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    パリ協定長期成長戦略懇談会 その2  
         未来を変えるために 04.14.2019

               



 前回の続きです。しかし、若干の補完をします。しかも、最初に、補完からスタートします。それは、日経新聞4月6日朝刊にアジアで石炭発電が減らないことに関する記事が、1面のトップになったためです。

 もちろん、この懇談会でも、石炭発電に関して、日本がどのような対応をするのかについては、前回すでにカバーしたp14に記述があり、CCS・CCUの対象にするということが記述されています。しかし、アジアを主とした国の石炭発電にどのように対応するかに関しては、その最終的結論を提言に盛り込むことはできませんでした。外務省・外務大臣が中心となって検討し、責任をもって決定するということに落ち着いたと考えれば良さそうです。


補完:  途上国への石炭発電支援は正義か −現時世代と将来世代の問題という理解−

 日経の4月6日土曜日の朝刊のトップ記事である。欧米だけではないが、世界的ばESG投資の流れがさらに高まっているので、石炭に対する嫌悪感が金融界を中心に非常に強いという状況である。
 その最初の例が、ノルウェーの年金基金による日本の電力企業への対応で、石炭発電が30%を超していた企業の株を売り払った。パリ協定が合意されてすぐに起きた事態であった。
 当時、日本では電力自由化になったばかりで、もっとも発電コストの低い石炭発電によって儲けを増やそうという企業からの増設計画が目白押し状態だった。これはいくらなんでもまずいだろう、と個人的に思っていた。それは、パリ協定が「気候正義」に基づくものであるということを理解していない日本企業近視眼的体質国際的な金融関係者から非難されることを懸念してのことであった。
 さすがに、その計画の大部分が現時点では消えたと考えているが、それも、今後、新たな炭素税などによる炭素価格が導入されると、決して石炭発電所だから儲かるという状況にはならないと考えられるからである。
 日本のように、やや経済力が落ち目の国であっても、電気代ぐらいは払える市民が大多数であるし、地球環境の未来を考えなければならないぐらいのマインドは持っている市民が大多数だから、当然の方向性だったのだが、アジアを中心とする石炭発電については、どう考えるか、非常に難しい問題なのである。
 要するに、現世代の地球上でのWell Being(日本語訳が非常に難しい)と、かなり遠い将来世代のWell Beingが気候変動によって、できるだけバランスが崩れないようにすること。この時間を超えたバランスをどうやって維持するのか、という問題、これは、「持続可能性」の問題として地球環境における最大の課題であるが、1987年のブルントラント委員会が作成した、"Our Common Future"が大きな方向性を決めたはずなのだが、日本人のほとんどは、それを知らない。まあ、古い話なので、当然なのだけれど。
 この古くて新しい問題であるアジアの途上国における「石炭発電」について、果たして正解はあるのだろうか。
 もしあるとしたら、途上国において新設される「石炭発電」から排出されるCOを途上国が自国で処理し、自国に埋めるCCSを行うための資金を、国際社会が提供することではないだろうか。そして、そこで処理されたCOの排出量は、資金提供を行った国のクレジットとする(=資金提供国の削減量としてカウントする)ことも有りうる、といった方式が考えられない訳ではないのだけれど。まずは、未来の国際的なルールをどうするか、その検討から始めなければならないのかもしれない。


C先生:それでは、ここから先週の記事の続きを検討しよう。懇談会の最終報告の本文は、ここにあるので、是非、ご覧いただきたい。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/parikyoutei/siryou1.pdf

A君:本日は、ここからです。
 「U.産業 (1)モノづくりの脱炭素化を日本の強みとして主導すべきである。」と記述されています。

B君:簡単なことのように書かれているが、実は、これは非常に難しいことにチャレンジするということだと理解していただきたい。それこそ、ありとあらゆる方策を実行した上で、例えば、「木材などのバイオマス資源への転換、化石燃料を使用しない素材の開発・利用を促進する」ことが必要だと記述されているが、非常に簡単にできるように読めるかもしれないが、これは極めて困難なことを記述してしまったとも言える。相当の覚悟が必要。

A君:次が鉄鋼業の話になって、現時点での石炭による還元を水素による還元に変える必要性が記述されています。

B君:それが簡単に行えればよいのだけれど、実は、炭素による還元と水素による還元では、余りにも正反対な部分がある。水素による還元は、吸熱反応であって、熱を外から供給してやらないと反応が進まないということなのだ。

A君:次が人工光合成なのですが、これは、CCUの手法の一つとして確かに重要なのです。しかし、これまで日本での人工光合成では、第一段階の水の光分解にしか取り組んでこなかった。その理由は、第二段階が非常に高度だからと考えていただければ良いかと思いますが。

B君:人工光合成の第二段階とは、第一段階で水を分解して水素を作った後、その水素と例えば製鉄業から出たCOを原料として、有用な物質を作ること。もちろん、原理的には不可能なことではないが、実際に、ほとんど誰も成功していない。人類としてチャレンジすべき究極の目標となる化学反応だとも言える。

