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 太陽光発電で見る低炭素社会とグリーン・ニューディール  07.26.2009
     



 日本では、低炭素社会を実現すべし、といった大号令が掛かっていて、かなり大量の太陽電池が導入されるようだ。

 例えば、文部科学省のスクール・ニューディールに含まれる政策がその例である。

 それ自身、否定すべきことではないが、どうも緊急経済対策だけあって、今年限りの政策に過ぎない。未だに、長期的にどのような社会を構築するのか、といったビジョンを作る前段階にあって、「取り敢えず悪くはない」選択をしているように見える。

 一方、グリーン・ニューディールは、言葉としては世界を席巻した観がある。しかし、なぜか日本では、日本版グリーン・ニューディールという言葉はできるだけ使わないといった方針のように見える。

 低炭素社会とグリーン・ニューディール。この2つの目標に大きな違いはあるのか、それともほとんど同じなのか。

 太陽光発電を例にして、検討をしてみたい。日経エコロミーでは、自動車を例にして検討する(7月28日予定)。



C先生:まずは、文部科学省のスクール・ニューディールの説明あたりからスタートするか。

A君:了解。
 文部科学省の経済対策であるスクール・ニューディールは、その主眼は校舎の耐震性の向上にあるように見えますが、太陽光パネルを導入し、生徒たちの省エネマインドを育成することになっています。

 太陽光パネルの導入量も半端ではないです。文部科学省資料によれば、
http://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/newdeal/seido/1279523.htm

 「公立小中学校の太陽光パネル(早期に現在の10倍となる1万2千校設置を目指す)等エコ改修(省エネ改修(二重サッシ・断熱材等)、校庭の芝生化ビオトープ等)」

 ということで、どうやら一つの学校に20kW級の太陽光パネルを設置する計画のようですね。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/newdeal/kouka/__icsFiles/afieldfile/2009/06/12/1269066_1.pdf

B君:それ自身悪いことではない。一時期、学校にも風力を設置するようなことが推奨されたこともあったが、環境省のプロジェクトでつくば市の学校に設置された風車が回らなくて、当初目論んだ発電量にはるかに届かなかった。それに比べれば、太陽光発電は、確実に動く。

A君:風力発電は、やはり風況をしっかりと見極めて設置すべきで、多くの場合、都市内の風車は、単なるシンボル的なものになってしまう。

B君:学校だと、昼間でも教室内には電気を点けているのだろう。どうも、学校の年間電力需要の10%程度は、太陽光パネルが発電してくれるようだ。

C先生:ただし、このような自然エネルギー利用政策によって、日本のエネルギー安全保障が改善されると子ども達に思われても、これも迷惑だ。子ども達の省エネマインドを育成するという意味から言えば悪いことではないのだが、太陽光発電をいくら推進しても、その導入量には限界がある。

A君:エネルギー安全保障という言葉で政策が語られているのかどうか。ちょっと調べてみたら、NEDOが配布している太陽電池の設置に関するガイドライン
http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/pamphlets/shinene/taiyoukou_ft/
を見ると、最後の方になりますが、「6.太陽光発電のこれから」、というところでエネルギー安全保障という言葉が出てきます。

B君:NEDOの2030年に向けた太陽光発電ロードマップによれば、

「累積導入量100GW程度とし、発電量として家庭用電力の1/2(全電力の10%程度)が太陽光発電でまかなうことが想定されています」

とある。

A君:その次ですが、新・国家エネルギー戦略というところに、次のような記述があります。

「石油価格の高騰をはじめとする世界の厳しいエネルギー事情を踏まえ、エネルギー安全保障を核とした「新・国家エネルギー戦略」が平成18年5月31日に、経済産業省・資源エネルギー庁より公表されました。
 この戦略のなかで実現を目指す目標は、
(1)国民に信頼されるエネルギー安全保障の確立
(2)エネルギー問題と環境問題の一体解決による持続可能な成長基盤の確立
(3)アジア・世界のエネルギー問題克服への積極的な貢献」

B君:そのため、太陽光発電の経済性を7円/kWhとする、モジュール、パワーコンディショナーの長寿命化、変換効率の向上、アクティブネットワーク、素材供給の安定、産業基盤の強化、といった政策目標があるとされている。

