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  メディア・学者の無知が生む恫喝  05.11.2003



 いささか過激なこのタイトルだが、メディアは何を考え、何を参考にして記事を作っているのか、ということが垣間見られる例について議論したい。PCBの処理施設の建設が始まった北九州市での話。

 結論は、「無知ゆえの思い込みが、市民社会での誤解を生産し、ときには恫喝となる」。

 と書いてみて、「なんだ、学者だってそうではないか」、と納得したので、その部分を加えて記事にすることにした。

 なお、本HPの昨年の記事も、この記事を読み終わってから、ご参照下さい。
http://www.ne.jp/asahi/ecodb/yasui/PCBKanemi.htm


C先生:メディアは、自らの影響力が莫大であることをもっと自認しなければならない。もっとも恥ずべきことは、メディア関係者の無知が、結果として市民社会に対する恫喝になることである。学者にしても同様で、市民を恫喝することが仕事だと思っている訳ではないだろうが、結果としてそういう役割を果たしているという話。

A君:その新聞記事というものからまず示します。平成15年4月24日の毎日新聞ですが、どうも九州版のようです。記者は林田雅浩氏
 紙面をできるだけ再現しますと、こんな感じ。

PCB広域処理施設が起工

 安全、適正な運営へ
 北九州市と事業団  協定調印

といった見出しから始まりまして、その協定の説明に入ります。

B君:その協定は21条からなる。事業団に安全運営や環境汚染防止対策の責任があり、マニュアル整備や運転停止、原因調査など緊急時の対応や市民への情報公開義務があることが明記。大気汚染対策では、排気1立方メートル中、PCBは0.01ミリグラム以下。ダイオキシン類は0.1ナノグラム以下に抑える。

A君:そして、この施設が04年6月には完成し、半年の試運転の後に操業を開始。最初の2年間は市内のPCB220トンを先行処理。その後、広域の運搬ルートなどを整えた上で、施設を増設し、岡山県以西の17県のPCB約1万1000トンを処理する。

B君:ここまでの記事だとそれほどの問題は無いのだが、ここから先が問題。

A君:PCBは耐熱性、絶縁性に優れた化学物質。蓄電器の絶縁油などに使われたが毒性、発がん性が指摘され、死者約300人を出したカネミ油症事件の表面化(68年)を契機に、72年から製造、使用が禁止された。しかし、国内に5万トン余り残されたPCB処理は約30年間放置され、問題化していた。

C先生:この最後の文章の間違いを探せ、と言われてできる人が何%いるだろうか。普通の人なら、この文章を正しいと思って読むだろう。そして、PCBなどで今さら死ぬのは嫌だと思うだろう。

A君:「死者約300人を出したカネミ油症事件の表面化(68年)を契機に」という文章は間違いです。事実とは違います。

C先生:「カネミ油症事件(68年)では、急性中毒による死者はでなかったが、PCDFとPCBの慢性毒性によって様々な症状が出た。この事件を契機として」、が正しい表現。

B君:なんでこんなにも違う表現を林田雅浩氏がしてしまったのか、その解析を進める。

C先生:いくつかの原因があるのだが、まず、「PCB=急性の猛毒」という思い込みがあるのが大きいだろう。

A君:確かにPCBは毒物ですが、特性としては慢性毒物で、サリンのような急性の神経毒物とは全く違いますが、その区別ができないのでしょう。

B君:まず、公式機関が、PCBの毒性一般についてどのように表現しているかを調べるべきだ。

A君:はいはい。

東京都の例です。
http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/haitaibu/sanpai/pcb-hp/houkoku/honbun/yougo.pdf
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1 PCB(ポリ塩化ビフェニル)

 1881年(明治14年)にドイツで開発され、化学的に合成された物質で、塩素含有量の異なる209種類の異性体で構成されており、これを総称してPCBという。
 1923年(大正12年)からアメリカで商業生産が開始され、無色透明で化学的にも安定で、耐熱性、絶縁性や非水溶性など優れた性質を持っていたため、コンデンサや安定器などの電気機器や塗料・印刷インキなどに広く利用された。日本での生産は1954年(昭和29年)から開始され、製品の名称としてはカネクロール(KC:日本)及びアロクロール(Aroclor:米国)が代表的であった。
 昭和48年に化学物質の審査及び規制に関する法律(昭和49年施行)が制定され、PCBが第一種特定化学物質に指定され、製造・輸入・使用が原則禁止された。PCBは、生体内にたやすく取り込まれしかも残留性が高く、これによる皮膚障害などの慢性毒性が認められ、内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)の一つともなっている。

