-------

    ポテンシャル・実用化検討会報告の検討
       その3 CO2削減戦略産業編 08.25.2019



 前回は、2050年までのCO削減戦略を若干議論しました。対象は、運輸、家庭、業務の3点でした。今回は、その産業編です。具体的には、化学、鉄鋼、窯業、廃棄物の4種を取り上げます。他の業種は、エネルギーをほぼ電力のみにすることが不可能とは言えないので、もしも、ゼロCO電力が十分供給されるようになれば、CO排出のゼロ化が可能なのです。
 前回も示しました、部門別のCO排出量の概要を再掲します。

 CO排出量の概要     割合
 ★電力  4.7億トン  
  石炭火力 2.6億トン
  ガス火力 1.7億トン
  石油火力 0.4億トン
 ★化学  0.65億トン  5%
 ★鉄鋼  1.67億トン 14%
 ★窯業  0.66億トン  5%
 ★廃棄物 1.25億トン 10%
  
 ★:今回の議論の対象

 図が読みにくいと思われましたら、報告書が出ていますので、そちらをご参照下さい。
https://www.meti.go.jp/press/2019/06/20190610002/20190610002.html


C先生:まずは、電力業界からの発生量が最大量となる。石炭火力からがもっとも多い。石油火力がもっともコストが高いため、ほぼ発電量の微調整用に使われているものなので、CO発生量はかなり少ない。
 産業からのCO排出量で問題となるのは、ここに示した4種の産業。他の製造業は、ゼロCO化した電力が十分に供給されれば、排出量をゼロにできる可能性がある。例えば、鉄鋼がリストにあって、なぜ軽金属類が無いのか、と言えば、代表的なアルミニウムは、電気分解で製造できるし、なんらかの形状を付加するためには、融点が低いので、ダイキャストで鋳造すれば、この場合も電力で可能。すなわち、もし、電力がゼロCO化されれば、ほとんどCO排出を考えなくても良いことになる。

A君:まずは、電力から詳細を説明します。
          発電量    CO発生量
 石炭火力  3498億kWh 2.6億トン
 ガス火力  4248億kWh 1.7億トン
 石油火力   976億kWh 0.4億トン

B君:このデータは、恐らく、現在稼働中の石炭火力などの平均値が元になっている。なぜなら、最新の施設は、もっと効率が良いので。取り敢えず、このデータから計算されるCOの発生原単位は、次の通り。
 石炭火力  0.74kgCO/kWh
 ガス火力  0.40kgCO/kWh
 石油火力  0.41kgCO/kWh

A君:その通りです。ガス火力のデータも、最新の高効率ガス発電のデータではないですね。多分平均値のデータだと思います。新型の方式だと、ガス火力は0.31kgCO/kWhぐらいまで下がるようですから。

B君:取り敢えずの対策としては、石炭火力のコストがいくら安価だからといって、最新のガス火力の2倍以上の原単位である石炭火力を、これ以上増やすことはできない。なるべく早く、石炭火力には離脱を強制すべきことになる。

A君:一方、ガス火力は、しばらく継続することにならざるを得ない。再生可能エネルギーは、どうしても揺らぎが大きくて、信頼性が十分ではないから。しかも、日本の国土の状況は、それほど再生可能エネルギーに適したものではないことも大きなポイント。雨が多いので太陽光が不安定、また、台風が来ると風車が倒れる危険性が高い

B君:太陽光発電では、とにかく夜には発電量がゼロになる。だから、風力発電をどうしても一定量以上導入せざるを得ない。ところが、風力発電を地上に設置しようとすると、騒音の問題が発生したり、あるいは、希少鳥類への被害が発生したりする。となると、コストの高い洋上風力を頼りにする以外に方法が無いのかもしれない。

A君:しかし、それも難しいですね。一定の強さの風が吹いていることが最善なのですが、そのような場所としては、やはり偏西風が海を渡ってくる北海道と東北北部の西岸地帯が適地。県名で言えば、青森県、秋田県。しかし、現状だと、これらの県は、電力消費量が少ない地域なので、送電線が細いのです。しかも、今後、人口減がもっとも進むとされている地域。

