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     ポテンシャル・実用化検討会報告の検討 
        その2 CO削減戦略個別論 08.04.2019

               



 我が国は、CO総排出量が12.0億トンである。2050年には、80%削減することを長期的な目標にしている。さて、どうやって80%もの削減ができるのか。その方法論を考えるのが、今回の主たる目的。勿論、通称『ポテ検』の報告書にも、それに深く関係するデータがあるので、それを参照しつつ、もっとも有効と考えられる方法論を議論してみたい。
 そのための基礎データは、前回の図1にあるのだけれど、それを数値としてまとめた以下の表からスタート。
 CO排出量の概要
 ★運輸  2.16億トン 18%
   自動車 1.86億トン 16%
 ★家庭  1.85億トン 15%
   電力  1.29億トン 11%
   石油等 0.56億トン  5%
 ★業務  2.11億トン 18%
   電力  1.55億トン 13%
   石油等 0.53億トン  4.5%
  化学  0.65億トン  5%
  鉄鋼  1.67億トン 14%
  窯業  0.66億トン  5%
  廃棄物 1.25億トン 10%

 ★:今回の議論の対象
   
C先生:この表を眺めて、どこから、どのような方法で変革を行うことが可能か、という議論を始めるのが第一歩になる。議論の結果として欲しいものは、それぞれの項目について、どのぐらいの削減量が可能なのか、という予測値だ。以下の議論は、報告書に書かれていないことに限定すること。まあ、できるだけ、となるが。これがノルマだ。

A君:となると、個別項目に行くことになります。まずは、「運輸の中身」ですが、自動車・トラックが大部分。その他として、航空燃料・船舶燃料、そして、鉄道は電気のエネルギー源次第となります。

B君:2050年を考えれば、自動車は、電気か水素で走っている。となると、これはゼロにできる。勿論、価格がどうなるか、という問題は無いとは言えないのだけれど。

A君:自動車は、まあ、もっとも先の見通しがしっかり見える分野ですね。自動車=0%という結論で良いと思います。電気自動車の最大の難点は、どうやって暖房するか、なのですが。

B君:Teslaなどは、セラミックス・ヒーターで暖房をしているが、エンジンの排熱を使う方法に比べて圧倒的に効率が悪い。走行用の電池を使うので、走行可能な距離が大きく減るし。

A君:いやいや、効率と言われると、それほど単純ではないです。ガソリンやディーゼルなら、もともとエンジンの効率が悪いから排熱がでる。そして、利用できる。という解釈もできない訳ではないのですが。

B君:分かった。自動車終わり。かなり難しいのが航空燃料。電気で飛ぶのはかなり難しい。なぜなら、電池は重いから。しかも、エネルギー密度(体積あたりのエネルギー量)が低い。人や貨物を運ぶ飛行機ではなくて、電池を運ぶ飛行機になってしまう

A君:可能かどうか別にして、ここではポジティブな解を書きたいので、こうします。「飛行機用の超軽量電池の開発が必須である。しかし、その実現は、相当に難しいが」

B君:船舶用の燃料もやはり重油がディーゼル燃料としては結構理想的。しかし、「これもそうだ」、と言う訳にもいかないとしたら、「アンモニア燃焼による内燃機関が必要」ということにするか。

A君:アンモニアは、水素のキャリアーとして可能性が高いです。水素だけだと、余りにも軽くて体積が大きいので、運搬が効率的にならないのです。勿論、他のキャリアーもあるのですが、多分、アンモニアがもっとも合理的な気がします。なぜなら、そのまま燃料にもなる可能性が高いから。ただし、毒性はありますね。

B君:これまでの主力燃料である化石燃料というものは、もともと生態系が受け取った太陽エネルギーを、地球が長い間備蓄していたものだから、余り大きな毒性は無いものだったのだ。こんな便利なものは他に無い。しかし、ちょっとだけ使えば良かったのだけれど、便利すぎて、気候変動を引き起こす量まで使うことになってしまった。

C先生:アンモニアの位置付けだけど、日本という国が、エネルギーを日本国土の範囲内で作り出せるのか、という大きな問題がある。恐らく正解は、再生可能エネルギーの最大の問題点は、揺らぎがあるので、電力を貯蔵する電池を大量に導入できれば、なんとかなるかもしれないが、電池代は、個人の投資に依存することになるだろうから、多分、なんらかのエネルギーを輸入することになる。可能性がもっとも高いのが、やはり水素。あるいは水素を化合物にしたアンモニア

A君:次は、家庭でのエネルギーです。

B君:まずは、家庭に供給される電気がゼロCO電力になることが、最初のステップ。そして、それからが用途別各論になるのでは。

A君:その通りです。多くのエネルギーが冷暖房に使われ、若干量が調理用や照明などに使われます。照明は、LEDが導入されたことによって、かなり無視できる程度まで消費電力が低減されました。

