-------

    プラスチック資源循環戦略  11.25.2018
       なぜプラだけの議論で止まるのか=最大の問題

               



 現在、プラスチック問題が世界的に広まっている。そのためもあって、日本でも、環境省が開催している「プラスチックの資源循環を総合的に推進するための戦略」の策定を目指している小委員会での議論が始まっている。
http://www.env.go.jp/council/03recycle/yoshi03-12.html

 そして、10月19日の第3回目の委員会で、「プラスチック資源循環戦略(素案)」なるものが示され、次のWebサイトで公開されている。
http://www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-03/y031203-d1.pdf

 最近、プラスチックの海洋汚染に関する問題が顕在化しているのは事実である。しかし、すべての問題の根源には、地球全体の破綻が近づいているという事実が存在していて、その最大の問題が気候変動であり、そして、生態系(陸上、海洋)の破壊である。

 プラスチックは、石油から作られている。その量はどのぐらいか、と言えば、確かにそれほどの量とは言えない。しかも、日常生活に利便性をもたらしている。そのため、廃棄されるプラスチックがなぜ悪いのか、と言われれば、現時点での最大の問題は、確かに、海洋汚染であろうとも思われる。しかし、2050年頃には、水平リサイクルの割合が高まって、バージン・プラスチックの製造量は、世界的に相当絞らなければならないだろう。となれば、循環戦略に行き着くのは当然なのであるが、やはり、製造量をなぜ絞らなければならないか、と言えば、(1)廃棄物量を減らしたいから、(2)化石燃料起源のものだから、(2’)使用後に焼却すればそれでOKと言えるものではないから、などである。

 現時点でなんらかの特定分野の環境戦略を決めるのであっても、まずは、関連するできるだけ多くの事象を対象とし、そのすべてが保全される方向性を維持するためにどのような境界条件があるかを考察した上で、すなわち、全体像を描いた上で、今回の特定の課題解決を記述する、というスタンスが望まれる



C先生:プラスチック問題が、これほど世界共通の問題として認識されるようになったのは、いささか想定外であった。海洋生態系に対する悪影響はあることは分かっていたが、例のウミガメの鼻に刺さったストローのビデオが、余りにも衝撃的だったのではないか。そして、まさか、ストローの廃止が、プラスチック全体の対応を求める動きにまで高揚するとは、ちょっとした予想外だった。

A君:ただ、日本という国は、パリ協定への対応でも明らかですが、とにかく、「利便性が第一の価値、そして、効率性が第二の価値」という国です。以後、利便性・効率性と書きますか。いずれにしても、欧州の気候正義の国々とは大違い。プラスチックほど、利便性という言葉と相性が良い材料は無いので、だから日本社会の反応が悪いと思っていたのですが、予想外でした。スタバなどがリードしたという側面はあるものの、純国産でも動きがあるのではないですが。

B君:最後のまとめにしようかと思っていたのだけど、「いきなり日本と言う国は」、という議論から始まったので、こちらも過激に。最近、環境問題に関して、全体感が失われているというか、むしろ積極的に全体感を持たないように施策が行われているのではないか。その代表格だと思うのが、C先生が参画していた第5次環境基本計画の策定のときの議論。何人かの委員が、「基本計画なのだから、「地球の限界」(プラネタリー・バウンダリー)という、Stockholm Regilience CenterのRockstrom博士が提唱している概念があって、すでに、種の絶滅、窒素・リンの循環は高リスク領域、気候変動と土地利用についても、不確実の領域を超して高リスクになったとという考え方が、あらゆる環境問題を考える基本になるべきだと思う」と述べた。

A君:そのRockstrom博士の考え方を導入してSDGsの17項目の重要性をウェディングケーキになぞらえた絵も有名。


図1 ストックホルム・レジリエンスセンターのウェディングケーキ図
Websiteの表紙ページにも、この図がある。 https://www.stockholmresilience.org/ 

