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  塩ビ魔女化の解析  04.27.2003
     「当面の課題」補遺1



 持続可能性の高い社会システムにとって、「魔女的物質」の存在は無益である。本日は、環境問題における魔女がどのようにして作られ、どのように葬られるのか、その議論を行ないたい。まずは「塩ビ」を取り上げたい。

 塩ビ以外にも、鉛が魔女的取り扱いを受けている。水銀、カドミウム、六価クロムあたりになると、やや微妙なところである。さらに、原発は別の議論が必要になるだろう。

 追加: 05.04.2003
 どうも、塩ビの専門家からみると、このHPの記述は不正確そのもののようで、可塑剤、その他の添加物や発がん作用についての詳しい解説をいただきました。牧野さんは、某塩ビ関係企業のOB。 牧野さんの解説を最後に掲載しました。

C先生:本日は、ある物質や材料が「魔女化」する機構についての議論をしたい。まず、塩ビ、正式名称、ポリ塩化ビニルを取り上げるが、かなり強い奔流に、もみくちゃにされた材料の典型だろう。

A君:塩ビは歴史的には極めて古い材料です。高分子材料としては最古参で、1835年にレグナルド(仏)によって発明されていますから、すでに170歳。実用化された樹脂としても最古参といえると思いますが、昔は、塩ビの醤油ボトルなどがあったのですが、現時点では、すべてPETになりました。

B君:塩ビが魔女化された要素としては、最近に限れば、ダイオキシンとフタル酸エステル。ダイオキシンはご存知の通り。最近では、渡辺正先生の著書が社会的インパクトを与えている。塩ビ用可塑(柔軟)剤として使用されているフタル酸エステルは環境ホルモンとしての作用は心配ない(フタル酸ジブチルはまだグレー)ということになったのだが、まだまだ世間的な認識はない状態。

C先生:YomiuriWeeklyの5.4.2003号で、渡辺先生のダイオキシン本が話題になっている。そこで、「止めよう!ダイオキシン汚染・関東ネットワーク」の藤原寿和事務局長が、「驚きました。『塩ビが安全』などの主張は、塩ビ業界とつながっているとしか思えない。。。。。」、と言っている。この発言には驚いた。こんな発想しかできない人が、意図的にダイオキシン=塩ビを主張し、魔女化に一役買っていたのだ。多分、塩ビの殲滅を言うグリーンピースと運命共同体なのかと思っていたが、実は、塩ビ代替物質を製造する企業とつながりがあるのだろう(????)。

A君:問題点を一つずつ解明することにしたいと思いますので、魔女化の原因を番号で整理します。ここまでのところで、(1)ダイオキシン、(2)フタル酸エステル。

C先生:塩ビには、各種の添加剤が加えられる。それは、塩ビという樹脂の特性として、大量の添加剤を加えても樹脂として存在できるという優れた特性のために、物性の制御が容易である。すなわち、様々な用途に対応できる。
 それに加え、安定剤というものも必要だ。それは、光を浴びると、塩ビは分解するからだ。鉛やカドミウムと有機酸との化合物、要するに「せっけん」が使用されてきた。カドミウムは早めに使用中止になったが、鉛ステアレートといった化合物は使用されている。

A君:最近は、スズ、亜鉛、カルシウムなどの金属に切り替えて来たのですが、やはり鉛ステアレートが性能的にもコスト的にも良いようです。

B君:魔女化原因、(3)鉛ステアレートの使用。

C先生:これまた歴史的な話になるが、かつて塩ビ産業では、かなり特殊ながんの発症があった。塩化ビニルモノマーはIARCの発がん物質リストのグループ1に分類される「ヒトに対する確実な発がん性を有する物質」である。そのがんは、肝臓がんの一種、肝血管肉腫というものだった。

A君:これは歴史的な問題なので、最近の魔女化とは無関係かもしれないですが、(4)塩化ビニルモノマーの発がん性。

B君:無関係? そうでもない。「塩ビモノマーには発がん性があります。舐めなければ大丈夫、と思ったら甘い。塩ビの壁紙を長く使っていると、光で分解して粉になり、これを吸い込むと危険だ」、といったとんでもない記述のあるWebページを見つけた。大体、舐めれば塩ビモノマーを摂取することになるのか? それにモノマーと塩ビ樹脂の微粉が同じか?

