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  カリウム40の内部被曝
  05.13.2012



 内部被曝特集を続けているが、今回、都合により、先週までの目次を変更し、ラドンによる内部被曝と順番を変えて、3.カリウム40の内部被曝が今週の話題である。

0.内部被曝を起こす色々な元素
     すでに04.15.201に公開
http://www.yasuienv.net/IntElements.htm
1.ダイヤル・ペインターの内部被曝
     04.22.2012公開

http://www.yasuienv.net/DialPainter.htm
2.トロトラストによる内部被曝
     05.06.2012に公開

http://www.yasuienv.net/thorotrust.htm
3.カリウム40による内部被曝
     今回、05.13.2012に公開

4.ラドンによる内部被曝
5.バイスタンダー効果
6.ECRRの実効係数
7.以上から推測されるセシウムによる内部被曝



カリウム40の目次


(1)天然の放射性核種と生物
(2)カリウム40とは
(3)同位体というものの化学的性質 一般論
(4)カリウムは体内で何をやっているのか(5)カリウム40は生物に悪影響を与えているのか
(6)カリウム40の結論
付録 半減期というものの理解   特に、生物学的半減期と体内濃度



(1)天然の放射性核種と生物

 市川定夫氏はこのように言っていたようだ。

 「さっき言ったカリウム40。こういうものが天然に昔からあったわけです。そういうものがあったら、そういう危険なものがある元素は人間や全生物はそういうものは『蓄えない』という形で適応してるわけ。つまり進化と適応、生物の進化と適応の過程で遭遇してきたものに対しては、それをくぐりぬけてきたものしか生き残ってないという形で結果として。だからこういうものを『蓄えない』、天然のこういうものを『蓄えない』生物なんかが生き残っているという形で適応して、自然の放射性核種を濃縮する生物はひとつもいません」。

 カリウム40を「特別に濃縮して蓄えるということを生物はしない。そんな生物はいない」なら正しい。しかし、地球上に存在しているカリウム40は天然存在比0.0117 %であり、この割合であらゆる生命は、カリウム40を体内に含んでいる。地球上のカリウムは、どのようなものであっても、1gあたり30.4Bqの放射線を出す。

 今回は、カリウム40の内部被曝をまとめてみたい。

 参考までに、市川定夫氏のプロフィール
  原水禁ニュース 2007.7号より

 1935年大阪府生まれ。京都大学大学院修了。農学博士。米国ブルックヘブン国立研究所研究員、メキシコ国立チャピンゴ農科大学大学院客員教授、埼玉大学理学部教授等を経て、現在、埼玉大学名誉教授。その間、伊方原発訴訟や原爆症認定訴訟などの原告側証人として放射線と遺伝の関係を証言。また、ムラサキツユクサの研究は有名で、ごく低線量でも生物に影響があることを証明。1995年から原水禁国民会議副議長を務め、今年(2007)4月に議長に就任。

 市川氏の若かりし頃のビデオが、ネット上にはいくつか転がっているが、チェルノブイリ事故の状況を説明しているもので、埼玉大学理学部教授であった時代のもので、かなり古いもののようだ。

 市川氏は、2011年12月に死去されたようだが、原水禁ニュースには記事がない。理由は不明。原子力資料情報室通信のもくじページには、
http://www.cnic.jp/modules/news/index.php?storytopic=5
の2012年2月1日号に小さく「市川定夫さん逝く」。

 市川氏は、ムラサキツユクサの色で放射線による突然変異を研究したとされているが、もしも、学術論文の存在をご存知の方が居られたら、ご連絡を。

 放射線によって色が変化するという可能性はないとは言わないが、それ以外の環境要因、例えば、土壌のpHでも色は変化すると思うので、どのぐらい厳密に研究が行われたのかを知りたいので。


(2)カリウム40とは

 以下の記述は原子力資料室の放射能ミニ知識の記述からの引用であるが、英語版のWikipediaでのカリウム40(Potassium40)のデータとの突き合わせを行なっているので、それも示す。


原子力資料室の放射能ミニ知識より
3.カリウム40(40K)

半減期 12.8億年(英語のWikiでは、1.248×109years)

崩壊方式
ベータ線(1.33MeV)を放出してカルシウム40(40Ca)となる(89.3%)。また、軌道電子を捕獲してアルゴン40(40Ar)にもなり、この時にガンマ線(1.460MeV)が放出される(10.7%)。そして、非常に希ではあるが、陽電子放出をしてアルゴン40にもなる( Very rarely (0.001% of the time) it will decay to 40Ar by emitting a positron (β+) and a neutrino.)

