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   2030年以降を目指すイノベーション  08.15.2015
             電力貯蔵技術の未来予測   低炭素技術の将来 その1      




 環境大臣が石炭発電に異議を唱えている。中部電力が愛知県武豊町で計画している大型石炭火力発電の建設について環境影響評価法に基づき「是認することはできない」とする意見を表明した。

 こんなニュースが流れていますが、やはり、日本は島国なのです。石炭発電からの離脱は、シェールガスへの依存を高めつつ有る米国はあたり前として、石炭大国であるオーストラリアでも減少の方向性を模索しています。ところで、そのオーストラリアも8月11日にINDCを提出した。「to reduce greenhouse gas emissions by 26 to 28 per cent below 2005 levels by 2030.」ということで、日本を上回る削減率を約束しています。

 日本の発電関係企業でも、自主的な目標値をもつことになっており、先日、その数値が発表されました。
http://www.japc.co.jp/news/press/2015/pdf/270717.pdf

 それによれば、以下のような記述になっています。

【電気事業における低炭素社会実行計画】
・2030年度に排出係数0.37kg-CO2/kWh程度(使用端)を目指す。
・火力発電所の新設等に当たり、経済的に利用可能な最良の技術(BAT)を活用すること等により、
最大削減ポテンシャルとして約1,100万t-CO2の排出削減を見込む。

注記:
※ 排出係数0.37kg-CO2/kWh程度は、政府の長期エネルギー需給見通しで示されたエネルギーミックスから算出される国全体の排出係数で
あり、2013年度比▲35%程度相当と試算。
2030年度CO2排出量(3.6億t-CO2)
2030年度の電力需要想定値(9,808億kWh)
※ 約1,100万t-CO2は、2013年度以降の主な電源開発におけるBATの導入による効果等を最大削減ポテンシャルとして示したもの。
参加事業者は、今後、本目標の達成に向けた取り組みを着実に進めるとともに、実施状況を毎年フォローアップしていくことを通じて、低炭素社会の実現に向けて一層努力してまいります。 以 上

 日本の発電事業者が石炭に依存をするということは、石炭が安いからという理由は当然として、世界でもっとも効率の高い石炭発電技術をもっているからでもあります。しかし、CO2排出量で言えば、残念ながら理論値で天然ガスの1.7倍、石炭の場合、排ガスが汚いということによる効率低下を含めると、天然ガスの約2倍程度多いCO2を排出するのです。

 長期エネルギー需給見通しで示されたエネルギーミックスは、かなり不可能に近い大幅な省エネルギーが盛り込まれているので、もしも経済成長が順調に行われれば、実現の可能性がかなり疑問という性格をもっています。

 このような状況を考えると、事業者にとっても新規石炭火力の建設は、投資リスクが大きいはずなのです。2030年目標が達成できない見通しになれば、その2〜3年ぐらい前に、石炭発電にはかなり高い炭素排出課徴金が課せられ、自然エネルギーへの移行を加速するという政策に移行せざるを得なくなるに違いないのです。となると、石炭発電では当然稼げなくなる。新規の発電プラントを建設すれば、通常ならば20年以上の稼働が前提ですが、それが実現できない可能性が高く、結果的に、投資リスクが非常に高いと思うのです。

 となると、やっと本日の本題に近づくのですが、化石燃料に依存しないゼロカーボンの電源が必要不可欠となり、自然エネルギーか原子力かの二者が候補という事態になるでしょう。原子力の見通しは不透明なので、もっとも問題になるのは、自然エネルギーの不安定さを緩和する方法論、すなわち、電力貯蔵技術の導入によって、電力価格がどのぐらいのレベルになるか、ではないでしょうか。そのころ稼働している原発は、再稼働された原発(+未稼働の原発)だけですが、最大でも発電量の15%程度ではないだろうかと思います。もしも、中国や韓国で原発事故が起きれば、日本の原発もその影響を受けて、止まっているという可能性も無いわけではないでしょう。となると、自然エネルギーによって発生した不安定な電力の貯蔵技術にかなり真面目に取り組まなければならないことになります。



C先生:電力貯蔵技術は、実は、かなり昔から研究開発が行われていた分野なのだ。それは、第一次石油ショックが発生した1973年以後に行われた様々なエネルギー関連研究の一つであるムーンライト計画(1978〜1993)の中のテーマの一つだった。

A君:石油ショック以後にまず行われたのが、サンシャイン計画(1974〜1992年)で、その40周年を記念する出版物がNEDOから出されています。
http://www.nedo.go.jp/content/100574164.pdf
 実施内容は次の表で示されるようなことでした。


表1 サンシャイン計画で取り上げられた技術分野

B君:石炭発電の高効率化も、サンシャイン計画の中の石炭のガス化技術というテーマで取り上げられた。そのため、経産省は石炭の高効率発電に思い入れが深いのだと思う。

A君:サンシャイン計画でも、発電技術ばかりではなくて、水素エネルギーの研究もされていて、砂漠で太陽光発電を行って、水素をどうやって運ぶか、といった検討まで行われています。

