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   プリウスの新PHVは何がすごい
     
未だにEVの弱点は未解決&ノート e-Powerについて 04.02.2017
               



  まずは、Web記事のご紹介から。しばらく前の記事ですが、日経の技術関連のWeb、日経テクノロジーオンライン通信(techon-m@nikkeibp.co.jp)にT氏が書いたものです。

 2017年2月15日、トヨタ自動車は新型プラグインハイブリッド車(PHEV)「プリウスPHV」の日本での発売を発表しました。8.8kWhのリチウムイオン電池を搭載し、ガソリンを使わずにモーターだけで最長68.2km(JC08モードの場合)の走行が可能です。この距離は、日本のユーザーの約8割が通常はほとんどEV走行だけでまかなえる距離だそうです。すなわち、ガソリンを使うのは、充電を忘れたときか特別に長距離移動が必要となったときに限られるそうです。そして、同車の発表会で同社会長の内山田竹志氏は、PHEVが「これからのエコカーの大本命」であると明言しました。同氏によれば現在、同社では新車の販売台数のうちハイブリッド車(HEV)が約45%を占めます。それと同じように、多くのPHEVが走り回っている時代が2020年代前半にやってくるかもしれません。(T氏)

 今回の「プリウス新PHV」が優れた車であることは、全く同意です。しかし、このコメントはなんとなくピント外れなのです。実際にEVとかPHVとかを所有したことが無い人なのでしょう。それも、「無理もないこと」なのです。すなわち、電動系の車にとって、何がもっとも重要なことなのか、それが理解できていないことだと思われます。加えて、なぜ、内山田氏の主張である「これからのエコカーの大本命」なのか、という理由も説明できていません。

 さて、「EVかPHVか」といった議論をしたいのなら、そのとき、もっとも重要なポイントとは、何なのでしょうか!? それが、今回の話題です。

 

C先生:という訳で、久々に車の話題を取り上げることにしたい。これまで、プリウスを4台(初代、二代、三代、三代目のPHV)乗り継いできたが、今回のプリウス新PHVは、2030年までの車としては、ほぼ完璧。すごく良さそうなのだけれど、買わないつもりだ。それは、極めて個人的な理由で、今の車が、まだ5年目。そして、車の運転は75歳ぐらいまでで止める予定だから。現時点でも、年間2000kmぐらいしか乗らない。今後も買い物用途は残るけど、それもほぼ無用になるだろう。歩いて出かけて、宅配を頼むという方法論が可能になったので。どうしても必要となれば、カーシェアリングが近所に何台かあるので、これを使うことにする。昨年まで、ヨーロッパでは年間5000kmぐらいレンタカーを運転していたが、それもあと1〜2回で終わりにする予定。

A君:シェアー・エコノミーは、環境負荷は下がるのですが、その分、国のGDPといった指標での経済規模は縮小することになるのでしょうか。

B君:その話は、かなり重要だと思う。ジェレミー・リフキンの著書、「限界費用ゼロ社会」〈モノのインターネット〉と共有型経済の台頭 2015/10/27は、必読なのだろう。

C先生:ジェレミー・リフキンの「エントロピーの法則−地球の環境破壊を救う英知」1990/5は、まだ、リオのサミットの前という時代だが、地球の将来を議論するための必読書といった感じの本だった。その後、リフキン氏は、「大失業時代 1996/4」とか、「エイジ・オブ・アクセス 2001/9」とか、「バイテク・センチュリ―遺伝子が人類、そして世界を改造する 1999/4」といった本を書いていたようだが、読む気にはならなかった。

A君:その話はいずれということで、今回は、「プリウス新PHV」の話題。ところで、PHVとは何か。これはどこまで基礎に戻って説明しますか。

B君:C先生の現有PHVとプリウス新PHVの違いぐらいは説明しないと。

A君:その説明の中身が、実は、かなりマニアックにならざるを得ないのですよね。トヨタの広告にこんなものがありますが、この「モーター2個分のパワフルな加速性能」という意味が分かりますかね。なぜモーター2個なのか、ですが。


図1 プリウスPHVの広告

B君:注には、「EV走行中、モーターだけでなく、ジェネレーターもモーターとして動かすことができるため」、と書いてある。

A君:なるほど。それで確かに説明は出来ているのですが、まず、ジェネレータ(=発電機)であるものがなぜモーターになるのか。その答えは、実は、同じものだから。

B君:しかし、マニア的には、諸元表が見たい。

図2:新プリウスPHVの動力系諸元
https://toyota.jp/pages/contents/priusphv/002_p_001/pdf/spec/priusphv_spec_201702.pdf