B君:冷暖房は、エアコンの性能がどうのこうのという問題ではなくて、断熱性の高い建物にすることが最重要課題ですね。家庭の場合だと、残る問題が、お湯の供給方法

A君:断熱性は、最近建設される住宅ではかなり改善されているけれど、古い住宅の二重ガラス化が必須なのでは。

B君:実は、住宅よりもオフィス・ビルなどはもっと早期に二重ガラス化を導入する枠組みを導入すべき。しかし、現実は、というと、二重ガラスよりももっと簡単なLED化すら賃貸のオフィス・ビルへの普及が遅い。

A君:二重ガラス化とLED化は、テナントもメリットを享受するのだから、オーナーと投資を分担すべきだと思いますね。そういうやり方を東京都は推奨していて、東京都の外郭団体がその普及を担当しているのですが、その外郭団体が入っているビルのオーナーと、そのような費用分担の合意できていないですね。オーナーにとっては、かなり莫大な投資になるので。

C先生:現時点で家庭から出ているCOの原因が、最初の表に示したように、約5%が電力以外。ここに、石油・都市ガス・プロパンガスなどが合体して入っていると考えれば良いのだが、まずは、個々の割合を知ることが重要。

A君:その通りだと思います。家庭からのCO排出の大部分は電力ですが、もし、都市ガスなら都市ガスの全供給量が分かれば算定可能なのですが。

B君:もっとマクロなデータから分からないか。このサイトによれば、
https://www.co2-diet.com/topics/detail.php?id=170
こんな記述がある。「世帯あたりの年間CO排出量は、3.2トンで、電気の使用による排出が67.5%。都市ガスと灯油がそれぞれ、13.4%。LPガスが5.6%」。

A君:簡単なデータを出してくれて感謝という感じですね。「石油等 0.56億トン 5%」をブレークダウンすれば、「石油等=都市ガス、灯油、LPガス」であって、都市ガス0.23億トン、灯油0.23億トン、LPガス0.10億トン

B君:それが全国平均ね。さらに情報があって、東北地方は、灯油による排出量が多いとのこと。
東北地方:電気2.6トン、都市ガス0.17トン、LPガス0.26トン、灯油1.46トン。
しかも、これがグラフ化されている。


図:地方別世帯あたり年間エネルギー種別CO排出量(環境省)

A君:このグラフを見ると、北海道、東北、北陸の灯油はなんらかの対策をしないと削減が難しい。暖房を電気でやるとなると、ヒートポンプなら良いけど、そうでないと、非常に高くつく。しかも、これらの寒い地域でのヒートポンプだと、地中熱のような方法論を使わないと、効率が悪くて非常に難しい。

B君:地中熱は、もしも北海道の非都市部であれば、不可能とは言い難いが、札幌で地中熱と言われてもね。結局、非常に断熱性能を高めた家屋にする以外に、方法は無いのではないか。

A君:北欧の場合と同じような考え方

C先生:個人的に、これまでもっとも寒い思いをしたのは、ヘルシンキ。国連大学のときにヘルシンキでの12月の会議に出たのだけれど、夜に外を歩くと、凍えて死にそうだった。会議をやった建物も、泊まったホテルも、窓ガラスは3枚ガラスだった。熱は、どうやら、外部からの熱供給か、あるいは、その建物専用のスチームだったようだ。

A君:札幌では、外部熱供給の検討を始めないとならないのかもしれないですね。と思って調べてみたら、株式会社北海道熱供給公社という企業があるようですね。

B君:いずれにしても、北海道の暖房をどのようなエネルギーでやるのか、これは、検討を早く開始しないと、間に合わない。まあ、人口が少ないから、ということで、これまで通り、灯油という手もない訳ではないけれど。

A君:ちなみに、人口は、北海道が537万人、青森県が138万人、秋田県が98万人。岩手県124万人。合計897万人。日本の人口が1億2680万人。

B君:青森、秋田両県は、意外と真冬の気温が低くないのだよ。それは、日本海のため。日本海は、暖流が対馬から流れ込んでいるけれど、寒流の流れ込みが無いので海面温度が高い。そのため、海水からの蒸発が多いので、豪雪の原因にもなっているのだけれど。最低気温で言ったら、盛岡の方が寒い。

C先生:そろそろ、文字数も結構な数になったので、まとめてくれ。

A君:運輸は、電気自動車になって、CO発生量が激減するでしょうから、余り大きな問題は残っていない、という結論です。

B君:北海道などの家屋の暖房がやはり問題で、真似をするとしたら、北欧並の3枚ガラス以上の断熱の家に改造して、まあ、灯油はしっかり換気ができるヒーターで燃やすことは、ある程度認めざるを得ないのでは。CO発生量ゼロを目指すのであれば、DACのようなネガティブエミッション技術を世界のどこかに構築するというやり方にならざるを得ないように思う。