B君:砂漠で発電ではなくて、自然エネルギーが大量に導入されると、日本国内での電力貯蔵が重要になるといった時代が見えるようになってきた。非常に大きな変化だと思う。

A君:しかし、サンシャイン計画では、電池の研究は行われていないようですね。

B君:その後のムーライト計画で行われた。その主な成果が次の表にまとめられている。
http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/01/01050201/02.gif



表2 ムーンライト計画で研究成果

A君:その中の5に新型電池電力貯蔵システムがあります。4種類の新型電池として、ナトリウム−硫黄、亜鉛−臭素、亜鉛−塩素、レドックス・フローが上げられています。製品化されたということでは、ナトリウム−硫黄電池(通称NAS電池)が早く、2002年に日本ガイシによって事業化されています。

B君:C先生が1970年代の中頃に米国で研究に従事していたテーマ。

C先生:そのころβ−アルミナという固体電解質(セラミックス)を試作していたのは、ユタ大学とフォードだったが、その品質はかなり悪くて、こんなセラミックスでは劣化が激しくて、寿命が短い。すなわち、実用化できない、と思っていた。ところが、さすが日本のセラミックス屋は違う。共同開発を東京電力と開始したのが、1984年頃。それで1990年には10kW級の電池モジュールができている。

A君:ということですが、それ以外の電池は、商品化が遅れていました。レドックス・フローは、原理はNASAが1974年に発表しているのですが、2000年頃に住友電工によって商品化されました。

C先生:亜鉛−臭素電池、亜鉛−塩素電池は、まだ実用段階以前。レドックス・フロー型と似た正極、負極の電解液をポンプで電池に供給する形。日本ではすでにムーライト計画の時代に取り上げられている。そして、一時見捨てられたように見えるのだ。しかし、欧米では、最近でも、研究が行われているようだ。

A君:こうしてみると、電池の研究というものは、題材が余り変わらないものですね。しかも、その後、実用になった、ニッケル水素電池とかリチウム電池とかが入っていない。

B君:そうなんだ。現在主流になっているリチウム電池の歴史は極めて新しいのだ。より正確にはリチウムイオン電池と呼ぶべきものだけれど。というか、有史以来、人類が手にした電池の種類は、本当に限られているのだ。

C先生:LED電球に使われているGaNでは、赤崎先生を始めとする日本人3名がノーベル賞を受賞した。ところが、同じぐらい重要な発明だと思われるリチウムイオン電池は、ノーベル賞の対象になっていない。

A君:この話題については、日経のウェブサイトにこんな記事が載っています。
ノーベル賞有力候補、リチウムイオン電池の「未解決リスク」
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO81190890S4A221C1000000/

B君:ちょっと読むと、安全性が確認されていないからリチウムイオン電池はノーベル賞を取れないとでも言いたいようだ。

A君:そんな簡単なことではないと思うのですが。
 リチウム電池に関する賞としては、旭化成の吉野彰氏、元ソニーの西美緒氏、モロッコのRachid Yazami氏、米国のJohn B. Goodenough氏が2014年のCharles Stark Draper賞というものを受賞しています。これは、全米技術アカデミーが工学の発展に貢献し、生活の質を大きく向上させた人文に与えられる賞で、工学分野のノーベル賞とも呼ばれています。

B君:4名ね。リチウムイオン電池の主要な構成要素としては、(1)正極、(2)負極、(3)電解質の3つだろうから、3名でも良さそうなのに。

A君:(1)正極がGoodenough氏、(2)負極がYazami氏、(3)電解質が吉野氏なら簡単なんですが、吉野氏も、どちらかといえば(2)負極となのでは。しかし、それだけでもなくて、最適化への貢献でしょうか。そして、(4)が全体システムから製造システム、そして実用性の必須事項である安全性確保までが非常に重要で、これが西氏。西氏のこの記事は、完読する価値がありますね。絶対的お薦めです。
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/FEATURE/20150120/399739/?rt=nocnt

B君:要するに、リチウムイオン電池は、LEDに比べると、システムとしてかなり複雑な考え方が実用化をする段階で必要不可欠だったので、正極、負極があったからといって、簡単に製品化できるような代物ではなかったということだ。

A君:逆に言えば、リチウムイオン電池を作るに、正極と負極だけが重要で、それさえあれば商品化ができる、というものであるとしたら、Goodenough氏とYazami氏がノーベル賞を獲得していただろうということでは。

B君:システム的発想が重要という意味での新規性では、どちらかと言えば工学のジャンルだ。科学あるいは理学に基本に置いているノーベル賞の対象としては難しいかもしれない。

C先生:電池というものは、簡単なものではない。リチウムイオン電池の前に実用化されたニッケル水素電池だが、この電池が実用化されたのは、水素吸蔵合金の研究が進んだからだ。この水素吸蔵合金の用途として考えられていたことが、水素タンク用だった。発売されたトヨタのMiraiに使われている水素タンクは、高圧に耐えるグラファイト繊維強化のプラスチック。要するに、やたらと強い材料を使うという力技で解決されたものだ。水素吸蔵合金のようなエレガンスさは無い解だったとも言える。