B君:秋田県の人口の推移と将来予測を見ると、人口ピークが1956年で135万人、そして、2015年には約100万人になって、2040年の予想人口が70万人。人口ピークからほぼ半減だ。

A君:だからこそ、秋田は、風力発電で経済力を維持することの可能性を追求すべきなのではないか。それには、地域の企業が風力発電を建設する、メンテナンスを行う、などなどの方向性を見出すべきなのでは。

C先生:そろそろ次に行こう。★化学に移る。

A君:化学も非常に大変な状況です。現時点の多くの原料が石油ですから、どうしてもCO排出を伴うので。

B君:石油化学という名称にはなっているが、これで生産される物質の数は非常に多い。勿論、石油精製から始まるのは共通事項。

A君:石油精製ですが、こんな図になっています。


図1−4 石油精製のCO排出量

この図で、注目すべきことは、CO排出量が出ていることは当然として、その隣に、水素の発生量が出ていること。具体的には、水蒸気改質で45億m、接触改質で69億m。すごい量です。

B君:それぞれの反応式を念のため書いておけば、
◆水蒸気改質
  C14+6HO→13H+6CO
 同時にシフト反応でも
  CO+HO→H+CO 
  ◎ガス発生量 CO 4.5百万トン
            H  45億Nm
  
◆接触改質
  C14→C+3H
  ◎ガス発生量 CO 4.2百万トン
         H  69億Nm

A君:当然ながら、石油精製は蒸留によるので、化石燃料の使用量は多い。
◆石油精製
  灯油・軽油の生成 CO  9百万トン
  それ以外の燃料  CO 17百万トン

C先生:これで、「1.COの大量排出源とその原因」が終わって「2.CO排出量を大幅に削減できる技術分野の特定」になる。

B君:COを排出するプロセスで既存技術を代替できる革新的な技術を上げれば、次のような候補がある。
 ★水素の利用
 ★CCUS(Carbon Dioxide Capture, Utilization and Storage)
 ★再生可能エネルギー・蓄エネルギー
 ★パワーエレクトロニクス

など。

A君:これらの技術と適応範囲を示す図が2−1.こんなものになります。排出量をしっかり見ていただきたい。


 図2−1 CO排出量を大幅に削減できる技術分野の特定

B君:この図の中で、効果が出ることが確実に見えているのが、次のような順番ではないだろうか。個人的見解だが。

 実現可能性の高い順位
1位 自動車  削減可能量 1.86億トン
2位 電力   削減可能量 4.6億トン
3位 電炉   削減可能量 0.07億トン


A君:自動車は当然で、電気自動車がすでに動いていて、世界的な競争状態。もっとも、ヨーロッパの自動車メーカーは、ハイブリッド車のようなつなぎの技術を持っていないことを嘆いているようだけれど。電力であれば、解決法は再生可能エネルギー、原子力で技術は見えているのだけれど、再エネだと、まずはコスト面、次に不安定さを解消するための電池などのコストが大変。

B君:CCSは日本の場合に、どこに分離したCOをしまい込むのかが難しい。海底ぐらいしかないのだが、海底にも断層はあるし。石炭発電では発生するCO量が多いので、本来の利点であるはずのコストメリットが、CCS導入必須となるので弱くなる。天然ガス発電でも、2040年頃までには、CCSの導入が必須とも言われるけれど、石炭だと、すぐにCCSを導入せよということになりそうなのだ。

A君:それでは、第2章を終わって、第3章へ。

B君:まずは、序文。「温室効果ガス排出削減は、不確実な未来に対して、極めて難しく広範な課題である」、といきなり警報を鳴らし、次に、「長期的な研究開発が必要な技術なので、民間投資も難しい」と、諦めろという感触を得てしまうような文章構成。

