-------

   日経の論調が変わった? 02.04.2018
       EV一辺倒はノルウェーだけか?

               



 あれ、日経はEV一辺倒だったような気がするけど、突然、論調が変わったのか。1月28日(日)の日経の記事を1枚のパワポで表現してじっくり見ると、こんな感じを受けます。

       数値の予測は、IHSマークイットによる。

 よくよく見れば、この予測の最終年が2029年ですから、それほど大きくは変われないというのが現実だとは思います。 この数値は、世界全体での自動車の生産台数の予測で、すべての種類の自動車の生産が、2029年には、2017年比で1.21倍の増加。しかし、純粋のガソリン車が30%減、ディーゼル車が35%減になっています。マイルドハイブリッドが500%という増加になっていますが、これは一体どのような車を意味しているのでしょうか。

 さらに言えば、これらの数値になんらかの根拠が見つかるのでしょうか。これを、各国の状況から若干解析してみたいと思います。



C先生:ヨーロッパを中心として、「パリ協定の遵守」が競争になっているのは事実だ。その最先端が各国の自動車に対するポリシー。日本はまだ何も動きがないが、すでに報告しているように、次のような国々が目標を公表している。これと、日経の記事との整合性があるかどうか、それを検討しよう。

A君:各国の状況を一応整理しました。早い順に並べます。

ノルウェー:2025年までにガソリン・ディーゼル車販売終了(法案可決)
オランダ:2025年までに同様。しかし、詳細不明。
スウェーデン:2030年に、ガソリン・ディーゼル車販売終了(法案可決)
ドイツ:2030年までにガソリン・ディーゼル車販売終了。
インド:2030年には、ガソリン・ディーゼル車販売終了。
イギリス:2040年で、ガソリン・ディーゼル車販売終了

             +大気汚染のひどい道路へのディーゼル車乗り入れ規制。
フランス:2040年で、ガソリン・ディーゼル車販売終了

B君:すごいのはノルウェー本当にやるのか。そもそもノルウェーは、北海油田からの国家的収入が継続するという前提で、国家財政なども考えてきたはず。産油国なのに、ガソリン・ディーゼル車の販売を終了とすると、その後15年経過した2040年頃には、国内にほぼガソリン・ディーゼル車が無くなることになる。

A君:産油国という観点から言えば、その通りなのですが、ノルウェーという国の状況を見ると、まずは、割合と都市が孤立している印象の国であること、高速道路などもオスロ周辺には速度制限110km/hの高速網があるけれど、それ以外のところだと、80km/hが制限速度。ヨーロッパの普通道路では、街中以外だと90km/hのところが多いことを考えると、やや保守的。

B君:ということは、やはり北国だから、降雪を考えて、自動車が主要交通機関であるのは、比較的近距離に限られているということかな。

C先生:ノルウェーの地方都市は個人的にはトロンハイム、ベルゲンしか行ったことがないけれど、やはり、何と言っても、国全体の人口が523万人(2016年)しかない。あれほどの面積(32万km)なのに、デンマーク(561万人、4.3万km)より人口が少ないのだ。トロンハイムは実は、ノルウェー第3(今は第4かも?)の都市で、ノルウェー科学技術大学がある学術都市なのだけれど、実に小じんまりしている。人口16万人ぐらいなのだから、当然だけど。

A君:だから、ガソリン車・ディーゼル車で長距離を走るという国ではないということですか。冬に何か事故でもあると、凍死の危機でもあるということで。むしろ、非常に豊富な水力発電による電気で走るEVにした方が良いということでしょうか。

B君:多分、そういう国なのだろう。ノルウェーという国は、生活態度も相当違う国で、ほとんど残業をしないと聴いたけど。

C先生:そのようだ。その理由を聴いたところ、ある収入を超すと、そこから税額も急上昇する仕組みで、実質賃金がほとんど増えないからだと言っていた。そのギリギリのところまで働くと言っても、実は、それが通常の勤務時間になっているという状況らしい。

A君:北欧といっても、実は様々な価値観の国の集まりであって、ノルウェーは別格ということでしょうか。だから、極端な政策も受け入れられる

B君:ノルウェーの年金基金と言えば、最近はやりのESG(Environment Society Governance)投資で有名なところだけれど、日本への投資を引き上げたことでさらに勇名を馳せることになった。最初、中国電力、北陸電力、四国電力の3社から、そして、沖縄電力、Jパワーの2社が追加され、現時点で九州電力と東北電力が観察下に置かれている。

C先生:ノルウェーの年金機構も、北海油田の上がりで動いてきた訳だから、当然、その自己矛盾を認識している。しかし、ノルウェー政府は、北海からの石油産業に事業転換を促しているようだ。これまで海上に石油掘削基地が作られていたが、この建設技術を活かして、洋上風力発電に転換したらどうだ、といった提案を行っているようだ。石油からの離脱はある程度覚悟した。国内に自動車産業はない。このような国ならではの決定だと思うべきだろう。

A君:それでは、次の国へ。同じ北欧のスウェーデンに行きますか。

B君:スウェーデンには、ノルウェーと違って、自動車産業がある。ボルボ・カーズだ。現時点では、中国資本下の企業ではあるけれど、結構伝統的な企業で、本拠はヨーテボリにある。

