「強い社会保障」の実現。
 まず、全体の構成から説明してもらうか。

A君:結構分厚い文書です。本文だけで54ページ。その後に、工程表と称する図が相当枚数ついています。

B君:日本の文書らしく、書き出しも反省文から始まる。
 「90年代初頭のバブル崩壊から約20年、日本経済が低迷を続けた結果、国民はかつての自信を失い、将来への漠たる不安に萎縮している。こうした閉塞感が続く主たる要因は、低迷する経済、拡大する財政赤字、そして、信頼感が低下した社会保障である」。

C先生:「かつての自信を失い」=これは1980年代の「ジャパン・アズ・ナンバーワン」に象徴される成功物語が今はないこと。「将来の漠たる不安に萎縮し」は、最大のところは、社会保障もさることながら、職がない可能性に怯えているのではないか。「低迷する経済」は事実だが、現状、1980年ごろよりも自由に海外旅行などができる。

A君:1ドルが250円ぐらいでしたからね。

C先生:1975年から2年間、米国の大学にポスドクとして雇用されたが、ニューヨークまでの航空券を買った。片道40万円支払った。外貨持ち出しの制限があって、1人$1500だった。家内と2人で$3000。当時、為替が300円/ドルぐらいだったので90万円だ。大金だった。これで、生活のためにクルマに$1000ぐらい、加えて家具を買わなければならないので、大変だった。

A君:最近、海外に留学するという気の無い大学院生が増えているとか。

B君:いまだと、ニューヨーク往復でいくらだ?

A君:HISだと往復5万4千円。ただし、燃料サーチャージが2万強。

C先生:1980年代よりも、高級な食品が売れている。輸入車も増えた。日本社会は、かつては平等な社会だったが、現在は、所得格差が大きくなった。

A君:朝日新聞の3面のトップが、年収差100倍超えは3社。カルロス・ゴーン社長の年収が8億9100万円、日産の従業員の平均年収が627万円で、142倍。大日本印刷の社長の北島義俊氏が7億8700万円で122倍。東北新社の上村伴次郎最高顧問が6億7500万で119倍。

B君:以前だと、一流企業の社長でも、年収は3000万円程度だった。社員の10倍ぐらい。

A君:今でも、電機大手は10〜20倍らしいし、金融でもまだ10倍程度らしい。野村HDは例外。

B君:トップの高額所得をけしからんと思う日本人は、アリ族。当然だと思う日本人は、キリギリス族なのではないか。

C先生:アリ族、キリギリス族の話は、日本の将来にとって、やはり重要だと思う。しかし、先に行こう。

A君:新成長戦略に戻って、「拡大する財政赤字」は事実だが、もしもそれが深刻な状況であれば、円のレートがこんなはずはない。日本の国債の95%は日本人が持っている。しかし、数年以内になんとかしなければならない。「信頼感が低下した社会保障」は、インフレがいつまでも続くという嘘の仮定を否定できなかった政治と、日本人のアリ族としての几帳面さと勤勉さをもち得なかった社会保険庁という組織が大きな原因。

B君:ところで、「強い社会保障」と「強い経済」は両立するのか。

A君:「強い経済」が米国流のものであれば、「強い社会保障」とは両立しないでしょうね。かの国は、健康保険も自分で勝手に手配するのだ。だから、自分で自分の老後は考えろ。これが米国流ですから。

B君:キリギリス族の一つの典型である米国ビジネス界は、やはり、日本アリ族の平均的なマインドとは違う。

A君:新成長戦略に戻りますが、これまでの日本は、2つの道を選択したが、いずれも政策的に失敗したと述べています。
 まず、第一の道は公共事業中心の経済政策。そして、第二の道が行き過ぎた市場原理主義。

B君:そして、現政権は第三の道を目指すということになる。

A君:第三の道とは、「経済社会が抱える課題解決を新たな需要や雇用創出につなげる」という道だ。

B君:しかし、課題解決といった言葉では、具体的な姿が見えない。

A君:「需要を創造するための鍵が、課題解決型の国家戦略である」、となっています。それには、何が課題なのかを示す必要があるのですが、どうもそれが明示されていない。

B君:いきなり、「グリーン・イノベーション」、「ライフ・イノベーション」、「アジア経済」、「観光・地域」を成長分野として挙げているが。

A君:これらが課題解決型だというのなら、それを推測することは不可能ではない。

B君:グリーン・イノベーションが解決できる課題は、「地球レベルの気候変動問題」。ライフ・イノベーションが解決できるのはなんだろう。医療費の増大、すなわち、「医療を趣味とする老人」が最大の問題のように思えるのだが。

