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    エネルギー・環境技術の検討会報告 1  07.28.2019
         経産省+文科省の描く2050年

               



 正式名称はかなり長いのです。「エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会」というものが開始されたのが、2018年12月4日。9回目が最終回で、2019年3月25日。有識者委員として参加しましたが、通常の開催時間が、朝9時から12時までの3時間で、中間に休憩が5分あるだけ、というハードなものでした。
 その最終報告書が発表されたのは、すでに1ヶ月も前になる6月21日。中身がなかなか高度なもので、どうご紹介すべきか、迷っていました。企業関係の方々で、この分野の専門家は、当然、すでにお読みでしょうし、全くの非専門家にとっては、それこそ、非現実的な物語に見えるだけでしょう。
 しかし、もう一度全体を見直すと、未来技術の記述だけではなく、現状認識にとっても非常に重要と思われる記述があるので、せめて、その部分だけでも理解していただくと、なぜ、こんな検討会が必要だったのかがお分かりいただけるかと思って、記事にすることにしました。
 今回スタートしますが、1回で終わるものではないのは明らかですが、何回にも及ぶの、それを含めて何を記述すべきか全く不明なのです。ということで、取り敢えず、第1回目です。


C先生:朝は9時スタート。12時までの3時間。極めて密度の高い検討会で、とにかく疲れるのだけれど、それ以上に得るものも大きかった。報告書を見ると、なんと目次が無いのだね。報告書は、次のサイトからどうぞ。
https://www.meti.go.jp/press/2019/06/20190610002/20190610002-1.pdf

A君:そうなんですよ。全体像を把握するためには、目次は重要だと思うので、以下、簡略版を作ることにしました。

目次 簡略版

はじめに       
1.CO2大量排出源とその原因
 1.1 全体像             
 1.2 生産プロセスにおけるCO2排出量
  (1) 電力              
  (2) 高炉製鉄           
  (3) 石油精製            
  (4) セメント          
2.CO2排出量を大幅に削減できる技術分野の特定 
3.温室効果ガスの大幅削減に向けた技術選択・実用化の方策 
 3.1 技術選択の方策
 3.2 技術実用化の方策       
4.横断的技術分野におけるポテンシャル・実用化評価 
 4.1 水素             
5.CCUS/ネガティブ・ポテンシャル  
 5.1 CCS  
 5.2 CCU 
 5.3 ネガティブ・エミッション技術 
6.再生可能エネルギー・蓄エネルギー  
7.パワーエレクトロニクス       
8.効果的な研究開発・実証支援に向けて 
 付録:検討会参加者名簿  
 
        

B君:意外と取り扱う範囲が狭いような気がする。例えば、高温をどうやって得るか、とか、セメントそのものをどう改良すべきか、といった検討は行われたのだろうか。

C先生:セメントについて一つだけあった発表が、デンカ・鹿島建設・中国電力によるSUICOMという新しいセメント。COを吸い込んで、硬化する特殊なセメントだ。多分、ほとんど同じものが、ICEFのTop 10 Innovationsにカルフォルニア大学から提案されて、Top 10に選ばれてしまったのだ。しかし、明らかに、デンカの方が先駆者で、カリフォルニア大学のものは、完全に独立に開発されたという可能性もゼロではないけれど、そのフォロワーだったと思われるのだ。極めて残念なことだ。もっと世界に向かって情報を発信していただきたいと思う。

A君:我々が作って使っているリストは確かに、もう少々広範囲にカバーしていますね。例えば、「板ガラス製造のプロセスは化石燃料なしで実現可能か」、とか。

B君:確実な答えを出すのは難しい。個人的な考えを述べると、「できない」とは言えないのだけれど、かなり難しいかもしれない。現時点でのガラスの溶解槽は、天然ガスによるバーナーと、酸化スズ電極を溶融したガラスの中に入れて通電することによるジュール熱で加熱されているが、天然ガスの変わりに水素という訳に行くのだろうか。これが最大の問題点。

A君:水素を燃やすバーナー技術がどういうものか、という問題ですね。調べるとすでに、トヨタが世界初の水素バーナーを開発して、国内工場で天然ガスバーナー1000台を置き換えることが、すでに2018年11月8日に公表されています。
https://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1811/09/news046.html

B君:水素バーナーの問題点は、天然ガスバーナー的な仕組みで空気あるいは酸素と混ぜると、火炎温度が高くなりすぎるところにあったようだ。そこで、水素と酸素が徐々に混ざるような構造にしたということらしい。この技術が、ガラス溶解用炉に使えるかどうかだけだな。

