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    パリ協定長期成長戦略懇談会の提言  
       未来を変えるためにその1
  04.07.2019
               



 昨年の8月3日に第一回があった懇談会ではあるが、第五回目が4月2日に行われて、提言がまとまったが、本当に十分な議論ができたのか、と言われるとやはり、時間不足であったように思う。委員の皆さんに余りにも偉い方々が多いので、忙しすぎるのが最大の問題点
 しかし、北岡座長(東大名誉教授、JICA理事長)が主催した非公式会合で、委員だけで議論をすることができたので、全体像のかなりの方向性が定まった。しかし、最後のまとめの文書を作成することは、大変な作業であったと思う。やはり、毎日毎日、現実に進行している国の行政の方向性を変えるとなると、そう簡単にすべてをチャラにして変えるという訳にはいかない。しかし、「パリ協定の要求」は、「非常にドラスティックな変化を実現すること」、であるので、様々な意見がでたものの、やはり、Aspirational(辞書的には、日本語訳は、熱望する、あこがれの強い、向上心のある、、だが、むしろ、「過去に見たことがないぐらい意欲的な」が本当の訳なのでは)な提言を書くことは、この国では非常に難しいことである。
 毎回説明しているように、キリスト教国では、パリ協定の「気候正義」という言葉の威力は絶大。そのためとは限らないものの、G7の中で、この文書の最初のページに出てくる「長期戦略」を提出していないのは、日本とイタリアだけ。ということは、アメリカも提出をしている。もっともアメリカで40%の人々が信仰している福音派のキリスト教徒は、旧約聖書、新約聖書に書かれていることしか信じないので、気候変動や温暖化などは当然聖書にかかれていないので、これで地球が滅びるなどとは考えていない。「このところの気候が変だ」ぐらいは感じているとは思うけれど。
 という訳で、何はともあれ、提言ができた良かった。この文書をご参照下さいs。https://www.kantei.go.jp/jp/singi/parikyoutei/siryou1.pdf
今回は、長い提言の前半部分について、若干のコメントをしてみました。いずれにしても、委員として参加させてもらい、かなり緊張させられましたが、良い経験にはなりました。



C先生:この報告書は、なんと27ページまであって、まあまあ大部。余り長い報告書を書くと、細部まで細かいゴールなどを検討しなければならないので、大変なのだけれど、それほど長過ぎるとは思わないけれど、この提言に対する現実的な対応策を書くノルマを背負った各省庁は大変なのではないか。しかも、その対応策は、6月に大阪で行われるG20までに、何か決めなければならないのかもしれない。

A君:各省庁は重大な宿題を背負ったということになるのでしょうか。

C先生:それは、この報告書の中身に依存するので、その省庁のことが、全く記述されていなければ、無関係。もっとも大変なのは、「イノベーションによって問題解決をする」と書かれてしまったので、それを実現する責任のある経産省と、大学などを管理している文科省か。

A君:まずは、「はじめに」p1です。経過報告に加え、「広く国民に共有されるとともに、今後政府によって策定される長期戦略に反映されることを強く望むものである」となっていて、筆者は、懇談会委員であることになっていますが、実際には、事務局がかなり努力したのでしょうね。

C先生:北岡先生の努力も相当なもので、かなり時間を割いたのではないか、と思うが。実際の作文は、やはり、事務局がやったのだろうけど。

B君:それでは「第1章 気候変動に関わる最近の情勢及び変化」へ。
 ここでは被害の深刻化から記述がはじまり、IPCCの「1.5℃報告書」に続く。その記述でもっとも重要なことが、1.5℃報告書には、「社会及びシステムの根源的な移行と変革」が役に立つと書かれているという指摘かもしれない。何を犠牲にして、1.5℃を実現するか、という問題なので、そのための社会的な合意が必須なのだ。もっとも、犠牲の中心にしなければならないのが、先進国の快適・便利な生活なのだけど、現実に起きそうな犠牲が、途上国における生活の進化。例えば、水道や電力の整備。

A君:p2になると、「3.金融等ビジネスにおける情勢の変化」では、これまで経験したことのないような大きな変化が起きているという指摘から始まるのですが、具体的には、「再生可能エネルギーのコスト低下によるエネルギー転換、そして、『ゼロエミッション』を志向するビジネスと金融が特徴的な変化」だとしています。

B君:確かにその通りで、最初に動いたのは、各国の政府関係の年金機構。ノルウェーが特に先頭を走った。そして、カリフォルニア州政府系。日本のGPIFもフォロー。これは金融界としては当然のことで、もし、気候変動が進行したとき、ある企業の工場などが被災する可能性が高いのであれば、そこに巨額の投資をすることはリスクでしかない。しかし、一般的な企業であっても、今後の社会構造が大変動することを考えれば、自社における技術革新が不可欠で、それには、投資をすることが不可欠なのだ。となると、やはり、金融が言う通りに動かない訳にはいかない