B君:これまで、この図をまともに説明していないので、今回は、詳しく説明してみたい。まず、この図の位置付けだけれど、いきなりこのサイトの表紙に出てくる図であって、人間活動のもっとも基盤になっている最下層が、SDGsで言えば、次の四項目になる。

最も下の層が、「生態系」
 6 Clean Water and Sanitation  水と衛生
13 Climate Action   気候変動対応
14 Life Below Water  水系生態系(淡水と海)
15 Life on Land    陸上生態系

A君:そして、真ん中のレイヤーが、「社会」
1 No Poverty   貧困解消
2 Zero Hunger  飢餓のゼロ化
3 Good Health and Well-being 健康かつ健全な生活
4 Quality Education  質の高い教育
5 Gender Equality   ジェンダー間の平等
7 Afordable and Clean Energy クリーンかつ十分量のエネルギー 
11 Sustainable Cities and Communities 持続可能な都市とコミュニティー
16 Peace, Justice and Strong Institutions 平和と正義と協力な組織

B君:その上の層が、「経済」
8 Decent Work and Economic Growth きちんとした職業と経済成長
9 Industry, Innovation and Infrastructure 工業、イノベーション、インフラ
10 Reduce inequality within and among countries 国内と国家間の不公平を減らす
12 Ensure sustainable consumption and production patterns 消費・生産のパターンを持続可能に

A君:屋上の旗に相当するのが、
17 Partnerships for the Goals ゴール実現へのパートナーシップ

B君:これを掲載してしまうと、環境基本計画のような閣議決定文書は成立しないのが、日本政府の現状なのだろうね。

A君:それはそうでしょうね。これがそのまま受け入れられる国というのは、実は少ないのかもしれない。やはり、この図も国連的正義なもかもしれないですね。

B君:あるいは、NPO的とも言えるのかも。

A君:しかし、もっとも基盤に来る4項目を陸・水の生態系を守るための気候と水の健全性と考えれば、これらは、明らかに、地球的限界に到達しているということなので、これをNPO的だと言うもの妙だ。人類が食べている食糧は、すべて、生態系から貰うか、生態系を利用して生産しているのは事実なので、生態系が壊れれば、人類の生存も怪しくなるのだ。

B君:それはその通り。パリ協定が地球限界を持ち出さずに、「気候正義」という言葉で全体をまとめたのは、それはヨーロッパのキリスト教国だから

A君:日本は、これまでも何回も指摘しているように、正義というものは、一般的な議論の対象にはならないものです。そのため、日本のパリ協定の内容に対する本当の理解が進みにくい。

B君:プラスチックに対する基本的なポリシーを決めるとき、日本国内では、正義という言葉は使えない。ただし、その変わりに使うべき言葉が、「地球的な限界を一部はすでに超した。他にも超しそうなものがあって、人類の生存が危ない」だと思う。これは正しいのではないだろうか。

A君:「気候正義」の変わりに、「地球限界」を使うのであれば、確かに、日本国内でも可能ですね。

C先生:まあ、そんなところだ。話は変わるけれど、UNEPから「Single-use plastics:A roadmap for sustainability」という文書が公開されている。この文書の主張も、同様の方向性だと言えるのだろうか。チェックすべきだ。

A君:この文書ですね

B君:89ページもある英文ではないか。これは大変だ。

A君:まあそうなのですが。p23以降は、世界的な動向とケーススターディーなので、その最初の部分、まあ、p24まで読めば良いのでは。それと、p64以降の結論。

B君:チラチラと見たら、p24までにも、各国の状況などがかなり含まれている。詳しく読んだら、1回分の記事以上の内容になるから、現時点では、何か、特別な考え方が含まれているかどうか、のチェックで行こう。

A君:今回の議論は日本国内なので、国別なら、”Japan”を検索するだけで行けそう。それと、インパクトのある図ぐらい探しますか。例えば、これとか。

B君:Figure 3.3.だな。使い捨てプラスチックに対して、国レベルで法的規制をした国の数(年次増加数)。2017年で17ヶ国が新規に法規制をしたという内容。

