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   蓄電池の活用戦略を考える
     EVは揚水発電の代わりになるか 11.12.2017

               



 今回は、いくつかの問題意識をもって、蓄電池の将来を考えてみようと思います。言いかえれば、蓄電池にはどのような夢が有りうるのか、ということでもあります。

 蓄電池に関する記述が含まれる政府系などの報告書のリストを次に示します。勿論、これらの報告書は、蓄電池に限ったものではなく、全体最適を考えた問題意識で作られていることが一般的です。

経済産業省関係
1:蓄電池を活用した新たなエネルギー産業に関する調査   平成28年3月
http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2016fy/000300.pdf
◆2:再生可能エネルギーの大量導入時代における政策課題  平成29年5月
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment/saisei_dounyu/pdf/001_03_00.pdf
◆3:蓄電池戦略 平成24年7月
http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_problem_committee/028/pdf/28sankou2-2.pdf

環境省関係
◆4:日本の電力系統の将来像 中長期ロードマップ検討会 平成22年
https://www.env.go.jp/earth/report/h22-05/chpt6.pdf

その他
◆5:再生可能エネルギーの利用拡大に向けた エネルギー蓄積技術の動向 山下隆司 2016年
https://www.ntt-fsoken.co.jp/research/pdf/2016_07.pdf
◆6:平成 23 年度 新メカニズム実現可能性調査 最終報告書(概要版)
http://www2.gec.jp/gec/jp/Activities/fs_newmex/2011/2011newmex28_jMizuhoIR_Thailand_sum.pdf
「タイ・蓄電池を用いたピークカット電力利用と電気自動車導入による CO2 削減に関する新メカニズム実現可能性調査」

 今回は、◆1の経産省の委託による調査報告をネタにして、若干説明してみたいと思います。

   
C先生:今回の記事の第一の目的は、蓄電池が未来社会をどう変えるかを考えたいということだ。蓄電池を導入することが可能になれば、パリ協定の言うCOの大幅削減が、どのぐらい可能になるか、とか、電気自動車が増えて、そのバッテリーが電力貯蔵に使えるようになると、現在の電力貯蔵の主力である揚水発電に匹敵することが可能になるのか、などなどを考えてみたい。

A君:まずは、経産省資源エネルギー庁のこの報告書ですが、作成作業の実施主体は三菱総研でして、それが平成28年3月の報告書「蓄電池を活用した新しいエネルギー産業」となっている訳です。

B君:なんと280枚以上のPPTファイルからなる報告書だ。目次は次のようになっている。
序.プロジェクト概要
1.蓄電池のエネルギー政策上の意義、事業性試算
2.蓄電池産業・蓄電池を活用したビジネスのバリューチェーン分析
3.海外における蓄電池関連の施策及びビジネスの調査
4.蓄電池等の競争力比較


A君:序での、「蓄電池のエネルギー政策上の意義」からいきます。目的としては、
(1)周波数調整:文字通り、電力不足などによって最初に起きるまずい状況=周波数が狂うことを調整すること。
(2)再エネ対策
(2−1)再エネ導入拡大−短周期対策(20分以下)
=再生可能エネルギーであれば、太陽電池だと非常に短時間のゆらぎがある。その対策。
(2−2)再エネ導入拡大−長周期対策(20分以上)=風力の場合には、風のゆらぎによって、20分以上の周期で揺らぐことがある。
(3)インバランス調整
=新電力などが、予定の電気量を供給できないで、電気量が不足したときの調整
(4)ピークカット
=電力消費が増えて、発電可能な上限を超したときの対応。
(5)送配電網増強
(6)自動車用

といった項目を調査しています。

B君:蓄電池の社会的な価値と事業性については、次の4点に分けて考えている。
(a)エネルギー自給率
(b)CO
削減効果
(c)発電コストと蓄電コスト
(d)事業性評価


A君:そして、蓄電池の事業性については、他の手段との価格比較、短周期用途と長周期用途を組み合わせることで、有利になるパターンがあるか、最後に、短周期用途について、必要となる調整力と供給可能な調整力を算出した、とのこと。まずは、事業性の試算。


図表1:事業性試算の結果

B君:この表から分かることは、蓄電池をどのような使い方をしても、CO削減には効果がある。しかし、発電コストという立場から言うと、この表の右の欄の発電コスト合計欄が▲になっているところが有効で、それは、周波数調整用に適しているという結論になる。再エネ導入拡大を目的とする場合にも、蓄電池を導入することが若干有効という結論になる。

A君:それに対して、長周期対策としては、固定費が拡大することによって、格段にコストが掛かるという結論になる。しかも、蓄電池のスペックという欄を見ると分かるように、この目的のために導入すべき蓄電池の量が、半端ではない。揚水発電の方が遥かに優れているが、それでも、コストは掛かるので、事業性が高いとは言えない。