A君:そして、p3の下から、4.SDGsの採択という節になりますが、ここは省略。

B君:そして、p5から「第2章 長期戦略の策定にあたっての視点」になる。
 ここの最初の文書は、なかなかインパクトがある。「長期戦略は、国内外に日本政府のメッセージを発出することであり、気候変動問題に取り組む日本としての本気度が問われるものである」、となっている。そして、以下の6項目が重要であるとしている。項目だけ示すに止めるけれど。
1.世界の目標に貢献するものであること
2.環境と成長の好循環の実現に向けたものであること
3.野心的なビジョンであること
4.望ましい社会像への移行を示すものであること
5.スピード感を持って取り組むものであること
6.世界に貢献・発信するものであること


C先生:この6項目は極めて良いと思った。実際にそうなったかどうか、それは皆さんが決めることだけれど。

B君:これで、第3章:長期戦略に盛り込むべき特に重要な要素になる。
 ここでは、上記の6項目のより具体的な説明が書かれている。
*1.野心的なビジョン*については、これまでの延長線上にない非連続なイノベーションを通じ、環境と成長の好循環を実現して、、、、」となっている。1.5℃実現にむけても努力を継続することになっている。

A君:1.5℃を本当に実現しようとしたら、これまで本サイトでご紹介したように、バイオマスCCSを主たる手段としてやるのが、もっとも安易な対応だけれども、それだと、アフリカなどの森林が消滅する可能性がある。となると、産業におけるCOの削減を大幅に実現する必要があるのだけれど、それが本当に可能なのかどうか、まだ、検討が不十分。これを正面に据えた具体的な検討が不可欠で、どのようなイノベーションが実現されたら、どのぐらいのCO排出削減が実現できるのか、といった具体的な数値を精緻に推定することが第一歩になりますね。

C先生:その通り。それぞれの技術の実現可能性、具体的には、生産コストが最重要になるのだけれど、それが明らかにならない限り、どこまでCO排出削減ができるかどうか、よく分からない。非連続なイノベーションと簡単に言うけれど、実は、非常に難しいのが現状なのだ。

B君:これから、実現に向けて細かい検討をするのだろうと思うけれど、膨大な検討になりそうで、誰がどうやってやるのか、イメージが浮かばない。

A君:しかし、「イメージが浮かばないからやらない」、とは言えない。

C先生:しかも、同時に、「市民の皆さん、どこまで利便性を減らして大丈夫ですか」と聞かなければならないかもしれないのだ。

B君:次に行く。*2.非連続なイノベーションを実現させる環境と成長の好循環*になる。

A君:ここで具体的に色々なターゲットが明示されています。水素、CCS、CCU、再生可能エネルギー、蓄電池などが鍵だとしています。

B君:そして、このような非連続なイノベーションに取り組む企業に資金があつまるようになって、好循環といえるという、まあ当たり前の指摘になるのだけれど、本当にどうやって実現するのか。それが相当な問題。少なくとも、エネルギー供給が鍵になるので、例えば、製鉄業が水素で鉄鉱石を還元しようとすると、水素還元は炭素による還元と違って吸熱反応なので、とにかく大量の熱エネルギーを外から供給しなければならないことになる。

A君:これが、実は、本報告書が実現されるかどうか、そのもっとも重要な「鍵」を握っている部分だという感じですね。

B君:そして、*3.望ましい社会像*になる。まず、全体観からで、「目指す脱炭素社会は、多くの人々が共感でき、将来に希望の持てる明るい社会でもあるべき」。

A君:これは誰もが同意できるでしょう。次に、地域レベルから脱炭素化とSDGsの同時達成を目指すべきと提案していますね。

C先生:これは、第5次環境基本計画に記述された、「地域循環共生圏」の実現のためだ。コンセプトとして、間違っていないと思うが、この報告書には、「自立・分散型社会を形成するとともに、広域的なネットワークも活用し、環境・経済・社会の統合的向上を図る」と記述された。これを正しく読んでいただきたい。単に自立・分散型社会を作ることとは真逆なのだということを。

A君:しばしば地域エネルギー供給システムを作りたいという人がいるけれど、それはそれで良いものの、もしも、狭い範囲で自然エネルギーでの電力供給だけを考えたら、風がない夜にどうやって電力を供給するのか、ということになってしまいますね。電池で貯めることを各家庭がやれるのであれば、まあ、不可能とは言いませんが、相当大容量の電池が必要で、コストは相当に高い。なぜなら、電池には厳然として寿命があるから。