C先生:しかし、この文書だけを読んで、太陽光発電が充実すれば、エネルギー安全保障が十分に成り立つと思うのは甘い。

A君:家庭用電力の半分までですからね。そもそも家庭用電力の半分というのは、全エネルギー使用量のどのぐらいの割合だと言うべきなのか。

B君:これは、先週のHPでも説明しているが、
http://www.yasuienv.net/G8Italy.htm
2003年のデータだと、電力だけでも、家庭用電力が926PJ、業務用電力が966PJ、産業用電力が1387PJ。これから計算すると、家庭用の電力の半分が全電力の10%程度という数値にはならない。

A君:それは2030年の電力需要として推定値を用いているからなのでは。

B君:それを検討しよう。資源エネルギー庁のエネルギー需給見通しによれば、
http://www.enecho.meti.go.jp/topics/080523b.pdf
いくつかの仮定に基づいて、推定がなされている。
(1)エネルギー価格
石油 :56$/b(2005) →100$/b(2030)
LNG :330$/t →810$/t
石炭 :63$/t →85$/t
(2)経済成長率 2%台前半
(3)人口動向


A君:加えて、シナリオとしても、現状固定ケース、努力継続ケース、最大導入ケース、の3種類を考えているようですね。

B君:2030年の総発電量の予測は、それらの3種類のケースについて、
 現状固定 14,245億kWh
 努力継続 11.569億kWh
 最大導入  8,908億kWh
ちなみに、2005年実績は、9,845億kWh。


A君:さて、2030年で100GWの太陽光パネルが導入されているとして、NEDOのパンフレットの記述、

「東京近郊では1 k W の太陽光発電で年間約1,000kWh程度電力量が得られます。」

を参考にすれば、100TWh程度の電力が発電されることになる。

B君:Tという単位は、10の12乗なので、1TWhは10億kWhに相当する。となると、先ほどの予測値をTWhに書き直せば、
 現状固定 1424TWh
 努力継続 1156TWh
 最大導入  890TWh
ちなみに、2005年実績は、984TkWh。


A君:なるほど、もしも太陽光発電で100TWhが出れば、大体全発電量の10%ぐらいにはなっている。

B君:しかし、100GWの太陽光パネルが導入されたとしても、かなり条件の悪いところへも設置されてしまうと考えられるので、どうなんだろう。

A君:都会だと、屋根に陰が全く出ないといった状況は想定しにくい。

C先生:我が家の太陽光パネルも、隣のマンションの陰になる。フルに日が当たるのは10時過ぎから。午後は、まずいことに、自宅のペントハウスの陰がかかる。

A君:となると、100TWhという太陽電池からの発電量は、かなり理想的な状況に近いということですか。

B君:それはそれとして、2030年での全発電量は、全エネルギー使用量の何%か。これが次の問題。「エネルギー需給見通し」から答えを拾ってみるか。
 まずは、2030年の総エネルギー使用量を原油換算で記述すると、
 現状固定 469 (百万kL)
 努力継続 412 (百万kL)
 最大導入 365 (百万kL)
ちなみに、2005年実績は、413(百万kL)、となっている。

 新エネルギー導入量の予測としては、
 現状固定 21 (百万kL)
 努力継続 21 (百万kL)
 最大導入 32 (百万kL)
ちなみに、2005年実績は、11(百万kL)。

 そのうち、太陽光発電の導入量の予測は、
 現状固定 6.7 (百万kL)
 努力継続 6.7 (百万kL)
 最大導入 13.0 (百万kL)
ちなみに、2005年実績は、0.35(百万kL)。


A君:2030年での太陽光導入量は、2005年の現状固定でも20倍、最大導入だとなんと40倍の導入。

B君:それでも、最大で13(百万kL原油換算)となっていて、省エネ技術を最大限導入した場合の365(百万kL原油換算)の1/30ぐらい。より正確には、3.6%程度

C先生:この3.6%がどのぐらい頼りになるか、無いよりは絶対にましだが、エネルギー安全保障という観点からどうなのだ、と言う話なのだ。

A君:当然、これ以外にも、再生可能エネルギーがある。新エネルギーと称されるものの実態は、太陽光、風力、廃棄物+バイオマス発電、バイオマス熱利用、太陽熱利用、廃棄物熱利用、未利用エネルギー、黒液・廃材など。

いわゆる新エネルギーの導入量の予測は、
 現状固定 21.5 (百万kL)
 努力継続 21.5 (百万kL)
 最大導入 32.0 (百万kL)
ちなみに、2005年実績は、11.6(百万kL)。


