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  "炉心溶融"を理解する    03.16.2011 追加03.19
     
付: 4号機で何か起きたのかを推理する



 福島第一の1、2、3号機がうまく冷却状態にならない。

 1号機に続き、3号機も水素爆発を起こした。放射線強度も高まっているようで、3号機付近では、放射性物質(???正しくは放射線量?)400ミリシーベルト/時になっているという。これは相当な線量である。

 住民の避難を徹底する必要がでてきたようだ。

 それはそれとして、何が起きているのか、未だに情報がよく伝わっていないように思う。

 これまで原発関係の情報提供が不十分だったからだろう。

 ということで、今回は、炉心溶融をどのように理解したら良いのか、その試みを行ってみたい。

 私自身、当然のことながら、原子炉の専門家ではない。しかし、ガラスの研究者だった大昔、核廃棄物のガラス固化の研究をちょっと手がけたことがあって、そのとき以来、原発には無関係でもない。

 などと書いていたら、なんと現在点検中であった4号機から大量の放射線が出ていることが確認された。どうやら、使用済みの核燃料が破損したようだ。これは全くの想定外だ。

 なお、今回の記事に関しては、Facebookの環境学ガイドの皆様には、事前チェックのご協力をいただいた。


目次
1.そもそも原子炉とは何か
2.核燃料とはどのようなものか
3.原子炉緊急停止装置と非常用炉心冷却装置 そして、炉心溶融
4.水素爆発
5.どうやって対策をするか
6.健康被害をもたらす放射性物質の放出
7.最悪の事態とは何か
8.チャイナ・シンドロームとは

付: 4号機(使用済み核燃料)で何が起きたのかを推理する



1.そもそも原子炉とは何か

 核分裂を起こす物質、多くの場合には、ウラン235(質量数235、まあ、ある種の分類だと思えばよい)を含む核燃料が、ある限界値(臨界量)を超して存在すると、核分裂が継続的に起こることを利用する装置。

 ウラン235は、自然に放置していても、ときどき核分裂を起こして、2つの原子(分裂生成物)に分かれる。その際、中性子を一つ放出する。

 この中性子が適当な速度で他のウラン235にぶつかれば、瞬時に核分裂が起き、中性子線を出す。これが次のウラン235にぶつかる。次々とこのようなことが起きている状況を連鎖反応と呼ぶ。

 中性子が他のウラン235にぶつからず、何かに吸収されてしまえば、連鎖反応は起きない。

 ウラン235にぶつかった場合でも、中性子の速度が早すぎたら素通りして、核分裂は起きない。

 核分裂をするとき、ウラン235に中性子が当たって、例えば、クリプトン92とバリウム141に分裂するとしたら、これらの分裂生成物の重さは、元のウラン235+中性子の重さよりも、ほんの僅か軽い。

 この僅かな質量の減少が、実は、エネルギーとなって、外部に放出される。具体的には、発熱をする。

 この発熱を利用して蒸気を作り、発電用に用いるものが原子力発電である。


2.核燃料とはどのようなものか

 多くの場合、核燃料に使われる化合物は、UO(酸化ウラン)である。酸化ウランは、融点が2865℃という高融点物質である。

 この酸化ウランを直径8〜10mm程度、長さ10〜15mm程度に成形し、加熱して焼結し、ペレット状にする。

 これをジルコニウム合金、しばしば、ジルカロイと呼ばれるが(組成は様々だが、成分のほとんどがジルコニウム)で作ったパイプに詰め、伝熱をよくするために、中にはヘリウムを封入する。

 なぜジルコニウムなのか、と言えば、一つは後述する耐熱性であるが、もう一つは、中性子を吸収しないというこの元素の特性が重要である。

 このようなパイプ状の燃料を200本ぐらいまとめて燃料の束を作る。写真は、次を。
http://en.wikipedia.org/wiki/Nuclear_fuel

 通常の運転状態であれば、中性子の速度が制御されていて、連鎖反応が起きている。このときには、酸化ウランの中心部は非常に高温になっている。想像だが、2000℃以上ではないだろうか。

 ジルカロイの融点は、2040K。すなわち、1767℃である。金属としては相当な高融点である。

 通常、このジルカロイの周りには、冷却水があるために、その温度は水の沸点を越さない。もちろん加圧されているので、1気圧の沸点である100℃ははるかに越して、数100℃ではあるが、ジルカロイにとっては十分余裕がある。