A君:本当の意味で健康になれば、医療費は減るのでしょうかね。いくら健康になっても、最後には不健康になって、死亡するまでの数年間は自立不能になるのが、避けられないと思うのですが。

B君:本当の解決は、医療費自己負担金額の年齢比例制度か。あるいはアメリカ型の医療費の導入。

A君:もし米国でくも膜下出血になって、ICUに入ると、治療費が数1000万円。これを払ってくれる保険もあるが、その保険料は極めて高いので、普通の人には払えない。

B君:やはり米国型のシステムでは、日本人は安心できない。

A君:医療費の年齢比例制度とは? 

B君:例えば、自己負担率に応じて保険料を増額する。もしも追加保険料を払わなければ、年齢%分を自己負担にする。ただし、30歳以下は一定金額。

A君:80歳になると80%が自己負担。これは厳しい。まあ、受け入れ不能でしょう。アリ族には適さないシステムだ。

C先生:高齢になれば、病気が出てくるのは当然。ある程度、病気と共存するというマインドがアリ族の特性だったのではないか。

A君:なんでも外科的に処理するのが米国流。

B君:日本流には我慢が必要。ところが日本人は我慢が苦手になった。

A君:やはりワールドカップのサッカーでも、守備を我慢しつつできるチームが強い。岡田JAPANが方針を切り替えたのは大正解。アリ族に適した戦法になった。

B君:次に行こう。「アジア経済」が課題解決ということになると、現在の課題は、欧米依存型の経済ということになる。

A君:すでに、日本はアジア経済依存型ですよ。


図 地域別輸出額 年ベース
http://www.customs.go.jp/toukei/suii/html/data/y1.pdf

B君:たしかに、その通りだ。新成長戦略には、「急速な成長を続けるアジアには、環境問題などがある」。さらに、「社会資本が不足している」。これが課題だとある。

C先生:アリ族型の社会資本は、なかなか途上国には受け入れられない。1分の遅れもなく運用される新幹線。1Hzの狂いもなく供給される電力。精緻すぎる。原発はどうだろう。

A君:アジアでも、生真面目なベトナムなどには良いのでは。

B君:しかし、おおらかな途上国のマインドは、やはり日本とは違う。

C先生:さらに問題は、日本の鉄道などの運行が、過去には考えられない理由で止まること。自殺は仕方がないとしても、整備不良で止まる。これはなんとかしないと。

A君:アリ族の誇りにもとる。

B君:そして、第四が「観光立国・地域活性化戦略」。観光立国だが、たしかに、このところ欧米からの観光客が減っている。

A君:自分が欧米人だとして、日本に何を見に来るのか。日本文化が異質だった時代には、面白いものが体験できた。しかし、世界中でSushiが食べられる時代になって、日本に来ても、特にやることはない。

B君:我々でも、行ってみたいところは、と言われれば、やはり途上国になる。

C先生:ヨーロッパなら、過去の文明を感じるために。米国なら、日本には無いタイプの壮大な自然の中に入るために。こんな目的は残っているが、日本の過去の文明は、やはり木と紙の文明だっただけに、余り保存されていない。京都とか奈良とかに偏在してしまう。

A君:日本の自然は、やはり、ある類型しか存在していないので、一度見ればそれで十分ということになる。

B君:やはり、日本観光は、日本人の「おもてなし」を感じてもらうこと。さらに、中国人が評価している「ニセモノのない商品」、「比較的信頼できる医療」などの特徴を活かすしかない。

C先生:これをやろうとすれば、ある意味で、しばらく前の日本人の感覚に戻るしかない。

A君:ということは、「強い経済」も、米国流でやれば、実現可能かもしれないが、それ以外の戦略は、アリ族的な特性を取り戻せというようにも読める。

B君:結局、そういうことか。市場原理主義者は、そもそもキリギリス族なのだから、キリギリス族の住むところ、すなわち米国に出ろ。うまく行けば、金持ちになれるだろうが、精神的な安定というか「安住観」は得られないぞ。
 アリ族は、アリ族としての誇りを取り戻し、再び勤勉に、我慢強く、そして、おもてなしの心をもって行動せよ。そうすれば、「安住観」を得ることができるだろう。しかし、余り金持ちにはなれない。しかも、それなりの価値観を国内で再構築することが必要だ。