2 コプラナPCB(Coplanar-PCB)
 209種類からなるPCBの異性体のうち、化学構造がダイオキシン類(PCDD,PCDF)と似ている12種類の異性体の総称をコプラナPCBという。
「コプラナ」とは、PCBの構造の骨格を成すベンセン環が同一平面上にあって扁平な構造であることを意味し、その形からコプラナPCBと呼んでいる。
コプラナPCBは、その類似した構造から、ダイオキシンと同様の毒性を持っている。
 PCBは多くの異性体を含んだ混合物であり、PCBに含まれるコプラナPCBの割合は1%程度と考えられているが、最近の調査・研究では、PCBが使用されていた製品によっては範囲が広く、約1%〜約9%含まれているとの報告もある。

3 ダイオキシン類
 ダイオキシン類とは、従来はポリ塩化ジベンゾ−パラ−ジオキシン(PCDD )、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)の総称であったが、平成12年に施行されたダイオキシン類対策特別措置法によりコプラナポリ塩化ビフェニル(コプラナPCB)を加えた3物質の総称となった。PCDDには75種類、PCDFには135種類、コプラナPCBは12の異性体がある。
 ダイオキシン類の毒性は、DDTやパラチオンの1000倍以上で、皮膚・内臓障害、発がん性や催奇形性などと多彩かつ強力であるが、多くの異性体があるため全貌はつかめてはいない。
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A君:この東京都の説明は複雑です。PCBそのものは慢性毒性が問題になることを記述し、しかし、PCBにはコプラナーPCBが含まれていて、それがダイオキシン類で、ダイオキシン類は毒性が強いから、PCBは毒性が強いという表現ですね。

NTT東日本 http://www.ntt-east.co.jp/ecology/report2000/yougo/
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PCB ポリ塩化ビフェニールの略。熱に対する安定性、電気絶縁性に優れているため、変圧器、コンデンサなどの絶縁油として多く使用されてきたが、強い毒性、残留性、蓄積性が問題となり、1972年に生産、販売が中止された。
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A君:次の兵庫県は、慢性毒性が問題だと記述しています。

兵庫県 http://www.pref.hyogo.jp/JPN/apr/boshu/kougai/yougo.pdf
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PCB(ポリ塩化ビフェニル)Poly Chlorinated Biphenyl。PCBは1929年に初めて工業製品化されて以 来、その安全性、耐熱性、絶縁性を利用して電気絶縁油、感圧紙等、様々な用途に用いられてきたが、環境中で難分解性であり、生物に蓄積しやすくかつ慢性毒性がある物質であることが明らかになり、生産・使用の中止等の行政指導を経て、1974年に化学物質審査規制法に基づく特定化学物質(現在では第一種特定化学物質)に指定され、製造及び輸入が原則禁止された。これ以降、廃PCB等の処理施設の整備が進まなかったことから、事業者が長期間保管し続けてきており、環境保全の観点から、早急にPCBを処理することが求められている。
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B君:要するに、どのぐらいの毒性があるか、定量的な説明がない。さらに、PCBの毒性は、急性毒性については、ダイオキシン類に分類されるコプラナーPCBの毒性であり、PCBの製品によって、その含有量が違うということもあり、結局、毒性が良くわからないことも、不気味さに拍車を掛けている。

A君:確かに。PCBの致死量というデータでしたら、それなりには分かっているのですが、カネミ油症でのPCBを含め、確かにすべてのPCBの毒性が同じかどうか、それがやや疑問。
 その数値ですが、
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急性毒性:致死毒性に関する情報 
【Aroclor 1254 (CAS No. 11097-69-1)】
LD50 1010mg/kg ラット 経口
LD50 1295mg/kg ラット(3-4週齢) 経口
LD50 358mg/kg ラット 静脈
LD50 880mg/kg マウス 腹腔
LD50 4000mg/kg ミンク 経口
LD50 >1250,<2250mg/kg ミンク 腹腔

