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    温暖化対策の論点  11.10.2019
       何が本当に可能なことなのか



 日経朝刊に「温暖化対策の論点」上・下が掲載された。11月7日と8日である。
 まず、7日には、地球環境産業技術研究機構の秋元圭吾氏による「技術革新による好循環カギ」が、そして、8日には、地球環境戦略研究機関の田村堅太郎氏が、「脱炭素化の時間軸 至急示せ」と題するいう記事を書いた。新聞としては、かなり長い記事であるが、それでもぞれぞれの著者による執筆字数は2800字程度である。この字数でこの複雑怪奇な問題を述べるのは、なかなかの難題ではあるはずである。
 今回、この両者の主張の共通点、相違点などを解析した上で、個人的にどのように考えているのか、を記述してみたいと思う。



C先生:ということでは、今回は、2本で合計5600字ほどの記事が対象。秋元氏は、昔からの知人で、現在、地球環境産業技術研究機構の主席研究員。田村堅太郎氏は、地球環境戦略研究機関の上席研究員。なんとなく組織の名前が似ているけれど、秋元氏の組織名には「産業技術」という言葉があることから分かるように、経済産業省系の研究機関。そして、田村氏の組織名には、地球環境戦略なる言葉があることからも分かるように、環境省系の組織。

A君:どう取り扱った良いですかね。まずは、世界全体の状況に対する我々の理解を再度まとめた上で、何が本当に持つべき問題意識なのかを明らかにした上で、その視点から、お二人の意見を比較検討するというやり方でしょうか。

B君:ざっと読んだ感じでは、お二人の発言とも、やはり、9月23日の国連本部で行われた「気候行動サミット」の影響がかなりある、ということは確実。

A君:若干、「気候行動サミット」の方向性と違っているところがあるとすれば、それはやはり「石炭」をどうするかの意見か。

C先生:ある意味で、日本政府にとっても、もっとも難しい課題なのだ。もはや日本国内に石炭発電所を新増設する方向性は無いと思うのだけれど、もし、南アジアの国々に石炭発電所を作る国は、と言えば中国。もし、中国に一帯一路の延長上で、各国に原発を作られてしまうと、南アジアのその国の将来がどうなるかが難しい、という極めて重大な問題である。なんといっても、石炭発電のコストはまだ安い。しかも、日本の石炭発電は効率的にも最善なので、中国製と比較すると、多少だけれど、日本製が普及する方が、CO排出量の点では良い。こんな状況なので、「貧困対策」と同調した「エネルギーの電化」という重要な課題を実現するためには、石炭発電を無視することはできないということになってしまう。
 4月3日に終了した例の内閣府での懇談会でも、この問題は指摘されたのだけれど、結局のところ、当時の外務大臣の河野さんが、「それは一旦、私に引き取らせてほしい。熟考するので」、となったが、その結論は結局出てこなかったと思う。

B君:国連の「気候行動サミット」のような、なんでもゼロCOという会議では、石炭発電と貧困対策のような話、これは、SDGsの最大の課題でもあるのだけれど、それを議論するというマインドは例えば、グレタさんの演説の熱気で蒸発してしまうのだ。

A君:我々の考え方は、実は、すでに決まっていて、それはかなり「飛んでいる」発想。石炭発電によって、地球上から貧困をなくすことができれば、それはSDGsにとっても、それ以外の国際関係の見地から見ても、非常に重要な成果だと言える。しかし、大気中のCO濃度が増えてしまう。しかし、それを減らす方法が全く無いわけではない。それがDAC(Direct Air Capture)なる方法。設置場所は砂漠で、以前、石油か天然ガス田があったところ。太陽電池を大量に設置して、そのエネルギーで、大気中からCOを吸収する装置を運転して、採取されたCOは液化して、地下の元油田にしまい込む。このDACを運転する費用は、先進国が経済支援の一環として負担する。

