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   PM2.5の成分と成因は? 
   03.09.2014
           中高生が分かる説明を試みる




 Facebookの「環境学ガイド」(一応、クローズドですが、ご希望があれば誰でもOK)の参加人数が700名を超しました。このWebサイトに書いた記事を中心に、様々な議論が行われています。

 これまで、このWebサイトでは、どちらかというと環境問題の中上級向けの記事を書いて来ました。もしも、もう一段、分かりやすく解説してくださる方が居られれば、それは歓迎!というスタンスでした。

 しかし、どうも、もっと一般向けの記事を書くべきかもしれない、と思うようになりました。今回は、FB700名到達を祝って、「中高生が分かる」説明の試みシリーズの第一回目です。

 これでも、まだ難しいような気がするのですが(特に元素記号と化合物のところ)、もっと簡単にすると、説明が不十分になりそうな気もします。「環境学ガイド」でご感想をお聞かせ下さい。

 それにしても、題名それ自体が難しいかもしれません。



C先生:という訳で、「中高生が分かる」記事を書くのが今回のノルマ。最初は、新聞やネットの記事の紹介から。

A君:了解。こんな記事が出ています。事実の共有が目的なので、まあ、飛ばしてしまってもOKでしょう。


 産経ニュースの”PM2・5濃度、各地で上昇 環境相「外出控えて」”2014.2.28 23:08によれば、このようなことがあった。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140228/dst14022823090012-n1.htm

 環境省は28日、健康への影響が指摘される微小粒子状物質「PM2・5」の濃度が日本各地で上昇し、2月25〜27日の3日間で住民に注意喚起を行った自治体が10府県に上ったことを明らかにした。石原伸晃環境相は「濃度が高くなる日は、不要不急の外出を控えてほしい」と注意を呼び掛けている。

 注意喚起を行ったのは、2月25日が山口、26日が福島、新潟、富山、石川、福井、三重、大阪、兵庫、香川、山口、27日が富山の各府県。このうち8府県で国の暫定指針値(大気中の1日平均濃度が1立方メートル当たり70マイクログラム)を超えたという。


B君:暫定指針値だが70マイクログラム(μg)というと、1グラムの1000分の1が1ミリグラム(1mg)、さらに、その1000分の1が1μg。すなわち、100万分の1が単位になっている。

A君:かなり少ない量だということですね。

B君:そもそもPMとは何か、その言葉から説明しなければならないな。英語だけど、中学では恐らく習わない単語particulate=微粒子とmatter=感じることができるモノ、の頭文字PM。その後にある数字2.5は、そのサイズ(まあ直径だと思えば良い)が大体2.5μmだということ。またまた100万分の1の単位だ。1μm=1/1000mm。

A君:要するに相当に小さい。どのぐらい小さいかと言えば、冬の終わり頃から悩まされる花粉症の原因である杉花粉の大きさが、20から40μmなので、PM2.5は、それよりもさらに小さいということになりますね。

B君:70μgが1立方メートルの空気中に含まれる量だというけど、そもそも人間は何立方メートルぐらいの空気を呼吸しているのだ。

A君:NHKの映像があって、
http://www2.nhk.or.jp/school/movie/clip.cgi?clip=D0005301116_00000&bangumi=D0005110082_00000
1日で、500mlのペットボトル2万本分だと言っていますね。ということは、1万リットル。1000リットルで1立方メートルですから、10立方メートルということです。

B君:もう少々多いというデータもあるけど、まあ、良いことにしよう。暫定指針値が70μg/立方メートル。毎日10立方メートルの空気を吸うとすれば、700μgの微粒子を肺に吸い込むことを意味している。しかし、すべてが体内に留まるわけではなくて、また呼吸と共に体外に出てしまう。

A君:700μgとは、0.7mgのことですね。急性毒性の高い物質と比較するのは、余り適当ではないのですが、フグ毒であるテトロドトキシンは、致死量が0.01mg/kgとされています。体重1kgあたり、0.01mgを摂取すると、半数が死亡するという値です。体重50kgの人であれば、0.5mgということになって、70kgの人であれば、0.7mgです。フグ毒は猛毒、しかも神経毒なので、このぐらいの毒性の物質だと、0.7mgは命にかかわる量です。

B君:もう一つの有名な有毒物であるシアン化カリウム、いわゆる青酸カリは、10mg/kgが致死量。体重70kgの人だと700mg。フグ毒よりも100倍ほど弱い。

A君:PMは、急性の毒性が高いものではありません。しかも、70μg/立方メートルとは、致死量を述べているのではなくて、暫定規制値です。1日に0.7mgという数値は、この値なら健康に被害はまずでないと思われる値だと考えるのが良いと思います。特に、月に1日程度であれば、まず、問題はないと思います。ちなみに、確実に健康被害がが出る値は、良く分っていないのです。