図3.3: 使い捨てのプラスチックの規制をした国の数

A君:それから、Japanを検索したら、わずか9箇所。すぐできますね。その内、2つは、AISTの小寺洋一氏が、この報告書の作成に協力したというところで、もうひとつは、IETCという組織が日本に存在するという表示のため。
 ですから、図を入れて、Japanが出現するのは、以下の6箇所。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
序文4
Most of this waste is generated in Asia, while America, Japan and the European Union are the world’s largest producers of plastic packaging waste per capita. 米国、日本、EUが、一人あたりのプラスチック廃棄物発生量のワースト3

2ページ目
More than one-fourth of the resins globally used in the production of single-use plastics are manufactured in Northeast Asia (China,Hong Kong, Japan, Republic of Korea and Taiwan). This is followed by North America,the Middle East and Europe (Figure 1.3). 
地球全体でのワンウェイ用途のプラスチックは、北東アジア(中国、香港、日本、韓国、台湾)で生産されている。

5ページ目
In 2015, plastic packaging waste accounted for 47% of the plastic waste generated globally, with half of that appearing to come from Asia. While China remains the largest worldwide generator of plastic packaging waste, the USA is the largest generator of plastic packaging waste on a per-capita basis, followed by Japan and the EU (Figure 1.5).
プラスチック包装の47%は、どうやらアジアから来ているようだ。中国はプラ包装廃棄物の最大の発生源であるが、一人あたりにすれば、米国、日本、EUの順である。

 これらに関連する5ページの図を2枚ほど。


図1 Fig.1.5 各国の包装材料廃棄物の量 茶色が総量 赤色が一人あたりのプラスチック廃棄物量



図2 Fig. 1.4 プラスチック種類別のプラスチック廃棄物の量の推移。 やはり、ポリプロとポリエチが多いが、どのプラも増加。 

11ページ BOX2
Germany, Japan and South Africa are among many successful examples where the responsibility for recycling used PET bottles is embraced by manufacturers (either voluntarily or by act of law).
PETボトルのリサイクル責任を製造者に負わせるという成功例は、ドイツ、日本、南アフリカにある。

24ページ
Nonetheless, the enforcement of regulations has often been poor, and single-use plastic bags continue to be widely used and mismanaged despite prohibitions and levies. In contrast, another Asian example is Japan, where no bans are in place on single use plastic, but thanks to a very effective waste management system and a high degree of social consciousness, the country accounts for relatively limited leakages of single-use plastics in the environment.
1回使用のプラスチック袋(レジ袋)は禁止や課金制も無いとは言えない程度の規制にとどまり、広く使われており、正しく管理されていない。例外として、日本の場合は、1回使用のレジ袋の禁止はされていないが、廃棄物の効率的な処理と社会的な関心が高さのために、環境へ漏洩することは極めて希である。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

A君:なるほど。これで6ヶ所の説明が終了。日本に対する評価は、こんなものだったのだ。確かに、ゴミが道路などに散らばっているという状況が無い国ではあるけれど、だからといって、最終的には、プラスチックごみの輸出で辻褄を合わせてきた国であるということは厳然たる事実。Fig.1.5で、日本が、一人あたりの使用量の世界2位であることは、なんとかしないと。それは、いくら日本という国の社会的関心が高くても、ゴミ処理にもどうしても若干のリークという現象が付きまとうので。

C先生:これまでの議論がプラスチック資源循環に関する世界的な基本的思想に関するものだと言えそうだ。次に、日本製の思想と言える「プラスチック資源循環戦略(素案)」を読んでみよう

