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  平成13年度PRTRデータ公表  03.23.2003



 当初の予定よりかなり遅れて、平成13年度PRTRのデータが3月20日に公表された。PRTRとは何かについての詳細は、環境省のHPをご参照いただきたいが、354種類の化学物質について、これを使用している事業者は、環境への排出量や廃棄物に含まれて移動する量などを届け出て、これを国が集計し、また、各種の推計を行なって公表するものである。


C先生:長らく待たれていたPRTRの結果がやっと公表された。かなり遅れたが、それは、届出が予想よりも多くの事業所から提出されたかららしい。全国で約3万5千ケ所もの事業所からの届出があった。

A君:それを集計するのですが、集計表の種類が4464種類もあって、これはいかにも大変。ということで、遅れたようです。

B君:このPRTRのデータは、だれでも所定の手続きを踏めば、個別の事業所から届出のあった排出量などの生データについて、国に対して情報開示請求を行なうことができる。ただし、所定の手数料が必要。

A君:紙による公布、フロッピーによる公布、CD−Rによる公布とあって、料金が違いますが。CD−Rだと今回1090円ですが、他のものだと、もっと高いでしょう。

C先生:早速だが、今回、環境省と経済産業省がある程度の解析を行なった結果も併せて公開されている。

A君:報道資料として公開されたのは、以下のような数値で、これが数値・表・図の形で公表されています。この資料は、次のURLからダウンロード可能です。
http://www.env.go.jp/press/file_view.php3?serial=4416&hou_id=3992

(0)回答数  34、830事業所
    最多事業所が燃料小売業で、18634事業所
    県内で最多の事業所が報告したのは愛知県で、2150事業所

(1)排出と廃棄物などに乗っての環境への移動量
  排出量 31.4万トン
  移動量 22.3万トン
  合計   53.7万トン(354種類の化学物質)

(2)排出先
   総排出量:314千トン
   大気への排出: 281千トン(総排出・移動量比52%)
   公共用水域への排出: 13千トン(同2%)
   土壌への排出: 0.3千トン(同0.1%)
   埋立処分: 20千トン(同4%)
  と圧倒的に、大気への排出が多い。

(3)移動先(廃棄物に乗って)
   総移動量:223千トン
   事業所の外への移動: 219千トン(同41%)
   下水道への移動: 4千トン(同1%)

(4)届出排出量・移動量上位10物質
  上位10物質の合計は384千トンで、全量の72%。

(5)上位5物質のリスト  
   @ トルエン[177千トン]合成原料や溶剤として幅広く用いられる
   A キシレン[66千トン]合成原料や溶剤として幅広く用いられる
   B 塩化メチレン[37千トン] 金属洗浄などに用いられる
   C マンガン及びその化合物[24千トン]特殊鋼・電池など
   D 鉛及びその化合物[19千トン] バッテリー・光学ガラス・顔料など

(6)下位5物質のリスト  図から読み取り
   Eエチレングリコール      不凍液など
   Fふっ化水素及びその水溶性塩  ガラス加工など
   Gエチルベンゼン         溶剤
   Hクロム及び三価クロム化合物   防錆剤など
   IN,N−ジメチルホルムアミド  溶剤

(7)排出量・移動量の上位10業種は、
   @ 化学工業[137千トン]
   A 輸送用機械器具製造業[65千トン]
   B プラスチック製品製造業[49千トン]
   C 鉄鋼業[39千トン]
   D 出版・印刷・同関連産業[31千トン]
   E 電気機械器具製造業[30千トン]
   F 金属製品製造業[28千トン]
   G パルプ・紙・紙加工品製造業[26千トン]
   H 非鉄金属製造業[23千トン]
   I 窯業・土石製品製造業[21千トン]

(8)排出量に限った上位10業種は、
   @ 輸送用機械器具製造業[55千トン]
   A 化学工業[42千トン]
   B プラスチック製品製造業[37千トン]
   C 出版・印刷・同関連産業[25千トン]
   D パルプ・紙・紙加工品製造業[24千トン]
   E 金属製品製造業[19千トン]
   F 非鉄金属製造業[15千トン]
   G ゴム製品製造業[12千トン]
   H 窯業・土石製品製造業[11千トン]
   I 電気機械器具製造業[11千トン]
  どうも、溶剤の排出が多いということのようだ。

(9)届出されていない排出量の推定は、合計585千トンで、
 その内訳は、
  ・対象業種からの届出外排出量の推計値: 322千トン(55%)
  ・非対象業種からの排出量の推計値: 105千トン(18%)
  ・移動体からの排出量の推計値: 88千トン(15%)
  ・家庭からの排出量の推計値: 69千トン(12%)
 届出された量よりも多い。すなわち、小規模な排出が、大規模な事業所からの排出を上回っている。