【Aroclor 1260 (CAS No. 11096-82-5)】
LD50 1315mg/kg ラット(3-4週齢) 経口

【Aroclor 1242 (CAS No. 53469-21-9)】
LD50 4250mg/kg ラット 経口

【Kanechlor】
KC-300 LD50 1050mg/kg ラット 経口
KC-400 LD50 1140mg/kg ラット 経口
KC-400 LD50 800mg/kg マウス 経口
http://www.tokyo-eiken.go.jp/edcs/11097-69-1.html
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B君:経口のLD50の最小値が800mg/kgということは、実は、急性毒性としては、普通物に分類される。食塩の4倍の強さの毒性。しかし、4000mg/kgだとすると、その急性毒性は、食塩と同等かやや低いことになる。

C先生:不確実性があるデータではあるが、急性毒性としてはこの範囲であることを知っていれば、死者300名という記述をした瞬間に、なんらかの疑問が出てくるはずなのだ。その林田雅浩氏なる記者は無知だった。PCBに関して記事を書くに際して、こんな基本的なことを知らなかった、と言える。

A君:PCBの場合には、急性毒性が問題ではなくて、慢性毒性が問題なのですから。

B君:蓄積性が高い。環境中での分解性も低い。代謝が極めて遅い。それに、代謝分解物が、恐らく環境ホルモン性を持つのではないか、ということだろう。

C先生:発がん性については、ダイオキシンの発がん性にしても絶対確実ということが言えるか言えないかのぎりぎりの議論が行なわれて、IARCはグループ1に分類したようだ。PCBの発がん性は、グループ2Aになっているが、不確実性が高い。

A君:いずれにしても、慢性毒性の議論をすべき化合物なのだ、ということですね。記事を書くからには、死者300名が不自然だという常識は持つべきでしょう。

B君:しかし、無知なら記事が書けないはず。どうして林田雅浩記者は、その死者300名という記述をしてしまったのだろうか。情報源がどこかにあるのだろうか。それとも伝聞情報だろうか。

A君:PCB、毒性、発がん性、死者、カネミ油症などで、インターネットを調べてみましょうか。どんな情報が出ているのか。

B君:「カネミ油症 死者」と入れて検索したら、出てきたのが、まずこれ。これが元凶である可能性は高い。なぜならば、毎日新聞の「ことば」の解説だからだ。記者ならこれを参照しても不思議ではない。

毎日新聞 http://www.mainichi.co.jp/news/kotoba/ka/20010305_03.html
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「ことば」の解説

◆ カネミ油症事件 ◆
1968年、カネミ倉庫(北九州市)が作った食用油「カネミライスオイル」を摂取した人に、黒いにきび症状などが出て表面化。被害を届け出た人は福岡、長崎県を中心に1万4000人を超え、認定患者は1871人(うち死者約300人)。ライスオイル製造工程に、鐘淵化学工業(大阪市)製造のPCBが混入し、起きた。
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A君:確かに、1871人の認定患者がいて、うち死者が約300名だったというように読めますね。

C先生:しつこいようだが、急性の死者はゼロだ

A君:それ以外にも、死者数について述べているWebサイトがかなりあります。
 1978年3月24日の朝日新聞の記事を引用しているページが見つかりました。東大原子力の斑目春樹教授による技術者倫理についてのHP
http://www.utnl.gen.u-tokyo.ac.jp/~madarame/lec1/kanemi-np1.html
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工場長に有罪判決
社長に責任及ばず
現場注意義務に限定

 空前の食品公害となったカネミ油症事件で、PCBが混入した食用油を製造、販売したカネミ倉庫会社(北九州市)の幹部二人が業務上過失障害の罪に問われていたカネミ油症事件刑事裁判の判決公判は、 24日午前10時から福岡地裁小倉支部刑事一部で開かれ、寺坂博裁判長は、元同社製油部工場長森本義人被告(53)=北九州市小倉北区=に禁固1年6月(求刑2年)の有罪、同社社長加藤三之輔被告(64)=同区=に無罪(求刑禁固2年)の判決を言い渡した。