 そのため、酸化ウランペレットの周辺部の温度は、運転中でも高くて1000℃以下である。

 これが運転されている定常状態の温度である。


3.原子炉緊急停止装置と非常用炉心冷却装置 そして、炉心溶融

 今回の地震で何が起きたのか。

 緊急停止装置が制御棒を2〜2.5秒以内に一気にすべてを入れて、臨界反応を停止させる。ここまでは無事に動作した。

 しかし、問題がある。それは、核燃料の温度がまだ高いことである。運転中の中心部は恐らく2000℃以上、周辺部が1000℃近い温度である。

 もしも冷却しなければ、酸化ウランペレットは均一の温度になって、ジルカロイの温度が融点である1767℃を超して、核燃料棒の表皮が溶融する可能性がある。

 しかも、核分裂によって作られた不安定な原子核をもった元素は、電子を放出するβ崩壊というものを起こして安定な元素に変わっていく。このβ崩壊に伴って発熱が継続する(Facebookへのコメントに基づいて記述を追加)。

 そのため、非常用炉心冷却装置というものが設置されている。これは、基本的に水を炉心に注入する装置であるが、今回、この装置を動かすための発電機が津波で損傷を受けてしまい、動作不能だった。

 その結果、何が起きたのか、といえば、核燃料の温度が上昇し、一部でジルカロイの融点を超え、これを溶融した。

 ジルカロイの中には、高圧のヘリウムが封入されているので、穴が開けば外に気体が流れ出る。内部には、核分裂生成物であるクリプトンなどの気体も入っているし、同じく、核分裂生成物であるヨウ素は、沸点が184.25℃なので、高温では気体になっている。しかし、外部にでれば、冷却されて固体(微粒子)になる。

 セシウム137も核分裂生成物として有名である。セシウムという元素は、沸点が671℃と低い。燃料棒が完全に水から出ている状態だと、この程度の温度になっているだろうから、ジルカロイの被覆が破壊されれば、気体状のセシウム137も外に飛び出す可能性がある。

 ただし、セシウムは反応性が極めて高い元素なので、空気中では、酸化物か水酸化物の微粒子になる可能性が多い。

 これら微粒子やガスが原発の外部に飛び出して、周囲の放射性計測システムが平常値を超す計測値を記録したものと思われる。

 すなわち、これが朝日新聞で言われている炉心溶融である。具体的には、燃料棒のジルカロイが溶けることである。そのため、日経新聞では、燃料棒破損という言葉が使われている。

 炉心溶融というと、後述する最悪の事態、あるいは、チャイナ・シンドロームのイメージである。現時点では、そこまで行っているとは思えない。

 ちなみに、英語版のWikiを調べたら、melt downという言葉の定義ははっきりしないと書いてあった。
恐らく、同じことで、燃料棒破損と、炉心溶融のいずれもが、melt downという言葉で表現されているのだろう。


4.水素爆発

 核燃料の水から顔を出している部分が高温になっている状態では、外皮のジルカロイ中のジルコニウムが水蒸気と反応する。

 Zr+2HO → ZrO+2H

 この水素が建屋の天井付近に溜まって、なんらかの原因で着火し爆発に至ったものと考えられる。

 これが1号機、3号機で起きたことである。


5.どうやって対策をとるか

 兎にも角にも、水を注入して冷やす以外に方法はない。水には、中性子線を吸収するホウ素(実際にはホウ酸か)を添加する。水なら、海水でよい。海水にはもともとホウ素がかなり含まれているので、好都合かもしれない。

 現時点で、海水をうまく注入できない理由は何か。全く説明されていないので、詳細は不明。あえて想像すれば、内部が高温になりすぎていて、水を注入しても、瞬間的に蒸気になって内部が高圧になり、それに抗してさらなる水を注入するだけの能力がポンプにないからではないだろうか。

 今回でも、まだ異常が発生していない段階、すなわち、最初から海水を使って対処すれば良かったのだが、それが出来なかった理由は、もしもホウ素入りの海水を注入したら、その原子炉は再生不可能になってしまうからである。