A君:北海道だけなら、日本の人口の4%ぐらいだから、余り大きな問題とも言えないのかも。ヘルシンキの気温を調べてみたら、1月の最高気温が−4℃、最低気温が−10℃。北海道は、これより2〜3℃ぐらい暖かいですし。

C先生:次が業務用のビルからのCO発生にどう対応するかになる。これは、多少違った議論になるのではないか。

A君:まあ、そうですね。企業に関しては、なんらかの炭素価格が設定されることになるでしょうから、自社ビルからのCO排出量を下げることが、利益に直接影響することになるでしょう。

B君:炭素価格次第だね。ただ、炭素価格の中に入れるのか、そうではなくて、建物の固定資産税みたいなものに断熱の良さ悪さを加味するといった考え方もあるかもしれない。

A君:賛成。しかし、そうなると、貸しビル事業者が大反対するような気がするのですけど。

B君:多分、そんなことになるだろうね。しかし、この手の話、一般の方々から見れば、トランプ大統領のイメージから環境をそれほど考えているとは思えない米国などの方が進んでいるのでは。

A君:確かにその通りでして、米国には、グリーンビルディングという枠組みがあります。二酸化炭素排出量が少ないだけでなく、水使用量などが少ないことも条件になっています。

B君:そのための認証スキームがあって、LEED認証と呼ばれている。Leadership in Energy and Environmental Designの頭文字を取ったもの。

A君:さすがにアメリカだと思うのは、日本でこれをやると、CO排出量などだけに評価の対象が限られると思われるのですが、「ビルの使用者が健康を維持できること」といった、ある意味「人権」に関わるような基準も加味されているようです。

B君:確かに。このサイトを見ると、それが分かる。
http://leed.usgbc.org/leed.html

A君:評価項目ですが、こんな英文です。
the design, construction, operations and maintenance of resource-efficient, high-performing, healthy, cost-effective buildings.

B君:設計的にみて環境負荷が低いという判断基準ではないね。

A君:驚くのは、世界150ヶ国で広がっていて、登録数72000件,認証数32000件とのこと。大部分はアメリカなのだけれど、認証数2位が2016年データなので古いのですが、なんと中国。ちなみに、日本はそのとき22位でした。
http://www.cger.nies.go.jp/gcp/pdf/ws201608-tokyo/hiramatsu.pdf

B君:次のWebサイトを見ると、現在の登録数は、10万件を越しているようだ。
https://www.usgbc.org/projects
日本のビルを検索してみると、現時点では142件。圧倒的に少ない。一方、中国には3258件もある。香港だけでも216件。

C先生:こんな仕組みを日本でも作ったらどうだ、という話は、かなり前から審議会などでは出ていた。特に、記憶に残っているのが、経産省と環境省の合同の地球環境審議会で、ある委員がそのような提案をしたのだけれど、出席していた多分国土交通省の役人が、日本には適合しない仕組みだと一刀両断したこと。確かに、なんらかの既得権益を破壊しそうな枠組みではあるからね。

A君:もっとも、日本にもCASBEEと呼ばれる評価ツールはあって、それは、(財)建築環境・省エネルギー機構が設けている。しかし、設計段階に使うものだけあって、大部分の既存ビルの評価に使うのは難しいもののようです。

C先生:短くまとめよう。今回は、CO排出量を部門別にどのような削減手段があるかを議論することが目的であった。最初に取り上げた運輸は、比較的分かりやすい。電動化が鍵。さらに、自動運転も鍵。その両者が完成すれば、かなり軽量化が進行すると同時に、再生可能エネルギーからの電気を使って動く自動車の環境負荷は相当に低いものになる。
 そして、次が家庭からのCO排出だ。これは、電力がどのようなものになるか、再生可能エネルギー100%になれば、排出量はゼロだけれど、実際には、そう簡単に実現できるものでもない。恐らく、2050年に80%削減という日本の国の目標も実現が相当に難しい。望みは、イノベーションということになっているが、その実現ができるだけの知的なレベルを日本が維持できるかどうか、それが難しいのかもしれない。イノベーションを創出するという種類の創造性は、日本人にとっては、かなり抵抗がある種に属するので。
 そして、最後に業務という分類になっているが、これは、ビルの省エネなどが重要な要素になる。勿論、冷暖房などを全部含んだものだが。それには、ビルそのものの環境性能+αの認証スキームが必須なのだけれど、日本に存在する環境性能の枠組みであるCASBEEは設計段階で使う方法論に過ぎない。既存のビルの環境性能評価をするような枠組みを作ることが必須だと思うのだけれど、どうも日本という国でのある種の既得権をめぐる動きが抵抗勢力になっている感触だ。既得権を一層するぐらいの政治が行われないと、日本の未来における環境対応は暗いね。寂しい結論で、今回は終了。