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  なぜ水素のプロジェクトが無いのか
  2011.12.18



 本日は、学生達が2030年の日本のエネルギー政策に対して、何か一言を言うというプロジェクト、「エネルギーの未来2011」(メンターダイアモンド主催)の最終日のイベントに参加した。

 学生代表6名がプレゼンを行うのがメインイベントではあるが、それを挟んで、東海村村長の村上達也氏と、東京都副知事の猪瀬直樹氏が講演を行った。

 学生の提案は、政府関係者、自民党、公明党などに手渡される予定。学生の未来に対する思いが詰まっているものになったことを期待している。



 先週の記事にしたCRESTの研究チームのシンポジウムの続き。今回の課題は、このCRESTチームになぜ「水素」に取り組んでいるチームが無いかを説明したい。

 遠い将来に、水素がエネルギーの鍵を握っている可能性を否定している訳ではない。しかし、現時点から10〜20年先、あるいは、ちょっと長くして2050年までを見通したとき、水素の役割は極めて限定的だからというのが答えである。

 さて、水素をどのように考えているのか。実は、すでに
http://www.yasuienv.net/Ene3A311.htm
で取り上げていて、2つの理由を上げている。

(1)事実その1:「水素は軽い(体積がでかい)」
(2)事実その2:「水素は作らなければならない」


(1)事実その1の内容は、液体水素のエネルギーは、重さで比較すると、ガソリンの2.6倍ものエネルギーを出すのだけれど、体積あたりにすると、ガソリンの1/5しかない。もしも高圧の水素にすると、体積あたりガソリンの1/10のエネルギーしかない。

 ということは、ガソリンあるいはディーゼルエンジンに変わる燃料電池車というものが水素を燃料にしている限り、燃料タンクのサイズの点で相当苦しいことを意味する。

 それなら固定サイトでの用途なら良いではないか。それはそうかもしれない。しかし、やはり体積を取り過ぎるので、高圧にする必要があって、そう有利ではない。

 それに(2)事実その2で述べているように、何かから作らなければならないので、もしも天然ガスを原料にすることを考えたとしたら、天然ガスのまま使うことを考える方が妥当である。二酸化炭素排出量を80%も削減しなければならない2050年でも、天然ガスを燃やして、出てきた二酸化炭素を回収する装置を考えた方が良いかもしれない。

 すなわち、化石燃料一切ダメということにならないと、水素の出番は回ってこない。しかし、化石燃料は300年後にはなくなるだろうから、そのころには、水素は重要なエネルギーの一つになっているだろう。

 現時点でも、水素が必要になるかもしれないという状況はいくつかある。それはどのような場合か。そんなことを考えるのが、今回の記事の目的である。



C先生:前回のCREST研究チームのシンポジウムのご紹介をしたが、このCRESTチームになぜ水素を取り扱っている研究グループが入っていないのか。こんな疑問を持たれている人が多いかもしれない。そこで、今回、もう一度水素を巡って、色々な話をしてみたい。

A君:話すことは、(1)水素とはどのような物質か。(2)未来の定常状態型技術としての水素。(3)水素をどうやって作るか。(4)水素をどうやって使うか。(5)地球レベルでの用途。

B君:まあそんなところで行こう。

(1)水素とはどのような物質か

B君:まず、水素はHという元素記号で書かれるが、もっとも軽いもっとも単純な元素。なんと言っても原子番号1番だからね。

A君:この水素が太陽の燃料になっている。水素と水素が核融合を起こしたときに出るエネルギーを太陽を光らせている。

B君:大気中にはほぼゼロと言える程度の量が含まれているだけ。しかし、軽い元素だけに、成層圏になると多少水素はあって、軽すぎて重力で地球に縛り付けている力が弱いものだから、地球から少しずつ宇宙に向かって放出されている。

A君:地球上では、水素は炭素や酸素と化合した有機化合物として存在している。炭素とだけ化合した炭化水素は化石燃料の主要成分、酸素と結合していれば水、炭素と酸素と化合していれば、我々の重要な食物であるデンプンなどの有機化合物になっている。

B君:というよりも地球上では、光合成によって二酸化炭素と水から糖類が合成されるのだから、あらゆる有機化合物が水素を含んでいるのが当然で、もしも水素を含んでいないものがあれば、それは有機化合物ではない、とも言える。

A君:ということは、水素は、単独で存在しているのは極めて希な状態で、ほぼ全部が化合物として存在している。

B君:したがって、自然の中で、水素は単独に存在することは無いので、水素が欲しければ、なんとかして作る必要がある。

A君:もっとも簡単な作り方が、水を電気分解する方法。水素+酸素→水という反応の逆反応。水素と酸素から水ができるときには、大量の熱=エネルギーを出す。ということは、逆反応を起こすにはエネルギーが必要ということになる。

