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    プルトニウムの危険性  07.16.2018
       様々な側面からの検討:含む線状降雨帯と気候変動リスク

               




 このところ、プルトニウムに関するニュースが様々なメディアによって扱われるようになりました。例えばJIJI.COMでは、「日米原子力協定、持続可能に=プルトニウム懸念拭う−河野外相https://www.jiji.com/jc/article?k=2018062101212&g=eco
 があり、NHKのNews Webでも、「日本のプルトニウム保有量に米で懸念の声https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180713/k10011530921000.html 
といった報道が行われています。同じ、NHKですが、クローズアップ現代の昨年の10月30日には、「プルトニウム大国日本〜世界で広がる懸念」といった報道も行われたようです。

 どうも、これらのNHKなどの報道の方向性には、どうも、長崎大学教授の鈴木達治郎氏が関わっているように思えます。元原子力委員会委員長(代理)ですから、日本の原子力政策の中核に居た方です。このところ、やや反原子力へ方向転換をしたのかもしれません。しかし、反原発を主張する場合でも、単に、原子力関係以外の全リスクを考えた発言にすることが、日本の未来を決める場合に、必要不可欠だと思います。

 ご存知のように、プルトニウムは、ウランと混ぜてMOX燃料として、原発の燃料に使うことによって、エネルギーの自給率に寄与するというシナリオになっています。日本は、自然エネルギーにしても、自給率は十分とは言えない国ですから、どのようなエネルギーであっても、自前で供給できれば、当然、エネルギーセキュリティ上、有効ではあります。

 しかし、問題点は、MOX(モックス。プルトニウムを通常のウラン燃料に混ぜる)の形で使えば、減るはずなのですが、原発の再稼働もままならない現状では、MOXに対して、市民社会が受け入れない方向になる可能性が高く、となると、47トン前後のプルトニウムは、長崎級原爆ですと、6000発ぐらいも作ることが可能と言われていますので、相当な問題だとも言えます。

 さらに、北朝鮮の核問題も訳の分からない状況のまま推移していますし、この問題がどのような火の粉を吹き出すかによって、この問題への影響もどのようになるやらで、心配です。

 というわけで、色々と問題点があるのですが、今回の記事の目的は、そもそもプルトニウムって何、どのぐらい怖いの、ということを整理したことがないので、それをやってみよう、ということから始まります。

 実は、土曜日の午後から夜まで、東大時代の研究室の卒業生が50人ほど集まってくれて、同窓会がありました。生産研のキャンパスでの午後の講演会から始まり、駒場キャンパスでの夕食、そして、渋谷の二次会と続き、その余韻のために、日曜日は、朝からぼんやりと時間を過ごしていたので、この記事の完成は月曜日にずれ込むことになりました。


C先生:本日の記事の目的は、プルトニウム全体というよりは、かなり限定的なものにしたい。必要不可欠と思われる知識がまだ十分に頭に入っていないというのが、自己評価なので。そもそも、プルトニウムに関しては、何がもっとも怖いのか。その前に、なぜプルトニウムなどという面倒なものができてしまうのか。などの基本的な科学的な情報を整理してみよう。

A君:それでは、政治的・社会的な情勢については、今回は主たる対象ではないということで、様々な物理的な説明や、安全性・危険性などについて、一通り整理をするということで行きます。

B君:まずは、Webサイトから情報を集めるのが順当なのだけれど、原子力資料室のプルトニウムの説明がもっとも有用に見えるな。

A君:ATOMICAというサイトがあって、有用な情報が出ているのですが、確かに、原子力資料室の方が分かりやすいというか、適切な記述になっています。とりあえず、これが、使用済み核燃料中のプルトニウムの全貌です。


図1;使用済み核燃料中のプルトニウム(原子力資料室)
http://www.cnic.jp/knowledge/2610

B君:プルトニウムには、質量数238、239など様々なものがあるけれど、いずれも天然物ではないと考えておけばよいだろう。どうやら極微量、ウラン鉱石の中に存在するらしいけど。要するに、天然の元素は、ウラン238までと考えておけば良いのではないか。