B君:繰り返すけど、PMの70μg/立方メートルという値は、すぐに健康に危険があるという数値ではないということになる。「数日間に渡ってこの数値を超すような状況であれば、長期的にみれば、なんらかの影響がでる可能性が絶対にないとは言えない」、という数値だと理解して欲しい。

A君:吸い込んだらどうなるのか。肺に吸い込んだ微粒子は、全部肺に付着する訳でもなくて、ある割合で、また出て行ってしまいますね。しかし、ある程度のサイズだと、肺に残りやすいということのようです。

B君:残ったものは、肺にどんな影響を与えるのだろうか。

A君:日本の研究例では、白血球が増えているということのようで、要するに、肺に炎症を起こしている。

B君:炎症とは、多くの場合、細菌やウイルスなどが体内に入り込むと、それを排除して外に出そうとする結果起きること。充血したり、はれ(腫れ)たり、熱をもったり、痛くなる。それが、PM2.5でも起きる。

A君:炎症が起きると、白血球にはいくつもの種類があるのですが、ある種のものが増えるので、PM2.5が多かった時間から連続して白血球の量を測ると、PM2.5によって何か炎症が起きているかどうか、ということを調べることができます。

B君:炎症は、はっきり言ってしまえば、身体のどこかで常時起きていることで、早く治れば、健康に大きな影響はないのだけれど、ずっと炎症が起きている状態が続くと、肺炎にかかったような状態になって、重症になれば、死亡率が上がるということになる。

A君:それだけでもなくて、さらに長期間炎症が続いていると、そこからがんが発生する可能性が高まります。

B君:ということのようで、PM2.5だけではなくて、大気汚染の影響は、最終的に肺がんの増加に繋がるのではないか、ということが一つ心配されていることだ。

A君:肺炎は、高齢者の死亡原因としてもかなり多いものなので、ロンドンスモッグの影響などもスモッグがひどい日の何日か後に、肺炎のために高齢者の死亡率が上がるということを調べて、健康に影響があるとされました。このような調査を「疫学調査」と呼ぶのですが、統計学がすごく重要で、”統計的に有意”かどうか、要するに、意味があるかどうか、ということが厳密に議論されます。

B君:肺がんと大気汚染の関係も、やはり疫学研究がなされて、ごく最近になって、関係が否定できないということになった。

A君:そして、国際機関であるWHOの下にある組織IARCが、大気汚染はがんの原因であるということを発表した。

B君:しかし、どのような事実を根拠にしたのか、など詳細は、まだ発表されていないようだ。そろそろ出る頃だと思うのだ。

C先生:大気汚染が肺がんと関係が深いという発表は、2013年の10月17日に行われている。
http://www.iarc.fr/en/media-centre/pr/2013/pdfs/pr221_J.pdf

A君:肺がんというと、最大の原因がたばこの煙。たばこの煙とがんと関係が深いということで、たばこの喫煙、副流煙、それに、無煙たばこの3種類が登録されています。

B君:その他に、大気汚染に関連するものとしては、煤煙(すす)、靴の製造や修理業、石炭ガス製造、コークスの製造、木工家具の製造、鉄の鋳造業、塗装業、ゴム産業、石英粉塵などの職業環境も同じグループ1に昔から入っている。

A君:しかし、グループ1には全部で100種類程度の原因しか登録されていない。これは多いような少ないような。

B君:しかも、かなりのものが放射線関係、ウイルス関係、医薬品なのだ。物質として何が発がん性なのか、と言われると、抗がん剤や免疫抑制剤がいくつかが入っていて、純粋の物質としては、ベンゼン、ベンジジン、4−アミノビフェニル、ホルムアルデヒド、酸化エチレン、ヒ素、ヒ化ガリウム、ニッケル化合物、といったものなので、PM2.5にどのような発がん物質が含まれているのか、ということが疑問になる。

A君:PM2.5は単一の物質ではないので、その成分の中で、何がもっとも毒性が強いのか、という話ですね。

B君:先に結論を述べると、どうも、特に強い毒性があるというものでもないように思うが。

A君:急性毒性ではそうかもしれません。しかし、ある種の炭化水素、ベンゼン、ベンジジン、などは、環状の構造を持っていて、これらは、発がん性ですし、似たような構造の発がん性のある物質を含んでいることは否定できないのです。