C先生:先日、東大の工学系の先生方と話をした。情報系の学生は、まず、ドクターには行かなくなった。そして、修士で就職する学生が大部分なのだが、気の利いたソフトなどが自分で作れるという感覚をもつと、就職先の第一希望が、なんとなんとGoogle。

A君:そんな学生は、キリギリス族として生きていくことが可能なんでしょう。Googleの年収は高いらしいですが、ただ、評価が厳しいので、ダメだと評価されると、どんどんと年収が下がる。

B君:しかし、キリギリス的な夢は持てるかもしれない。

A君:最近、クラウドコンピューティングが話題ですが、米国だと気の利いたクラウドシステムを作っているのは、まさにベンチャー。数人のベンチャーが活躍できるのに、日本だと、大IT企業が数100人でソフトを組んでいたりする。

B君:日本のソフト産業は、徹底的に再構築しないと。官需以外の商売は確実に無くなる。

C先生:クラウドといっても、さまざまな定義があるが、インターネット上に自らのファイルを保存することは、大変に便利だ。そのお陰で、ノートパソコンを常時持ち歩くのをこの4月から止めることができた。何か起きでも、Android携帯で、なんとか対応ができる。

A君:C先生は、ZumoDriveですね。自分は、Dropboxを使っています。

B君:ZumoDriveは、ファイルはインターネット上にのみ存在するが、Dropboxでは、それぞれのインターネット上にも、また端末上にも存在する。さて、どちらが良いのだろうか。

C先生:こんな発想をすぐ実現できる才覚がある人間なら、米国での居住をオススメ。恐らくビジネスチャンスは非常に多い。

A君:AppleのiPadは、やはり日本では造り出せなかった。

C先生:Wedgeという雑誌があるが、その7月号の特集が、「なぜ日本はiPadを出せなかったのか」だ。
 ジャーナリストの林伸夫氏は、「ジョブズが偉人だ」だが、このような論調が最先端だなんだ、という単なるアップル礼賛派。余り、本質的な提案は無い。

A君:むしろ、「日本人のマインドに合わない」、という観点から、iPadを批判するような記事が多く出るようでないと、日本人の感覚を世界に売るという発想にならない。結果的に、新しいモノづくりができなくなってしまう。

B君:どうですか。これで40日程度使ってみて、iPadは礼賛に値しますかね。

C先生:弱点だらけの機械だ。しかし、これが好きだと言える人が多いようだ。これが日本人の感覚が劣化したことを証明しているような気がする。
 iPadはちょっと使うと便利だが、本気で使うには、余りにも不便なのだ。高度な機能を重視した場合には、普通の日本人には、とても耐えられないと思う。
 便利なところは、そこいらへんに置いておいて、ちょっとスイッチを入れて、何かを調べるとき。デジカメで撮った写真をちょっと人に見せるとき。
 要するに、「ちょっと」何かをやるには便利なのだ。しかし、何かにこだわってやろうとすると、これはジョブズが作ったオモチャに過ぎないと気づく。

A君:ジョブズは、iPadという遊園地を作ったのですよ。ここのマシンで楽しんでください。そこそこ実用にもなりますから。

B君:ジョブズの心を読めば、「このマシンが気に入る人は、恐らく日本人の20%ぐらいでしょう。もしも、お好きなら買ってください。そのうち、この手の主流は別のシステムになりますが、われわれは、20%という巨大なニッチを独占して稼ぐのです」。

A君:Androidタブレットが、1年以内に主流になりそうですね。ただ、日本では違うかもしれない。このOSも米国発でGoogleのソフトですが、自由度が高いので、ハードメーカの実力と感性が出せる。そこに、日本流のおもてなしを入れることがどのぐらい受けるか。日本では、意外と受けない可能性がある。

C先生:Appleの欠点は、これも毎回指摘されていることだが、閉鎖性だ。iPadでやっとSDカードが読めるようになった。しかし、SDカード上のファイルを操作できるというワケではない。単に、自動的に写真を読み込むだけだ。現在使っているAndroid携帯でも、パソコンにUSBで接続をすると、普通のUSBメモリーとして認識される。当然、ファイルを自由自在に操作できる。
 iPadだと、何かやろうとしても、iTunesを立ち上げ無いと何もできない。しかも、iTunesがあれば、細かいことができるという訳でもなくて、やはり、お任せなのだ。最悪なのが、やってみるまで、何が起きるか分からないこと。