A君:以上をまとめると、魔女化の原因は、
(1)ダイオキシン
(2)フタル酸エステル
(3)鉛ステアレートの使用。
(4)塩化ビニルモノマーの発がん性

C先生:順次議論をすべきだろうが、ダイオキシンについては、渡辺先生の本が出版されているので、ここでは取り上げない。書評などについては、中西先生のHPをご覧いただきたい。雑感213−2003.3.25「藤森照信さんの書評」雑感212−2003.3.17「ダイオキシン 神話の終焉」 いずれも、http://homepage3.nifty.com/junko-nakanishi/から。

B君:となると、フタル酸エステルからとなるか。フタル酸エステルといっても、それがいかなる物質であるか分からない方々が多いだろう。やや説明が必要ということかもしれない。フタル酸というのは、ベンゼン環に−COOHなる有機酸が2つ付いたもの。このフタル酸のうち、テレフタル酸はPET樹脂の原料にもなる。

A君:ここで出てくる分子は、一応、毒性を示しましょうかね。となると、テレフタル酸から。
★A社のテレフタル酸MSDSより
急性毒性 : 腹腔ーマウス LD50:1430mg/kg 静脈ーイヌ LDL0:767mg/kg
経口ーラット LD50:18800mg/kg
局所効果 : 眼ーウサギ 500mg/24時間 軽度
変異原性 : データなし
発がん性 : データなし
★B社のテレフタル酸MSDSより
【有害性情報】
◇吸入した場合…
1. 有毒である。
2. 粘膜、上方気道に刺激がある。
刺激性
ラビット  500 mg /24H;MILD(眼)
急性毒性
(RTECS)
◇経口毒性…
マウス LD50 3,200 mg/ kg
ラット LD50 >6,400 mg / kg

B君:LD50は、半数致死量のことで、3000mg/kgもあれば急性毒性としてはまあ安全。体重50kgだとすると、150g摂取すると危険ということで、大体、食塩のレベルだから。30〜300mg/kgだと劇物、30mg/kg以下だと毒物という分類になる。勿論、LD50で議論するのは極めて荒っぽい話ではある。

A君:フタル酸エステルというものは、フタル酸とアルコールとの化合物。アルコールには多くの種類があります。もっともおなじみがお酒に含まれるエチルアルコール。フタル酸とエチルアルコールから水が取れた形の化合物がフタル酸ジエチルと呼ばれるフタル酸エステル。

B君:フタル酸エステルは、アルコールの分子量が小さいものから作られたものほど毒性が強いものが多い。それでも、以下に示す程度。
★A社のフタル酸ジエチルのMSDS
有害性情報(フタル酸ジエチル)
急性毒性吸入ーヒトTCL0:1000mg/m3 流涙,咳,呼吸器障害
腹腔ーマウス LD50:2749mg/kg 経口ーマウスLD50:6172mg/kg
経口ーウサギLD50:1000mg/kg 皮下ーモルモットLD50:3000mg/kg
刺激性眼刺激ーウサギ112mg
変異原性  微生物を用いる変異原性試験:サルモネラ菌200μg/plate
   がん原性OSHA, NTP, IARC にがん原性の記載無し.
慢性毒性 情報の入手が困難
★B社のフタル酸ジエチルのMSDS
【有害性情報】
◇皮膚に触れた場合…
1. 液体、粉塵および蒸気は刺激を与える。
◇眼に入った場合…
1. 液体および粉塵は眼を刺激する。
◇吸入した場合…
1. 粉塵と蒸気は粘膜を刺激する。
急性毒性
(RTECS)
◇吸入毒性…
ヒト TCLo 1,000 mg / m3
◇経口毒性…
マウス LD50 6,172 mg / kg
ラット LD50 8,600 mg / kg
変異原性
微生物;サルモネラ菌(+S9);陽性