存在と生成
 天然に存在する代表的な放射能(最大の自然放射線源)で、太陽系がつくられた時から存在している。同位体存在比は0.0117%で、カリウム1gに放射能強度が30.4ベクレルのカリウム40が入っている。

 カリウム40が人工的につくられることはほとんどなく、同位体存在比の高いカリウム40は同位体濃縮によって得られる。

 カリウムは岩石中に多量に含まれ、玄武岩、花こう岩および石灰岩の含有量は、それぞれ0.83、3.34および0.31%である(玄武岩1kg中の放射能強度は262ベクレルに相当する)。土壌の含有量は0.008〜3.7%の範囲にあり、平均値は1.4%である。

 食品中の濃度はかなり高く、白米、大根、ほうれん草、りんご、鶏むね肉およびかつお1kgに含まれるカリウムの重量は、それぞれ1.1、2.4、7.4、1.1、1.9および4.4gである(白米1kg中の放射能強度は33ベクレルに相当する)。

 外洋海水1リットルには、0.400g(12.1ベクレル)が含まれる。


カリウムの化学的・生化学的性質

 カリウムはナトリウムと似た性質をもち、化合物は水に溶けやすい。体内に入ると、全身に広く分布する。

 カリウムは必須元素の一つである。成人の体内にある量は140g(放射能強度、4,000ベクレル)で、1日の摂取量は3.3gである。生物学的半減期は30日とされている。

 以下、英語のWikiより。成人の体(米国)には、大体160gのカリウムが含まれている(やはり日本人より多い)。カリウム40が0.0117%ということは、0.0187gに相当する。たった19mgであるが、米国人は4400Bqほどの放射線を出している。


カリウム40の生体に対する影響

 天然に存在する放射能として、内部被曝による線量が大きいものの一つと考えられる。内部被曝が重要で、10,000ベクレルを経口摂取した時の実効線量は0.062ミリシーベルトである。体内に常に同じ量が存在するので、線量は推定しやすい。生殖腺や他の柔組織に対する年間線量は0.18ミリシーベルト、骨に対しては0.14ミリシーベルトである。

 ガンマ線による外部被曝も無視はできない。1sのカリウムから1mの距離における年間線量は0.0055ミリシーベルトであり、ふつうの場所での年間線量は0.01ミリシーベルトに達することもある。


カリウム40からの放射能の測定

 半減期は長く、同位体存在比が小さいので、カリウム1gあたりの放射能強度は低い。必ずしも放射能測定をおこなう必要はなく、試料の中のカリウムの重量を決定すればカリウム40の量がわかる。化学分析の技術を適用すればよい。

 しかし、放射能測定が役立つこともある。ゲルマニウム半導体検出器でガンマ線を測定すれば、岩石、土壌、食品などの中のウランとトリウムの量を決定できる。その時に、カリウム40の量が決定できる。全身カウンターを用いれば、体内の他の放射能とともにカリウム40の量も決定できる。


放射線エネルギー(100万電子ボルト) ベータ線,1.31(89.3%);ガンマ線,1.46(10.7%)
比放射能(ベクレル/g) 2.6×105
排気中又は空気中濃度限度(すべての化合物、ベクレル/cm3) 5×10-5
排液中又は排水中濃度限度(すべての化合物、ベクレル/cm3) 1×10-1
吸入摂取した場合の実効線量係数(すべての化合物、ミリシーベルト/ベクレル) 3.0×10-6
経口摂取した場合の実効線量係数(すべての化合物、ミリシーベルト/ベクレル) 6.2×10-6


(3)同位体というものの化学的性質 一般論

 カリウム40は、放射線を放出するものの、体内において通常のカリウムと全く同じ挙動をしている。

 通常のカリウムはカリウム39である。39と40の違いは、質量数の違いと言われ、その実体は、カリウム40の原子核には、中性子が一つ多く含まれているということである。