A君:これが使えれば、今後の問題点は、温度コントロールぐらいなものなので、どうもできそうな気がしてきました。

B君:燃料となる水素をどうやって作るのか。この話題になると、人工光合成が有望といった声が消えないのだが、実際には、太陽電池+水電解装置というごく普通の組み合わせに、人工光合成では勝てないことは明らか。実際、ここで言ういわゆる人工光合成の仕組みは、合成は何もしていなくて、水を水素と酸素に分解するだけ。すなわち、「水の光分解」という単純なもの。そのレベルでもそうだということ。当然、植物が行っている光合成を人工的に起こすことは、現状だと、まだ「先の先の先」ぐらい。

C先生:最近、科学用語をもっと厳密なものにする必要がある、と思っている。研究者が極めて商業的な観点から名称を決めているような感じがある。しばしば実体を表していない名称が発明されてしまうのだ。その点がいい加減なのが気になる。商業的という言葉の意味だが、やはり、それで研究費がより多く取れると思ってしまうのだろう。しかし、名称で誤魔化すだけだと、半分は詐欺のようなものだと思う。

A君:それでは、目次に戻って、順次内容を極めて簡単にご紹介します。
 まず、「第1章.CO大量排出源とその原因」は現状分析です。この図を出せば、それで十分かと。


B君:この図は、是非ともしっかり見ていただきたい。凡例が小さいし、グラフの中にあるので、色分けがちょっと分かりにくいけど。いずれにしても、この図の、薄緑の部分が化石燃料なので、それを減らすこと。そして、濃緑色の部分は電気なので、この電気をゼロカーボン電力にすることが重要。それ以外だと、セメントの紺色の部分。これが、原料の石灰岩から出るCO2だ。廃棄物・その他のところの、薄い青緑は、エネルギー転換。

A君:薄緑の化石燃料の順番は、まず、自動車、そして、高炉、そして、家庭部門と業務部門。電力については、家庭部門と業務部門でのゼロカーボン電力への転換が重要。

B君:それから、文章での説明になる。
(1)電力: 発電量の8割以上を占める火力発電からCOが大量に排出されている。石炭火力からが2.6億トン、ガス火力が1.7億トン、石油火力が0.4億トン。石炭火力による発電量は、ガス火力による発電量よりも少ないのに、CO排出量が多い理由は、その原単位の違いによる。石炭火力がコンバインドLNG火力の約2.3倍程度のCOを排出するから。

A君:高炉製鉄の説明が次に来て、高炉本体からのCO排出量が圧倒的に多い。次が、鉄鉱石にコークスと石灰岩を混ぜで焼結するプロセスで、この二種類で、ほぼ90%以上。

B君:となると、高炉による製鉄プロセスは、水素による還元方式に変えることが必須。ところが、それが難しい。なぜならば、水素還元は、吸熱反応で熱を外部から供給しなければならない。熱を化石燃料を燃やして供給するのでは、無意味になるので、高温ガス炉などの原子力のお世話になる必要がある。ということで、実現の可能性が高いのは、今世紀末頃以降か。

A君:一応、高温ガス炉の図を出しますか。次のようなものです。


A君:次が、石油精製によるCO発生量の話。石油を改質して、ナフサやガソリンなどを作るときに、合わせて8.7百万トンのCO2が出ている。

B君:石油精製よりも発生量が多く、第2位になるのが、セメント製造プロセス。最大の理由は原料として石灰岩が使われるが、その組成がCaCOであること。次が、焼成工程で投入される石炭などの化石燃料。石炭は粉状にして使われるが、原料も粉体なので都合が良い。CO発生量は、26百万トンが原料から、14百万トンが加熱のための石炭から。

C先生:そして第2章p4は1ページだけで、CO大幅削減を可能にする対策技術があるか、という話になる。
 方法論は、電力なら、再エネへの転換と省エネ。さらに、CCSによる処理とか原子力。自動車なら、電気自動車にするか、水素燃料電池車にすることで解決できるので、方針自体は割合と簡単。もっとも日本以外の国だとほぼ電気自動車ばかりだけれど、そのうち、水素燃料電池車が主流になると思う。それは、電気自動車だと充電に30分掛かるかもしれないけれど、水素自動車だと、まあ、ガソリンよりは多少時間が掛かる程度なのでは。
 そして、鉄鋼生産なら、水素還元ができるとしても、まだ100年ぐらい掛かりそうなので、当面は、CCSによる処理。化学も、CCSをやるか、COを出さないプロセスで水素を作ること。セメントは、CCUとCCS

A君:先程の話では、セメントは、大気中のCOを吸収して固まる組成にするという大転換もありうるのですが、さて、実用になるか。

C先生:これで、第3章に行くことに。そので、全体的な議論になっている。ポイントを整理してほしい。

A君:第3章p5のタイトルは、「温室効果ガスの大幅削減に向けた技術選択・実用化の方策」。まず、いくつかの方法論が存在している場合が多くて、それが「極めて難しく広範な課題」という言葉で表現されています。しかも、「長期的な研究開発が必要な技術に対する民間投資は難しい」という難点もあるとしています。