(10)自動車などの移動体からの排出量の推計によれば、合計88千トン。
 その内訳は、
  @ 自動車[57 千トン(65 %)]
  A 二輪車[18 千トン(21 %)]
  B 特殊自動車(産業機械、建設機械、農業機械[ 8 千トン(10 %)] )
  C 船舶[ 1 千トン( 5 %)]
  D 鉄道車両[ 0.1 千トン( 0.2 %)]
  E 航空機[ 0.03千トン( 0.04%)]
 移動体からの排出も重要。特に、二輪車と特殊自動車の排ガス規制が甘いのは一目瞭然である。

(11)結局どのぐらい排出されているのか。
 すなわち、全国の届出排出量と届出外排出量の推計値の合計は、
 全国の届出排出量(314千トン)と届出外排出量(585千トン)
 合計 898千トン。

(12)非届出を含む全排出量の県別上位3都道府県は、
  東京都
  愛知県
  大阪府

(13)非届出排出量を含めた合計での上位10物質
  @トルエン
  Aキシレン
  B塩化メチレン
  Cトリクロロエチレン
  Dテトラクロロエチレン
  E直鎖アルキルベンゼンスルホン酸及びその塩
  Fホルムアルデヒド
  Gエチレングリコール
  HN,N−ジメチルホルムアミド
  Ip−ジクロロベンゼン

C先生:ご苦労。これをどう読むかだ。

A君:まず、ベスト10の化学物質ですが、届出のリストも、非届出を含むリストも、「まあこんなものかな」、ですね。

B君:届出のランキングだと、3位までが溶剤系。4、5位が重金属。たしかに、こんな感じだろうと思う。

A君:非届出だと、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンが4、5位にランクされています。これらの有機塩素系溶剤は、機械部品の洗浄やドライクリーニング用に使用されていて、水道水の基準値がトリクロロエチレンで0.03mg/L,テトラクロロエチレンが0.01mg/Lと厳しい規制があります。恐らく、大気中に出ているのだろうとは思いますが、量が多いですね。小規模排出源からなのでしょう。

B君:10位のp−ジクロルベンゼンは、防虫剤。これは家庭からの排出量が多いのだろう。今回、生データを見ていないので不確実だが。

C先生:多少早いが、全体としての感想を聞こう。

A君:まず、ここまで調査をしても、届出された事業所からの排出量(31万トン)に匹敵する非届出事業所からの排出量(32万トン)が有って、さらに、同じぐらいの量が、対象としていない事業者からの排出、自動車などからの排出、家庭からの排出などとして有るということでしょうか。要するに、ここが問題だといって、大規模な事業所を押さえても、効果は1/3しかないこと。

B君:同じことだが、家庭からの排出の総量が7万トンぐらいあって、これらは、室内での暴露だから、これが大きな問題であることではないか。また、小規模事業所からの排出が多いということは、職業上の暴露が問題にならないか。

C先生:繰り返すことになるが、届出をしているような大企業の工場は、かなり良く制御されているが、今後制御の難しい問題があることが明らかになった、ということか。

A君:そう言えます。化学工業もやっとここ数年の状況の改善が目覚しくて、自分達の排出データをきちんと話すことができるようになった。

B君:今回は最初の年度だから過去の経過は出てこないが、これまで行なわれたパイロット事業などですでにデータを出している企業が多い。削減の自主計画などを持っている企業も多い。

C先生:各企業の環境報告書やRCレポートを見ると、そのような状況が良く分かる。

A君:RCとはResponsible Careのこと。旭化成のRCレポート2002から、データを無断借用し、エクセルで作図して次に示します。これは、ジクロロメタンですが、複雑なことには、この化合物の別名が塩化メチレンで、平成13年度のPRTR排出量第3位の化合物です。

B君:過去の排出量の1/3ぐらいになっている。この化合物は、揮発性があって、かなりしっかりと捕集しないと、どこかに抜け出てしまう。恐らく、装置を全面的に改善したのだろう。

A君:この図からはわからないのですが、オリジナルには、事業所別のデータが出ていて、2002以降のさらなる削減が計画されているようですが、それは、ある事業所での排出量がゼロになっているようなので、これは使用中止でしょうか。

C先生:実のところ、初めてPRTRの正式なデータが出た訳だが、PRTR制度の最大の効果を、そのような実例に見ることができる。有害性があるとされている物質の使用を減らす、あるいは、別の物質に切り替えるか、ということによってリスク削減をしている。