 原子の『化学的』性格は、乱暴に言えば、原子に含まれている電子の状態で決まる。電子の数は、原子核の陽子の数で決まるので、陽子の数を原子番号と呼んで、これで元素種が決まる。

 原子核に含まれている中性子が増えたらどうなるのか。割り切った理解をすれば、人間なら「体重が多少増えたが(化学的)性格は変わらない」とでも言えようか。

 しかし、中性子が増えることによって大きく変わることがある。それは、原子核の安定性が悪くなる場合である。

 そのため崩壊して、別の元素に変化することがあり、そのときには放射線(電子、陽電子、中性子、電磁波)を出して、原子核の調整が行われる。

 しかし、中性子の数が通常のものと比べて増えた場合でも、安定に存在できるものもある。その例が水素であれば重水素がそれであり、酸素であれば、酸素18である。

 水素と重水素の場合には、質量数が1と2なので、重さが倍も違う。そのため、「体重が若干増えたが性格は変わらない」と言い切ることは難しいほどの太り方である。

 一方、酸素であれば、質量数が16のものが18に増えたとしても、10数%ぐらいなので、性格はほぼ変わらない。

 カリウムの場合、質量数が39と40と違っても、その割合は小さいので、化学的性質は変わらない。


(4)カリウムは体内で何をやっているのか

 高校の生物学Uの教科書では、こんな記述があるが、神経細胞の場合に限った記述のようである。
 http://keirinkan.com/kori/kori_biology/kori_biology_2/contents/bi-2/1-bu/1-4-3.htm

 神経に情報を流している正体は電流であるが、この電流は、細胞膜内外でのイオンの濃度が変わることによって作られる。神経細胞の場合には、カリウムの濃度差が極めて重要である。

 この例だけでなく、生物の細胞膜の外側と内側で、生体が利用するイオンの濃度は異なり、それによって、様々な機能を発揮させている。細胞は、一種の化学工場であるが、その駆動力の一つが、細胞膜の両側でのイオンの濃度差である。イオンの濃度が違えば、当然電位差が生ずるために、その駆動力は馬鹿にできないのである。

 極めて重要な濃度差・電位差を使う仕組みがいくつかある。なかでも、生物のエネルギー源であるATPなる物質を作るATP合成酵素はその代表であり、水素イオン、あるいは、ナトリウムイオンの濃度差を利用している。F0F1と呼ばれる合成酵素は、すべてタンパク質で作られているが、分子量が50万にもおよぶ複雑な分子モーターである。
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jbiochem/magazine/81-11-02.pdf

 生物は、細胞膜の外側と内側にどうやってイオンの濃度差を作っているのか。対象となるイオンとしては、水素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンなどであって、これらを変化させる仕組み(ポンプ)が細胞膜には備わっている。

 例えば、細胞にはカリウムポンプというものが備わっていて、細胞膜の内側のカリウム濃度を高く保っている。大体10〜20倍も高い。そのために備えられているポンプが、Na−KATPアーゼである。このポンプは、ATPを分解してエネルギーを得て形を変え、そのときにイオンが運ばれる。

 ナトリウムイオン3個を細胞膜の外に出し、かわりに、カリウムイオン2個を細胞膜内に運んでいる。

 その動作を動画にしたものが、ここにある。ただし、JAVAをインストールすることが必要。
http://www.vivo.colostate.edu/hbooks/molecules/sodium_pump.html

 カクカクと動くための動力がATPで、その構成物であるリン酸がこの酵素に結合したときと、ATPが結合したときで、構造が動くことを利用して、ポンプ機能が働いている。

 この動画は、YouTubeにある動画 http://www.youtube.com/watch?v=iA-Gdkje6pg よりも分かりやすい。

 また、イオンチャンネルと呼ばれるパーツが細胞膜には備わっている。カリウムチャンネルは、ナトリウムのような小さいイオンを通さないで、カリウムのような大きなイオンを通す。これは奇妙なことである。通常の通路であれば、小さなものの方が通り易いと思われるからである。その理由だが、通路の壁には、酸素が存在していて、マイナスの電荷を通路に向けている。プラスの電荷をもったナトリウムイオンが通路に入っても、通路の壁にある酸素にぺったりと引きつけられて動きにくい。入り口近くで止まってしまう。