B君:そのために、技術選択に確固とした基準が必要で、最初に来るべきものが「排出削減インパクト」だとしている。そして、その評価手法としては、Life Cycle Assessment(LCA)を採用すべきだという記述になっている。これは当然でしょうね。

A君:さらに、物質循環やサーキュラーエコノミーに配慮し金属資源の循環をすすめることで、資源制約に対応することも重要である。

C先生:「LCA手法によって、技術選択を行え」、ということは当然のことではあるのだけれど、その手法について十二分に理解した上で取り組まないと、誤った選択をしてしまう可能性もあるね。

A君:最近は、お金さえ出せば、LCA関係のソフトが購入できますから、なんとかなるのでは。

B君:そして、ここまでが序論とも言うべきところで、これから先の第4章p7は、「横断的技術分野におけるポテンシャル・実用化評価」となって、具体的には、
●水素
●CCUS
●再生可能エネルギー・蓄エネルギー
●パワーエレクトロニクス

が検討対象になっていく。

C先生:ここまでで報告書の何%がカバーできたのだろう。

A君:実は、まだ6ページです。全体では、54ページまでありますので、進んだのはほんのちょっとだけ。

B君:それなら、第4章から第7章までは次回にして、今回は、第8章のまとめだけを見るのが良さそうだ。

A君:それもありそうですね。先程のLCAも方法論の記述でしたから、全体的なイメージを取り扱っていると思われる最後の第8章に行きますか。

B君:了解。第8章p52は「効果的な研究開発・実証支援に向けて」、であって、国として、適切な対応をどのように具体化するか、といった問題意識で書かれているみたいだ。

A君:それでは具体的な説明に入ります。まず、最初に指摘されていることが、いかに新しい時代を創造しなければならないとしても、すでに化石資源で比較的安定な市場が確立していることを考慮すると、「コスト」的に妥当性が無い限り、普及は困難。すなわち、脱炭素化社会の実現は、コストを始めとするユーザーなどの立場やニーズを重視する以外に方法はない。

B君:そして、なおかつ、スピードが重要で、それには、「常にユーザーなどの立場・ニーズをより重視している」というスタンスが不可欠。要するに、不必要に高度すぎる技術目標を追求していないか、といったことのチェックが重要。

A君:その次に、C先生がプログラムディレクターをつとめている「未踏チャレンジ2050」の説明がある。また、文科省の「未来社会創造事業」も紹介されている。

B君:ミッションイノベーションなどを活用した国際共同研究の重要性も指摘されている。ただ、このミッションイノベーションというものの、日本における認知度は相当に低いので、なんとも言い難いところだけれど。

A君:そして、再度、LCA分析が現状では少なすぎることが指摘されており、市場での普及までを見通したライフサイクルベースでの定量的な評価によって、技術選択・技術開発が行われるべきことを述べています。まあ、当然なのですが、これから、LCAは再度重要な手法として取り上げられ、実行されることが確実な状況です。

C先生:そして、最後の言葉になるが、「技術は人と同義である。したがって若手研究者を始めとした人材育成は、本分野でももっとも重要であると言える。環境・エネルギーの様々な分野における人材の育成、確保が重要である。これらの人材を将来に渡って輩出するためには、長期的視点での人材育成を継続的に取り組むことが望まれる。それには、若手研究者と経験を積んだ研究者や産業界などの情報交換の促進を継続的に進めていく」。 「今後とも、官民が継続して投資すべき技術の精査、その研究開発の進め方の見直しなどを継続的に行っていくことが重要である」。
 まあ、その通りだと思うが。感想は?

A君:「技術は人と同義である」などという言葉が、最後に書かれるとは思いませんでしたね。確かにその通り。担当者が有能な人でないかぎり、有用な技術は生まれない。

B君:さらに言えば、研究者としての自分の能力を示すために研究を行うのではなくて、社会に貢献できる研究者になるために、環境・エネルギー分野に取り組むといった社会実装を目的とした研究者でないと、世の中を変えるような有用な進展を見ることは無いのでは。

C先生:その通りだと思う。自分の研究者としての評価を高めるために、インパクトファクター主義者になっている現時点での若き研究者ではなくて、「この社会を変えるような科学技術を創造しないと、人類の未来はない」、ぐらいの大きな視点から、さらに言えば、大きな使命感をもって、自分の見識を駆動力として、研究に取り組む様な若手が次々と出現しないと、それこそ、2050年が惨めな時代になってしまう可能性が高い。それには、まず、この報告書の作成にも寄与した文部科学省からの全く新しいメッセージ、望むらくは、「社会実装ができる科学技術を開発して貰いたい」、が直接若手研究者に届くような仕組みも作らなければならないと思う。