A君:それだけではまずいので、3.1は技術選択の方策という項目になっています。大々的な方針としては、まず、(1)温室効果ガス排出の大幅削減につながる技術であること。

B君:これは当たり前。

A君:(2)あるプロセスや分野を超えて、社会やより多くの産業への共通な適応が可能で、かつ、インパクトの大きいもの、といった視点が重要。その例として、水素が挙げられています。

B君:水素は、他に救いの神がいないような感じなので、まあ、なんでも水素頼りになるのは当然なのだ。

A君:石炭・LNG発電の代わりに水素発電。さらに、製鉄でのコークス還元の代わりに、水素還元

B君:それだけでなくて、地球温暖化の最大の原因ガスであるCOと反応させて、天然ガス代替に使えるようなメタンを合成する。もし、COがバイオマスの燃焼によるものであれば、カーボンニュートラルなCOと評価されることにもなる。

A君:化石燃料を燃やして出たCOを原料として作ったメタンを燃やせば、またCOが出るけれど、それをまた、水素と反応させてメタンとして利用すれば、2回の活用後に排出されることにはなるので、等価的に半分の排出量だということになる。勿論、メタン合成のためのエネルギー使用分があるので、半分とは言えないのが実態ですけど。

B君:このようなことを考える必要があるので、LCA=Life Cycle Assessmentに関する基本的な知識は不可欠。C先生も、元LCAの研究者でもあった。

A君:最近は、全く、ノータッチみたいだけどね。

B君:次に指摘されていることが、蓄エネルギー技術の重要性、なかでも、電池の重要性

A君:電池なら、なんでもやればそれで良いというものではなくて、きちんとした評価を併用しながら、技術選択・開発を行わなければならない。そのためのツールとしても、当然、LCAが必須となっています。

B君:そのためには、十分なデータがあることが条件。さらには、コスト分析とLCAが合体したようなソフトを使うことが求められるのではないか、と指摘。

A君:それも当然ですね。LCAというと、面倒だと思う方も多いですが、このところ、かなり様々なソフトが開発されていますから、簡単にとは行かないまでも、正しい評価をするためなら、仕方ないと思えば、LCAを使うことが当たり前になるのでは。

B君:そうだろう。LCAといっても、考え方は簡単なので、適切なソフトを入手することができれば、ちょっと勉強すれば、なんとでもなるのでは。

A君:こんなところで、第3章が終わり。最後のまとめとして、実用化が極めて重要だという指摘があります。例えば、水素などでは、1)市場の立ち上がりの時期は、CO削減効果が少ないが、製造コストへの影響が比較的小さい高付加価値品をターゲットとする。2)既存のインフラを最大限活用する。3)安価な価格が実現できる手段を優先的に使って、市場の拡大を図る。4)熱マネジメントや副生物の有効利用。例えば、水の電解のときには、酸素の有効活用など。5)政策的な導入支援の実施が、市場を立ち上げるためには必要。

B君:確かに、どのような方法論を採用すれば、CO発生量がどれほど減少するのかという、LCAの結果を見ながら、最適な方法論を探ることが当然の行動となるだろう。

C先生:そろそろ、終わりにしよう。しかし、今回の議論と直接的な関連はないのだけれど、余計なことを言いたい。それは、幸福度だ。最近、日本のような人口減少国の未来をどう考えるべきか、ということがかなり気になっている。その答えが見つかったという訳ではないのだけれど、例えば、ノルウェーとフィンランドの人口密度は、世界166位と167位で、ほぼ約17人/km。しかし、この両国とも、幸福度は相当に高い。今年の幸福度ランキングによれば、
https://www.huffingtonpost.jp/entry/world-happiness-ranking-2019_jp_5c906a19e4b071a25a85e44c
フィンランドが1位、ノルウェーが3位だ