B君:要するに、電池を導入する目的としては、まずは、電力網の周波数調整用と再エネ導入拡大を目的とした短周期対策に限られる。これが読み取れる結論だ。

A君:しかし深読みをすることもできて、もしも、電気自動車のバッテリーを安く借りることができれば、再生可能エネルギーの出力抑制、すなわち、電力需要が少ないときに、太陽電池や風力の余分な発電分は、熱にして捨てるという方法を採用しないですむという可能性も出てくるとも読めます。

B君:となると、EVの導入が多い地域、しかも、都会の場合のように、多くの場合、駐車しているだけの自動車が多い地域では、なんとかなるかもしれないが、そのような場所がどこか、しかも、再生可能エネルギーの発電量が多いという条件を満たすことは難しいのだろうね。

A君:色々と考えなければならないことがあるのですが、この報告書の範囲内で、分かることが何か、それをまず見つけましょう。

B君:地域によって、有利・不利の差はあるのか。他の調整力の主力である、揚水発電と火力発電の存在を考慮して、日本のどの地域に蓄電池を言えるのが効果的かを検討している。そして、その結果が、次の図表2になる。


図表2:地域による事業性の違い

A君:要するに、東京圏や中部・関西圏は供給可能な調整力が余っている。まずは、周波数調整の余力からです。東京などは今だと1.8倍、2030年でも1.7倍あると評価されています。しかし、北陸では、すでに調整余力が不足し、将来はそれが拡大する方向。再エネ短周期対応とインバランス調整については、今は、なんとかなるのですが、2020〜2030年になると、まず、四国で若干不足気味、そして、北陸は完全不足状態

B君:そして、蓄電池の販売値段がどこまで下がると、事業性が出てくるのか、それが重要だが、分かることにそれを示しているのが、次の図表3。



図表3 蓄電池の価格が下がった場合に増える事業規模と導入量。

A君:要するに、もしも、蓄電池の価格が大幅に下がれば、他の技術は不要になる。ということは、低コスト化が、蓄電池にとって、もっとも重要なターゲットだということになります。図表3を見てすぐに分かることは、もしも、1kWhあたりの価格が7万円を切ると、普及は一気に進むということです。

B君:現時点の価格だけれど、色々と説があって良く分からない。平成24年7月の日本のデータでは、20万円。しかし、今や米国では4〜5万円ぐらいらしいので、すでに、7万円という経産省の数値を切っている国もあると言える。

A君:米国だとテスラの電池は、やはり安価らしいですね。テスラのパワーウォールという家庭用の蓄電池の価格が10kWhタイプで40万円ぐらい。ということは、1kWhが4万円

B君:あの電池は、もともとはサンヨー、今、パナソニック製の18650と呼ばれる電池の集合体、この数字はサイズを示していて、直径18mm、長さ650mmの円筒状の電池。

A君:まあ、かなり大型化した単三電池といったイメージのものです。かつてノートパソコン用のリチウム電池は、この18650を複数本ケースに入れたもので、取り外しが可能になっていました。最近のノートパソコン用のリチウム電池は、薄いですね。そもそも取り外しができないものも多いですし。

B君:現在持つべき認識としては、コストが下がったお陰で、そろそろ、リチウム電池で様々な仕組みが作れる時代となった。将来は、さらに価格は下がるのだろう。

A君:マッキンゼーは、しばらく前ですが、2025年に70%下がる可能性があるという主張をしているようですね。ということは、予測時点で10万円だったとすると、3万円/kWh。7万円とすれば2万円。このあたりが最終価格ということでしょう。

B君:しかし、問題は、日本国内でそんなに安い価格で売られるだろうか。現時点での太陽電池は、世界の標準から見ると遥かに高いので。それは、様々な中間マージン、例えば、設置料とか、太陽電池であれば、設計料などが高いからなのだが。

A君:電池についても、似たような感触ですね。何があっても、価格で勝負に行かないのが、今や日本企業の体質になってしまったのかもしれません。

B君:となると、電気自動車が普及して、そのバッテリーを使うということを考慮すべきだということになる。この場合であれば、電池のイニシャルコストは、車の価格に含まれるので、ほぼゼロだと考えられるから。

A君:日本の場合なら、電気自動車の大容量バッテリーは、災害時の非常用電源になりますから、非常事態を考慮したら、多くの電気自動車が売られることが望ましいです。もっとも、プリウスにはオプションで100V1500Wのコンセントが付くので、電力供給力としては、恐らく、ガソリン満タンなら120kWh分ぐらいはあるのでは。これなら、リーフの電池の3台分。推定方法は、EVモードで1kWhで6km走るとして、プリウスなら満タンで720km走るのは簡単だから。

B君:非常用電源車としてのプリウスの価値は結構あると思う。さらに言えば、非常用の太陽電池をもっと売れば良いのに、と思う。停電になっても、スマホが充電できるかできないか、その違いは大きい。できれば、中古の太陽電池パネルにマイクロインバーターを付けたものを商品化して欲しい。勿論、安価に。パネルを野外に出すことによって、100Vで100Wぐらい出れば、色々なことができるようになる。