 途中省略:

 カネミ油症事件では、刑事裁判のほか、民事裁判が提起されたが、すでに昨年10月に福岡地裁で、また10日には同地裁小倉支部で、カネミ倉庫と同社にPCBを売り込んだ鐘淵化学工業(大阪市)の損害賠償責任を認める判決が下されている。この結果、福岡、長崎、広島各県などで被害届だけで約13,000人、認定患者1,665人(うち死者51人)という大規模な被害を出したこの事件の責任問題は、一応の決着をみたことになる。

 8年にわたる審理で、被告弁護側は「当時、PCBの毒性や腐食性は鐘化のカタログでは知ることができず、事故の発生を予見することはできなかった。従って結果回避義務もなく、業務上過失傷害罪は成立しない」と反論。さらに、加藤被告については「事務系出身で、技術面には関与できなかった」と業務性を否認、同被告の無罪を主張していた。
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健康危機一覧 大阪府公衆衛生研究所
http://www.iph.pref.osaka.jp/report/harmful/08hazard.html
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 PCB カネミ油症事件(西日本を中心に米ぬか油に混入したPCBを原因とする事件)(福岡市) 1968年 10月 患者数1,283名(うち死者28名)  
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徳島生協
http://www.tokushimaseikyou.or.jp/syokunoanzen.html
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カネミ油症事件

1968年、カネミライスオイル(食用油)に混入したPCBが原因で、死者100名以上、認定患者が 1,900名にのぼる惨事になりました。ちなみに、PCBは代表的な環境ホルモン物質のひとつです。
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試験に出る重要用語
http://homepage3.nifty.com/licc/html/asca/shouhishamondai.html
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 カネミ油症事件 昭和43年発生。カネミ倉庫発売の米ぬか油にPCBが混入。死者53名、被害14000名に及んだ。
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B君:急性死者はゼロ。しかし、報道されている死者数が、51名、28名、100名以上、53名とばらばらというのは一体なぜなんだ。確かに直接の原因がPCBであることを証明するのは難しいが。

C先生:その謎解きだ。ヒントは、昨年あたりから、カネミ油症の見直しが始まっていること。その記事が参考になるだろう。

A君:こんな記述がありました。

長崎新聞
http://www.nagasaki-np.co.jp/news/kako/200203/11.html
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カネミ油症診断基準を再検討へ

 一九六八年、本県など西日本一帯でポリ塩化ビフェニール(PCB)が混入した米ぬか油を食べた人の多くに皮膚障害が生じるなどしたカネミ油症事件で、厚生労働省は十日までに、PCBを主因としてきた従来の診断基準を再検討することを明らかにした。

 従来の基準になかった、ダイオキシン類の一種で猛毒のポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)の影響の有無を新年度から調査する。研究者の間では約三十年前から指摘されていた“PCDF主因説”が検査技術の発達でようやく検証可能になり、国は因果関係を究明した上で診断基準に反映させるか決める。

 カネミ油症患者の診断基準をめぐっては、事件発生当初、カネミ倉庫(本社北九州市)が製造した米ぬか油に混入したPCBが原因と考えられていた。旧厚生省は血中のPCB濃度などを基準に、全国約一万四千人の申請者のうち約千八百人を患者認定した(うち約四百人はその後死亡)

 省略:

 しかし、二十数年前、九州大の研究グループなどの調査で、症状を引き起こした主因は猛毒のPCDFで「PCBなどとの複合汚染」との説が有力になった。患者の採血でもPCDFの検出が相次ぎ、PCBに熱を加えるとPCDFが生成されることも確認されたため、症状との因果関係の調査を迫られた。
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愛知のごみを考えるHP
http://homepage3.nifty.com/aichigomi/page030.html
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以下、毎日新聞より
患者の診断基準見直しに前向き 坂口力厚生労働相 
2002.01.12
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 坂口力厚生労働相は12日、カネミ油症患者の診断基準について 「(原因物質は)PCBよりもダイオキシンの一種のPCDF(ポリ 塩化ジベンゾフラン)の毒素が強いと分かった。診断基準も改めなくてはいけない」と見直しに前向きな姿勢を示した。ダイオキシン被害防止を訴える市民団体は「ダイオキシンによる健康被害例を初めて国が認めたといえる内容で画期的」と評価している。