B君:これと比較するのが、前モデルの諸元表。

図3:前プリウスPHVの動力系諸元
https://toyota.jp/pages/contents/priusphv/001_p_005/pdf/spec/priusphv_spec_201506.pdf

A君:なるほど、エンジンに関しては、ほぼ同じだけど、出力は旧モデルの方が1kW高い。燃料タンク容量は新型の方が2リットル多いだけ。しかし、モーターに関しては、前のモデルだと形式が3JMとなっているものが、今回は、1NM/1SMという表記になっている。これは、モーター2台が組み合わされているということを意味するのでしょうね。

B君:前モデルだと、モーターの最高出力が60kWだったものが、新モデルだと2個合計で76kWに増えている。馬力(PS)で比較すれば、前モデルが82PSだったが、新モデルだと103PSになっている。30%弱の向上だ。それより、実は、定格出力の違いが大きいか。前モデルだと18kWしかなかったが、新モデルではなんと52.8kWもある。3倍ぐらいになっている。

A君:実は、1NMというモーターは、四代目プリウスから使われるようになっていて、定格出力を大幅に上げたものです。

C先生:前のPHVのだと、一定速で走ることはできても、加速をするとき、モーターだけでの加速はしんどかった。ちょっとアクセルを踏むとエンジンが掛かってしまうのだ。そのため、二段加速という感じになってしまうのが普通だった。新PHVであれば、電気自動車的に加速できることだろう。まだ試乗していないけれど。

A君:前モデルでは、モーターと発電機という完全な役割分担をしていた。そのため、モーターが単独で動いているときには、発電機は遊んでいて、エンジンが回っているときには、そのトルクの一部を使って発電をしていたのです。これを示す図が、次のようなものです。遊星歯車が鍵です。


図4 エンジンと発電機とモーターが遊星歯車で結合していて、出力を任意の割合で混合できる。
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/special/20090414/1025428/?P=8

C先生:という訳で、プリウスの駆動系は、もともと電気系(モーター、発電機)とエンジン系の最適な組み合わせを実現できる複雑怪奇な駆動系だったのだ。これを動かしているのが制御プログラムだけれど、余りにも複雑で世界の誰も真似できない、と言われている。今回の新PHVは、モーターと発電機を直結して一つの強力なモーターとして使うモードを新設したというのが正しい表現だと思う。もともと、モーターと発電機の構造は、同じものだからなのだ。電車でもブレーキを掛けるときには、モーターが発電機になって、電力が出るのだ。回生電力と呼ばれる。プリウス新PHVに戻れば、そのために、すでに複雑怪奇だった駆動系の制御プログラムは、さらに複雑になったはず。いよいよ宇宙人でも真似のできないレベルになってしまたのではないか、と思う。

A君:しかし、発電が不必要な条件では、発電機をモーターに化けさせるという発想は、プリウス史上始めてです。相当に飛んだ人の発案ですね。普通の、というか、保守的な人だったら、制御プログラムがめちゃくちゃ複雑になるから、やりたくないという発想になるでしょう。

B君:まあそうだ。これまででも十二分に複雑なのだから。余りにも複雑だから、ここで一度整理し直してみよう、そのために新しい仕組みを導入するこのチャンスを活用しよう、といったポジティブな発想の持ち主でないと、そんな発想にはならない。言い換えれば、「人生、これチャレンジ」という発想の人が居たということなのではないか。

C先生:そのため、前PHVであれば、時速100kmぐらいまでモーターだけで走れたが、それ以上の速度になると、どうしてもエンジンが掛かる。しかし、新PHVは、130kmぐらいまでモーターだけで走れるらしい。ほぼ、電気自動車ということだ。

A君:さて、話題を本題に変えて、理想の電動系車とは何か、という疑問に答えてみたいと思います。まず、弱点から。電気自動車(EV)の弱点は、いくつかありますが、現時点で解決できたことから行けば、まずは暖房です。

C先生:初代のリーフの暖房は電気ヒーターだった。現在のリーフは、ヒートポンプになっている。現有のプリウス前PHVだと、暖房はエンジンを動かして、その熱を利用するのが原則で、エンジンが温まるまでは、シートヒーターで我慢するという仕組みだった。

B君:それが、新PHVでは、ガスインジェクション機能付ヒートポンプ暖房という仕組みが新しく導入されて、暖房もエアコンになった。
https://www.toyota-shokki.co.jp/news/release/2017/02/16/001722/