C先生:ここまでをまとめると、リチウム電池の価格は、そろそろ電力関係にも実用段階に近づきつつあるということだ。さらに、現在の動向から言えば、EVの普及は数年後には加速するだろうから、EVの電池を使った電力貯蔵を実用化することも可能になる。

A君:カリフォルニア州のエネルギー企業PG&EとBMWは、電気自動車の充電制御によるデマンド・レスポンス(以下DR)のテストを2015年にやっています。使った車は、BMWのi3という電気自動車(オプションで小型エンジンを搭載したPHVにもなる)。その当時だと、i3は22kWhの電池を搭載していた。i3は、PG&E社からDRの信号が来たら、最大1時間、充電時間を遅延するように設定した。そして、自社製の使用済電池200kWhを貸与して、PG&E社から100kWhのDRの要求に応えることを可能するという仕組みでした。

B君:この契約をするだけで、最大$1540のインセンティブが設定されていた。

A君:ということになると、今なら、テスラのように大容量の電池を搭載したEVは、その電池をDR用に提供するという契約を結ぶことも考えられることになります。すぐにでもスタートが可能。しかも、その電池のコストは、EVを買うとついてくるので、実質上ゼロに等しいことになります。

B君:日本という国は、揚水発電が結構大量にある国。総出力で2600万kWというすごい量ではあるのだけれど、貯水できる水の量には限界(=上池の容量)があるので、設備利用率は3%ぐらいらしい。

A君:ということは、24時間の3%となると、フルパワーで43分ですね。実際、何kWhあるのでしょう。

B君:アメリカ・ドイツなどは設備利用率が10%ぐらい行けるとのこと。もし10%なら1日に2時間強使えるとすれば、5200万kWhの電気量がたまるという仮定になって、十二分に大量の電気が貯まると考えて良いようだ。2600万kWを2/3時間使えるとすると、1700万kWhが普通に蓄積できる電力量とするか。

A君:EVに貯められる電力量を考えてみますか。将来日本に存在するEVあるいはPHVを何台としますか。現時点で、乗用車が普通車・小型車・軽四輪を合わせて6000万台ぐらいあるのですね。まあ、1/3のざっと2000万台がEV化したとしますか。このぐらいの普及度になると、EVは二分して、軽自動車的用途と、長距離用に別れるでしょう。むしろ、前者が増えると思います。それがバッテリーを平均20kWh搭載したとすると、4億kWhの電力が貯められる。1/4の車がデマンド・レスポンスに協力すれば、それでも1億kWhと、日本の揚水発電の6倍の能力を持つことになりますね。さて、この推論は合っているでしょうか。

B君:大体、車などというものは、動いている時間は非常に少ないので、駐車しているときには、電力網の安定化に使って貰って、その提供料を若干稼ぐ。もちろん、電池が空に近くなってしまっては困るので、半分は残すという契約ができれば良いと思う。その先には、自家用の電池もあり得る。それは、電力料金が、夕刻から夜間が相当に高価になると考えられるから。原子力なし、石炭発電なし、太陽光発電がかなりの割合を占めるとなると必然的にそうなるので。

A君:こんな考え方で、電力網の安定性が担保できるとなれば、自然エネルギーの大量導入も、多分、問題なく可能になるのではないですか。まあ、夢の部分が多いことは多いですが。なぜなら、送電線の容量とか、様々なことを考えなければならないので。

C先生:このような検討をして分かることは、電力関係者が将来とも最良の設備であると主張している揚水発電を使うのは良いのだが、残念ながら、新設は不可能に近い。もう場所が無い。一方、EVはこれからなので、仕組みを作れば、それなりにデマンド・レスポンス用に使える。例えば、上の計算をちょっと現実ラインに戻して考えれば、1000万台の自動車がEV化し、その電池の5kWh分をデマンド・レスポンス用として貸して貰えれば、5000万kWhになるので、揚水発電と3倍程度の能力になるという計算にはなる。しかし、良く言われるように、インバーターで送電線に接続する機器は、発電機のように重たいローターがグルグル回っている訳ではないので、慣性力で電力の周波数を安定化できるという機能はない。しかし、電池とIT技術でなんとかできる範囲の問題だろう。
 いずれにしても、EV活用のような仕組みであれば、設備費がほとんど掛からない。実際に電池を借りた送電事業者が使用料金を負担すれば良いだけ。経済的にも成立するように思える。その金銭的なやりとりを実現できる枠組みもすでに存在している。それが、ブロックチェーン。ビットコインが使っている取引の方法だ。
 こんな考え方を積極的に受け入れて、全体の仕組みをの未来像をできるだけ早期に共有するといった社会を作らないと、もっとも心配していることが起きる可能性が高まる。それは、『誰もやらないで手遅れになる』ことだ。