B君:これ以外にも、再生エネルギーはまだある。水力や地熱が主なものだけど。その量は、今後ほとんど増減無しだと考えられている。具体的には、

水力の導入量の予測は、
 現状固定 24.9 (百万kL)
 努力継続 24.9 (百万kL)
 最大導入 26.1 (百万kL)
ちなみに、2005年実績は、23.0(百万kL)。


一方、地熱はほとんど統計値にもならない程度でしかない。

C先生:現時点で、エネルギー自給率とは一体何%なのか。この答えを知っている人は、ほとんどいない。なぜならば、定義がまちまちで、どれが正しいか分からないからだ。

A君:ときどきご紹介しているこのサイト、
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/4060.html
によれば、日本のエネルギー自給率は5%、もしも原子力を自給エネルギーだと見なせば20%。ただし、2001年。

B君:米国がエネルギー自給率73%、原子力を入れれば75%。格段の差。

C先生:日本よりエネルギー自給率が低い国は、韓国ぐらいなもの。
 それはそれとして、もう少々詳しく日本のエネルギー自給率が知りたい。

A君:すでにご紹介したエネルギー需給見通しのp30に2005年での一次エネルギーの実績(原油換算)が載っています。

 太陽光発電   35万kL
 風力発電    44万kL
 廃棄物発電  252万kL
 バイオマス熱 142万kL
 その他    687万kL
 合計    1160万kL


 その他には、太陽熱利用、廃棄物熱利用、未利用エネルギー、黒液廃材が含まれる。

 これに加えて、水力が1732万kL、地熱その他570万kLとなっている。

B君:おなじくp31に、こんな数値がある。2005年度のもの。

一次エネルギー国内供給が587(百万kL)
 水力       17(百万kL)
 地熱        1(百万kL)
 新エネルギーなど 16(百万kL)


A君:%に直すと、
 水力     2.9%
 地熱     0.1%
 新エネルギー 2.7%


B君:新エネルギーをもっと細かくブレークダウンしないと。

A君:了解。
 水力     2.9%
 地熱     0.1%
 太陽光    0.05%
 風力     0.07%
 廃棄物発電  0.4%
 バイオマス熱 0.24%
 その他    1.2%


C先生:水力は良し。地熱もよし。太陽光、風力は良いが、廃棄物発電は廃棄物そのものが輸入品であるから除外。バイオマス熱は、これも輸入品である可能性がある。その他だが、黒液・廃材などはやはり輸入品なので怪しい。
 となると絶対的に自給と言えるものは、3.1%ぐらいだと言えるのではないか。
 考えようによっては、5%というデータでもやや多すぎるかもしれない。

A君:それが、もしも一次エネルギー供給量が減らないとすると、太陽光が40倍になるだけ。

B君:それでも一応、太陽光で2%ということになる。となると、自信を持って、エネルギー自給率が5%になったと言えることは言える。

A君:2050年ぐらいを考えれば、さらに上がっているのですけどね。いずれにしても、そろそろ本論の太陽光発電と低炭素社会、太陽光発電とグリーン・ニューディールは何が違うのか。

B君:まずは、細かい話は止めて、米国のエネルギー自給率が75%、日本の自給率が5%と仮定して話を進めよう。

A君:オバマ大統領のグリーン・ニューディール政策は、もともとは、経済対策であることは当然なのだけど、エネルギー政策として見れば、エネルギー安全保障という観点から、いかにして国産エネルギーを増やすかという狙いでできている。

B君:経済対策としてのグリーン・ニューディールの最大の狙いは、米国自動車産業の再興。一方、日本の低炭素社会は、同じ緊急経済対策でありながら、国内の太陽電池産業をいかにして強化するか、という狙いである。一見、日本にはエネルギー安全保障という狙いがあるように見えるが、現実には、そんな狙いは無い。

A君:オバマ大統領のエネルギー戦略は、太陽光発電、風力発電といった自然エネルギーを大量に導入し、それをスマートグリッドで制御することによって、アメリカの情報産業、特に、Google的なクラウドコンピューティングの先の世界を作ろうとしている。要するに、自然エネルギーを導入すると言えば、世の中は受け入れるだろうから、それを旨く使おうという奥が見える。

B君:日本の経済戦略としての太陽電池支援は、日本の多すぎると言われる貯蓄、総額1400兆円とも言われるが、この貯蓄をいささかでも実体経済に引きずり出そうとしている。これが奥に見える構図。