B君:しかし、後に述べるように、それがPM2.5の主成分という訳ではない。

A君:確かに、そうです。当然、PM2.5は主として何からできているかの説明が必要です。

B君:しかし、その前に、そもそもPM2.5がどうやってできてしまうのか。大気汚染との関係はどうなっているのか、という説明が必要なのだろう。

A君:どのような状況でPM2.5が発生するか、といった研究は、最近では、中国の方が盛んです。あたり前の話で、中国の状況に比べれば、お読みいただければ分かるように、日本では、それほど深刻ではないからです。

B君:すでに説明したように、PM2.5が何日も発生し、そのため肺に常時炎症が起きているような状態だと、肺がんの発生に繋がるけれど、ときどき炎症が起きる程度で治ってしまえば、肺がんに必ずなるというものではないのだ。

A君:ぜん息がひどくなるということはないらしいです。統計的に解析しても。

C先生:このところ、ほぼ毎年1月に北京の清華大学を訪問しているが、そこでHAO Jiming先生の研究の進展の報告を聞いている。HAO先生については、
http://www.tsinghua.edu.cn/publish/then/6022/2010/20101224140128945964185/20101224140128945964185_.html
を見て欲しい。

A君:どうやってPM2.5ができているのか、本日は、Webで自由に見ることができるHAO先生の論文をご紹介。

Mineral dust and NOx promote the conversion of SO to sulfate in heavy pollution days

Hong He,Yuesi Wang,Qingxin Ma,Jinzhu Ma,Biwu Chu, Dongsheng Ji, Guiqian Tang, Chang Liu, Hongxing Zhang & Jiming Hao
http://www.nature.com/srep/2014/140225/srep04172/full/srep04172.html

B君:どんな問題意識で研究をやっているのか、というと、最近の中国の大気汚染、HAO先生はhaze(もや、煙霧)と言っているが、その発生原因は、過去の歴史的な大気汚染である1950年頃のロスアンゼルスの大気汚染とも違うし、もっと古いロンドンのスモッグとも違うと見ているようだ。

A君:ロスアンゼルスの大気汚染は、車から排出されるNOx(NOとNO)とガソリン蒸気とが原因だったのでしょう。ロンドンスモッグは、暖房用の石炭から出たSOと若干のすす(炭素分)。

B君:中国のPM2.5の濃度は、300μg/立方メートルを超すからすごい。これは、多様な要素が混じっているものと考えられている。

A君:中国の基準である75μg/立方メートルの値を超すのが、平均的に年間22日、35μg/立方メートルを超すのが27日で、合計年間50日にもなる。


B君:日本の状況は、先日問題になった2月のデータだと、次の図のような感じ。




図1 2014年2月の新潟県の状況

A君:3回のピークがあるけれど、低い日が多いのが救い。この間に、体調を復活させ、炎症を抑えることが出来るので。

B君:中国では、130万平方キロでPM2.5の影響があるというからすごい。日本の国土面積が37.8万平方キロなのだから。

A君:HAO先生によれば、hazeの原因物質は、SO(二酸化イオウ)、NO(二酸化窒素)、NH(アンモニア)、VOCs(揮発性有機物、トルエンやガソリンなど)だという。それに、黄砂などの鉱物の微粒子が関係しているとのこと。

B君:ロンドンスモッグは、ほとんどがSOで、これは有害。その濃度は、140〜470ppb(濃度で10億分の1を意味する)が普通程度のスモッグだったのだが、ときに、1340ppbになったらしい。

A君:これに対して、中国のhazeでは、SOは60〜120ppbで、ロンドンの1/10程度。

B君:それは、中国では、SOが他の成分と化合して、硫酸塩の微粒子(例えば、硫酸アンモニウム:肥料としてしばしば使われる物質、急性毒性が強いとか発がん性が強いというものでもない)になっているから。大気中で、まずSOが酸化されてSOになり、それが水に溶けて、硫酸の微小液滴になって、それが別の成分と反応した結果できる。しかし、最初のSOになる反応は、起きにくい。ところが、NOとSOが共存していて、さらに、鉱物の微粒子があると、その表面で反応して硫酸ができる。

A君:NOなどの窒素酸化物は、自動車の排ガス中に多い。SOは、主として、石炭起源のものが多い。鉱物の微粒子は、砂漠から強風で舞い上がる。この3つの条件が満たされると、硫酸塩の微粒子ができて、それがもや=煙霧として空中を漂うことになる。中国の大都会の多くは、この三条件を満たしている。しかし、日本であれば、大都会でもこの条件を満たしていない。

