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似非科学撲滅の講演 03.08.2003 マイナスイオン編 ![]() |
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ソーラーエネルギーを利用した暖房システムの普及を図っている協会からの依頼で、似非科学撲滅のためと称する講演を行なった。建築業界も、結構マイナスイオンとか遠赤外線に毒されているようで、新築の家の床下に炭を大量に埋めたというような話が多数あるらしい。 どんなデータを示すことが、マイナスイオンや遠赤外線のインチキ性を暴くことに繋がるか、多少考えて新たにプレゼン用の資料を作成した。今回は、その一部を公開。もしも、全面的に必要な方が居られれば、メールにてご連絡下さい。高速回線をお持ちのようでしたら、お送りします。 ついでに言えば、最近、催眠商法でトルマリンと磁石布団を売るという商売が結構はびこっているらしい。これは、ニュース番組を作っているプロデューサからの情報。サマリウムコバルト磁石を埋め込んだ敷布団と、トルマリン入りのポリエステル綿の掛け布団の一式で、なんとシングル49万8千円、ダブル63万8千円である。 お年寄りを街角で呼び止めて、ある会場に集め、トルマリン入りのリストバンドなどを無料配布。そして、健康の話を2時間ほどやって、盛り上がったところで、この布団を売るという仕組み。「宝石から生れたトルマリンパワーとシルクのやさしさが快い眠りの世界へ」が謳い文句。 C先生:マイナスイオンなる言葉も、大メーカーやメジャーな新聞・雑誌からは大分消えたように思う。しかし、テレビでも通販の番組などでは、いまだに大活躍。このところ、「マイナスイオンと遠赤外線」のキーワードの組み合わせが普通のようだ。 A君:大メーカーの製品は企業倫理的に問題あり、なのですが、さらに罪が重い商品が数々出てくるということでしょう。 B君:住宅関係も結構、迷信がはびこる体質のようだ。 C先生:本日は、マイナスイオンと遠赤外線に焦点を当てて、その無意味さをどうやったら分かってもらえるかを検討したい。 A君:了解。一般市民感覚で実感として分かる表現を探すことになりますね。 B君:「マイナスイオンといっても物質が何か良く分からない」、といっても余り効果は無いかも。よく分からないけど利けば良いというのが、一般市民感覚だろうから。 A君:となると、量的な表現を中心に迫って見ますか。 B君:それが多分近道だろう。 C先生:マイナスイオンの発生数だが、これまでも、様々な雑誌などでは主張してみたのだが、余りインパクトが無いようだった。もう一段の工夫をして、表現をしてみよう。 F君:文系の学部を出た普通のサラリーマンです。よろしく。 A君:まず、発生数からいきましょう。マイナスイオンの発生数ですが、もっとも多いのがマイナスイオンドライヤーですか。これで大体50万個/cc。とはいっても、マイナスイオンの寿命は数10秒ですから、どんどんと壊れて消えていく。 B君:マイナスイオン発生数が少ないものだと、100個/ccといったものもある。こんな数が何を意味するかだ。 F君:50万個/ccというとすごい数に思えますね。いかにも利きそう。大量発生中といったイメージですね。しかし、100個だと、まあパラパラといってイメージで。 A君:1ccの空気にはいくつの分子が含まれていると思いますか? それに比べたら100個でも50万個でも、同様にゼロに等しいということを示します。簡単に計算してみれば、空気1cc中に存在する窒素とか酸素の分子の数は、0.25×10の20乗個。 B君:そうやって書くと、余り多いようには見えないな。25000000000000000000個と書いた方が良くないか。 F君:確かに、相当な量のようで。 A君:あるいは、2500京個と書くか。 B君:京だと余り大きな数には思えないので、25000000兆個の方が良いのでは。 F君:それって全く実感がないですね。2500京個といっても。通常我々は、国家予算ぐらい、あるいは、日本のGDP程度が大きな数。