A君:昨年の7月のことですが、ボルボは、2019年に純粋なガソリン車の生産は止めると宣言しましたね。そして、切り替える先は、EV、プラグインハイブリッド(PHV)、そして、「マイルドハイブリッド車」だそうです。何をもって、「マイルドハイブリッド車」と呼ぶか。定義ははっきりしないのですが。

B君:これで、スウェーデンは2030年にはすべての純粋のガソリン車・ディーゼル車の販売を止めても、自国の自動車産業は無関係だということになる。現時点で、ボルボはどんなPHVとマイルドハイブリッドを作っているのだっけ。

A君:ボルボのサイトによれば、Plug-in Hybridとして、3車種、XC90、XC60、S90があって、出力などは同じなので、同じシステムなのでは。価格は53万ドルから65万ドル。

B君:スペックが若干分かった。XC60だが、車重がなんと2170kg。4WD。エンジンは2Lの直4にスーパーチャージャー付きで、出力が318ps(233kW)。モーターは前の車軸に46ps(34kW)、後車軸に87ps(65kW)と2つ装備されている。エンジンは、前輪を駆動する。

A君:エンジンが233kWで、モーターが34kW+65kW=99kW。エンジンの半分以下ですね。

B君:最近の欧州車のトランスミッションは多段型だけど、この車も8段のAT。どうやって、エンジンとモーター2個の出力を制御するか、だけれど、恐らく、前車軸については、エンジンとモーターの駆動力の比率を一定にするようにATと消費電力を制御する。勿論アクセルを踏めば、駆動力の割合を一定にしたまま、出力が上がる。後車軸と前車軸の駆動力も、恐らく、一定に割合になるように、制御している。

A君:要するに、ハード的にはすべて繋がっていて、プログラムだけで制御している。

B君:かなり複雑のように思えるけれど、ホンダのハイブリッドは、モーターとエンジンが直結していて、回転数は変わらないので、この制御と同じ。

A君:プリウスのハイブリッドは、エンジンの回転数とモーターの回転数が自由自在に変えられるので、その制御プログラムが大変。その変わり、最適な組合せが自動的に選択されるので、燃費面から言えば、1段上の数値を叩き出します。

B君:その代わり、制御プログラムは「大変」、どころではなくて、本当にめちゃくちゃ難しいらしい。

C先生:そろそろ結論にしよう。しかし、その前に、マイルドハイブリッドという言葉を説明しておく必要があるだろう。日本にも存在しているのだし。インドの場合には、これではないか、と思えるので。

A君:マイルドハイブリッドは、場合によると、普通に搭載している鉛バッテリーに溜まっている電力を使って、アイドリングストップ化し、スタートの一瞬だけ、モーターでアシストする方式ですね。日本だと、スズキ、日産などにそのような方式があります。

B君:ハイブリッドというよりは、アイドリングストップと言った方が良いのだけれど、インドの場合だと、このマイルドハイブリッドがターゲットになっている。渋滞での大気汚染が余りにもひどいので、その解決のためには、アイドリングストップだけでもかなり有効なので。

C先生:確かに、デリー・ニューデリーの空気はひどいく汚い。アイドリングストップ車を普及するだけでも、停止中の排ガスが無くなれば、確かに違うだろうと思う。となると、インドの場合には、マイルドハイブリッド車、もし法律的な記述をすれば、モーターと電池を搭載した車であれば、なんでもOKみたいな規制になるのだろう。スズキが現在使っている技術でも、インドにはOKなのではないだろうか。

A君:ドイツ、フランス、イギリスは良く分からないですが、ドイツにも、ボルボと似たようなシステムの車であれば、存在していますね。一方、プジョーには電動車は無いのでは。シトロエンは、なにやらDS5 ハイブリッドというモデルがあるのですが、詳細不明。ルノーはセニックというモデルに、「ハイブリッドアシスト」と呼ばれるシステムを搭載したようです。1.5リットルのディーゼルに、たった13psのモータを搭載しただけで、恐らく、直結型ハイブリッドでしょう。電池も48Vで、150Whしかないので、単なるアイドリングストップと言った方が良いかもしれません。価格の差も15万円ぐらいのようです。これが、「マイルドハイブリッド」のルノー版なのでは。

C先生:大体の状況が分かったように思う。やはり、自国の自動車産業の状況を見ながら、各国政府は、発するべきメッセージを考えているように見える。これは、当然だろう。日本は、世界に冠たるハイブリッド車の国なのだから、もっとそちらに向かえば良いと思うのだが、そうは行かない。なぜなら、トヨタ、日産、ホンダは良いとして、マツダ、スバルは、ちょっと出遅れ。スバルには、以前、直結ハイブリッドがあった。このところの最新型は人気車種になり、販売好調のようだが、ハイブリッドモデルはない。しかし、トヨタとの関係で、早晩、なんらかのハイブリッドが出て来るのでは、と思う。マツダもトヨタとの関係でハイブリッドを出してくるのではないだろうか。となると、それらが出揃った段階で、日本政府がなんらかのメッセージを出すのか。いや、多分、何もおきないような気もする。それは、現政権が、パリ協定に対して、それほど熱心ではないこと、