 東京電力としては、廃炉になるのは経営上痛い。そのため、未練があったのだろう。

 経営判断をする必要性は十分に理解はできるが、少々最終判断が遅れたという感触は否めない。


6.健康被害をもたらす放射性物質の放出

 核分裂生成物は、ウラン235が分裂するので、質量数も40〜50ぐらいから190ぐらいの、すべての原子種である。

 長距離を輸送される可能性があるものは、気体と固体微粒子であり、近距離で心配をしなければならないものは、これらに加えて、比較的サイズの大きな粒子であろう。

 気体については、クリプトン、キセノンなどが主だろうが、重いので、地面付近にとどまる可能性が大きい。しかし、一部は、遠方まで輸送される可能性もないとは言えない。

 現場付近で観測されている高い放射線量は、これらの重い気体からの放射線も寄与しているだろう。

 今回、関東地方でも普段の数倍の放射線量が観測されているが、これは、微粒子だろう。

 微粒子は、大気中で冷却されたヨウ素、あるいは、セシウム137の酸化物などだろうか。

 気体状のヨウ素は、地面や壁面などで冷やされれば、そこに固体として析出するものと考えられる。現場での放射線量の大部分はこれではないだろうか。

 セシウム137も同様で、微粒子が原発の建物外壁に付着することも起きていることだろう。


7.最悪の事態とは何か

 全く水の無い状態になることである。そうなると何が起きるか。

 ジルカロイが完全に溶融して破壊されれば、酸化ウランのペレットが炉心の底の部分に貯まり、そこで、もしも連鎖反応を引き起こす条件(臨界条件)を満したら、自発的に核分裂が進行し、発熱を始めることである。これは誰が見ても、炉心溶融だと言える。

 水があれば、特に、ホウ素入りの水があれば、このような事態は避けることが可能だと考えられる。

 今回の燃料は、酸化ウランだけではなく、プルトニウムを混ぜたMOx燃料が使われていたようである。これは、さらに最悪の状況を招く可能性があるのか。

 どうも余り変わらないように思われる。なぜなら、もともと使用されている核燃料の中には、プルトニウムが含まれているからである。

 もしも水が全く無くなった状態で水を外部から注入すると、水が突沸して、水蒸気爆発という状況を引き起こす可能性もある。

 原子炉格納容器が破壊される可能性も無いとは言えないが、かなり頑強に作られていることに間違いはない。

 こうならないうちに、なんとか冷却に成功しなければならない。


8.チャイナ・シンドロームとは

 6節で述べた状態が継続し、核燃料がひとかたまりとなって核分裂反応を継続し、非常な高温になって、圧力容器を溶融し、格納容器の底も溶融し、次に原発の建物の床を溶かし、地面を溶かし、重たいので、重力に引かれて地底に入って、それがなぜか重力に逆らって、中国で再び地上に顔を出すという話。

 要するにアメリカ人的な冗談である。福島から地球を突き抜ければ、ブラジルだろうか。日本なら、ブラジリアン・シンドローム??


付: 4号機で何が起きたのかを推理する

 現在、定期点検中だった4号機で爆発が起き、火災も発生。そして、測定される放射線量がなんと400ミリシーベルト/時にも達した。この値は相当なもので、かなり防御をしても、作業が不可能に近い。まあ、5から10分交代がやっとではないか。しかし、高い放射線量はピーク状で終わり、その後、かなり下がってきているようだ。多分、燃料棒の被覆が壊れて、中の放射性物質、多分、ヨウ素とセシウムを若干まき散らしたのだろう。

 どうやら使用済みの核燃料が保存されていたとのこと。ただし、核燃料は水を満たしたプールに保存されているのだが、なんらかの原因で、水が抜けたとしか考えられない。追加:単に冷却装置が動いていなかったからと解釈のようだ。それだけなら、そのぐらいのことは分かっていたはずなのだが。

 核分裂によって生成した不安定な核をもった元素のβ崩壊は続いているし、連鎖反応には至らなくても、少々の核分裂は進行している(Facebookの皆様、再度チェックを)。そのため発熱が起きる。プールの中に保存して冷却をしている。水が抜ければ、追加:冷却をしていなければ、徐々に加熱が進行し、水は蒸発する。そして、水のレベルが下がれば、ジルカロイと水の反応で水素が発生したり、場合によっては燃料棒が破損する可能性もある。

 そうなれば、普通にあるプールの中に貯められているのだから、放射線が漏れるのも当然のことだ。容器が全くないところで、万一臨界状態になって、核分裂が始まったら、目も当てられない。現時点で、もっとも優先すべきは、この使用済み核燃料対策のようだ。

 対策は、やはり水を注入することしかないだろう。それにしても、考えられないことが起きた。場合によっては、人為的なミスというよりも、想定をしなかったことが原因であることもはないか。あり得るような気がする。