 これまた動画がある。残念ながら、英語での説明なので、しっかりとヒアリングをしていただきたい。
http://www.youtube.com/watch?feature=fvwp&NR=1&v=4zms9bXM2FA

 材料の分野でも同様のことがあって、通路を通過するイオンには適切なサイズというものがある。その通路のサイズとほぼ同程度のものだとされている。

 セシウムのように、大きなイオンはこのチャンネルを通ることができるのだろうか。どうやら若干難しいものの、通過できるようである。

 カリウムが細胞からリークするようにして出ていくチャンネルもある。ここをセシウムは通るのだろうか。恐らく、セシウムにとっては、このチャンネルは最適のサイズではないのだろう。細胞から出ていく速度は、カリウムよりも遅いのではないだろうか。

 カリウムの人体内での生物学的半減期は30日ぐらいなものだが、そのためなのか、セシウムの生物学的半減期は50歳以上では100日程度である。

 すなわち、カリウムよりもセシウムの方が、体内に滞留する時間が長い。そのため、同じベクレル数であっても、細胞に対して悪影響を与える能力がセシウムの方が大きい。

 ただし、子ども(10歳児)の場合には、セシウムの生物学的半減期は短く、カリウムと同じ30日程度だと言われている。


(5)カリウム40は生物に悪影響を与えているのか

 放射線は放射線であって、人工のものであるか、あるいは、天然であるか、といった区別はない。

 化学物質についても同様で、毒性に関して、天然物か人工物かといった区別はない。現在知られているもっとも毒性の強い化学物質は、ボツリヌス菌が作る天然毒であり、美容に使われているが怖いことである。

 一般に、天然毒の方が人工物よりも毒性が強いと言っても良さそうである。その理由であるが、毒性の高いものを作ろうとして行われた研究が、化学兵器の禁止によって、今では行われていないから、とも言えそうである。農薬などについても、特定の生物にだけ有効な物質を開発することが、経済的な効果が高いからであるとも言えそうである。

 カリウム40の出す放射線は、β線とγ線が主なものであるが、生物にとっては有害である。しかし、生物は、地球上に発生するときに、恐らくなんらかの高エネルギー環境が必要であったのではないか、と想像されることもあって、放射線に対する耐性を備えていると考えるのが妥当である。

 放射線は、細胞液を構成する水分子に衝突すれば活性酸素を生成し、この活性酸素によって、DNAの鎖は損傷を受ける。

 しかし、この活性酸素に対する抵抗性がないと、現在の地球上では生物は生きることができない。それは、酸素を呼吸して取り入れる好気型の細胞の宿命でもある。好気性の細胞は、それまでの嫌気性の細胞に比べて圧倒的なエネルギーを使えるように進化したが、その代償として、活性酸素の存在に対処セざるをえない。。

 シアノバクテリアの光合成によって地球上の酸素が劇的に増えたのが、27億年ほど前で、この酸素を呼吸する能力をもった好気性細菌が増殖を開始した。すぐに、その圧倒的な活動力のためか、栄養不足になってしまった。そこで、それまで存在していた古細菌(嫌気性)を食べて栄養素にすることが行われた。そして、真核生物が生まれた。

 真核生物の細胞の構成を見ると、膜やDNAは古細菌のものを使っていて、そのなかに細胞小器官として、ミトコンドリアといったエネルギー工場のようなものが存在しているが、このミトコンドリアが、好気性真正細菌由来ではないか、とされている。

 ということで酸素を上手に使う細菌が主流になったものの、やはり酸素は毒物で、何をやっても活性酸素ができてしまう。

 ちなみにヒトであっても、酸素を多く取り入れることは危険で、一般に、マラソンなどの激しいスポーツをやると、寿命が短くなる可能性が高い。それは、大量の酸素が必要な状況では、大量の活性酸素ができているから。

 それなら活性酸素は不要のものなのか、というと、そうでもない。免疫細胞が外から来た病原菌と戦うときにも、活性酸素を武器として使う。また、細胞に自殺を命じるときにも、活性酸素が使われる。

