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ナイト理事長職を退任します 
  03.28.2015 
 付:斑目春樹氏の本の感想も 




 独立行政法人 製品評価技術基盤機構(ナイト=NITE)の理事長に着任したのが2009年4月1日でした。着任当時の内閣総理大臣は、麻生現副総理でした。

 独立行政法人とは、独立行政法人通則法という法律によって、「国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務及び事業であって、国が自ら主体となって直接に実施する必要のないもののうち、民間の主体にゆだねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるもの又は一の主体に独占して行わせることが必要であるものを効率的かつ効果的に行わせることを目的として、この法律及び個別法の定めるところにより設立される法人」と定義されているものです。

 もともとは、国の一部として事務及び事業を行っている組織が、国から離れて独立することによって、より効果的に事業などが行われるように、という目標のもとに作られたものです。しかし、その立場は様々でして、国のために紙幣や貨幣を作っている印刷局や造幣局、ナイトのように、いくつかの評価技術を有し国民への法律などに基づいたサービスを行う組織、そして、理研や国立環境研のような研究機関まで、多種多様です。

 4月1日に着任すると、早々に新入職員の入所式があって、7、8名ほどでしたが、その前で訓示を述べることになりました。こちらも新入りなのに、と思いつつも、以下のようなことを述べました。国民のためのサービス組織であるナイトは、どのようなサービスを提供することが、国民の視点から有用であるかを考え、もしも、新しいサービスを提供するとしたら、どのようなサービスがもっとも必要とされるかを予測すると同時に、その実現に向けて提案し、そのために常日頃から技量と実力を磨いておく必要がある組織である。これまでのナイトの85年以上の歴史を振り返ると、概ね15年後とにその仕事が変わっていることが分かるように、同じ仕事を一生できるというものではないので、専門職というよりも、何をやっても専門職らしく仕事の遂行ができるような万能人が求められている、といったような話をしたと記憶しています。
 どうやら、このような訓示は、事務サイドの想定とは異なっていたような反応がありました。しかし、6年間の理事長職を終えるこの時期に振り返れば、このような訓示をしたことは、どうも正解であったと思われます。

 しかし、今にして思えば、着任当時、このポジションがかなり大変なものであるという理解は十分では無かったと思います。その不十分な理解が証明された最初の事態が半年後に発生しました。

 それが、民主党の内閣の成立です。秋の連休には、ちょっとパラオあたりに出掛けるか、と軽く考えていたのですが、まず、それがブッ飛びました。国内待機指令が出たからです。そして、予想通りの展開だったのかもしれませんが、「仕分け」という訳の分からない公開処刑に近いイベントが行われました。その当時、独立行政法人=悪の巣窟であるというイメージが一部にはありました。それは、緑資源機構談合事件と呼ばれるものが2007年に起きて、結果的に独立行政法人緑資源機構は廃止になったことが大きな影響を与えていたものと思われます。一つの独法の不適切な行為が、独法そのものの評価を落としたという事件であったと思います。

 このように、一旦、悪いイメージを付けてしまうと、その復活に非常に長い期間を要するものです。現時点ですと、マクドナルトとか東洋ゴムの今後は大変でしょう。

 民主党の仕分けは、ナイトも大いに影響を受けました。農水省管轄のファミック、消費者庁管轄の国民生活センター、経産省管轄のナイトの行っている業務にオーバーラップがあって、無駄なのではないか、というイチャモンが付きました。確かに、国民生活センター(国セン)の行っている製品安全業務は、ナイトの行っている事故原因究明業務と似た部分はあるのですが、当時ナイトが行っていた原因究明件数は年間7000件ぐらいで、担当範囲のすべての事故の原因を、製品という品物の成り立ちから究明するといったものでしたが、国センが行っていた事故原因究明は、国センが関心をもった事故を消費者の立場から解明するもので、年間、数10件でした。全く狙いもアプローチも違うのに、なぜ、問題になるのだ、という疑問を思ったものです。まあ、一つのイベントだったのかもしれません。なぜなら、結果的に改善を指摘されるようなことはありませんでした。

 組織を活性化することが目的であるのならば、仕分けのような行為は効率を落とすだけです。こちら側としてみれば、相当な準備をしましたので、単なる時間の無駄でした。

 このように民主党政権にひどさを実感した者として、そのような記述に、心の底から同感した本があります。それは、次の本です。

証言 班目春樹―原子力安全委員会は何を間違えたのか?  単行本 新潮社 2012/11初版
(著) 岡本 孝司

すべて実名で書かれています。やはり、最悪の政府があるときに、最悪の事態が起きるという事実は、歴史上本当なのだということが良く分かりました。

 特に、福島第一事故が、自称専門家の菅総理によって、拡大されたのは事実なのでしょう。斑目氏が菅総理のヘリに同乗して福島第一に行く場面がありますが、「俺の質問だけに答えろ」、「この問題に詳しい教授が東工大にいるか」、などの発言があったようです。あらゆる専門家の意見を尊重し、最善の対策を練るといったやり方では無かったようです。やはり、非常事態における政府のトップという役割はそう簡単なことで果たせるものではないようです。