A君:暖房能力が約3割向上とのことだけれど、北海道のような気候条件で本当に暖かくなるか、それは実地試験をするしかない。まあ、PHVであれば、最後の武器がエンジンからの熱ですから、なんとかなりますが。

B君:話を戻すけれど、リーフの初代を買った人たちは大変だった。もともと航続距離が短い。そこで、電気ヒーターは大量の電力を食うので、寒くても暖房を使わないで我慢したという話をよく聞いた。

C先生:電気自動車の次の弱点に行こう。EVのもう一つの根本的な弱点は、航続距離の短さだとよく言われるけれど、実は全く違うほぼすべてのメディアが間違った報道をしている。例えば、「今回発表されたEVの航続距離は大きく伸びたので、名古屋まで無充電で行ける」、といった報道なのだけれど、これは、実は無意味なのだ。名古屋まで行くだけなら行けるけど、EVだと、名古屋で用を済ませて、すぐ大阪に行くのは無理だ。名古屋で急速充電のための最低でも1時間ぐらい停車している必要がある。

A君:もっと端的に言えば、「あらゆるEVは、旅用の車(=旅車)としては欠陥車」だということが報道されていないのです。ガソリン車の「3分間満タン」と同等、すなわち、「3分間で満電」が実現できないかぎり、EVは旅車にはならない

B君:それができる可能性がある方法が、ただ一つある。それがバッテリースワップ。電気自動車が同じ規格のバッテリーを使っていることが前提だけれど、フル充電のバッテリーとエイと交換するという方法ができれば、かなり行ける。

A君:ところで、米国でテスラが売れているのは、「テスラは3台目の車」だから。1台目の汎用の車としてガソリン車を所有、2台目に奥方買い物用の電気自動車、そして、3台目のテスラがご主人用の「ミエ車」=「僕ってイーロン・マスクに近い存在だから」

B君:テスラか。日本でも、今は、100kWhのバッテリーを搭載したモデルSも買える。自宅に200V15A程度の充電設備を新設したとしても、能力は3kWhだから、100kWh分の電力を充電すると33時間以上掛かる。家庭で6000Vを受電するのは、あり得ないし。

A君:ヨーロッパは、もともと400Vまでの受電が可能ですが、充電電流も2倍にできれば、8〜9時間で充電できますね。

B君:それにしても、旅車としてテスラを買うのは、リスクが余りにも大きすぎる。特に、冬に暖房を使いながら、渋滞した高速道路を這うように進むなどというシナリオは、どんなEVでも受け入れ難い。

A君:結論は、旅車は、満タン3分が最大の条件ということです。あとは、どうでも良い。これさえ満たされれば、まずまず楽しめる。

B君:トヨタミライは、水素燃料電池車だけれど、満タン3分の条件をほぼ満たすようだ。しかし、現在の日本だと、水素スタンドが無いし、自治体などが持っている水素スタンドだと、満タン3分の能力は持っていない。

C先生:これでほぼ結論で良いのではないか。中国は、現時点、大気汚染防止の観点からEVを推進しているようだ。しかし、中国の充電設備は、どうも220Vらしいので、日本と大差ない。大型のEVだと充電に数時間以上を要するだろう。個人的には見たことはないが、かなり時間を掛けてゆったりと充電しているらしい。どういう商売の人なんだろうね。

A君:という訳で、今回の新型プリウスPHVのですが、60kmぐらいまでは、EVとして走ることができて、電池が空になってからは、電池がリチウムであることから、普通のハイブリッド車よりも、若干燃費の良いハイブリッド車として運用ができる。ブレーキングのときの回生エネルギーの効率が、普通のハイブリッド車よりも高いからです。そして、もし休憩場所に充電する設備があれば、EVに戻ることも不可能ではない

B君:新PHVは、「万能さとエコが両立している」、という意味で、内山田氏の言う「エコカーの大本命」なのだろう。

A君:しかし、残念ながら、米国のカリフォルニア州のZEV(ゼロエミッション車)としては、PHV車は認められず、TZEVという分類になってしまう。そのため、トヨタもカリフォルニア州では、純粋なEVモデルを売る予定のようですね。