A君:それ以外にも、iPadでインターネットを見ると、AdobeのFlashを使っているHPが寂しいですよね。

B君:Appleの閉鎖性を示す最大の例かもしれない。

A君:AdobeとAppleは、好対照ですね。

C先生:PhotoshopCSなどを使ってみると、なんとも本当のできの良さに感激できる。しかし、iPadを使うと、不満ばかりが出てくる。これが同じ米国製品なのか、と思う。まあソフトの値段が違うからとも言えるが。

A君:iPadだって、ソフトをダウンロードすれば、不満が解消できるというのが、雑誌などの意見。

C先生:AppStoreにはソフトの数が多いというが、実は問題がある。それは、品質が分からないこと。その割には、有料ソフトが多いこと。少なくとも、1日ぐらいは無料で使えるようにならないと、無駄な料金を取られる。
 Androidマーケットは、すでに2万本ぐらいになったらしい。しばらく前までの話だと思って欲しいが、ここにあるソフトの方が、平均的な品質は高いと思う。というよりも、AppStoreにある有力なソフトは、大体、Androidマーケットにもあって、しかも無料だということなのかもしれない。逆に言えば、AppStoreのソフトは、なんと20万本以上もあるそうだが、本当に使えるソフトは、ゲームを除外すれば1000本ぐらいなもので、ハズレソフトがほとんどだとも言える。このAppStoreも閉鎖性の欠点かもしれない。

A君:日本製品で、もっともアリ族的なものはなんですかね。

B君:今なら、一眼デジカメではないか。

C先生:これでキチンとした写真が撮れなければ、確実に、貴方の腕が悪い、というレベルに到達しているのが、日本の一眼デジカメ。プロ用は特にそうだ。ワールドカップでカメラマンが使っている一眼デジカメは、恐らく、100%日本製だろう。そして、プロ用とほぼ同一の機能をもった一般用機器が売れるところが、この日本という国の製品の特徴なのだ。それが最終的に競争力を生み出す。

A君:日本には、世界でもっともウルサイ消費者がいる。これを活かして、世界中のどこでもできないレベルまで進んだのが、日本の一眼デジカメ。

B君:トヨタの品質にしても、このところいささか問題だらけだが、日本人のウルサイ消費者によって育てられたと言えるだろう。

A君:昔は、電子顕微鏡などもそうだった。世界のどこにいっても、日本製が置かれていた。しかし、年間100台しか売れない研究用の製品には、今や日本製は無くなってしまった。それは、企業の経営者が作れなくなってしまったのだ。株主が、リスクを避けて、短期的な利益を追求しすぎると、こんな状態になる。

B君:日本にある種の企業は、やはりアリ族の企業に戻るのが良いということになるか。しかも、株を公開しないのが理想。

C先生:日本にいた世界でもっともウルサイ消費者は、今どうなったのだろう。最近の日本人はiPadに憧れてしまう。まあ許せるのだが、それで満足してしまっているところがダメな点だ。
 こう考えなければいけない。「iPadも悪くはないが、これでは不便だ。その概念はしっかりと頂戴して、日本流の製品、すなわち、プロでも満足できる機能性とおもてなしを付け加えることで、世界の80%の市場を抑えることができる」。

B君:日本のシロモノ家電も、おもてなし心がある。結構、売れるようになるかもしれない。

A君:そろそろ、新成長戦略に戻りますか。農山漁村の再生が重要課題だとしています。

B君:これは確かに課題だ。

C先生:日本の農業も、様々な考え方が表明されていて、混乱状態だ。多くは、食糧自給率をどう考えるかなのだが。次回以降の検討課題にしたい。

A君:第六として、「雇用・人材戦略」が挙げられています。少子高齢化に伴なう労働人口の減少という制約を跳ね返すとしていますが、それ以上に、雇用が失われている現状をどう考えるかが重要だと思います。

B君:「強い人材」を作るとしているが、それよりも雇用が無いのが問題。

C先生:雇用を確保することは、非常に重要なのだが、残念ながら、非常に難しい。それは、先進国のビジネスの未来像というものが見えないからなのだ。iPadにしても、設計したのはAppleだが、製造による雇用は、どうやら台湾と中国で出来たようなのだ。

A君:台湾製の部品が多く使われているということですか。

B君:iPod Touchなどには、日本製が多く使われていたと言われていたが。

C先生:iPadの部品は日本製ではなかった。これも重要なポイントだが、それよりも、iPadというハードウェア=「製品」は、アメリカに雇用を生み出さない、ということが重要なのだ。新しいものが「製品」である限り、それは、先進国には雇用を生み出さない。

A君:「製品」は運べますからね。もしも、先進国で作った製品を売ろうとしたら、先進国の賃金を途上国なみに下げる必要がある。これには反対する人が多いだろう。しかし、これが雇用確保の第一の方法。