だから1000兆というところが数の最大値ですね。やはり、ゼロを並べるのがベスト。 C先生:希釈するという表現方法はどうだ。1万個/ccのマイナスイオンを空気に混ぜると2500京個/ccの中に1万個が存在することになる。これはどのぐらいの希釈率になるのか。 A君:それも簡単ですね。まあざっくり言えば、1滴の薬がマイナスイオンだとして、その1滴を2500万トンのダムにたらすぐらいの希釈率。2500万トンのダムは、それほど大型のものとは言えないですが。 F君:それって、まるで意味無いぐらいの濃度ですね。 B君:確かに。いくら毒性が強い分子だって、こんなに薄めてしまっては何の効果もない。 C先生:これは渡辺正先生がよく言うことだが、毎日暮らしている普通の環境で、空気の中に、どのぐらいのダイオキシン分子が存在しているか、と言えば、なんと100000個/ccらしい。 F君:えーーー。あの毒性の強いダイオキシンですら、10万個/ccでは何の効果も影響もないということですか。 A君:マイナスイオンはこんなにも数が少ない。しかし、髪の毛をさらさらにすると言うのが、マイナスイオンドライヤー。 B君:松下電工製のマイナスイオンドライヤーが有名。あの方式だと、どうしてもオゾンが出ている。オゾンは毒性があって、労働環境が0.05ppm。マイナスイオンドライヤーが出しているオゾン濃度は、多少臭うので、多分0.01ppm程度。一方、マイナスイオンの数は、結構多くて50万個/ccだと言われている。 F君:0.05ppmのオゾンが安全なら0.01ppmの濃度を出していても、あんまり問題は無いですよね。そんなに薄いのなら。 A君:0.01ppmというと薄そうに思えて、一方、50万個/ccというと、大量にあるように思えるのですが、0.01ppmを換算してみると、2500億個/ccぐらい。 B君:50万個/ccのなんと50万倍濃いのだ。 F君:というと、マイナスイオン1個に、オゾン50万個。マイナスイオンの効果がオゾン分子よりも100万倍ぐらい強くないと、何を言っているのだ、ということになりますね。 A君:その通りで、オゾンは、有機物を酸化する強力な化学作用をもった物質で、一方、マイナスイオンはどうも「水+酸」らしい。となると、どうしても、髪の毛に対する効果はオゾンの効果だと言わざるを得ないと思うのです。 B君:ところが、松下電工は、これをマイナスイオン効果だと言い張る。 F君:それは、素人から見ても、やはり「嘘だろ」という感触になりますね。 C先生:そろそろヒトに利くかという話をやろう。 A君:ヒトは細胞の総数が大体60兆個あります。結構な数です。そこで、効果の高い薬でも、1mgぐらい摂取します。 B君:ヒトのダイオキシンに対する感受性がモルモット並に敏感だとして、1mgは死ぬか死なないか。ハムスターレベルだとしたら、100mgでも死なない。 A君:今、マイナスイオン500万個を摂取したとします。500万個というと、マイナスイオンの発生装置の直ぐ傍に居れば、比較的短時間で摂取できますが、装置から1mも離れると、マイナスイオンはどんどんと分解するものだから、摂取は難しいという程度の量でしょう。 B君:さて、500万個のマイナスイオンは何mgでしょうか? F君:まあ、予想としては、これまでの話の延長線上で考えると、非常に少ないのでしょうね。 A君:正解は、1fg。 F君:f というのは単位ですか。 A君:単位の接頭語というべきでしょう。m、μ、n、p、f、a、z、yです。fは10のマイナス15乗。フェムトと読みます。mからミリ、ミクロ、ナノ、ピコ、そして、フェムトです。それから先のaはアト。zはゼプト、yはヨクト。 B君:1fg=0.000000000001mg F君:確かに、分かるような気がします。60兆個の細胞があるヒトに、いくらなんでも500万個では少なすぎて余り利かないような気がします。 C先生:例外が嗅覚か? ヒトでは鈍くなっているが、嗅覚というものは、かなり感度が高いとも言える。昆虫は、フェロモンの分子1個を検出する能力があると言われている。 A君:マイナスイオンも嗅覚を刺激しているということでしょうか。 