A君:まずは内容を目次的に示します。
1.はじめに 背景・狙い
2.基本原則 3R+Renewable
3.重点戦略 資源循環、海洋プラ、国際展開、基盤整備
(1)プラスチック資源循環
 【リデュース等の徹底】
 【効果的・効率的で持続可能なリサイクル】
 【再生材・バイオプラスチックの利用促進】
(2)海洋プラスチック対策
 ゼロ・エミッションを目指すとともに、国民の機運の情勢によって、ポイ捨て、マイクロプラスチック流出抑制、海洋ごみ回収処理等。
(3)国際展開
 我が国は、プラスチック資源循環および海洋プラスチック対策で率先垂範して、途上国の支援等の対応。
(4)基盤整備
 @社会システムの確立、A資源循環関連産業の振興、B技術開発、C調査研究、D連携協働、E情報基盤、F海外展開基盤に取り組む
4.おわりに −今後の戦略展開−
 *リデュース 2030年までにワンウェイのプラスチックを累積で25%排出抑制
 *リユース・リサイクル 2025年までに、プラスチック製容器包装・製品のデザインを「リユース可能」、あるいは「リサイクル可能」にすることを目指す。
 2030年までに、プラスチック製容器包装の6割をリサイクルまたはリユースする。2035年までに、すべての使用済みプラスチックを熱回収を含めて100%を有効に利用する。
 *再生利用・バイオマスプラスチックの目標 
 2030年までに、プラスチックの再生利用を倍増
 2030年までに、バイオプラスチックを最大(約200万トン)導入する

B君:なるほど。1.から3.は、まあゴールのようなものなので、「当然だ」と言える。しかし、4.には、実行する時限が書かれているだけに、これが最大の論点になるという感じがする。しかも、2つの異なった方向からの主張が行われることになるだろう。その2つとは、(1)プラスチックだけを議論していて、他の材料への転換が議論されていない。(2)パリ協定が要求するCO2ゼロとの関連が議論されていない。

A君:まあ、その通りですね。「他の材料」と「CO2ゼロ」の件は後ほど。それを別にすれば、この記述全体として、プラスチックだけを対象にしたら、こんなものだろうという感覚はあります。ドイツなどでは、再生プラスチックの価格は、「再生したから環境負荷が少ない」、という主張が可能なことが一つの価値になっていて、再生プラの価格は、バージンプラとほぼ同じということです。

B君:その状態を日本もゴールにしないと。再生プラには、人類が、地球の破滅的な状況に直面する時間を先送りするという効果がある。すなわち、それが「再生」という価値なのだ、という理解をして貰わないと。

A君:一般社会に対する教育が必要ということを意味しますね。この手の文書に社会的な教育を正面切って書くのは難しいのでしょうかね。

B君:「僅かなリスクでも嫌いで避けよう」とし、「清潔第一」というマインドの国民からなる国ではあるので、再生プラが、まっさらのプラより価値があるということを理解するのは、至難なことなもかもしれない。

A君:言い換えると、身の回りのリスクには超敏感。しかし、地球レベルのリスクの話になると島国だけに感度がかなり低い。というか、そこまで視野を広げられない。

B君:もっとも、日本のリスクの議論は、最終的に「安心できるかどうか」の議論が行われて結論がでる。まあ、安心という主観的な感覚がリスクの客観的な議論を代替してしまうのだから、相当に妙な国だ。

C先生:そろそろ、結論が近づいているような感触だな。根本的な解決のためには、やはり、市民社会の意識を変革するというアプローチが並行して行われないと、やはり無理なのだということになるのだろう。多くの日本人は、「リスク」という言葉を本気で理解しないで、なんでも「安心」で議論をしてしまう習慣に矛盾を感じないようなのだが、これをどうやって変えるのか。「気候変動によって地球に住めなくなる」ぐらいの大きなリスクであれば、何か感じるところが出てくる可能性が無いとも言えない。しかし、やはり島国の国民としては、「理解が難しい」ということになってしまう確率もかなり高いようにも思うね。なにかが起きても、「安心できない」と言えば、それで自治体とか政府が対応を取ってくれるという経験が余りにも長い間続いた国なので、市民の主張を、「このリスクはこのぐらい大きいから、対策をして、このぐらいに下げてください」、という形に変えるのは、まあ、無理だろうか。