A君:プルトニウムは、使用済み核燃料の中に、色々なものが含まれます。質量数にすると、238、239、240、241、242とあるようです。もっとも大量に存在するのが、239で、約60%がこれ。次に多いのが、240なのだけれど、放射線の強度としては、241が圧倒的に強い強いということは、半減期が短いということでもあって、実際14.4年が半減期なので、比較的早く減衰します。

B君:放射性物質を処理処分しようとすると、半減期としては、数100年レベルのものが結構厄介。その代表例がプルトニウムではなくて、アメリシウムAm241だと思う。半減期としては、十分に短いので、強い放射線を出すけれど、数100年というと、人類の歴史から考えると、十分に長過ぎる。実は、プルトニウム241が崩壊して、アメリシウム241になるのだけど。

A君:プルトニウムの場合だと、238の半減期が87.7年なので、重量比としては使用済み核燃料の1.8%しかないのに、放射能強度は、11.3兆ベクレル/kgと圧倒的に高い。

B君:福島の汚染土壌は、8000ベクレル/kg以上を特別に管理しているけれど、11.3兆ベクレル/kgとなると、なんと表現して良いのやら。

A君:という訳で、放射線の強度は非常に強いので、ハンドリングが大変。そもそも、原発において、どのぐらいのプルトニウムができてしまうのか、というと、100万kWの軽水炉を2年間運転すると、約600kgのプルトニウムが60トンの使用済み核燃料の中にできています。まあ、使用済み核燃料の1%ぐらいだと考えれば良いのだそうです。

B君:プルトニウム爆弾というと、長崎原爆のファットマンがそれだけれど、核兵器級のプルトニウムには、239が90%以上にしなければならない。そのためには、使用済み核燃料から作るのはかなり厄介でもあって、どうやら、兵器級を作るには、黒鉛減速型原子炉、これは、チェルノブイリ型の原子炉だけれど、それを用いて、ウランを原料にして、照射時間を半年ぐらいで取り出すという方法を取るようだ。

A君:使用済み核燃料から作るとすると、プルトニウム240が重量比で24.0%入っている。これが実は兵器級のプルトニウムを製造するという立場の人々にとっては、邪魔者になるようです。それは、自己核分裂という崩壊を起こすから。兵器級とは、プルトニウム239の割合が90%以上を言うようで、そのため黒鉛減速型の原子炉を用い、ウランへの照射時間を短くして作るという方法のようです。

B君:チェルノブイリの原発は黒鉛減速型だったけど、やはり、兵器への利用を考慮した技術の延長線上にあったのだろうね。黒鉛は、炭なので、火災を起こすと大変なことになるということで、安全性は軽水炉が遥かにまし。

A君:軽水炉の安全性は、少なくとも、再稼働原発については、先日の名古屋高裁の判決が極めて適切な表現になっていて、「社会通念上、安全といえる」。エネルギーは、使うと必ずなんらかのリスクがありますからね。現在のエネルギーであれば、化石燃料ですから、地球温暖化。先日の、九州、四国、そして中国地方の災害は、完全に地球温暖化の影響。線状降水帯なるものができるのは、ブロッキング高気圧によって、低気圧の通るところが極端に狭い部分に限られるから。

B君:その図が、先日、日経には掲載されたので、それを引用しておくか。


図1 ブロッキング高気圧による線上降雨帯の生成  日経7月13日朝刊

A君:そもそも太平洋高気圧ができる理由ですが、太陽の光によって、どこの温度が高くなるか、と言えば、それは赤道付近。空気は暖められて上昇気流になって、そこには低気圧が発生。上昇した空気は、上空で冷やされるけれど、下から次々と空気が上昇するので、北極方向と南極方向に分かれて成層圏の下を移動しつつ、冷やされる。冷やされた空気は、重くなるので、どこかで下降する。その場所が太平洋高気圧のあたりになる。大陸の形の影響を受けるので、多少南北に振れているけれど、アフリカのサハラ砂漠、サウジアラビア、イラン、アフガン、中国の砂漠地帯、インナーモンゴリア、と徐々に北に移動しながら、砂漠が続くこれらの領域が高圧帯。米国大陸になると、米国南部のニューメキシコなどは砂漠。南半球は、海が多いので、余り明確ではなくなってしまうけれど、アフリカならナミビア砂漠、南米なら、ペルーからチリといったところが乾燥地帯になっています。