B君:このような結果を、反応容器内での実験で確認している。

A君:北京の市内、郊外の都市、そして、農業地帯でのNOx(NOとNO)濃度、SO濃度、オゾン濃度、それにPM2.5の濃度を比較すると、次の図のようになりました。




図2 北京、その郊外都市部、さらに郊外でのPM2.5とその原因と思われる、NOx、SO、PM2.5の濃度

A君:どの地域でもSOの濃度は余り変わらないのですが、北京では、一番下のピンク色の線のように、NOxの濃度が非常に高くて、そのために、PM2.5濃度が高くなる傾向にある。しかし、郊外だと、むしろ、オゾンの濃度が高くなっている。

B君:オゾン濃度が高くなっているということは、光化学スモッグが発生しているということなので、余り嬉しくはない。

A君:その話は後にして、PM2.5の北京駅付近での分析値を次の図に示します。



図3 hazeが出ない日、出た日の昼間、出たときの夜間、での微粒子の分析値。確かに、硫化物(sulfate)の微粒子の量と、有機物量を加えると、ほぼ一定になっている。


A君:この有機物ですが、一つは、トルエンなどの有機溶剤、塗料などに広く使われています。勿論、ガソリンの蒸気もそうです。もう一種類あって、それは天然物で、森林などから放出されるピネンなどの物質です。しばしば精油として使われることもありますが、微小な液体として空中を漂っているのです。

B君:だから郊外でオゾンが多いということに繋がるわけか。しかし、この程度の量のオゾンというものがどの程度健康に悪いのだろう。郊外での濃度が高いとなると、やや疑問に思ってしまう。

A君:オゾンは殺菌作用がありますから、細胞にも毒性があるのは事実でしょう。しかし、昔からオゾンはある程度の量だと健康に良いとされていましたからね。

B君:光化学スモッグとhazeの厳密な区別はできるのかどうか。天然物である精油系の存在が光化学スモッグの原因だとすると、今後、健康影響を考えたときにどうすべきなのだろう。

A君:日本でも、光化学スモッグの発生が問題になりますけど、窒素酸化物濃度が低いと発生しやすいとはされています。

B君:だからといって、それなら規制を弱めて窒素酸化物濃度を高くしたら、PM2.5が発生する。

A君:それぞれの物質がどのように健康に悪いのか、もっと個別かつ定量的に調べないと駄目なのではないでしょうか。

B君:それは大変に難しいことだろう。なんといっても、急性の毒性が強いという訳でもないので、発がんを問題にすることになるけれど、そうなると統計的に意味のあるデータをとるのが難しい。もし、hazeが本当に毒性が強いのなら、中国で死者が相当に増えていることになるのだが、まだ、そうとも言えない状況なのだから。

C先生:余り無用に恐れると逆効果、というのはどんな場合でも真実。特に、日本のように、長寿になってきたいる国では、特にそうなのだ。環境影響、例えば、水質と寿命の関係は、ある程度明白だったが、これは感染症による下痢が原因だった。途上国では今でもこの関係は明白なのだ。鉛などの有害物については、日本での水質は、1985年頃までに大幅に改善された。
 大気汚染も、ロンドンスモッグぐらいになると、かなり健康被害が明白だ。しかし、最近の日本では、大気汚染は大幅に減少し、喫煙者も減少しているのに、肺がんによる死亡数は増えている。これは高年齢になるとがんが増えるという単純な事実で説明可能だとされている。



図4 がんの死亡数の年齢調整 1990年代後半から、肺がんであっても死亡率は実質上減少傾向である
http://ganjoho.jp/public/statistics/pub/statistics02.html

A君:がんの発生原因の多くが、活性酸素だとすると、そもそも酸素を呼吸していることががんの主因だということになってしまいます。すなわち、年齢と共に遺伝子の異常が蓄積されていくので、発がんが増えるのも当然なんですね。

B君:明確な発がん物質であるアルコール飲料、たばこが禁止されていないこの人間社会では、他のがんの原因となる要因を余り恐れるのは得策ではないと言えるだろう。

C先生:しかも、PM2.5は、日本にとっても、四日市などの石油起源の大気汚染がそれに相当するのではないかと思うのだが、ある意味で経験済み。そのころに比べるまでもなく、石原都知事によるディーゼル車の規制強化以来、都市の大気環境は確実に良くなっている。環境省は、自らの責任を全うするために、PM2.5への注意を喚起するけれど、それを余りにも重大に受け取りすぎて、精神的なストレスになるようだと健康に逆効果かもしれない、という程度だと思うのが良いと思う。なぜなら、ストレスの健康影響はかなり大きいからだ。
 もちろん、時には、空気の良いところでリラックスするのが健康的だと思う。森林からの精油分が多い地域で、太陽光が強いときだと、オゾンは多いかもしれないけれど。