 省略:

 現行基準では、診断項目にPCBの血中濃度はあるが、PCDFの血中濃度はない。患者の間では「基準は吹き出物などの皮膚症状に偏り、患者を切り捨てている」と見直しを求める声が上がっていた。

 油症被害を30年以上研究してきた増田義人・第一薬科大名誉教授(環境分析化学) やっと認めるようになったか、と思う。75年ごろにはPCDFがライスオイルや患者から検出されていた。PCBだけではこれほどの被害にならないと研究者は何度も発表してきた。患者はダイオキシン類被害の生き証人。国は「食品中毒」として何の援助もしなかったが、被害を正確に評価していくことが必要だ。

 カネミ油症 1968年10月発覚。北九州市のカネミ倉庫製食用油に混入したPCBが原因と語られてきたが、分析機器の発達などで患者からダイオキシン類が検出されるようになり、ダイオキシン被害との見方が研究者の間では有力。国は油症との因果関係を認めてこなかった。認定患者は99年4月現在1871人、うち死者306人。[毎日新聞1月12日]
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C先生:やっと実態が見えてきたようだ。要するに、1968年に起きたカネミ油症だが、認定患者が1871名。そして、時間が過ぎるに従って、当然のことながら、認定患者の中には死ぬ人が出てくる。そして、31年を経過した99年4月現在で、1871名中の306名がすでに死亡している、ということだ。

A君:当たり前の話ですね。この306名が、林田雅浩記者の約300名の死者という記述の元になっているのは、どうやら確実性が高いようですね。

B君:これを元にして、毎日新聞が「ことば」の説明を作ったのだが、そのとき、記述を単純化して、誰かが次の文章を書いた。

被害を届け出た人は福岡、長崎県を中心に1万4000人を超え、認定患者は1871人(うち死者約300人)」。

A君:この文章だと、死者がいつでたのか、ということが極めて曖昧になっていて、急性死が300件もあったようにも読めます。

B君:むしろ、その読み方が自然だろう。

A君:林田雅浩氏は、このことばの説明を読んで、そのように解釈し、そして、「死者約300人を出したカネミ油症事件の表面化(68年)を契機に」という文章を作ってしまった。

B君:この林田氏の文章は、時間的な経緯が書かれている文章なので、1968年当時に死者が出て、それが300名だった、という解釈になる。この解釈以外は不可能だ。

C先生:上にでてきた各種の文章の中で、死者の数がばらばらだったのは、そのいつまでの死者を勘定したか、という時代の流れを反映していることなのだろう。

A君:そう考えると、死者数がばらばらな理由が良くわかります。

B君:PCBの特性、要するに慢性毒性が問題で、急性毒性が大きな問題ではなかったという事実を知らない記者が記事を書いている。

A君:しかし、この問題の本質は、こんなことですね。99年4月までに、306名の認定患者から死者が出たということですが、この死亡率は、標準よりも多いのかどうか。

C先生:ここまで、知らん顔をしてきたが、実は、このカネミ油症での死者の話は、渡辺正先生の「ダイオキシン」渡辺正+林俊郎著、日本評論社なる本にかなり詳しく記述してある。

B君:なるほど。確かに。その結論は、以下の通り。
 1970年から1990年までの解析。この21年間で、患者1815人=男性916人+女性899人のうち、200人=男性127人+女性73人が死亡。平均寿命から算出される死亡者予測数は、男性107人、女性82人。

A君:男性は、118%ぐらいで多いですが、女性は逆に89%ぐらいで、平均よりも少ないですね。PCBは(そして、多分、PCDFなるダイオキシンも)命をエンドポイントとすると、余り影響が無いのかもしれませんね。勿論、QOLに対する被害はあったのでしょうが。