 民主党と福島第一事故でナイト理事長の最初の2年間は終わりました。ほとんど悪夢ばかりだったかもしれません。

 3年目と4年目は、やっと様々な試みを行うことができるようになりました。ナイトという組織は、世間からは見えない縁の下で良いことをする組織なんだ、といった理解をしている職員が多いように見えました。しかし、それでは、20年前ぐらいまではまあ通用したかもしれませんが、2012年時点ではもうダメなのですね。まず、そもそも独法という組織は、役に立たなくなったら、消滅するという運命を背負って生まれたと考えなければならないのです。その逆に、もしも市民社会が役に立つ組織だという理解をしてくれれば、国民へのサービス機関として継続することができるのです。

 ナイトは、昭和3年1月に設立された大変に古い組織です。最初は輸出絹織物検査所でした。絹織物の品質を高い水準に保つことが輸出という国益につながるという発想で作られた組織だったと思われます。その後、15年毎ぐらいにメインの仕事を変えながら、これまで生き延びてきました。2012年時点では、製品安全、化学物資の管理、バイオテクノロジー、認定という4種類のセンターによって業務がなされておりました。

 2012〜13年頃、日本社会はデフレ状態でした。デフレというものがこれほど怖いものだと、すべての日本国民が考えていたはずです。同様に、組織がデフレ化することも、その組織にとって死を意味します。すなわち、どのような組織でも、前年と同じ価値しか生み出せなければ、年率2%ぐらいで組織の価値は下がっていくということを実感できるような社会でした。デフレ社会だからこそ、ナイトのような組織は、毎年、なんとか新しい価値を創りださなければならなかったのです。

 製品安全の分野は、一般市民社会からも関心が高いので、この分野が広告塔役を果たすのがもっとも効果的でした。そこで、毎月1回のプレス発表を行うことにしました。段々にプレス発表のスキルも向上して、発表後には取り上げてくれるテレビ、新聞の数がどんどんと増えました。最初の頃は、ナイトの本名である製品評価技術基盤機構でプレス発表を行っていましたが、発表用名称もナイト(NITE)に変えました。それだけでも、かなり覚えて貰えるようにもなりました。

 この3月に行ったエコ釜を使うとガスから一酸化炭素が出るという測定結果と、コードの修理のために、接続部を自作で捻っただけで使ったために異常発熱したと事例を組み合わせた発表は、かなり多くのテレビ局(11番組?)で取り上げていただきました。

 ナイト内での業務報告なども多数行われるようになり、内容の研究要素の高度化も進化すると同時に、個々の職員の発表のスキルも随分と高くなりました。以前は、報告することを楽しむという雰囲気はありませんでしたが、やっとそのレベルに近づいてきたようです。発表者が楽しめないと、相手に正しく情報が伝わらないと思います。

 そして、スタートは再来年度になりますが、ナイトに5つ目の仕事ができました。大阪の南港に現在建設中の大型防爆施設で、巨大なリチウム電池やポストリチウム電池の安全テストを行うことになりました。世界中で自然エネルギーの導入に向けて、様々な試みが行われています。日本では太陽光発電のFITへの申し込みが余りにも多く問題になりましたが、大量の自然エネルギーに依存する電力システムにすることは、地球温暖化・気候変動問題の解決にとって必要不可欠なことですが、不安定な自然エネルギーがあっても安定な電力網であるためには、なんらかの電力貯蔵・エネルギー貯蔵の設備を追加する必要があることは明らかです。

 どのような技術動向になるか若干不明な部分はありますが、確実に方向性が決まってから準備を始めたのでは間に合わないのが競争が激烈な現在のエネルギーの世界ですので、とにもかくにも一歩先に歩き出し、そして、走りながらの微調整によって十二分に活用されるような設備になることを期待しております。

 さて、このようなことで、ナイトの理事長職も残り2日間になりました。自分の専門を広げることだけを考えてきた一生でしがた、その間、身につけた雑学が、これほど役に立つ機会があるとは思いませんでした。その意味で、大変、楽しい経験ができたことを、ナイトの職員・理事などに感謝申し上げます。

 また、様々な面で、ご支援をいただきました皆様に感謝を申し上げます。

 以上、ご報告するために、駄文を長々と書き連ねてきまして、失礼をいたしました。

 4月以降ですが、主たる職務としては、一般財団法人持続性推進機構(渋谷)において、環境省の環境管理システムの認証スキームであるエコアクション21(EA21)の活性化に注力する予定です。同時に、大学や企業における環境人材の育成にも取り組みたいと思っています。その他の省庁の審議会のお役目は、多少減るぐらい程度、のようですので、余り暇ではないかもしれませんが、なんとしても個人の時間も確保し、世界の様々な国々を眺めて見て、日本の未来を考え続けたいと思っています。