C先生:注意書きがやたらと多くて、これだとかなり有害物だと思われるのではないか。MSDSというものが注意書きだらけであることを何か適当なもので示そう。

A君:それでは、通常のせっけんはどうですか。化学物質名にすれば、ステアリン酸ナトリウム
★ステアリン酸ナトリウムのMSDS
危険・有害性の分類
有害性吸入、あるいは経口摂取した場合、有害である。眼、皮膚、粘膜に接触すると刺激性がある。長期暴露により、不快感、吐き気、頭痛等が起こることがある。
応急措置 目に入った場合 :多量の水で15分以上洗い流し、医師の手当を受ける。
皮膚に付いた場合:汚染された衣服を脱がせ、洗い流してから水と石鹸で皮膚を洗浄する。医師の手当を受ける。
吸入した場合  :新鮮な空気の場所に移し、水でうがいをさせる。安静保温に努める。医師の手当を受ける。
誤飲した場合  :口をすすがせ、吐かせる。医師の手当を受ける。
許容濃度 ACGIH(TLV) :  TWA 10 mg/m3
有害性情報 急性毒性静注-イヌ TDLo : 10 mg/kg

C先生:ステアリン酸ナトリウムは、さすがに有害性情報の記述は少ないが、おかしいのは、皮膚に付いた場合の記述だ。石鹸が付いたのだから、水だけで洗えば十分だと思うのだが、石鹸で皮膚を洗浄すると記述されている。

A君:吸入すると粉体は大体危険物。医師の手当てが何を意味するか、良く分かりませんが。目に入った場合は、多量の水で15分以上洗い流す。たかが石鹸とも言えません。

B君:もう一つ。ビタミンC。アスコルビン酸。
★物質名 L-アスコルビン酸 
簡略名 アスコルビン酸,V.C
主用途 強化剤・酸化防止剤
薬事法
法 法第41条第14改正日本薬局方
有害性情報
毒性
急性毒性 ラット経口 LD50:11900mg/kg
ラット皮下 LD50:>10g/kg
ラット静注 LD50:>4g/kg
マウス経口 LD50:3367mg/kg
マウス腹腔 LD50:643mg/kg
マウス静注 LD50:518mg/kg (RTECS)

C先生:ビタミンCにも致死量があって、それがマウスだと予想外に少ない。すなわち、有害物質と同程度。次に出てくるであろうフタル酸エステルの方が致死量に関しては10倍ぐらい無害だ。

A君:そろそろ、フタル酸エステルへ。塩ビの可塑剤に使用される代表的なフタル酸エステルは、DEHPと略される物質で、
化学名 フタル酸ビス( 2ーエチルヘキシル)   ( 別名 D O P )
   含有量99 % 以上
   化学式・分子量 C6H4[COOCH2CH(C2H5)C4H9]2 = 390.56
   化審法公示番号3ー1307
C A S  N o . 117-81-7
危険・有害性の分類
   有害性; 蒸気は眼, 鼻, のどを刺激する. 高濃度の蒸気を吸入すると, せき, 頭痛, めまい, 悪心, 感覚鈍麻などの症状を起こす恐れがある. 中枢神経系の機能低下, 胃腸障害等を起こす恐れがある.
発がん性があると予想される( NTP:グループb, IARC:グループ2B(注:)これは間違いである。グループ3に変更になった)
   環境影響; 生分解性良好, 低蓄積性
有害性情報
急性毒性経口ーマウスLD50: 30g/kg 経口ーヒトTDL0: 143mg/kg 消化器障害
経口ーウサギLD50: 34g/kg 皮膚ーウサギLD50: 25g/kg
腹腔ーラットLD50: 30700mg/kg 静脈ーラット LD50: 250mg/kg
刺激性皮膚刺激ーウサギ500mg/24時間軽度  眼刺激ーウサギ500mg/24時間軽度
変異原性  染色体異常試験:ハムスターー経口7500mg/kg; ヒトリンパ球6mg/L
微生物を用いる変異原性試験( 酵母菌): 1541mg/L
   がん原性発がん性があると予想される( NTP:グループb, IARC:グループ2B:(注:)これは間違いである。グループ3に変更になった)
慢性毒性 皮膚炎をおこすことがある.