B君:もう一つの調査があるらしい。それによれば、血清中のPCB濃度を油症研究班が監視してきた865人=男性407人+女性458人の90年までの死者は51名=男性30名+女性21名。これは、平均的な予測値と比較すると、男性は0.66倍、女性は0.65倍だった。PCB濃度の監視対象となっている患者は、要するに長生きだということを意味する。勿論、それなりの症状が出ている人は居る。

C先生:ところが、渡辺先生の本によれば、九州大学の油症研究班は、前のデータを採用し、男性の死亡率は有意に高いとした。

B君:そして、油症研究班は、油症患者は肝臓がんによる死亡率が高いと指摘している。実際、全国平均からみると、男性で3.36倍、女性で2.26倍だそうだ。これがダイオキシンを原因とする肝がんなのか、というと、渡辺先生達は、これはC型肝炎が原因ではないか、という。

C先生:C型肝炎はご存知のように、注射針の消毒が不十分であることに起因する医原病。C型肝炎は1975年ぐらいから急増する。油症患者にC型肝炎が多いという仮定には、信憑性がある。

B君:さらに、台湾における類似の油症では、肝がんによる死者は少なかった。この事実も、C型肝炎との関連性をサポートするようだ。となると、日本の油症患者の肝がんは、検査時の採血が原因だったのか??

C先生:以上で、北九州のPCB処理をめぐっての林田雅浩氏の記事の話は終わりだ。
 ところが、もう一つ記事があって、それがなんと油症研究班の一員だった九州大学助教授長山淳哉氏が主人公なんだ。長山氏は、油症患者の肝がん死の確率が、5.6倍も高いと著書に書いているらしいが、そのデータはどこを探しても出てこないそうだ。

A君:この小倉タイムスの記事ですか。長山氏曰く、「PCBを積んだタンクローリーが転覆したら、住民は全員移住ですよ。そこにはもう住めません」

C先生:それがPCB処理施設反対派の論拠を与えることになった。

B君:PCBを積載したタンクローリーが転覆して、PCBが数トンも流れ出ることがあれば、それは結構大事かもしれない。しかし、急性毒性が高い訳ではないから、落ち着いて、防護を考えながら除去作業に従事すれば良い。その後、土壌汚染の大規模処理は必要になるだろうが。

C先生:大体、そんなことが起きないように対策を練るのだ。世の中、タンクローリーがそんなに転覆しているか。処理すべきPCBは、全部で5万トン。原油の消費量は、2.5億トン/年で、原油からできる製品のかなりの部分がタンクローリーで運搬されている。

A君:PCBですから、ガソリンよりは厳重な積載方式を取るでしょう。

B君:誰かがPCBジャックでもやらない限り、PCBがぶち撒かれる可能性は極めて低い。

A君:長山氏は、その講演会で参加者からの、「20〜30年前、PCBは普通に使われてきたのに、その何が怖いのか」、という極めてもっともな質問に対して、「何が起きるか分からないことが怖い」と答えたそうです。

C先生:さる学会の場で長山氏の講演を聴いて質問をしたことがある。そうしたら、なんと「ノーコメント」という回答だった。学会の場で「ノーコメント」は無いだろう。学者としての良識が無い人間だという印象だった。
 今回の記事を見ると、長山氏には、恐らく、リスク管理などという発想が皆無なのだろう。多少、PCB、ダイオキシンに対する知識があるかもしれないが、渡辺先生の指摘によれば、そのデータソースは怪しいらしい。環境を語るには、全体を見渡してバランスの良いリスク管理とは何かについての何か直感があることが条件だが、長山氏にそれは無いということが証明された記事だと言えるだろう。まあ、環境音痴だ。

A君:無知ではなく音痴ですか。

B君:まあ同じこと。環境音痴が結果的に市民を恫喝している。

C先生:メディアは、それなりの商売だから、ある程度のセンセーショナリズムは仕方が無い部分がある。しかし、学者がなぜセンセーショナリズムにハマルのか。有り得る理由は、(1)それで研究予算が取れる場合がある、(2)良心を殺してでも目立ちたい、とか、(3)新聞に出ると偉くなった気分になれる、といったところまでは理解できるのだが、これでは解釈が不十分のような気がする。どうもそれ以外にもあるに違いない。しかし、全く理解できない。