B君:そして、太平洋高気圧の付近には、赤道付近の上昇気流が強いと、その北にもう一つの高気圧ができる。それが今回できたオホーツク高気圧。これはブロッキング高気圧と呼ばれて、動きが非常に悪いのです。それも当然で、太平洋高気圧の場所では、降りてこれなかった空気が、そのすぐ北で降りることでできた高気圧だから。この二つの高気圧で偏西風の道が塞がれるので、偏西風は蛇行して、高気圧の間の狭いところを流れていた。そのため、太平洋高気圧の縁を流れている暖かく湿った空気と偏西風の冷たい空気との境目に前線ができて、その上を次々と低気圧が移動した。

A君:だから、今回の洪水による200名以上の死者は、地球温暖化の影響なのです。これは確実な科学的な事実です。これほどの死者がでるということは、今後はさらに拡大するに決まっています。なぜならば、二酸化炭素の放出量が少なくとも当分は増え続けるので、日本では、太平洋高気圧の位置によって、どこで発生するかが決まります。鬼怒川水害と呼ばれた常総市付近で起きた大洪水も、線上降雨帯によるものでした。死者の数は、計20名でした。

B君:メカニズム的には、やはり、今回のケースのように、太平洋高気圧のすぐ北側にブロッキング高気圧というものが発生する状況ができやすいと思う。となると、やはり、九州、四国西部、中国の山地が、今後とも要警戒地域だということになる。

A君:繰り返しになりますが、この線上降雨帯は、CO濃度の上昇による気温上昇で赤道付近の上昇気流が強くなったために起きていることは確実なのです。そして、被害は、北緯30度から33度ぐらいのところで起きているのです。

B君:小泉元首相は、原発は危険だからそれから離脱せよと主張しているが、原発も危険ではないとは言わないけれど、再稼働原発は、確実に止まる程度の安全性は十分に確保されている。原発を廃止すると、その分の発電のために化石燃料の使用量が増えるので、それによって増加する線状降雨帯のリスクと比較したら、どうなるのか、という議論をしないと、どちらを選択すべきか、という議論はできないことになる。再稼働原発で、200名もの死者がでたら大騒ぎだけれど、化石燃料が原因で、200名もの死者がでても、誰もそう言わない

A君:なかなかそのような議論にならないですね。リスクは、あらゆる可能性を比較しなければならない。気候変動リスクに対する日本国内での評価は、ほとんど無いに等しい。一方、諸外国では、特に、フランスのアクサ(AXA)などは、石炭の使用を止めた企業には、保険料の20%割引を始めました。

B君:保険屋にとっては、気候変動環境問題がこれほどになってくると、その保険金額の増大が命取りになるので、当然なのだ。日本の金融機関も、もっと真剣に考えないと。今回の西日本の洪水で、保険会社はどのぐらいの支払いをするのだろうか。地球全体で、気候変動対策をしてくれないと、保険料は高くなるばかり

A君:トランプ大統領だって、保険の重要性ぐらいは分かっているはずなのだけれど。

C先生:そろそろ、プルトニウムに戻ろう。実は、大体は終わっているようなのだが。

A君:まだ、説明を要する言葉がいくつか残っています。まずは、「もんじゅ」という高速増殖炉は何をしていたのか。二番目が、「プルサーマル」とは何か。そして最後が、「プルトニウムの人体へのリスク」

B君:できるだけ簡単に。
 まず、「もんじゅ」は解体されることになっているけれど、プルトニウム239にスピードの早い中性子線、これを高速中性子線と呼ぶけれど、これをぶつけると、核燃料が増えるということ。しかし、なかなかこれが難しい技術なのだ。