B君:要するに、急性毒性については、かなり低い。それでは、なぜこのDEHPを含む調理用手袋や玩具が禁止になるのか、と言えば、それは環境ホルモン性があるわけではない。フタル酸エステルというと環境ホルモンという思い込みを作ってしまった環境庁(当時)によるSPEED’98のリストであるが、DEHPなどのフタル酸エステル類は、フタル酸ジブチルがまだグレーであることを除いて、ヒトに関しては「通常の毒性物質」との取り扱いでよいとの結論になった。これは、当HPの以前の記事参照。要するに、ヒトに関しては、SPEED’98から外してよいということである。

A君:DEHPの通常毒性が問題で、調理用手袋や玩具が禁止になるのは、セルトリ細胞という精子の元となる細胞への特異的な毒性があるから。ただし、実験動物での話。ヒトについては、良く分からないのですが、このような脂肪に似た物質の毒性に対する適応性は、ヒトの方が飽食に慣れているので、恐らく強い。しかも、DEHPは代謝が早いので、一時的にセルトリ細胞がダメージを受けたとしても、しばらくすれば元に戻ります。

C先生:赤ちゃんは玩具を舐める。おしゃぶりのように、口の中に入れることが目的の玩具もある。ということで、3歳児までの玩具については、規制がある国が多い。ところが、この日本という国は、この8月から6歳までの玩具についても、DEHPを使用した玩具の製造を禁止しようとしている。どれほどのリスクを考えているのだろうか。結果的に何の効果も無い規制というものは、単なる無駄である。

A君:それに、この物質ほど良く調べられているものはないぐらいです。変な代替物質へ切り替えるよりは、分かっている物質を旨く使う方がリスクを低くできる可能性が高いですね。

B君:リスクゼロを目指すと、代替品。それが駄目だと、また、代替品。これがこれまではある業界ではビジネスチャンスになった。そこで、リスクを作り出して、これを原因とする魔女を作ることが、業界内部で行なわれる。

A君:なるほど。鉛フリーはんだの場合には、まさにそれかも。はんだ業界にとっては、普通の共晶はんだでは高価には売れない。そこに、鉛フリーはんだが出てきた。価格が高い。これはニュービジネスになる。ということもあって、鉛フリーはんだが良いことになった、、、、のかもしれません。

C先生:フタル酸エステルというと、塩ビ専売かと思われているようだが、こんなに普通に使われている物質もないぐらいだ。その紹介をしてくれ。

A君:次のWebサイトを見てください。残念ながら英語ですが。http://www.phthalates.org/index.asp 表紙にいきなり出てくるのが、マニキュア。フタル酸エステルを加えないと、柔軟性が少なく皮膜が割れてしまうようで、また、爪にも柔軟性を与えるために、添加されています。化粧品の70%ぐらいには、なんらかのフタル酸エステルが加えられているというレポートもあるようです。

B君:香水やデオドラントにもフタル酸エステル類が加えられているが、それは、香り成分の蒸発をゆっくりにする効果を狙ったものだ。

A君:化粧品以外にも、日用品(接着剤、コーキンング、塗料など)には結構フタル酸エステル類を使ったものがあって、これまでの長い経験から見れば、大体大丈夫そうなのですが。

B君:当然、これに対しては反対する意見がある(http://www.NotTooPretty.org )。しかし、その論拠の一つであった環境ホルモン性が、フタル酸ジブチルがややグレーで再検証中であることを除いて白になったので、反対意見を述べている団体は、自らの意見を再度検証しなおす必要がある。

C先生:フタル酸エステルの毒性が通常毒性という理解で良いということになると、この物質は蓄積性が低く、代謝も速い。だから、妊娠時には問題になると思うのならば、そのような時期には、その手のお化粧をしないといった注意を払えば、それで大丈夫という意味だ。別の見方をすれば、フタル酸エステルの使用は、その表示さえあれば、それでOKと言える。