 活性酸素の害の一つがDNAに傷を付けることで、1日にすべての細胞のDNAに3万個程度の傷が付くとされている。

 この傷の修理ができないと、細胞が不安定になって、ガンを発生する可能性が高まる。そこで、その傷を修復する酵素が毎日毎日大活躍をしている。

 しかし、100%修復できる訳ではないので、機能に影響を与えるような傷が残れば、その細胞は自殺を命じられる。

 細胞が自殺することは別に不利益ではなく、その成分が再利用され、新しい部品ができるだけである。

 ただし、心臓の心筋細胞などのように、もともと再生が行われない細胞が多い部分で細胞死が起きると、それはなんとも言えない。

 ということで、DNAに傷が付けば、すぐにがんになるというものでもなく、傷が付いても細胞としては機能的に問題を発生することもなく、生き続ける。そのため、年齢を重ねるにつれて、発がんする確率が上昇する。

 同じ細胞のもつがん抑制遺伝子が機能を発揮すればがんにならないので、抑制遺伝子にも傷が付くような状況であれば、がんの発生が増大することと思われる。

 ちなみに、マウスなどと比較すると、ヒトのがん抑制遺伝子は非常によくできている。マウスは簡単に発がんする。

 同じ細胞のDNAに多くの放射線が集中的に攻撃を加えると、がんの発生確率が大きくなる。α線は飛程が短くて、すぐ近くの細胞だけがエネルギーを吸収するので、一つの細胞に与える被害は大きい。これがγ線よりも危険性が高い理由である。

 結論として、カリウム40でも、DNAに傷を与える可能性がある。その程度(シーベルト:Sv)は、カリウム40の出すγ線の数(ベクレル:Bq)と、カリウム40の体内での半減期、すなわち、生物学的半減期によって決まる。

 フッ素18のように、物理的な半減期が非常に短い核種であれば、それも考慮しなければならないが、セシウム134の場合でも2年程度なので、通常、物理的半減期を考慮するのは、Bq数を算出するところまでで良い。


(6)カリウム40の結論

 カリウム40の出す放射線も有害ではあるが、どのぐらい有害か、と問われても、カリウム40を全く含まない食品ばかり摂取することも、また逆にカリウム40だけからなる食品を摂取することもあり得ないので、結論を出すことはできない。

 常識的に、カリウム40が出している放射線のベクレル数と、体内でのカリウムの分布を考えて、実効線量Svが算出される。

 カリウムは細胞の生存のために必須の元素である。そして、すべての細胞に均等に分布している。そのため、カリウム40が存在しても、特定の臓器や器官に集中することはない。

 ヒトがカリウムを過剰に摂取すると、数日で排出されるようだが、通常の状態であれば、カリウム40は、生物学的半減期は30日程度である。

 セシウムはカリウムに似ているが、すでに述べたように、若干サイズが大きいために、カリウムチャンネル、特に、細胞膜に備えられたリーク型チャンネルを通りにくいのではないだろうか。そのため、生物学的半減期が成人で70〜100日程度、小児でも30日程度である。

 しかし、やはりカリウムと似ているために、セシウムも細胞に均等に分布すると考えられる。その意味では、人体に悪影響を与えにくいタイプの放射性元素であると言える。



付録 半減期というものの理解
    特に、生物学的半減期と体内濃度


放射性セシウムと非放射性セシウムの割合

 セシウムも天然に存在しているために、体内にはわずかではあるが常時存在している。
 丸善の「元素の事典」によれば、
http://mzpubdata.maruzen.co.jp/www09/mzpubdata/genso/270.pdf
人体に含まれるセシウムは全量で6mgであるという。その濃度は、骨や血液ではppbオーダーで、体組織は約1ppmである。

 しかし、セシウム134、セシウム137のような放射性セシウムは天然には存在しないために、普通の状況では、体内には存在していない。

 植物中のセシウムも測定されており、通常の野菜や果物では3ppb程度であるが、お茶の葉っぱには0.2ppmといったものがあるという。

 1kgの野菜が3ppbのセシウムを含んでいたとする。ppbとは1×10-9なので、1kgの野菜に、3μg(3×10-6g)が含まれていることになる。

 食品の新規制値である100ベクレルの放射性セシウムを含んでいたとすると、セシウム137であれば、1gが3.21兆ベクレル。セシウム134であれば、1gが47.6兆ベクレルである。そのため、セシウム137で100ベクレルとなる量は、100/3.21兆=3×10-10gである。放射性のセシウムの割合は、大体1万分の1程度という計算になる。