A君:むしろ、現時点では、すでに存在しているプルトニウムなどの使用済み核燃料からの放射性元素を別の元素に変えるための高速減衰炉が必要だというのが、我々の意見。それで、プルトニウムを減らさないと、日本という国がもっている核の安全保障に対する責任を果たしたことにならないから。

B君:次へ。「プルサーマル」とは何か。「プル」はプルトニウム。「サーマル」は、熱という意味で、熱中性子。これは速度が遅い中性子線を意味する。プルトニウムを高速中性子線をぶつけて核変化を起こすのではなくて、軽水炉は熱中性子線を使っているので、そこにプルトニウムを入れて、若干なりともプルトニウムをエネルギー源に使おうというものなのだけれど、確かに、多少プルトニウムもエネルギー源にはなるが、それだけで減らせるのか、と言われると、十分とは言えない。しかし、現状だと他に良い方法論がない。

A君:最後に、「プルトニウムの人体へのリスク」。まずは、重金属だけに、化学的にも無害とは言えない。鉛などが有害な重金属と同程度の注意は必要。最大の問題は、粉体状のプルトニウムを肺に吸入した場合で、プルトニウムが出す放射線はα線なのだけれど、このα線は透過力が非常に弱いので、紙一枚で十分にブロックできる程度。ということは、肺に吸入してしまうと、その粉体は長期に渡って肺にとどまるので、プルトニウム粉の近くの肺の組織がα線でやられて、がんを発症することを想定しなければならない。一方、食品など何かに付着したプルトニウムを食べた場合は、まあ、数日ですべてが排出されるので、放射線の有害性は、ほとんど問題にはならない

B君:ということで、プルトニウムの人体影響と言えば、恐ろしい気がするけれど、経口で体内に入った場合であれば、それほど心配するほどの問題ではない。そもそも、バナナを食べれば、放射性のカリウム40を摂取することになって、カリウムは、ヒトにとって重要な必須元素なので、ある一定量は常に体内に残るので、どちらが危険か分からない。カリウム源はバナナ以外でも、一定の割合でカリウム40という放射性元素を含んでいる。しかも、カリウムなしで生命現象を維持するのは不可能だ。

A君:しかし、プルトニウムの本当の怖さは、その怖さの本質を十分理解した上で、テロが行われる可能性があること。微粉状にしたプルトニウムをばら撒かれるのがもっともヤバイ。呼吸で体内に入るのが最悪なので、その地域への立ち入りは不可能になってしまう。掃除をするのであれば、酸素ボンベを背負って、やらなければならないし。

C先生:よし。そんなところで結論が出ただろう。プルトニウムは、言葉としては近くにあるだけで非常に危険な物質だと思うが、その実態は、人体に対しては、粉体を吸入することがもっとも危険なことだ。そのために、テロが起きたとしても、酸素ボンベを背負って清掃活動をすれば、後処理もなんとかなるのだけれど、それよりももっと怖いことが、正確なリスク情報を知らない社会がパニック状態になることだ。特に、日本人のように、僅かな放射線でも危険だと思っている「ゼロリスク民族」にとっては、プルトニウムテロがもっとも怖い。そのプルトニウムを大量に所持していることは、世界的な見地で判断すれば、やはり、「不正義」だとは思う。
 パリ協定以来、欧州は、気候変動に対して不熱心な日本や米国に対して、「不正義」というラベルを貼り始めた。それに気付いているのは、残念ながら、それが自らのビジネスに悪影響を与えることを見抜いている日本では100社程度のグローバル企業だけで、一般社会はまだ何も感じてすらいない。
 しかも、パリ協定の延長線上に、「不正義ラベル」による様々な国への経済的な差別ということがあり得ることを、恐らく日本政府は理解していない。その最大の可能性が、まずは、石炭を使い続ける国、すなわち、気候変動対策に全く不熱心な国であって、実は、その次もあって、それがプルトニウムを無用に大量に所持している国ではないか、と考えている。その両方に日本は該当する。
 官邸がそんなのは、心配のしすぎだ、と言ってくれると嬉しいのだけれど、そう言われても、根拠のある説明がない限り、信じられないのが現状なのだ。河野太郎外務大臣に期待するしかないか。