B君:臭いなどしない。オゾンの臭気でマスクされている。 C先生:水破砕型のマイナスイオン発生器は、なんとなく塩素の臭気がある。水の中の塩素の臭いだと思うけど。 A君:話がずれましたが、ヒトの60兆個の細胞は多いといっても、その数は分子の数に比べれば大変に少ないのです。水を180g=コップに1杯程度を飲んで、もしもその水が体の細胞に均等に分配されたとすると、細胞一個あたりに1000億個の水分子が入ることになります。 B君:だからといって、活性水素水などというものが、発がんを抑えるとは思えない。なぜかと言えば、まず、活性水素の濃度は低い。さらに、非常に不安定で分解しやすいので、細胞まで届く前に分解してしまう。大体、容器に入れたらもう駄目だろう。 A君:活性水素が容器内でも体内で全く分解していないとして、180gの活性水素水を飲んで、水分子の1000000個に対して、1個の活性水素=水素原子が入っていたとして、細胞1個あたり10万個もの水素原子が入り込むことになる。 F君:10万個というと多そうですよ。それなら、細胞の中で活性酸素を消すのでは。がんの予防になりそうではないですか。 B君:そう甘くない。細胞中では、酸素代謝のために、1日あたり100億個もの活性酸素が発生している。10万個程度では、全く役に立たない。 F君:100億個ですか。結構ショックな数ですね。 A君:活性酸素でDNAに傷が付いても、ヒトは優秀な修復能力を持っているので、大丈夫。しかも、がん細胞と戦う免疫システムがこれまた優れている。 C先生:よし。次の話題だ。シックハウスを起こす原因物質のひとつ、ホルムアルデヒドがあるが、これもマイナスイオン発生装置で消えるという効果を謳っている製品もある。これも、検証を要する。 A君:ホルムアルデヒドの規制値ですが、一応、80ppbという値があります。しかし、この値以下なら絶対に大丈夫だとは言えないものですが。 B君:80ppbというと、ざっと計算して、2兆個/ccのホルムアルデヒド分子が存在することになる。 F君:その値を聞いただけで、もう駄目だと読めるようになりました。 A君:そう諦めないで。これを2万個/ccのマイナスイオン発生装置で処理できるか。1個のマイナスイオンが1個のホルムアルデヒド分子を分解するとしてざっと計算しますと、その発生装置は、その部屋の1億倍の体積の空気を放出する必要があって、もしも、部屋を50立方メートル、1分間に500リットルの空気を放出できる装置だったとして、なんとなんと20年掛かります。 B君:部屋の壁に1gのホルムアルデヒドが入っていたとして、それが80ppbの濃度に希釈されるというケースを考えると、100立方メートルの大きめの部屋の場合でも、1万部屋分に希釈することになる。となると、一部屋200年で処理すると、20万年かかって処理が終わる。 F君:天文学的数字だ。 C先生:ただし、この装置は、水破砕型のマイナスイオン発生装置だから、1時間に200gぐらいの水滴を出している。200gの水が、2兆個/ccのホルムアルデヒドといっても、部屋全体でも100μgぐらいしかないのだが、そこに100万倍もの量の霧状の水が放出されている、となると、水に溶けやすいホルムアルデヒドが溶けて、水滴として床に落ちることは考えられる。しかし、床に落ちても、また蒸発すれば元に戻るが、全部が戻る訳ではない。しかし、換気は必須だということになる。 F君:はっきり分かりました。マイナスイオンの2万個/ccなどという量は、ゼロと大差ないことが。まして、100個/ccで何かが起きたらそれこそ奇跡だということが。トルマリン商品は、完全に無意味ですね。 C先生:分かったようで、これは良かった。今回は、詳しく述べないが、宝石以外の話でトルマリンと聞いたら、「その製品は嘘だ。偽物だ」、と言い切って良い。 F君:でも、トルマリンが遠赤外線を出すのは本当なんですよね。 C先生:嘘ではないが、効果は無い。少々長くなりすぎたので、ここで止めて、次回に遠赤外線の真実と嘘をもう一度徹底検証しよう。 |
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