B君:ただ、別の物質に切り替えるということを簡単にやってもらっても困る場合もある。なじみの無い物質だと、その毒性が完全には掌握できていない場合が多い。だから、現時点で分かっているデータだけを根拠にして切り替えると、思いもよらない影響が出ないとも限らない。

A君:長年の経験というのは結構重要で、この物質は注意して使えば毒性の制御が可能だし、予想外のことは起きないらしい、ということが分かってくる。

C先生:それでは、今回のデータを解析する価値が有る県、無い県があるか、といった話題に進もう。まず、東京都のデータをやや詳細に比較してみよう。

A君:東京都だと、届出排出量が5479トン、対象業種だけど届出外の排出量が3万7千トン、非対象業種からの排出量が6700トン、移動源が6860トン、そして、家庭からが3050トン、合計が5万3700トン。

B君:このデータからみると、東京都の場合には、中小の事業所からの排出量が大部分を占めていることが分かって、まあ、分散点源からの放出が多いのではないかということが分かる。このような中小事業所は、化学工業という訳ではなく、ある種の製品の使用者だろうから、ある製品の使用による放出が多いのではないだろうか。例えば、業務用溶剤とか、洗浄用溶剤などなどだが。

A君:それ以外にも、移動体や家庭から大きい。となると、東京都の場合には、事業所内や家庭内の濃度が高いだけでなく、外に出ても移動源からの放出が多い。

B君:どのような物質が多く放出されているか、興味があるところだが、それは、データCDを買って来ないと駄目だ。

A君:しかし、届出排出量が少なくて、暴露の多い地域はどこか、といったことについて、あまり確実に解析ができるとは思えない。

C先生:暴露を減らそうとしたら、移動体対策は効果的だろう。もし、移動体からの排出をもっと低下させようとしたら、二輪車と特殊自動車の排ガス規制を強化するのが最も効果的だということは、明らかだ。ガソリン自動車の優遇税制をやっても効果は限定的だということだ。
 さて、もっとも届出排出量が多いのは、愛知県だが。

A君:愛知県は、届出排出量が2万6500トンと東京の5倍、対象業種の届出外の排出量も2万6400トンとほぼ同じ。非対象業種が5000トン、移動体が4300トン、家庭からが4000トン。

B君:愛知県のようなパターンだと、東京都の場合よりも、どこか排出量の高い事業所に由来する暴露があるかどうかを解析するのが容易だし、意味があるかもしれない。

C先生:その通りだろう。届出排出量が届出外排出量よりも格段に多いところを解析すれば、ある地域に着目したとき、比較的信頼度の高い解析が可能になるだろう。

A君:秋田県の場合だと、届出排出量が1万トン以上あって、それに対して、届出外排出量が4900トンと半分しかないのです。移動体からの排出も760トンしかない。ここが第一候補。

B君:逆に、高知県は届出排出量が174トンしかなくて、届出外排出量が4450トン。高知県は解析をしても何も分からないかもしれない。

A君:少々特殊かもしれませんが、沖縄は、高知県以上に届出排出量が少ないですね。

C先生:まあ、今後各県のデータを解析する人々が多数でることだろう。

A君:そのためのツールなども、中西先生のリスクセンターから部分的には提供されているようです。

B君:今後の動きは、やはり危険性の高い物質は放出を抑えるだけではなくて、特に、蓄積性の高い物質は使用自粛という方向になるだろう。

C先生:最近、化学工業も安全性に対して非常に配慮をするようになった。例えば、その実例として、PFOSなる物質を上げようか。

A君:PFOSは、詳しくは、中西先生のHPにありますので、そちらをご覧いただきたい。このあたりがとっかかりになるでしょう。http://homepage3.nifty.com/junko-nakanishi/zak166_170.html

B君:この物質は、防水剤「スコッチガード」の有効成分。作業員の血液中に通常の人々の1000倍もの濃度で残留している。環境中にもかなり残留しているようで、そのために、米国3Mなる企業は、予防的にPFOSの製造をやめた。

A君:毒性がない訳は無いですが、その毒性のために止めたというよりも、蓄積性があることが問題かもしれないということで製造を止めた。

B君:企業としては、売上げ3億2000万ドルを失うが、それでも止めた。

C先生:大きな理由は、やはり、実際に被害を出したら、とんでもない賠償金を支払う可能性があるからだろう。いずれにしても、情報公開が、最初のステップになる。PRTRの大きな意味は、情報公開である。