B君:まだ、かなりな夢物語ではあるけれど、このような方法しか最終的な石炭問題の解決法は無いと思う。

A君:非常に安価な電池が開発されれば、ちょっと話は変わってくるのですけど、ノーベル賞は獲得したけれど、現行のリチウム電池ではちょっと無理。

C先生:今回の秋元氏と田村氏の石炭に対する見解を紹介すべきだろう。

A君:まずは、田村氏の意見
 「短中期排出削減目標の政策・行動だが、長期的な視点から見ると、最適なものではなくなるリスクへの対応が必要。仮に30年26%削減に向けての漸進的な削減技術が導入されても、そこからの排出量が長期的に続くことになると、正味ゼロ排出達成の阻害要因となる。その典型が石炭火力だ。」。
 「正味ゼロ排出を目指すのであれば、長期的に排出を固定化してしまう石炭火力は、高効率であっても炭素回収貯留(CCS)付きでない限り建設できないはずである。世界的にCCS付きの火力発電所の導入・普及は遅れているいるが、高コストが最大の原因だ」

B君:確かに、CCSを日本で石炭発電所に付けようといっても、日本には、地形からCOのしまう場所が無いので、どこか外国に運んでそこにしまうことになるので、輸送コストが非常に高いものにつく。

A君:それを考えて、我々は、COの大気輸送が可能なDACを推奨したい、という言う訳。ちょっと荒唐無稽に見えるみたいなのだけれど、現実的には可能なのではないかと思う。当然、コスト計算が必要不可欠。それには、まだ大気中のCOを低コストで吸収する技術開発を全力で開発する必要がある。

B君:DACのコストが下がれば、それこそ、砂漠での太陽電池のような、超低コスト電力の利用によって実現できる。SDGsの達成にもっとも必要な条件を満たすことでもある。

C先生:このぐらい飛んだイメージを持って、その実現が可能かどうかを真剣に考える時代になったと思うのだが。経産省と文科省の共同主催だった、通称「ポテンシャル検討会=ポテ研」では、DACの議論も少々できたのだけれど、誰も、まだ本気で検討をしていない。

A君:明るい未来が来るかどうか、それはすべてイノベーション次第。

B君:それには、あらゆる新しいアイディアをまともに取り組むというスタンスが不可欠。

C先生:秋元氏の石炭に対する意見は?

A君:まず、全体的なトーンとして、秋元氏は、「これまで排出量が減ったのは、一つは、米国のシェールガスのお蔭、もう一つは、米国から中国に製品の製造拠点が移動したことが大きい」

B君:CO削減費用については、気温を2℃に抑えるというシナリオでは、2050年にCOの1トンあたり、130ドル(45〜1050ドル)、それを1.5℃にすると、2800ドル(245〜1万4300ドル)としていて、1.5℃は現実的ではないという主張のように読めるね。

A君:大幅に安価にすべき技術として、「再エネ、CCUS、水素、蓄電池、バイオ関連技術」が将来有望だとしています。

B君:特に、IT技術との連携が上手くいけば、さらにコストダウンが可能だという主張のようだ。それは、モノ、サービスと一体化されたエネルギーを含めて低減できる可能性が出ている。

A君:秋元氏は、1.5℃にはかなり批判的で、「2℃目標への道がはるか遠い状況であるのに、最近は1.5℃目標へとゴールが動いていることには懸念がある。石炭火力発電のみならず、天然ガス利用まで否定するような論調する見られる」、と述べています。

B君:それは当たり前の指摘で、多くの人々は、どのような技術があって、それが何ができるのか、その限界はどこにあるのか、などを十分に知らない。特に、環境NPO系の人は、技術、特に、その未来像には疎い。グレタさんも同様。だから単純に低炭素化の主張ができる。

A君:秋元氏は原子力について、このように述べています。「原子力は安全・安心の課題はあるが、費用対効果の高いCO削減技術であり、気候変動抑制に明らか大きな効果を発揮する」、と指摘しています。

B君:極限的大局観というものがあって、これは、誰が考えても遠い未来はそうなのだ、というものなのだけれど、それによれば、地球上でのエネルギー供給の究極の手段は、核融合になる。具体的には、重水素+三重水素からヘリウムを作る核融合。三重水素をトリチウムというけれど、最近、福島第一原発での廃水処理後の水をどうするか。現在はため込んでいるが、いつまでも貯める訳には行かない。これで話題になっているのがその廃水に含まれているトリチウム。そのトリチウムが人体にとって有害であるという主張が、どうも行われているらしい。

A君:原子力関係の情報であれば、反原発団体ではあるが、「原子力資料室」というところが正確な情報を提供している。元々、高木仁三郎氏が作った組織で、原子力に頼らない社会を実現することが目的だとされているけれど、他の反原発団体とは違って、ニセ情報は出さない