A君:人が多いということが、幸福度を直接高める訳ではない。しかし、なぜこれらの国の幸福度が高いのか、その理由は、なかなか難しい。

C先生:実際、フィンランドにしても、ノルウェーにしても、人は本当に少ないし、行ってみても、実は、それほど面白い国ではない。それでも、幸福度は高いのだ。

B君:しかも、ホテルの価格などはかなり高い。旅行者にとっての、幸福度が高いこともない

A君:その幸福度ですが、そもそもどうやってアンケートから判定しているのか、というと、各国の国民に「どれぐらい幸せと感じているか」を評価してもらうという調査と、GDP、「平均余命」、「寛大さ」、「社会的支援」、「自由度」、「腐敗度」といった要素を元にして、幸福度を計算するというやり方。

B君:日本の幸福度は2015年には世界46位だったのが、2019年では58位まで落ちた。この原因だけど、一つの要素は、明らかに、一人あたりのGDPが落ちている。それに、労働者が減るなどで、なぜか未来が暗い。

A君:幸福度の要素として、日本社会に問題点があるとすると、社会の「寛大さ」「自由度」が足らないのでは。例えば、ベンチャーが成功することが、極めて難しい国だと言われています。なぜなら、一度失敗したら、二度と相手にされない国だから。多分、穢れの思想が根本にあるのでは。

B君:一方で、最近の東大には、情報系を中心にベンチャーが入り込んでいて、学生にかなり高額の給与を支払っているというケースがあるとも聴いている。

A君:そうならないと、日本の大学はもはやアウトかもしれない。

B君:インパクトファクターの高い論文を書かないと大学に残れない、といった価値観ばかりの人間が大学に集まっている状況だと、どう考えても、科学的進化と経済発展性との関係が薄いものになる。そこに、情報系に限られている、さらに詳細に言えば、人工知能といった分野に限られていると思うけれど、刺激的な動きが出てくれば、徐々に、大学も変わるというか、少なくとも、学問の分布=専門家の数の分布が変わるかもしれない。

C先生:相当話がずれたが、たしかに、例えば人口減少が大きいと予測される秋田にしても、もっと自由にいろいろなことができる状況にすれば、ベンチャー的なチャレンジ精神を持った若者が来るかもしれないね。

A君:しかし、日本の産業の基幹となっている鉄鋼業などを新しい観点からサポートするような人材が集まるでしょうかね。

B君:それには、やはり、大学における研究の姿勢を変えること。すなわち、社会実装を目指す研究の場合には、インパクトファクター以外の評価要素で評点を付けるという新しい枠組みを文部科学省が作ることが必須。

A君:さて、社会実装を目指す研究の評点をどうのように作れば、公平・公正なのだろうか。

B君:まあ、企業人5名:大学OB3名:一般社会2名。これぐらいのメンバー構成で評価体制を作れば、なんとかなるのでは。

C先生:よし、最後のまとめだ。「何につけてもイノベーション」、あるいは、「何がなんでもイノベーション」と言われる時代になってしまったが、イノベーションの実現は簡単なことではない。未来が見えるという能力が無い限り、恐らく、イノベーションの実現は難しい。ということは、ある個人が単独でイノベーションを実現するというよりも、これまで出会ったことのない人との対話の中で、なんらかのヒントを得ることによって、イノベーションのキッカケのようなことが自然発生するという、偶発的な良い出来事が起きなければ、不可能なのだろうと思う。
 逆に言えば、そのような人と人、あるいは、企業と企業は当然として、すべての個人、すべての団体が、できるだけ機会を作って、それぞれの考え方を伝達し、さらには、その有効性を競うといったことにしないと、2050年に最低でもCO排出量を80%削減するといった大目標は達成できないということなのかもしれない。とにかく、大学の変革には、人と人、技術と技術の対話を実現するような仕組みを作り上げることが必須であると思う。
 当然、同時に、社会全体がより柔軟性を高めて、チャレンジした人間を成功だけではなく、失敗した場合であっても、そのチャレンジのやり方などを含めて、温かく再評価する社会を作らないと、この国の将来は辛いことになるだろう。