A君:しかし、現時点で、水素吸蔵合金を水素燃料電池車のタンクに使おうなどという人は、もはや居ない。性能が足らない。

B君:という訳で、電池というものが一人前の製品になるには、相当の努力が必要なのは言うまでもないのだけれど、実は、かなりの幸運が必要不可欠のように思えるのだ。

C先生:そろそろ、それなら電力貯蔵用のデバイスとして将来の本命は何か、という話に行くか。

A君:候補として上げるのは、以下のようなものになりますね。
(1)固体電池 リチウム電池が代表例
(2)フロー型電池 レッドックスフロー電池が代表
(3)圧搾空気
(4)フライホイール


B君:実に、すべて昔からある技術体系なのだ。

A君:そうですね。圧搾空気で電力を貯蔵するというけれど、最近の使い方は、ちょっと違いますね。余剰電力で空気を圧縮して、それを廃鉱山のトンネルなどに貯める。そして、その高圧空気を使ってガスタービンを駆動する。これは当然効率が高い。しかし、なんらかの燃料が必要なので、完全にゼロカーボンという訳ではないですね。

B君:フライホイールは、日本でも鉄道総研が新たなトライがNEDOの支援で行われている。

A君:特徴は、軸受けに高温超電導磁石を使って浮上させていること。フライホイールのロータには、世界最大級のカーボン強化プラ製。これが真空中で回るというもの。仕様は、出力300kW。蓄電容量100kWh。これに、1000kWの太陽光発電が組み合わされて、実証実験が行われている。
http://www.rtri.or.jp/rd/division/rd79/rd7920/rd79200107.html

B君:余剰電力で物質を作って、その化学ポテンシャルを使うタイプがある。
(あ)水素
(い)金属


A君:まあ水素が本命。金属は、亜鉛あたりを使って空気電池が作れれば、自動車用としても無いとは言えない。しかし、亜鉛空気電池が果たして実用になるか。日立造船が開発したという亜鉛空気二次電池ではなくて、この場合には、金属でエネルギーを貯めるので、金属亜鉛を交換するという一次電池としての使い方。以前、藤倉ゴムがマグネシウム一次電池を開発したと発表して、株価が4.5倍になった。
http://jp.reuters.com/article/2014/02/05/l3n0la17k-fujikura-rubber-idJPTYEA1404O20140205

B君:亜鉛空気二次電池は、すべての電池研究者が必ずやりたくなるという魔力を持っているとされている。そして、魔力でやられるのがこれまでの歴史。

A君:その魔力とは、充電時に亜鉛が析出するときに、平面上にはならないで、樹枝状になること。加えて、空気中に二酸化炭素が電解液と反応することなんですが、克服できたのでしょうかね。

B君:それにしても、またまた株価が上がったらしいが、株価操作の常套手段として方法として電池が使われる、などということにならなければ良いが。

A君:現在のスタンダードが揚水発電ですが、現在の日本の状況で、さらに揚水発電を増やすことができるか、というと、その気になれば不可能ではないという程度でしょうか。それは、現在あるダムより上に水を貯めるタンクを作るというやり方以外は難しいのではないですが。これは、自然破壊でもあるので。

B君:(1)〜(4)の候補としての特性は、
(1)固体電池、性能は良い、高価、安全性は十分か
(2)フロー型電池 小型化、可搬型は難しい
(3)圧搾空気 体積効率が悪い
(4)フライホイール エネルギー損失が大きい


A君:となると、やはり固体電池とフロー型電池あたりが本命ということになるのではないですか。

B君:例えば、マグネシウム電池。C先生が研究総括を務めていた領域に参加していた内本喜晴京大教授が開発したものなど。
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2014/140711_1.html

C先生:マグネシウムを使うと、エネルギー密度は確実に上がる。だから、EV用に使えば、航続距離は長くなる。しかし、すべてが良いことばかりではない。瞬間的な出力は、それほど取れない。となると、将来の電池は、複合型になって、いくつかの種類の電池を最適な形で組み合わせて使うという方向に向かうのではないだろうか。その中に、フロー型電池も含まれる。場合によっては、鉛蓄電池が再度重要な地位を占めるといったこともあるかもしれない。
 言い換えれば、電池の分野で重要なことは、実は、ノーベル賞を取れるようなある要素開発(理学的研究)ではなくて、システム思考が極めて重要な研究分野として成長していくという個人的予測を持っているのだ。
 これは、実は、電池の分野に限らない。電力供給の形が全く変わってしまうのが21世紀中盤で起きることだろう。そのとき持つべき発想としては、複数の技術を組み合わせて、そして、場合によっては、拡張型システム技術とでも言うのだろうか、人間側の考え方も変えることによって、究極のイノベーションを目指すことなのではないだろうか。