B君:次が、*4.世界の脱炭素化努力への貢献*。まあ、これは当然ということで次に。

A君:第4章になります。各分野の将来像および最終到達点に向けた視点
 まずは、*T.エネルギー*です。もっとも力が入っているのは、日本という国は、実は、エネルギーの自給に対しては、過去、非常に苦労をしてきた。それが自然エネルギーの時代になったとしても、実は、世界でも難しい国だということ。そのため、エネルギー政策の「3つのE+S」が重要となっている。

B君:3E=Energy Security+Economic Efficiency+EnvironmentでS=Safety。福島第一事故以後は、S+3EとSを先頭に出す書き方の方が主流かも。

A君:Energy Securityとは、何があっても供給が途切れないこと。Economic Efficiencyとは、低価格。Environmentは今や低CO2排出量。

B君:特筆すべきは、「地域熱供給の普及」などという記述があること。ヨーロッパは、古い時代から、熱の地域供給が行われている。それが未だに維持されていて、例えば、オランダのアムステルダムなどでは、ホテルの暖房が地域熱供給システムによるスチームで行われていたりする。ドイツでも同様で、ご存知かもしれないけれど、電気洗濯機にも外部から供給されるお湯を使っている。
 次は2.エネルギー効率向上だけれど、当然の記述なので良いか。

A君:そして、*3.電力*。再生可能エネルギーの主力電源化が記述された。加えて、容易ではないので、課題のどれもに対して全力でチャレンジすることが必要であるとされた。

B君:再エネの自然変動性は、当たり前ながら、送配電網、蓄電池や水素等によって克服。

A君:送配電網がもっとも重要ですね。日本のグリッドは、ヨーロッパの網の目状に対比すれば、魚の骨状ですからね。1本の背骨からチョコチョコと出ているだけで網目状になっていない。

B君:ちょっと省略して次に行けば、再生可能エネルギー/蓄電池という項になる。さらなる大容量化、長寿命、低コストが重要という技術イノベーションが重要なことが書かれているが、まさに当然、その通り。

A君:次に、地域が主体となった分散型エネルギーシステムの重要性が書かれています。しかし、「社会全体として俯瞰する視点も不可欠」ということで、過度の地域分散型エネルギーだけでは、危ないということが主張されているので、是非、ご注意いただきたい。

B君:その次が、石炭火力発電等となっていて、その依存度を可能な限り引き下げること、となっている。この可能な限りがどう解釈されるか。次に排出したCOを効率的に回収し、燃料や原材料等として再利用する新しい循環を作るとあるので、CCS・CCUを念頭に置いているという解釈になるのが、妥当なことなので、となると、炭素税の価格はCCSの価格と同じすべきという我々の主張との整合性も無いとは言えない。もちろん、DACなどの技術ができれば、状況は変わってくるだろうけれど。

A君:次が*4.水素*ですね。最初に書かれていることが、世界の英知とリスクマネーを呼び込むことが重要とありますね。大胆な規制改革をグローバルな連携を行いつつすすめるべきだとしています。

B君:具体的な目標が、COフリー水素の製造コストを2050年に現状の1/10にし、天然ガスよりも割安にする。これは、かなりチャレンジングな目標。非常に良いのでは。

A君:そして、*5.CCS・CCU、カーボンリサイクル*になりますが、そろそろ、半分ぐらいにはなったので、次のU.産業(p16)から次回でしょうか。

C先生:そろそろ頃合いではあるな。これまで、経産省と文科省が合同で開催していた通称『ポテ研』=「環境・エネルギー技術のポテンシャルと実用化検討会」などで得られた情報が、かなり盛り込まれているような感触がある。ポテ研での様々な企業などからの発表があったのだけれど、かなり真剣に取り組んでいることがよく分かった。すなわち、全く取り組んでいない状況だと、このような文書に書くことができないのが、ハッキリ言えば「自給だけでは不可能な国」が日本の実体なのだけれど、実際、その検討会での感触だけれど、それぞれの企業が大きな方針をすでに決めて、この方向で取り組むのだという覚悟が見えるようなプレゼンが多かったので、かなり安心した、というのが実感だったのだ。それが反映しているので、そのときの感覚が正しかったのではないか、と現時点では思っている。
 ただ、日本という国は、繰り返しになるけれど、再生可能エネルギーに恵まれていない国の筆頭みたいな国なので、これからゼロCO化を再生可能エネルギーだけで満たすのは難しい。そうなったときに重要なが、この報告書でも強調されているCCS+CCU=CCUSなのだ。幸いにして、CO分離技術は、かなりの実力がある。しかし、地震の多い国なので、どこにCOを貯留するのか、となると、非常に難しいのが現実だ。しかし、CO排出のリスクも非常に大きいことが、その内、共通理解になるだろうから、世界のどこかに埋める場所を探すことになるだろう。あるいは、DACという技術に期待することになるかもしれない。
 ということで、前半の部終了としよう。