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  新プリウスと新インサイト比較と予測    02.15.2009
     



 エコカーに関する今世紀最大の見世物の開演が迫っている。4月にホンダが新しいハイブリッド車、二代目インサイトを発売し、恐らく5月には、三代目プリウスが発売される。

 さて、どちらがどのぐらい売れるのか。どんな人々がそれを買うのか。こんな予測が面白そうだ。

 現時点、公開されている情報はまだ十分ではないが、初代、二代目のプリウスを乗り継いできたユーザとして、そして、恐らく三代目プリウスを選択するであろうユーザとして、今、分かっている事実から、何を予測しているか明らかにして見たい。



C先生:まずは、データを整理しよう。三代目プリウス、二代目インサイト、二代目プリウス、二代目シビックハイブリッドについて、データを集めよう。

A君:サイズ、重さ、燃費、性能ぐらいですかね。

B君:いや燃費だけで良いだろう。しかし、日本国内のカタログ燃費はあてにならないので、米国EPAの燃費が良さそう。
http://www.fueleconomy.gov/
 EPAの燃費データは、エアコンがONになっているとか、実際の運転状況に近いデータだ。特徴は、CityとHwy(Highway)という2分類があって、Cityモードは町の中。Hwyは、いわゆるフリーウェイを含む走行モードのようだ。

A君:しかも、2008年から、基準が変わっている。EPAの古い規格は、40年も前にできていて、その当時の車と現在の車、さらには、道路の走行のやり方もかなり変わっているから。
 ひとつは、加速。現在の道路状況では、以前よりも早い加速が求められている。次に最高スピード。40年前には、インターステートも制限速度が55マイルだった?のでは。新しい規格では、80マイルというスピード(速度違反?)も出すことになっている。そして、エアコン。40年前の車ではエアコンを使うことはまれだった。

B君:そんな訳で、2008年以降のEPA燃費は相当に悪化している。特に、燃費の良いクラスでは、エアコンなどの影響も大きいので、その悪化も大きい。
 たとえば、プリウスの場合でも、次の図のようになっている。古いデータ55mpgが46mpgまで落ちている。




図 二代目プリウスのEPA燃費の新旧版比較。


A君:燃費基準が変わって、古い基準の場合には、なかなかその値に達する実ユーザはいなかったのが、新しい基準だと、努力すれば比較的簡単にその数値をオーバーできるようになった。ということは、自分の運転のやり方を反省する材料という目的にも使えることになった。

B君:EPA燃費のデータがあるのは、発売後の車か?

A君:4月には米国でも売り出されることになっているはずの新インサイトのデータは出ていないですね。
 ということで、二代目プリウスと二代目シビックハイブリッドのEPA燃費データは次のようになっています。




図 二代目シビックハイブリッドと二代目プリウスのEPA版燃費比較
 データそのものは、プリウスの方が良いが、シビックの3名のユーザの燃費は、かなり良い。

C先生:それはそうだが、米国の車のメディアは、新インサイトと新プリウスの燃費の推定などをすでにやっている。

A君:調べてみるとその通りで、いろいろと推定が行われています。新インサイトと現行プリウスの比較試乗の記事なども出ていますから。http://www.edmunds.com/insideline/do/Drives/Comparos/articleId=139686

A君:これによれば、新インサイトのEPA燃費が、City40mpg/Hwy43mpg、総合で41mpgだということになっています。

B君:新プリウスの情報も、どうも日本よりも詳しいようだ。EPA燃費が、現行の46mpgから50mpgになるらしい。
http://jalopnik.com/5129290/2010-toyota-prius-bigger-size-meets-bigger-fuel-economy-+-50-mpg

C先生:ということは、現行モデルがCity48mpg/Hwy45mpg、総合46mpgだが、それが、City52mpg/Hwy49mpg、総合50mpgぐらいになることを意味するのだろう。

A君:そのEdmundsの記事では、テストコースを走らせて、現行プリウスが54.4mpg、新インサイトが51.5mpgだったと述べています。新プリウスは、9%燃費アップだという推測がありますので、59.3mpgぐらいの値をたたきだすのでは。

B君:まあ60mpgだとすると、25.3km/Lとなる。日本だと、新プリウスの10・15燃費は、39.5km/Lぐらいになるのか。

A君:新インサイトは、10・15で30km/L、JCO8で26.0km/L。Edmundsの記事の51.5mpgは22km/L程度だだから、EPA燃費は、JCO6よりも悪い。というよりも現実のドライブモードに近い。

B君:比率だけで言えば、新プリウスは、新インサイトの1.3倍以上燃費が良いことになるか。カタログ上の話であまり意味がないが。

C先生:燃費の話は、何を考えるかで全く違ってくる。今回、最大の個人的な興味の一つは、新インサイトの車づくりの方向が、実はある意味で正しいのではないか、ということなのだ。