A君:それに対して、ダイオキシンのような物質は、代謝が遅く体内半減期が7年とかいった長期間です。妊娠しそうだからたばこを止めた、というのでは、間に合いません。たばこ中のダイオキシンが気になるのなら、10年前から禁煙が必要。

B君:化学物質を考えるポイントは、やはり、(1)まず毒性の強さ。ただし、砂糖でもビタミンでもミネラルでも毒性はある。次に、(2)毒性の種類。発がん性があるのか、慢性毒性があるのか、催奇形性があるか、これが重要。それに、ヒトに対しては余り心配が無いことになったが、環境ホルモン性があるか。さらに、(3)体内蓄積性があるのかどうか。(4)環境影響と環境からのヒトへの影響を考えれば、環境中での生体濃縮作用があるか。

A君:フタル酸エステルについては、(1)毒性は弱い、(2)発がん性はない、環境ホルモン性もまず心配ない、(3)体内蓄積性もない、(4)生体濃縮作用は無い。

B君:そして、最後に大量生産されているか、これも重要な要素。フタル酸エステルの心配なところは、これかもしれない。どこにでもあるので、思いもかけない量を摂取しているかもしれないこと。

A君:それには、見える形にすることが重要。魔女の一つの特性として、顔が良く見えないというものがありそう。

C先生:表示は問題。そんなところだ。一旦魔女化してしまうと、脱魔女はなかなか難しい。しかし、限られた資源・エネルギーを有効に活用していこうということが環境問題の最重要課題になった今、脱魔女をきちんと行なう必要がある。

A君:それでは、魔女化要素その(3)の鉛ステアレートに行きます。安定剤としての使用です。

C先生:どうも、今回長くなりすぎている。鉛ステアレートの話は別途独立させてやろう。

A君:了解。それでは、塩ビモノマーの発がん性。

B君:塩化ビニルモノマーの発がん性については、先日発表された環境省による初期リスク評価で発がん性リスクAクラスという評価がでた。しかし、初期リスク評価だけあって、恐らく数10倍の過大評価であることは確実だし、また、原因物質とされた塩化ビニルが直接環境に排出されたものではなくて、トリクロロエチレンなどといった物質が嫌気性細菌によって中途半端に分解された結果の生成物のようだ。

A君:それに、塩ビ樹脂と塩ビモノマーの区別が付かない記者が多いらしくて、新聞報道上は区別されていない。全く違った物質なのですが。

B君:モノマーと樹脂(ポリマー)が同じものだったら、とんでもないことになる。モノマーには毒性があるものが多い。

A君:塩ビは分解しやすいからモノマーを出している、という記述を見るのですが、これも間違いですね。塩ビは光が当たると、分解してHClを出すことはありますが、モノマーになる訳でもない。壁紙がちぎれてホコリになっても、それは樹脂のまま。

C先生:塩ビモノマーの発がん性は、樹脂の製造に係わる作業員だけの問題だと考えて良い。しかも、現時点では問題は解決している。

A君:これで一応全部カバーしましたが、(1)ダイオキシン問題は終わり、(2)フタル酸エステルも環境ホルモン問題は終わり、(3)鉛ステアレートは議論していませんが、代替が進んでいる、(4)モノマーの発がん性は作業員の過去の問題

B君:魔女になる要素は現時点ではないなあ。

C先生:塩ビに問題点が全く無い訳ではない。例えば、燃料などとして廃プラスチックを有効活用しようとすると、塩ビが若干含まれていることによって、塩化水素の発生が問題になるケースがある。となると、前処理プロセスが必要になる。塩ビの存在が、後処理コストの増大を招いている場合がある。

A君:ライフサイクルコストを商品価格に反映させるべきだとう議論をすると、塩ビはそれを行なっていないのは事実でしょう。

B君:塩ビは、やはり長寿命商品とビニールレザーのような一目で見分けることが可能な商品と、その他、どうしても塩ビの特性が必要な製品、に特化すべきだろう。安価であることを理由とした包装材などからは撤退するのが良心的だろう。