B君:一般に、熱エネルギーで水を分解するのはなかなか難しくて、電気エネルギーを使うことが普通のやり方になる。

A君:水素が酸素と反応して水になるときに出すエネルギーは、最初にも記述したように、重さで比較すれば、ガソリンの2.6倍にもなる。

B君:すなわち、そのぐらいのエネルギーを電気の形で投入しないと、水を電気分解して水素を作ることはできない。

A君:ということは、「電気が大量に余ってしまった」という状況が水素を作ることができる条件になってしまう。

B君:実際、そのような事態が起き始めている。ドイツはかなり大量の風力・太陽電池を導入したお陰で、土日などの休日の昼間には、風と日照の状態が良いと電力が余ることが起き始めているようだ。

A君:そろそろ次に行くタイミングになりました。

(2)未来の定常状態型技術としての水素

A君:最近、このHPでの主張は、持続可能性をとことん追求すると、最終的には、定常状態を目指すことになる。定常状態とは、(1)枯渇性資源である化石燃料にはできるだけ依存しない。(2)再生可能資源を再生能力の範囲内で使用する。(3)温室効果ガスなどを含む概念としての廃棄物は、地球の処理能力の範囲内とする。

B君:(1)の「できるだけ」にはもっと厳密な言い方がされているのだけど、まあ、良いことにしてもそれほどおかしくはない。

A君:となると、究極状態では、エネルギーはすべて再生可能エネルギーということになる。すなわち、お天気・地球まかせなので、太陽エネルギー・風力・地熱などによって賄われている。バイオマスのように、備蓄が利くものは良いけど、電力は保存が利かないので、もしも余ったら、発電してしまった分は、なんらかの方法で貯めるか、あるいは、使わないとならないことになる。

B君:電力貯蔵技術というものは結構難しい。まあ、普通なら電池だということになるが、実際には、電池はもっとも高価な貯蔵技術になることが多い。

A君:電池の中では、現状だとNAS電池がもっともコストが安い。リチウム電池はなかなか対抗馬にならない。それは、使っている元素が地球上に十分あるものばかりではないことも理由の一つ。

B君:次世代の蓄電池としては、マグネシウムとか、鉄とかマンガンとか、大量にある元素を使った二次電池が必要不可欠なのだ。これは、現在のCRESTの中のプロジェクトとして存在している。

A君:リチウム系の電池も、全固体型にすれば、少なくとも安全性と体積が小さくなるので、安全かつ効率的な電気自動車用の電池にはなるので、CRESTの中で研究がなされている。

B君:結論的には、再生可能エネルギーの有力候補の一つである風力、太陽光発電は、いずれにしても大幅に揺らぐ電力だ。しかし、これにかなり依存することが、2050年頃の必然的なシナリオだということになりかねない。しかも、これが現状だと唯一に近い定常状態を可能にするシナリオだということにもなる。となれば、水素で電力貯蔵ということも、一つの方法としてあり得ることになる。

A君:そろそろ次ですか。

(3)水素をどうやって作るか

B君:このような電池の進化と、水素による電力貯蔵とは競合関係にある。しばらく前までは、水の電解には鉄などの電極が使われてきたが、過電圧といって、本来理論的に必要な電圧よりも高い余分な電圧を掛けないと電気分解が進まなかった。そのため、水の電気分解によって水素を作り、その水素で燃料電池を動かして電気を作ると、効率が50%をはるかに下回ることもあった。
 しかし、最近では、固体高分子電解質膜を用いて120゜C程度で電気分解を行うことによって、水素の発生効率は電流密度にもよるが、81〜90%といった値が達成されている。

A君:現在もっとも実用的な電力の貯蔵方法は、あいも変わらず揚水発電。変換効率は、70%ぐらいらしい。となると、この膜を用いた電解とその逆反応としての電池を使えば、同等以上の効率で、電力貯蔵ができるということになる。

B君:装置の寿命が貯蔵コストを決めてしまう可能性があるので、まあ、今後どこまで進展するかだが。

A君:ということで、水素を作るとしたら、水蒸気電解ということが常識的になってきている。

B君:すでにNEDOなどで実証実験が行われている段階なので、CRESTなどによって、原理段階から検討をするような課題ではない。

A君:もしもCRESTでやるとしたら、装置の寿命を決めている劣化機構などになるのでしょうが、今回、劣化機構のような研究は、取り敢えず見送ることになった。

C先生:まあ、そういうことだ。現時点では、新たな可能性を追求することに重点を置くという方針になったので、劣化機構は重要だけど、別途行うべきということになったと思って欲しい。ただし、劣化機構の研究は、地味なので、なかなか予算が付かない。