B君:AppleはiPadでも、その最終の組立を中国でやることによって組み立てコストを削減した。これは、日本の企業でもやっていること。となると、雇用を確保するには、中国で就職をする日本人を作るしかない。これが雇用確保の第二の方法。

C先生:それが嫌で、もしも自国内に雇用を産み出そうとしたら、土建業のように、その国の国土でしか働けないような産業を作る必要がある。これが、新成長戦略でいう過去の失敗例の第一の道だった。しかし、厳然として、これが雇用確保の第三の方法。

A君:グリーン・イノベーションという名前で呼ばれていますが、太陽電池なども、その設置となると、結構土建業的ですよね。

B君:だから、グリーン・イノベーションは、雇用を確保できるということになるのだ。140万人の雇用が確保できるというが。

C先生:その意味でも、太陽電池の普及は、狙いとしては正しい。しかも、高年齢層のタンス貯金を引き出すには、最適の製品でもある。エコカーもそうだ。プリウスは、まだ大部分が、日本で造られている。

A君:雇用を確保する最後の手段が、労働生産性を高めることだ、と良く言われるのですが、この表現だけでは、それは間違いですよね。労働生産性を上げれば、労働に必要な人数は減る。したがって、より正確な表現としては、労働生産性を高めて、国内労働市場の競争力を高めることによって、海外に行ってしまった雇用を引き戻す。

B君:しかし、そこには副作用がある。それは、労働コストが減るから、結果的に製品の価格は低下し、デフレ傾向になる。だから、デフレは先進国の宿痾だとも言える。

A君:雇用を確保する方法は、これまで述べたきた四種類以外の方法が無い。だから、解決が非常に難しい。やはり、なんらかの割り切りと覚悟が必要。あるいは、「悟りを持つ以外にない」と言うべきかもしれない。

C先生:そろそろ結論にしよう。どうも、この新成長戦略は、発想が単純すぎるように思う。特に、雇用を確保することを中心に考えても、もっと複雑な戦略を創り上げる必要がある。

A君:アリ族国家としての日本を再興して、その強みを発揮させることで、日本の競争力を確保する。ただし、日本国内の賃金はそれほど高くならないかもしれない。それと同時に、肉食系で個人主義の日本人は、その戦場を日本以外に移す。そして、稼いでもらって、そのうち、日本に本社を設立してもらい、資本を還元してもらう。会社も、アリ族系、キリギリス族系と2種類作って、里帰りキリギリス企業に対しては、税制なども変える。

B君:両面作戦か。それには、まずは、国内の考え方をアリ族的に戻す必要があるかもしれない。加えて、これまでの既得権で、「ゴネ得」とか、「タダ儲け」と言えるようなものはすべて返上。例えば、漁業補償のようなものが例になるし、いくらでもある。「労働を伴わない所得なし」だ。アリ族には正義感が必要なのだから。給与格差も10倍程度までだ。

A君:日本国内のマインドが、やはり民主主義を誤解した個人至上主義である限り、なかなか元には戻らないでしょうね。しかし、そろそろ戻さなければならない。

B君:モンスターペアレンツなどは、海外に出てはくれないだろう。我慢ができる日本人を再度出現させなければならない。これは、どうやるのだろうか。

A君:難しい。まずは世論の形成からか。

C先生:結論だ。日本の経済再興に関しては、未だに、市場原理主義的な発想による議論が主流だが、それが日本人のうち、純正のアリ族の好みには合わなかったために、現在の日本があるのだ。好みに合わないものを押し付けても駄目だ、というのが、今回のポイントだ。となれば、日本国内は、もう一度、徹底的に、アリ族としての日本的な社会にしよう。年金台帳を一つの誤りもなく作り直し、農業基本台帳もしっかり作り直す。礼儀正しい日本人をつくり直す。
 それと同時に、それに合わない若者がいれば(最近少なくなったとは言っても、かなりいるだろう)、積極的に支援して、場合によっては、日本国内に、キリギリス特区を作って訓練し、海外での活躍の場を獲得できるようにする。そして、純正のキリギリスになる訓練を現地で積む。現在の東大は、どうも、キリギリス特区の役割を果たしているような気がする。大学によっては、キリギリス特区を目指して結果的に失敗しているが、そのような大学は、アリ族の大学に戻す。
 こんな両面作戦がどうも究極の解のように思えるのだが、参議院選挙の投票に当たって、皆様は、どんな日本の未来像を描かれたのだろうか。