A君:この2車種ぐらいになると、燃費が1.3倍だとか言っても、ガソリン代にしてみると、実は、それほど違わない。燃費が5km/Lと6.5km/Lの車も燃費で言えば1.3倍だけど、これだと相当違ってくる。
 年間1万キロ走るとして、5km/LのA車は2000Lのガソリンが必要。100円/Lだとしても20万円。6.5km/LのB車の場合だと、15万4千円ぐらい。差額が4万6千円。
 燃費の良い車同士の比較だと、C車の燃費が22km/Lで、D車はそれよりも1.3倍燃費が良くて、28.6km/Lだとする。C車で年間1万キロ走ると、ガソリン代が4万5450円、D車の場合だと、3万4950円。差額は、1万円ちょっとにしかならない。車を7年間使うとして、合計で7万円しか違わない。

B君:その通りで、燃費の悪い車で3割燃費が違うというと費用にも大きな差が出るのだが、燃費の良い車同士で比較すると、3割燃費が違うといっても、それほどの差ではない。

C先生:ハイブリッド車同士で比較して、どちらを買うべきかという議論を、費用の比較でやっている限りは、あまり意味がないようなのだ。

A君:とすると、ハイブリッド車というか、燃費がかなり良い車同士の場合には、何を選択の基準にするか。

B君:燃費は重要でないとすると、それは満足感でしかない。

C先生:やはりそんな結論になる。しかも、その満足感というものが、プリウスの場合、やや奇妙なものでもある。普通の車しか乗ったことのない人には、恐らく分かってもらえない。それどころか、プリウスを作っているトヨタのかなり偉い人に話をしても、理解してもらえない。
 それは何かと言えば、いくつかあるのだが、例えば、「冬、プリウスは寒いのだ」、ということ。都内のように、しばしば信号で1分以上止まっているような状態だと、その間にエンジンが冷える。コールドスタート直後の、冷却水が十分に高温になっていない状態だと、暖房をつけると、アイドリングを始める。これをやると、燃費が格段に落ちる。となると、ヒーターの設定温度を下げて、アイドリングを止める。すなわち寒い。
 しかし、奇妙なことに、自分の快適さで満足感を得るよりも、寒くてもアイドリングをさせず、燃費を稼ぐために寒さを我慢することが、むしろ満足感を得るやり方なのだ。

A君:トヨタの偉い人は、恐らく自分ではレクサスに乗っていて、プリウスだって寒ければエンジンをアイドリングさせてヒーターを利かせれば利くのに、と思っている。快適さを求めるのが普通のやり方だと。

B君:当然そうだろう。ただ、そういう発想だと、すべての人はレクサスを買うべきだということになる。プリウスを買った人は、なぜか別の価値観が埋め込まれてしまう、ということをトヨタの偉い人も理解できない。

A君:しかし、しばらく経てば、ヒーターが効くようにはなる。

C先生:それはそうだ。15分後ぐらいには、普通の車の状態にというか、暖房のためにエンジンが掛かることはなくなる。

B君:プリウスのエネルギー効率は、30%ぐらいだから、まだまだ無駄な熱は大量に出ているはず。しかし、熱の大部分は排気管を通って外に捨てられている。それを使うことができれば、暖房はもっと効率的になりうる。

C先生:現時点の情報(英語版)だと、新プリウスにはコールドスタート時に排気のエネルギーを回収してエンジンを温める仕組みが組み込まれたようだ。こんな面倒なことに開発チームが取り組んだのは、もちろん、コールドの状態だと燃費が悪いからなのだが、理由の一部には、「冬、プリウスは寒い」というユーザが多かったのだと思うのだ。

A君:たしかに米国デトロイトショーの資料などを見ると、プリウスユーザは、細部にこだわるウルサイユーザ(そんな表現ではないが)だから、最新の技術を可能な限り新プリウスに組み込んだ、というメッセージを出している。

B君:多分、車の楽しみ方にもいろいろあるが、「レクサスなら快適さ」を、「BMWなら走り抜ける喜び」を、ということになる。しかし、プリウスユーザは、全く別の楽しみ方をしている。

C先生:よく皮肉を言っている。快適さとか駆け抜ける喜びなら「サルにも分かる満足感」。しかし、「プリウスの楽しみ方は、知性が無いと分からない」やり方なのだ。

A君:米国版の資料を読むと、いろいろと新しい情報が得られますね。
 日本だと、太陽電池パネルが搭載されて、それでエアコンの駆動ができるらしいとか、そんな情報がもっとも重要なもののように見えてしまうが、本質は、もっと深いところにある。

B君:例えば、新プリウスの重さの情報は日本にはないようだが、サイズが大きくなっているのに、恐らく軽量化されている。特に、駆動系などが軽くなっている上に、エネルギー伝送効率が上がっている。

C先生:太陽電池パネルも、あの程度のサイズだと、エアコンは駆動できない。プリウスのエアコンは現行モデルでも動力用の電池で駆動されている。太陽電池パネルで起きた電気が駆動系に充電される仕組みがあれば、そんなオプションを付けても良いか、という気になるが。

A君:太陽電池の本当のところは、換気用らしいですね。夏に直射日光カンカンのところに駐車しておくと、車内の温度は50℃以上にもなる。それを太陽電池動力で換気しておけば、エアコンの必要な電力も減って、結果的に燃費が向上する。