A君:それでは、最後のまとめとして、最初に示された2029年までの台数の評価に行ってみましょう。
 まず、ガソリン車が12年で70%に減る。2030年がパリ協定の最初の削減目標である26%の目標年。2029年モデルからの排出量が、26%以下の削減率であっては、余り威張れない

B君:日本国内の自動車販売量は、恐らく減っている。だから、この程度の普及台数でも、26%削減は実現できるのでは。実は、自動車関係が26%の削減を実現するたけでは、パリ協定の26%削減目標を達成するのは難しいようにも思えるのだ。

A君:確かに。マイルドハイブリッドの台数が5倍になっても、それほどの効果はないですし。せめて、純粋のガソリン車と純粋のディーゼル車の割合を日本国内では、さらに減らして、両方とも半減を目指す。マイルドハイブリッドの普及台数は、まあ、インドを対象としていると考えられるので、日本国内では、フルHVを増やし、特に、PHVを増やす。EVは、日本でもこの程度の伸びなのでは。

B君:そのぐらいのことを、安倍政権の次の政権が言えるかどうか、それが勝負だろう。日本の現状では、EVをいくら増やしても、電力のCO原単位が目標まで下がるかどうか、という大きな問題があるので、効果的であるとも思えない。

A君:EVには、そういう問題がありますね。そこで、電力のCO原単位の問題を最後にちょっとチェックします。
 まず、使われている考え方自体が、そう簡単ではないという話から。
 平成28年12月27日に公表された電力事業者別の排出係数というものを見て下さい。
https://www.env.go.jp/press/files/jp/104428.pdf
 例えば、東北電力ですと、実排出係数が0.556kg-CO2/kWh、調整後排出係数が0.559kg-CO2/kWhです。やや調整後の係数が大きいですが、その差は0.003に過ぎません。
 九州電力ですと、0.509kg-CO2/kWhと0.528kg-CO2/kWhと差が大きいです。これは、固定価格買取制度(FIT)を使って電力会社が再エネ(まあ大部分は太陽電池)による電力を買っても、その排出係数がゼロだとは主張できない制度であることを反映しています。これは、もともと再エネ由来の電力の環境価値は、買い取り差額を負担する一般消費者が所有すると考えられているためです。難しい話ですね。

B君:それはそれとして、この表の代替値というものが表の最後の行に出てくるけれど、それが0.587kg-CO2/kWhになっている。余り厳密な表現ではないけれど、福島第一原発事故以前の2010年頃には、大体0.35kg-CO2/kWhぐらいだったのだ。これは、原子力の有無を示していると言える。

A君:パリ協定への貢献を確実にするためには、2030年度の実排出係数を0.37kg-CO2/kWhにするということが目標になっています。ですから、EVから排出されるCO2の量は、現時点ですと、1.6倍になっていると言わざるをえないのです。ですから、現時点で、EVは環境負荷が低いと言って良いのか、という疑問がある訳です。ちょっとチェックしますか。

B君:例えば、5km/kWhという電費の車が有ったとする。これは、5km/0.587kg-CO2ということを意味して、8.52km/kg-CO2となる。一方、通常のガソリンは、1リットルの燃やすと、2.322kgのCO2が出るとされている。もし、15km/Lの燃費のガソリン車があったとすると、6.46km/kg-CO2なので、EVとの有意差は余りない。しかし、電力の排出係数が下がって、2030年の目標値である0.37kg-CO2/kWhになれば、13.5km/kg-CO2なので、EVの環境負荷はガソリン車の1/2ぐらいだ言えるようになる。

A君:加えて、EVには電池を搭載しなければならないので、そのための環境影響も考慮しなければならないですね。どのような数値になっているのか、そのあたりは今後検討ということにしますか。

C先生:まあ、こんなところで良いだろう。要するに、ノルウェーは分からないが、他の国だと、2030年頃には、EVばかりが売れるという状況にはならないだろう。長距離を走る車の場合だと、EVの充電時間がやはり馬鹿にできない。ノルウェーは比較的分散型の国なので、長距離を走る車も少ないと想定できるのではないだろうか。
 という訳で、そろそろ終わりにしたいが、なぜ、自動車の話が重要なのか、と言えば、やはり、日本の製造業が、かつての電気製品などから、自動車の一本足になってきて、もし自動車で惨敗などになることを想像すると、かなり不安があるからだ。もっともソニーが過去最高益だといっているので、魅力のある製品を提案できれば、電気製品もまだまだ行けるような気がしないでもないが。
 それにしても、やはり、電力の排出係数がどのような状況になるかで、EVの環境負荷は大きく変わる。2030年において、0.37kg-CO2/kWhという数値が極めて重要だと思う。この数値を上回る発電事業者は、環境税を払ってもらうことになるだろうと思ってはいるが、その金額なども、できるだけ早目に決定しないと、効果的な対応が取れない。現時点の政治のスピードでは、どうなるか、見通しはかなり悪いと言えるだろう。