A君:一方、ごみ焼却からのダイオキシンは、ほんの微量の塩化水素でも発生するので、塩ビ・塩化ビニリデンが全責任を負うというものではないのですが、それでも、焼却炉に入る量は減らした方が合理的。

B君:それに、大量の電力を使って塩素を作っているのだから、塩ビからの塩化水素は回収して再利用することが、本当のところは合理的なはず。コスト的には合うとは思えないが。

C先生:以上のような事項は、社会システムをどうするか、という問題なのであって、現時点でだから塩ビが駄目という問題ではない。ただ、方向性としては、ライフサイクルコストを製品価格に含める、ということを実現すべきように思う。なぜならば、それがより公平性が高いから。

A君:それには、そのような解析が必要。

B君:これも、21世紀初頭の当面の課題かもしれない。

C先生:ということで、終わりにするが、塩ビを魔女化して、性能の悪い危険なエコ電線の開発を「環境適合型の新ビジネス」だなどという観点から進めるのではなくて、最適な材料の使用とはどのようなものか、ということを十分に議論し、持続可能な製造と消費の方向性を目指すべきだ。本物の「環境適合型技術」と「環境の衣をかぶった儲け至上主義の鎧」を見抜こう


塩ビ魔女化の解析に寄せて                    倉敷市 牧野哲哉

塩ビの安定剤
 加工時の熱履歴に耐える様に加えるもので、通常の使用条件(軟化点80℃以下)では仕事をしていません。
塩ビは素のままでは、僅かながらも120℃位から熱分解(脱HCl)が始まる。分子式で示される正規の構造(−CH2CHCl−)であれば200℃位までは分解しないのだが、構造的に不規則な部分がモノマー単位1000個に1個程度あり、そこから分解がはじまる。一旦分解が始まると、−HClの後は二重結合になるため、その隣の−C−Cl結合は非常に不安定になり分解が加速される。安定剤はこの不安定な部分の塩素結合を安定化するものです。
 安定剤には、塩ビに相溶するものと非相溶のもとある。透明品は相溶タイプでないと作れません。鉛系の安定剤の殆どが非相溶で、顔料を加えなければ純白の製品になります。最も良く使われるのはステアリン酸鉛ですがラウリン酸鉛もあります。他に塩基性硫酸鉛(酸化鉛と硫酸鉛の混合物)、塩基性炭酸鉛、塩基性亜燐酸鉛等が代表的なものです。(炭素、珪素、ゲルマニュウム、錫、鉛は同属の元素ですから、元々馴染みは良いのです。四エチル鉛は良くご承知と思います。)鉛系安定剤の安定効果は抜群に優れ、安価ですが、滑性(加工機械は金属ですから、それにベタベタ付かない様に適度な滑性が必要)が不足するので、ステアリン酸(そのままか鉛塩として)が使われます。
 錫系の安定剤は有機錫で相溶安定剤の代表格です。ジアルキル(R2SnX2)の形で使われます。Xには酸(ステアリン酸、ラウリン酸、マレイン酸等)またはチオアルコール(−CSH)が使われます。
 金属石鹸系の安定剤も相溶系です。Ba、Ca、Zn、Mg、日本では使われませんが(海外では使っている)Cdの脂肪酸塩です。Ba、Ca、Zn、Mgは「無毒系」として扱います。日本の殆どの軟質塩ビ製品は無毒系(鉛もCdも入ってない)です。軟質製品で例外が電線で鉛系が主流です。勿論非鉛配合の電線もあります。金属石鹸は水には溶けません。油性のものには溶けます。潤滑油や塗料に良く配合されます。
 有機・・(金属、燐など)は炭素と直接結合しているものを言います。金属石鹸は酸素を介して結合していますから有機金属ではありません。良く間違われますので。
 有機安定剤の開発にもチャレンジされましたが、これというものは開発されていません。やはり、熱的に不安定な塩素を安定化するには金属の本質が必要な様です。
 一方、紫外線吸収剤、抗酸化剤、可塑剤、充填材、強化材、顔料、染料(透明品の場合)などは、使用時の必要から添加するものです。配合量は、可塑剤は、望みの柔らかさに応じて5~100%、充填材、強化材は必要に応じて5~300%(沢山いれても強度が落ちないのが魅力)、安定剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、顔料、染料等は全部合わせても、せいぜい1%程度です。
 ついでに、PE、PPは素のままでは、酸素に対する抵抗力は小さく常温でも酸化分解が始まっていて、坂を転げ落ちる様に劣化してゆきます。ですから製造プラントでは窒素気流中で扱い、外に出る時は直ぐに抗酸化剤や紫外線吸収剤を入れます。塩ビは素のままで、加工工場まで運び、それから配合します。