A君:現時点で、株に投資するのも不安。しかし、銀行預金などでは利子が出ない。太陽電池に投資をすれば、毎日太陽が出れば若干の利子がチャリンチャリンと出てくる。これまでの仕組みだと、経済的なメリットが出るとは思えないが、そこで、FIT(フィードインタリフ)制度を作って、ドイツなみに高く買う。もっともドイツほど高い価格ではなくて48円/kWhらしいですが、これでも、元本を含めて銀行預金よりはまし。

B君:要するに、結構よく似ているが、エネルギー安全保障という考え方があるかないか。これが最大の違い。
 なぜ米国のようなエネルギー安全保障という考え方が取れないのか、と言えば、それはエネルギー自給率が5%では、多少努力したところで、全く無意味だというあきらめの境地だからだ。

C先生:だから、これまでのエネルギー政策は、価格の安さと安定供給を中心に追求されてきた。具体的には原子力。しかし、今後、エネルギーの供給状況がどうなるか分からない現時点では、やはり多少ともエネルギー安全保障、すなわち自給率を高くするということが必要だというアナウンスをもっと積極的に出すべきだ。

A君:原子力を入れて20%程度のエネルギー自給率を、せめて、2050年には、50%にするのだ、といった目標は設定すべき。

B君:2050年には、省エネ技術、エネルギー転換技術をさらに高効率化して、国民1人あたりのエネルギー消費量を半減すれば、そのころ人口も9000万人になっているだろうから、今の3/8程度のエネルギーで足りる計算にはなる。

C先生:産業が使うエネルギーはこれまで漸減してきているが、今後、何か決定的な技術が期待できるとも言い難い。欲しい技術は山ほどあるのだが、難しい。例えば、熱を使わない蒸留技術とか。まあ、膜が候補なのだが。
 となると、自然エネルギーの大量導入がどうしても必要だという計算になる。太陽光発電も一つの可能性ではあるが、もっと原始的な太陽熱利用、さらには、コスト的に可能性が無いと言われる地熱利用の再検討。さらに、省エネ側では、あらゆる技術の再度の見直しが必須なのではないか。

A君:原子力へ依存するのがもっとも簡単だと電力業界は考えているでしょうが、使用済み核燃料の処理の問題がまだ未解決。ただし、絶対的に駄目というものでもないと思いますが。

B君:いずれにしても、産業構造をどのように変えるか、という議論がなかなか難しいところだ。

C先生:日本の科学技術への投資は、過去何年間にも渡って、他の予算とは違う枠組で優遇し続けてきた。その結果何が起きているのか。これを再度チェックする必要がある。
 さらに、今後、どのような戦略に基づいて科学技術投資を行うか、オール日本レベルでの議論を行う必要がある。

A君:現在の科学技術支援策は、どうも全日本的な枠組で議論されることが少ない。むしろ、各省ベースの話になっている。

B君:現時点では、なかなか未来が見えない。例えば、エネルギーの価格は見えなくてもしょうがないが、そもそもどのぐらいのエネルギーが供給可能なのか、についても確たるデータが有るような無いような。

C先生:エネルギーの利用可能量については、絶対に必要だと言えるグラフがあるのだが、まだ見たことがない。どこかにあるかもしれないが。それは、横軸がEPR(Energy Profit Ratio)で、縦軸が種類別・国別の各種資源量。

A君:エネルギーの場合、横軸は価格になりがち。だから、技術的な進歩があればコストダウンが可能で、メタンハイドレートが資源として使えるなどと言ってしまう。

B君:レアメタルなどの場合には、それで良い。なぜならば、絶対必要ということになれば、レアメタルは枯渇しない。どこかにあるし、リサイクルすればよい。しかし、エネルギーだけは、枯渇する。エネルギー資源を採取するのに、エネルギーが必要だからだ。その比を示すのがEPR。EPRが2以上でないかぎり、まず使いものにならない。

A君:オイルサンドだと1.5とか言われている。バイオエタノールも米国産だと1.3とか。

C先生:石井吉徳先生のもったいない学会
http://www.mottainaisociety.org/
には、EPRワーキンググループがある。是非、そんなものを作ってもらいたい。ちなみに石井先生のブログも面白い。
http://oilpeak.exblog.jp/
地球温暖化に関する見方以外は、基本思想はほとんど同じ。