A君:それでは、次に。

(4)水素をどうやって使うか

B君:使い方を考える際の仮定としては、余った自然エネルギーで作った水素がある場所にかなり大量に溜まっているということだろう。この水素を何にどうやって使うか。

A君:ざっと言えば、水素の用途は、化学原料と燃料電池と熱利用の3つ。化学原料としての用途は、長期的な見通しが非常に難しい。そのころ、どのような状況になっているのでしょうか。
 もしも電力にするのであれば、熱力学の基礎中の基礎ですが、一旦、熱を経由すると、理論効率の上限が設定されてしまう。できるだけ、直接電力にしたい。ということで、当面の候補は、当然のことながら、燃料電池。

B君:水素であれば、現在実用になっている固体高分子型の燃料電池でもなんとかなる。しかし、効率的にもう一つ。しかも、白金触媒を使わないタイプができるかどうか。

A君:個人的には白金レスの固体高分子型は難しいのでは。

B君:アルカリ型の燃料電池の研究が、CRESTのチームには存在している。これができれば、白金レスの燃料電池になるかもしれない。

A君:もう一つが酸化物型燃料電池。いわゆるSOFC。これが今年の10月17日から試験的に発売されている。

B君:京セラやTOTO、あるいは、三菱マテリアルなどのセラミックス材料を得意とする企業が電池本体の鍵となる固体電解質を作っている。この材料がどのぐらい寿命があるか、それがこの装置の将来を決める鍵。

A君:セラミックス技術は、日本が未だに世界のトップにある分野なので、がんばればそこそこのレベルに到達するのでは。

B君:本来であれば、SOFCは天然ガスを燃料にするのにもっとも適している。これを水素用に使うのは、どうなのだろうか。

A君:通常であれば、問題ないですね。それに、場合によっては、少量の天然ガスが混じっているものを直接燃やすことも不可能ではないと思いますね。

B君:普通だと天然ガスは改質装置を使って、水素と一酸化炭素COの転換して、固体高分子型の燃料電池だと、このCOが触媒である白金の機能を奪うので、COをほぼゼロにする必要がある。しかし、SOFCであれば、COをそのまま燃料にすることが可能。

A君:水素用としては、あとはアルカリ型燃料電池。しかし、未開発。これも材料開発次第。

B君:SOFCにしても、発電所などで使う大規模用途、特に、通常の発電機と組み合わせて使うコンバインド用の一つの要素という考え方もあるようで、超高効率のシステムができる可能性もある。この場合、燃料は天然ガスになるだろうか。水素にはなりそうもない。

A君:水素は中規模以下の分散型になるのではないですかね。予測は難しいですが。

B君:水素が都市ガスのようにガス管に入れられることは無いだろうか。

A君:爆発限界が広いのが難点でしょうか。Wikiの引用ですが、「混合比下限は4.65%、上限は93.3%であり、空気との混合では4.1%〜74.2%となり、これはアセチレンに次ぐ広い爆発限界の範囲を持つ」。

B君:100%の水素は、もし燃えれば炎が見えないらしいので、大変に危険ではあるが、爆発はしにくいとも言えるらしい。なぜなら余りにも軽いので、天井がなければ、どんどんと逃げていくかららしいが。

(5)地球レベルでの用途

A君:最後に、地球レベルでの用途を。

B君:しばしばサハラ砂漠に太陽電池を設置して超伝導ケーブルで世界中に供給するという絵が描かれるが、これは2200年頃の話ではないだろうか。

A君:ヨーロッパは近いので、ひょっとすると2100年。日本に来るのは2200年か。

B君:むしろ、風力をパタゴニア地域に設置して発電し、その電気で水素を作る。水素をそのまま運ぶのは難しいので、トルエンに5つの水素原子を付けた化合物にでもして日本まで運搬し、トルエンに戻して水素を取り出す。トルエンをパタゴニアに運ぶ、といった方法であれば、技術的には今でも実施可能。コストがいくらになるか、これが大問題ではあるが。

A君:これもパタゴニアでは、電力を使う用途がないということで、電気が余るからこんな方法を考えることになる。

B君:これが実用になれば、水素が大量に使われるということになる可能性もある。その際には、ガス管によって、各家庭に供給することになるのだろうか。

(6)まとめ

C先生:大体、議論も終わったようだ。水素が実用になるのは、電力が余る状況になってからということがお分かりいただければ、良いかと思う。
 もしも家庭用の蓄電池が普及すれば、その変わりに水素を作って貯めるという方法論も無いとは言えないのだが、家庭用の蓄電池のニーズは、頻繁に停電をすることが前提なので、果たしてそのような状況になるかどうかが問題。
 昼間に太陽電池で発電して、それを電池に貯めて夜に使うというのは、全量買取などの制度があると考えにくい。全量買取の意図は、夏期のピーク供給電力をできるだけ低くしたいということが主な目的なので、昼間に発電した電気は昼間に使って貰わないと困るのだ。そうなるように誘導して買取価格を高目に設定するのだから。