塩ビの可塑剤
 エステル結合やベンゼン環がある程度の密度で持つ化合物は、大方のものは、塩ビに対して可塑化作用を有する。フタル酸エステルとアジピン酸エステルが代表的なものです。このほかに、分子量の小さいエポキシ樹脂やポリエステルも使われます。使用済みPET(ボトルでも繊維でも)に2エチルヘキサノールを加えてアルコール交換して出来るジ2エチルヘキシルテレフタレートは、可塑剤として使えます。
 芳香族系の酸(1塩基酸、2塩基酸、3塩基酸、4塩基酸いずれも使える)のエステルはベンゼン環とエステル基を合わせ持つので最も良い可塑剤です。可塑剤は揮発しては困るので、沸点が300℃以上のものが望ましい。脂肪族系の多塩基酸も良く使われますが可塑化効果が小さいのと加水分解に弱く耐候性が不十分です。
フタル酸エステルの安全性が疑われたのは今が最初ではなく、かなり昔から色々言われました。その時点で、替えられる用途は脂肪族系に替えました。その代表がラップフィルムで、アジピン酸エステルが使われています。食品包装は安全イメージが第一だからです。ですがアジピン酸エステルは加水分解し易く耐候性が不十分ですから、ラップフィルムの様に直ぐ使い捨てる用途には使えますが、10〜20年使う用途には使えません。そんな用途はフタル酸エステルかトリメリット酸エステルになります。尚、テレフタル酸エステルは可塑化効率がやや悪くあまり使われません。
 フタル酸エステルの安全性、特に、急性毒性は極めて小さく、食品並です。塩、砂糖、酢より安全側です。ですから、動物試験では大量投与の試験になってしまいます。そんな大量の投与をしてなお健康に動物を飼い続けるのは大変な事です。慢性毒性は健康に飼い続けなければ評価できません。食品並の大量投与でも安全という事は極め付きの安全という事でしょう。食品でも偏食すれば異常が出るのが普通なのですから。だから、動物試験をしている現場の人達はフタル酸エステルの安全性には驚いています。それでも、MSDSには「悪い」とかかねばならない様で、異常が出る様に書かれています。ですが用量をみれば分かるように、霊長類なら消化管で吸収しきれない程の数値が書かれているのです。これもおかしな話で、ある基準値より安全なら安全と書いて良いことにすべきだと思います。

塩ビモノマー(VCM)の発ガン性
 極めて特殊な肉腫でそれも肝臓の血管に出来るものでした。だから、VCMが原因だと判ったのです。一種の職業病みたいなもので、VCMの高濃度の暴露を長年受けていた人にのみ発病しました。世界中で対策を完了して25年以上が経過しています。詳しくは知りませんが、臨床データとして相当数のデータが揃っているのではないかと思います。動物試験の様な不確かなものではなく、人のデータで、どの程度の暴露を受ければ発病するか、潜伏期間は最長何年くらいか、判っているのではないかと思います。発がん性に関するこの様なデータは、疫病と同じ様に国際的に広くデータを公開すべきと思いますが、発癌物質についてこの様な扱いをしたものが少ないのは何故なのでしょうか。いつまでも不確定要素のあるデータで安全率を大きく取るのはいい加減に止めてもらいたいです。
                                                                  以上