A君:しかし、これを植物や藻類は平然とやっているのです。相当な能力です。

B君:そのほかに、石油起源のプラスチックからバイオマスプラスチックなどの代替素材への転換を促進するとともに、フロン系ガスを温暖化係数ほぼゼロの代替物質・技術にできるだけ早期に転換することになっている。

A君:バイオプラスチックは、現時点でも製造可能ではあるのですが、実は、これまた難しいチャレンジです。なぜならば、現状のバイオプラスチックは、ポリ乳酸と呼ばれるようなもので、トウモロコシからのデンプンが主たる原料になります。毎回、主張しているように、バイオ関係は、地球全体として、どのような戦略を作るかを決めてから取り組まないと、1.5℃シナリオのところでも説明しましたが、地球上から樹木が消えてしまう可能性がないとは言えないのです。しかも、食料も畑で作り、バイオプラ用の原料も畑で作りますから、競合関係にあるので、全体感をもって、地球戦略を作らなければならないのです。

B君:フロン系ガスの新しいものが果たして実現可能なのか、それも、NEDOなどでは本気で議論をしている。現時点でのR32と呼ばれるフロン系ガスでは、全量、回収・分解を目指すことが必要。それも、2016年10月、アフリカ・ルワンダのキガリというところでモントリオール議定書の会議が行われ、現在、使用中のフロン類について、規制が決定されました。要するに、本来は、オゾン層破壊の原因としてフロンへの対策を検討してきたモントリオール議定書の会議が、パリ協定を受けて、フロン類の温暖化効果が大変だという理解になっているということ。
 詳しくは、経産省から次の文書を参照していただきたい。
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/seizo_sangyo/...../
20180921_01.pdf

A君:日本だと、2029年に70%排出削減を行わなければならないのですが、これが結構厳しい。今のまま放置すれば、全量回収を義務化することになるのではないですか。そこで、改正オゾン層保護法では、名前はオゾン層なのですが、温室効果が本当の問題として、新しい規制ができて、製造・輸入が毎年定率で削減することになりました。

B君:報告書に戻るけれど、様々なことが書かれているけれど、本気ですべてを実施しないと、確かに大変なことになる。となると、産業界は、これから世界との競争だけでなく、温室効果ガス排出削減との闘いをやらなければならなくなった。

C先生:その意識を持つことの必要性を、日本全体の共通認識にすることが、まず、もっとも重要なことなのではないか。

A君:「V.運輸」になります。
 「自動車新時代戦略会議」で、2050年比で2010年比で日本車1台あたりの温室効果ガスの排出を80%削減すること設定した。特に、乗用車は90%削減になっているので、ほとんど車が電動車化が必須。

B君:これは比較的自然に行くのでは。むしろ、自動車以外が厳しい。航空関係、海運関係に分かれるが。

A君:航空関係を担当しているのは、国際民間航空機関ICAOですが、2050年まで、年間2%のエネルギー効率の改善し、総排出量を2020年の排出量に抑制することを目標にしている。ということは、航空機が非常に増えるということを想定していることになりますね。

B君:国際海事機関IMOは、2050年までに2008年比で少なくとも50%削減を目指している。航空も、海事も、次世代バイオエネルギーへの転換を目指すことになりそうだ。

A君:それでは「W.地域・くらし」。国民一人一人が自覚をもって、「自分が何をできるか」考える必要があるという指摘からスタート。

B君:「人口減少・高齢化の日本だからこそ、特に、地域の力を高める成長戦略が重要」はその通りなのだけれど、東京の不動産の価格も、早いと、2020年代には下がり始めるという予測もある

C先生:北欧に行ってみると解るのだけれど、彼らは、現状に満足しているわけではないのだけれど、例えば、ちょっと所得が上がると、税金があるポイントから急増するような仕組みには不満があるのだけれど、そのポイントが十分に高いので、上がるポイントを越さないように残業なども制御している感触だった。とにかく、北欧の豊かさは変わっていない。

A君:2017年のGDPperCapitaで、ノルウェーが4位、デンマークが10位、スウェーデンが11位、フィンランドが16位と、北欧のランキングは安泰ですね。

B君:日本がどうやって豊かになるのか。実は、億万長者の数は、このところ日本では急増しているらしい。

A君:やはり、課税の累進性が、最初のうちは高いけど、その先がそれほどでもない。あるいは、個人事業者に対して甘いとか、色々あると思うですが。

B君:このWでは、環境基本計画の「地域循環共生圏」も出てくる。

A君:色々と書かれているけれど、是非、読んでいただきたいのは、やはり、エネルギー
(5)具体的には、地域が再生可能エネルギーや分散型グリッドを構築することで電力が地場産業となり、スマートモビリティなど新たな需要を支えていく社会を構築することが重要である。また、地域におけるバイオマスや水力等のエネルギーを活用するため、汎用性の高い技術を ESG 投資で誘導しつつ作りあげていくことも重要である。

B君:再生可能エネルギーや分散型グリッドについて、これらの重要性は否定しないけれど、大型の風力などを考えると、全国をカバーする電力グリッドのしっかりした構想とそれに基づく整備は必要不可欠。