C先生:カリフォルニア州の環境先進性というか、先進的環境哲学は、大気汚染の痛い歴史ゆえに現在も保たれている。だから、地域の特性だが、基本的に、排気を少しでも出す車は、いかにクリーンであっても、やはりダメなのだ。
 結論として、プリウス新PHVは日本流のエコ車の究極的な形だと言えるだろう。しかし、ヨーロッパ人は、特に、ドイツ人には、プリウスの運転感覚がどうしても受け入れられないらしい。受け入れられない理由は別にあって、もともと、車はダイムラーとベンツが発明したのだ、という誇りがあるためだ、という説もあるけれど。現実的には、ヨーロッパでも、大都市内のタクシーとしてはプリウスが主流になっている。実燃費で勝負をすると、なかなかプリウスには勝てないからだ。
 ということで、ドイツはEVを将来の車の形としている。しかし、それでは満タン3分という条件を満たすことができないので、小さなガソリンエンジンと小さなガソリンタンクを備え、いざとなれば、そのエンジンが発電機を駆動するというやり方の、プラグインハイブリッドが主流にならざるを得ないのではないか。そう考えれば、プリウスの新PHVがドイツでも評価される可能性がある、ということだ。しかし、ドイツ人は、誇りを傷つけると難しい国民性なので、実は怪しいところが残るが。

A君:終わりにする前に、もう一つ、話題にしたいことがあります。電動系と言えば、日本でも日産のノートのe-Powerという車が、かなり売れましたね。

B君:このe-Powerという車は、結構インパクトがあるのだけれど、Web上でのいろいろな試乗記を読んでみると、やはり、車評論家という人々の限界を感じるね。要するに、弱点を書いている記事が見られないのだ。

A君:何が弱点か、と言えば、この車の弱点はバッテリーの小ささですね。わずか1.5kWhしかない。そのため、純粋のEVとして走ったとしても、5kmぐらいしか航続距離がない。しかも充電装置を搭載していない。バッテリーがすぐゼロになるために、普通のノートと同じ排気量の1200ccのエンジンが発電用として搭載されていて、エンジンがほぼ常時動作している状態でなければ、走ることができない。もともと、この方式は、シリーズ型ハイブリッドと呼ばれるものであって、総合的な燃費は、プリウス型の燃費に敵わないことが、すでに証明されているのです。

B君:具体的には、e-Powerの実用上の限界を見ようと思ったら、箱根ターンパイクを登っていることが必要不可欠なのだけれど、そんな試乗記に出会うことが未だにできない

A君:e-Powerは充電できても良さそうなのに、なぜできないのか。それは、コストが高くなるから。具体的には、充電システムのコストが高いから。エンジンは大量生産ができるけれど、充電システムはまだまだ生産量が少ないこともあって、充電できるようにしたら、とてもコスト競争に勝てない。当然、充電をするとなれば、電池が1.5kWhという訳には行かない。最低でも5kWhぐらいは搭載することになる。

B君:しかし、近い将来、リチウム系の電池も1kWhが$100になると言われている。だから、リチウム電池のコストは、余り問題ではないのかもしれない。むしろ、サイズと重さが問題かもしれない。それに、加えて、自動車用リチウム電池の中古品で、家庭用の蓄電になら充分に使えるので、リユース商売が始まることだろう。これは新しい市場なので、色々な面で面白いと思う。そうなれば、充電システムの価格も大幅に下がることだろう。ただし、日本という国では、なかなか難しいかもしれない。外国製になってしまうかも。

C先生:という訳で、今回は、電動系の車について、記事を書いてみたけれど、日本の自動車評論家は、どうもドイツ人と同じように、電気自動車のスタートダッシュ=「低速トルクの大きさ」に魅力を感じる人種らしいことが分かった。まさに「出足が良い車」は古典的な車の価値だからだ。言い換えれば、自動車マニアが自動車評論家をやっているということが改めて認識できた。だから、車の実用性にはほとんど関心がない人々なのだろう。それに、メカニズムが分かっている自動車評論家は、極めて少ないことも事実のようだ。そういうと反発されるかもしれないが、文系の自動車評論家多いのだが、彼らは、メカが分からない。
 すでに述べたように、もう新車を買う気はないのだけれど、もし、また何かの加減で買う気になったとしたら、もっとも関心があるのは、BMWのi3というプラグインハイブリッドのような形式の車。電気自動車に小型の発電機を動かすガソリンエンジン(i3は二気筒の647cc、バイクのエンジン??)と小容量(10リットルぐらい)のガソリンタンクがある車。バッテリー容量がある程度、まあ、30kWhぐらいあれば、これで大体行けるはず。しかし、実際に旅車として使っているときに、予想外の事態が起きることは本当にないのか、そこに関心があるのだ。しかし、どこを探しても、i3の長期使用記のようなものが見つからないのが残念なところなのだ。どうも自動車のジャーナリズムというものは、「何か困るような状況にはならないのか」、といった本当の実用性には、ほとんど関心が無くて、車は趣味であるという人達によってのみ、支えられているのだ。そのため、電動系の車の評価は、いつでも妙なことになる。