半減期と平均寿命の関係

 あるモノの生物学的半減期が30日ということは、最初の日に1という量を摂取したとき、30日経過すると、その量が1/2になっていることを意味する。

 半減期、すなわち、半分になる時間ということとその物質の平均寿命との関係であるが、寿命はやはり何日と表現するが、同じではない。

 その関係は明確で、
    平均寿命=半減期/ln(2)
である。ln(2)は2の自然対数であり、0.693である。

 生物学的半減期がセシウムについて100日であったとすると、そのモノの平均寿命は、144.3日ということになる。

 もしも毎日毎日同じBq数の放射性セシウムを摂取したとすると、平均寿命日数倍、すなわち、一日あたり100Bqを摂取したとすると、その144.3倍で平衡状態になる。すなわち、1万4430ベクレルが平衡濃度である。

 ヒトの年齢と生物学的半減期の関係は、日本保険物理学会のページ
http://radi-info.com/q-1219/
から、放射線医学総合研究所の図に飛ぶことができる。
http://www.nirs.go.jp/db/anzendb/RPD/JPDF/gy/jgyCs137WB.pdf


 これによれば、セシウム137の10歳児の生物学的半減期が大体30日である。平均寿命はln(2)で割って、43.3日である。

 したがって、10歳児の場合、毎日100Bqのセシウムを摂取したとき、平衡濃度における放射線量は4330Bqになる。毎日摂取しても、これ以上増えることはない。

 一方、カリウム40の場合には、毎日生存に必要な量のカリウムを摂取しているものと考えられる。すなわち、体重にほぼ比例して、体内のカリウム量が決まっている。

 10歳児の体重は、男児で成人の半分の34kg、女児で成人の7割ぐらいの34kgだとすれば、大体2000Bqぐらいのカリウム40を常時含んでいるものと思われる。

 ということは、放射性セシウムを毎日50Bq程度摂取している状態が、自然な状態でのカリウム40の被曝と同等であると結論できるだろう。

 カリウム40による被曝が無害であるとすれば、そして、カリウムとセシウムの挙動がほぼ等しいと見なすことができる10歳児の場合には、放射性セシウムを毎日50Bq摂取しても、カリウム40と同様、無害であると推測することが妥当だという結論になる。

 しかも、最近の食品供給の状況であれば、毎日毎日50Bqもの放射性セシウムを摂取するということは、もはや無いだろう。

 それならば、たまたま、例えば、10日に1回100Bqを摂取したら、体内での平衡濃度はどうなるのか。

 どう考えればよいのか。これは比較的簡単で、10日に1回であれば、平衡濃度は、毎日摂取した場合の1/10になる。すなわち、体内放射線の量は433Bqぐらいと予想できる。

 この様子を、次図に示す。


図 10日に1回摂取する場合の飽和曲線

 となると、カリウム40並の体内放射線量が2000Bqになるのは、10日に1回の割合で、500Bq弱の放射性セシウムを含む食事をし、残りの9日間は放射性セシウムを全く含まない食事をする場合であると結論できる。

 現在のような汚染状況であれば、厚労省がゴリ押しをして設定した新しい食品の規準は、無意味に近いものであるように思える。

 最後になるが、本記事では、経口で摂取したセシウムは100%吸収されるという仮定を置いている。しかし、実際には、当然のことながら、100%吸収されることはない。

 日本保健物理学会によれば、
http://radi-info.com/q-1219/
以下のような記述になっている。
 「なお、口から入り消化管に入った(摂取した)セシウムがすべて体内に吸収されるのではなく、水に溶けている場合は摂取した内の90%弱、トナカイ肉では50〜90%、無機物に付着した状態(離脱し易い状態)では29〜36%などと、セシウムの吸収率はその化学形に依存します。上の計算のPは体内吸収率ですので、口に入った摂取量を5ベクレルと考える場合は、吸収率を掛けたより小さい値で計算することになります。 」