B君:その原子力資料室のサイトの原発きほん知識⇒放射線ミニ知識とたどって、トリチウム(水素−3、3H)を見ると、生体に対する影響という項目で、以下のように記述されている。

生体に対する影響  原発きほん知識 CNC
  http://www.cnic.jp/knowledge/2116
「トリチウム」
 放出されるベータ線は水中で0.01mmまでしか届かない。体内取り込みによる内部被曝が問題になる。10,000ベクレルを含む水を経口摂取した時の実効線量は0.00018ミリシーベルト、10,000ベクレルを含む水素ガスを吸入した時の実効線量は0.000000018ミリシーベルトになる。2つの間に10,000倍の差がある。
 最近の雨水中のトリチウム濃度を2ベクレル/リットルとして、この水を1年間摂取すると、実効線量は約0.00004ミリシーベルトになる。ふつうの人がトリチウムによって受ける年間実効線量はこの程度であろう。(コメント:要するに、問題になる量ではない)。

A君:カリウム40による自然被曝が、原発きほん知識によれば、「生体に対する影響天然に存在する放射能として、内部被曝による線量が大きいものの一つと考えられる(「ラドン‐222」を参照)。内部被曝が重要で、10,000ベクレルを経口摂取した時の実効線量は0.062ミリシーベルトである。体内に常に同じ量が存在するので、線量は計算しやすい。生殖腺や他の柔組織に対する年間線量は0.18ミリシーベルト、骨に対しては0.14ミリシーベルトである。」

B君:カリウム40は、人が食べるものに含まれている。こんな記述になっている。
「食品中の濃度はかなり高く、白米、大根、ほうれん草、りんご、鶏むね肉およびかつお1kgに含まれるカリウムの重量は、それぞれ1.1、2.4、7.4、1.1、1.9および4.4gである(白米1kg中の放射能強度は33ベクレルに相当する)」。

C先生:このカリウム40の放射線の強さを考えれば、本来、トリチウムによる被ばくなどは考えなくてよい程度のものなのだ。なぜ、こんなにも簡単に安全と言えることが社会的問題になるのだろう。

A君:反原発団体の中には、平気でウソをつく団体が存在するということが大きいですね。一般人には、そのウソを見抜けない。CNCに書かれていることに、学問的なウソはまず無いので、その点、ご立派。反原発団体の意見ではなくて、科学的意見を共有できる団体の意見だと理解できます。

C先生:いずれにしても、パリ協定にキッチリと対応するには、COゼロのエネルギーをしっかり活用するというスタンスが不可欠だ。「現状の大規模原発は、人間の手に負えない状況に絶対にならないとは言えない」ことが、福島第一の事故で証明されてしまった。だから、現状の大規模原発は、とにかく、確実に安全対策を行うというスタンスでの対応が取られている。ところが、その安全対策が、かなり過剰ではないか、という見解もありうるような状況という意見もある。なんといっても、「100%の安全」と言う言葉は、何についても絶対にあり得ない。「自動車事故で死亡事故がゼロになるような車というものがあるか」。その答えは、「将来、自動運転が行われるので、死亡事故は大幅減る。しかし、完全にゼロにはならない」と同じようなことが、あらゆることについて、言える。原子力の場合にも、全く同じで、完全に事故をゼロにすることは不可能。しかし、1000年に1回程度が事故の確率であれば、向こう20年ぐらいは、「まあ、動かすか。なぜなら、COを発生する火力発電よりは、気候リスクの増大が相当に低いから、全体的なリスクも低い気候リスクは、このところの台風の狂暴化によって証明されているように、それによって、かなりの死者がでることが確実だ」、という判断ができるかもしれない。
 1.5℃をどう考えるか、これは、大変に難しい問題で、もしも、イノベーションが進行しないような状況で1.5℃を実現しようとすると、BECCS(Bio-Energy CCS)を活用するようなことになるので、世界の森林が消滅する可能性が高い。となると、ますます温暖化は進行する方向になることがほぼ確実なので。
http://www.yasuienv.net/NG15BECCS.htm
 ということで、これなら絶対に良いと言える結論は無いのだ。あらゆる可能性をすべて考慮した上で、最良と思われる組み合わせを見出して、その方向に進む以外に、正しいと言える対応の道はない。これが結論。