C先生:これで第5章になる。「分野横断的な対策・施策」という章だ。具体的には、イノベーション、グリーン・ファイナンス、ビジネス主導の国際展開、国際協力を中心に、日本の長期戦略で示すべき施策に関する提言。

A君:まずは、イノベーション。最初が、分野横断的なイノベーションの必要性。これは、その通りで、脱炭素社会というものは、極めて複合的なものなので、単一の分野だけが伸びればよいというものではない。

B君:政府のお奨めは、「Society5.0」で、一言でいえば、IT社会と低炭素社会の同時実現のような話。

A君:まず、「イノベーション≠技術革新」という理解を普及し、「イノベーション=社会を変える」というが不可欠、ということが重要で、「実用化・普及のためのイノベーション=社会実装」の重要性が記述されている。特に、ユーザーに選ばれるイノベーションが必要。

C先生:そのために、「世界最高効率といった科学的な価値がイノベーションの本質ではない」という考え方を全面的に広める必要があるだろう。

A君:「3.政策の方向性」に、LCAの重要性が記述されていますね。これは、C先生の発言ですか。

C先生:いや、言っていない。むしろ、コスト削減のイノベーションなどを主張した。さらに、このところの大学のインパクトファクター主義を変えないと、大学から社会実装が可能なイノベーションは生まれないと主張して、それがほぼその通りに書かれた。社会実装まで大学がやるのではなくて、当然、誰かにバトンタッチをするのだが、論文になるだけの研究を、応用科学系、特に、工学・農学系がそれだけを目指すのは、絶対におかしい。これらの学部は、ノーベル賞を目指すべきだ。社会に実装されない限り、ノーベル賞はないのだ。

A君:あとは、気候変動の更なる解明などの高度な科学研究の更なる推進がありますね。

C先生:このところ、日本国内に研究者が居ないのかもしれないけれど、COの大気中での寿命に関する研究が、世界的にはかなり盛んにおこなわれて、新しい知見がでているように思うのだ。

B君:次が「U.グリーン・ファイナンス」。これは省略かな。「V.ビジネス主導の国際展開、国際協力」は、北岡先生の問題意識が大きいのだろうと思う。

A君:確かに、世界にどのような貢献をできるのか、それは極めて重要で、それが、石炭発電などにもつながる。

B君:いよいよ「W.その他」になった。まずは、人材育成か。これはいつでも最重要課題なのだけれど、人材育成によって社会貢献ができない大学が問題。

A君:記述はそうではなくて、若者を活用するということが一つ。もう一つは、政策の方向性で、未来技術の必要性をその大枠を社会全体に理解してもらう。そのためには、SDGs教育を進めると同時に、その一環として、気候変動リスクの教育を行う。

B君:それは重要な記述だ。気候変動のリスクをしっかり理解している市民は一体、何%いるのだろうか。

A君:そして、次が、しばしば議論になるカーボンプライシング。まずは、日本はCOの限界削減費用が高い、エネルギーコストも高い、エネルギー資源の大半を輸入、といういつもの話になります。

B君:しかし、制度によって効果が異なるので、様々な状況を加味しなければならないということになっている。これは、環境省の独走を止めた感じがする。なぜなら、市場を介した価格付けだけでなく、税制も含まれると書かれているので、そんな気がするだけだが。

A君:そして、適応策の重要性。これは誰もが認めること。

B君:今後の進め方とレビューが必要。その通りの記述があって、それで無事に全編のカバーが終了。

A君:となると、総論ということになりますか。

B君:今回の議論の結果は、これまでの政府主導型の報告書からは、かなり「はみ出た」という意味で、先進性があると言えるかもしれない。

A君:それも、G20が大阪で6月にありますが、その場をリードするためには、やはりかなり先進的なことを言わないと持たないし、長期計画を日本とイタリア以外のG7各国は米国を含めて出しているので、それをどう描くか、いよいよ大詰めになったという状況を反映しているのでしょうね。

C先生:この文書を読んで、まだまだ不足していると思うところはあるので、それらについては、今後ともこの場で議論をしてみたいと思う。
 先日、内閣府の総合科学技術・イノベーション会議に呼ばれて、現時点での日本における温暖化対策の進行具合についてどのように思うか、と聞かれた。経産省・文科省が合同でやっている技術のポテンシャルと実用化の検討会などの発言などを総合すると、「このところ、各企業の意識が大幅に変わって、かなり、様々なことをやっている。しかし、個々の企業ではできないような社会システムにかかわるようなこと、例えば、日本という国の電力網の理想像とは何か、とか、どのぐらいの自然エネルギーを導入するのが最適量なのか、などといった本来であれば、政府がリードすべき横断的だと思われる事項の検討が進んでいないと思うの述べた。
 これがこの国のもっとも難しいところでもあるのだ。先日の新聞によれば、経団連の中西会長が、再生可能エネルギー大量導入に必要な送電網の整備に、国家的な支援が不可欠の述べたようだが、これが実態を反映した意見ではある。このような議論が進むのではないか、という気配が全くない訳ではない、という程度が現状ではないか。