B君:ヘッドライトのオプションでLEDのものが出る。

C先生:レクサスLSのハイブリッドにはもともと純正品だ。LEDの消費電力が何Wなのか。消費電力はHIDランプよりも大きく減っていることはないのではないだろうか。もしそうなら、このオプションはプリウスユーザは余り選ばないような気がする。

A君:1.5Lのエンジンが1.8Lになったのは、その方が燃費が良いからということですね。税金は高くなるのですが。

B君:まず燃焼室のサイズは大きい方が燃費が良いらしい。今回の1.8L化の最大の狙いは、高速走行時のエンジンの回転数を下げて、燃費の向上を狙ったということらしい。

C先生:プリウスの弱点の一つが、高速になるとただの車に近くなることだった。燃費を考えると、120kmを出す気にはならない。燃費を考えているときには、高速道路でも95kmまでだ。急いでいると、そうもいかないのだが。

A君:空気抵抗が世界最良だとか。アンダーカバーまで付いた。

B君:それは本質的な改良だ。

C先生:もうひとつ個人的にもっとも重要なのが、シートヒータが付くだろうということ。どこにも情報がない。普通の車でもオプションで付く車種があるが、プリウスでもっとも必要な装備がシートヒータなのだ。「プリウスは寒いが、シートヒータがあるからそうでもない」という車になることが重要だと思っている。もっとも、今度の新プリウスは、「冬でもあまり寒くない」可能性もあるのだが。

A君:電気ヒーターでは効率が悪そう。

B君:レクサスLSのハイブリッドは暖房もエアコンになった。

C先生:プリウスのレベルの価格だと、電動エアコンで暖房をするのは無理らしい。シートヒータは、運転席、助手席それぞれ50Wもあればまずまずで、これだと、ヘッドライト1個分程度なので、それほどの燃費低下にはならない。電気を熱にするのは、ダメという常識は車の暖房の場合には成立しない。

A君:50W×2のヘッドライトを点灯することで燃費が下がるのを実感できるのは、プリウスぐらいですかね。

B君:新インサイトは、恐らく、経済的などの理由で、あるいは、環境保護という理由で燃費の良い車に乗りたいという人が買うだろう。高速道路を多く乗るような人には、結構燃費も良いと喜ばれる。そこに満足を求める人は新インサイトを買う。
 それに対して、新プリウスは、これまでプリウスに乗っていて、車に対する感性が変わってしまった人のために作られた。未来の車に搭載すべき技術とはどんなものなのか、これをとことん追求した車のような気がする。

A君:しかし、この技術は今は特殊なものでしかないが、今後の自動車の開発には非常に有用なものになる。

C先生:その通りだろう。これまでハイブリッド車が高いといっていた人は、新インサイトを買えば良い。あるいは、現行のプリウスがかなり安く併売されるらしいので、それで良いかと思われる。新プリウスは、車というものに対する感性をすでに変えてしまった人が、ハイブリッド技術というものがどこまで行けるのか、それが知りたくて乗る車だろう。そういう目的でなく、この車を選択すると、場合によっては、価値観が合わないといってすぐ手放すという結末になる危険性がある。

A君:新インサイトは、シビックハイブリッドよりもエンジン出力を下げ、モーターの出力も下がってしまったので、燃費は、シビックハイブリッドの方が良さそう。特に、Cityの燃費が実はかなり苦しくなる可能性がないですかね。

B君:シビックハイブリッドは、もともと、Hwyモードの燃費はかなり良かった。しかしCityモードはそれほどではなかった。

C先生:e−燃費で、2007−2008燃費アワードが発表されている。
http://response.jp/e-nenpi/award20072008/
 本題とはずれるが、この発表で印象的なことが、軽自動車も、車種によっては燃費が随分と改善されたことだった。軽自動車がかなり売れるようになったので、やっとエンジンの開発に費用をかけることが可能になって、燃費寄りの設計に変えることができたのだ。それには、軽メーカーが燃費競争を始めたのが大きかった。燃費を良くするには、ベアリングを入れたりして、金が掛かるのだ。
 話を元に戻して、ハイブリッド車の燃費比較。e−燃費では、シビックハイブリッドが18.3km/L、プリウスが19.9km/Lとなっている。これは本当の意味での実用燃費だ。我が家のプリウスの実燃費も、これまで購入したガソリンの量と総走行距離から計算して、20.3km/Lぐらいだ。
 新インサイトは、恐らく、シビックハイブリッドをやや下回る燃費なのではないだろうか。経済性だけを考えれば、それでも必要にしてかつ十分な燃費だと言えるが、EPAの燃費性能から見ると、街中だけで乗るという人にとっては、期待される燃費性能を発揮しないという危険性が多少残るように思える。
 さて結論だ。要するに、一見するとデザインも似ているし、コンセプトも同じ様な車が2車種発売されるのだが、実は、それぞれの車の持つ意味がかなり違う。そして、両車とも、ユーザと相性が合うかという問題があって、場合によると、受け入れられないという危険性がある。